建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年11月号〉

interview

農家の経営形態に合わせて農業基盤整備の手法も変化(前編)

――経済性との絶妙なバランスが求められる時代

北海道農政部 神 浩二 技監

神・浩二 じん・こうじ
昭和26年9月生 熊石町出身 弘前大卒
昭和63年 網走支庁東部耕地出張所工事第1係長
平成 3年 渡島支庁管理課調査計画係長
平成 5年 農政部農地整備課畑地総合改良係長
平成 8年 十勝支庁東部耕地出張所長
平成10年 日高支庁耕地課長
平成13年 十勝支庁整備課長
平成16年 渡島支庁農業振興部長
平成18年 農村整備課課長
平成19年 農政部技監

環境サミットと言われる洞爺湖サミットを来年に控えた北海道は、その有数の自然環境がサミットのムードづくりに大きく貢献することが期待されているが、さらに国土保全と環境保護の一面を持つ農地の果たす役割りにも大きな期待がかかる。山から海浜に至るまで、上流と中流を結ぶ農地は、しかしながら手付かずの自然とは異なり、農産物の生産・流通による収益事業という経済を担っており、その生産性と投資とのバランスが求められるため、闇雲な農業基盤整備は不可能だ。限られた財源と、生産性、食糧自給率の向上、離農や後継者不足による耕作放棄地の対策など、多方面で課題を抱える農業と基盤整備事業の今後の取り組みについて、北海道農政部の神浩二技監に伺った。
――来年には洞爺湖サミットを控えていますが、環境が中心テーマとなるため、北海道の自然環境がそのムードづくりにもたらす影響に期待されています。その意味では、国土保全の役割も担う農地の存在も、大きなインパクトを持つため、農業基盤整備予算の拡大が望まれています
農業基盤整備予算は、かつては右肩上がりでしたが、ピークを迎えてからは減少傾向を辿っています。土地改良事業は、平成3年に、農業農村整備事業と改称され、水田や畑地を整備する農業生産基盤整備と生活環境を整備する農村整備、そして防災対策などの農地保全管理の三つが政策の柱に統合されました。 これまでも北海道は全国と比べて整備が遅れていたこともあり、水田などの圃場整備や、畑地を主体とした区画整理や土壌改良などを中心に進めてきました。現在では起伏の大きい草地の改良工事なども進めています。ただし、これらの事業には受益者負担が伴うため、農家経営にも影響を与える一面を持っています。 事業費で考えると、農道や集落排水などの農村整備は集中的に整備を進めてきたことにより、減少してきています。また、市町村の財政的負担能力にも限界が来ていることから、農業基盤整備予算全体としても減少傾向にあります。このためピーク時に比べると、近年の予算規模はおよそ半分程度になっています。しかし基礎的な整備は概ね完了しても、農家からの要求は引きつづきあるので継続して整備していくことになります。
――農業基盤整備も、農業の経営形態や手法によって変化しているのでは
全国では田圃の基本単位は三反を基準とされ、これまでは三反を標準に整備してきましたが、北海道の場合は経営面積も大きいことから、1ha区画への再編整理が行われています。また、排水不良などをかかえているほ場も多く、降雨の直後でも機械が導入できる機動力ある水田の実現が課題です。畑地についても、機械が大型化していますから、勾配のあるところは、その高低差を緩和することが求められ、水捌けも良くなければなりません。特に畑地は排水機能が重要なので、暗渠排水などの排水整備が重点となります。 その他、畑地に石などが混じっていると農機の刃が欠けるため、それらを取り除く除礫も必要で、土壌についても良質の土を補充して改良を加えるなど、農家側からの質的向上への要求が旧来より高まっているのです。そうした新しい需要を、私たちは着実に把握して取り組むことが求められます。 国でよく取り上げられる話題に、十勝の長芋がありますが、暗渠排水の深さは長芋に適したものかどうかが大切だということで、通常よりも深く管を埋めていますが、営農形態に合わせて農業土木の画一的な整備を変え、それに適応するものにしていくことが求められています。今後ますます農家の営農のスタイルに合わせた、柔軟な対応が必要と考えています。
――以前から後継者問題は深刻でしたが、近年は都市部ですら少子化が進んでいます
そのため、農村集落の機能をどう維持させるかが課題です。近年は、特に小学校の数が農村部で特に減っていますね。そのため後継者たる子供も減るので、耕作放棄地を出さないよう維持し、生産額を上げることが地域の活力にも繋がりますから、そのためのポイントは営農手法や生産体制に行き着きます。 また、集落でも学校が無くなれば運動会も無くなり、地域の祭事も廃れてしまいますから、集落の人々が集う機会をどう作るかという課題も発生します。そうした集落機能の維持も含めて、農業の総整備事業は必要です。     (以下次号)

HOME