建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年11月号〉

interview

片手にパソコン 片手に本の技術者像

――建設関係者も一般者も面白くなる斬新な工夫に高評価

株式会社 砂子組 代表取締役社長 砂子 邦弘氏

砂子 邦弘 すなご・くにひろ
生年月日 昭和32年3月28日生
職歴
昭和56年 3月 東海大学工学部土木工学科 卒業
昭和56年 4月 三井建設株式会社札幌支店 入社
昭和61年 1月 株式会社砂子組 入社
昭和63年 5月 株式会社砂子組 取締役(社長室長)就任
平成 3年 4月 株式会社砂子組 常務取締役就任
平成 6年 9月 株式会社砂子組 代表取締役社長就任
平成 6年 9月 株式会社新奈井江炭礦 代表取締役就任
平成 6年11月 拓友工業株式会社 代表取締役就任
平成 6年11月 中央建設運輸株式会社 取締役就任
公職
平成 9年 4月 社団法人滝川地方法人会奈井江地区会 理事就任
平成 9年 4月 社団法人滝川地方法人会 研修委員就任
平成11年 1月 奈井江建設協会 理事就任
平成14年 2月 社団法人空知建設業協会 監事就任
平成16年 2月 社団法人空知建設業協会 理事就任
平成18年 2月 社団法人空知建設業協会 副会長就任

(株)砂子組の砂子社長は、就任当初から技術者の人材育成を中心とした経営方針を貫いており、現場技術者のデジタル、ネット技術の向上のみならず、そのコンテンツともいうべき思想、哲学への造詣を深めることで仕事に厚みを持たせている。この結果、各現場のIT化促進や、工事検査で提出する資料データにBGMを挿入するなど、ユニークな取り組みをしており、仕事を面白く工夫することでスタッフの意欲と資質を高める手法を確立している。一方、収益の地域還元にも心配りをしており、現場で開設したホームページを一般にも公開する他、現場単位でのイベントなどによる地域コミュニティとの触れ合いを通じて、建設業のイメージアップを図っている。同社長は、本来すべきであった地域還元を置き去りにしてきた結果が、国民の公共事業への理解不足につながったと喝破する。
――創業は昭和21年とのことで、社歴は60年になりますね
砂子
私たちとしては、昭和37年に株式会社として法人化してからが社歴のスタートと考えているので、創業45年ととらえています。当初は先代が重機土工の土木工事に下請けとして携わっていました。創業した時は、土木と鉱山の運送業が中心でした。昭和35年頃からブルトーザーなどの機械を導入し、37年に法人組織体に変更しました。一方、建築工事も施工し、石炭事業も手がけていますから、この三事業が当社の柱です。 国内炭は露天堀で採掘を行い、それを滝川市や江別市の他、奈井江町と砂川市など4箇所の発電所に納入していましたが、後に滝川、江別は閉鎖されたので、現在は2発電所が対象です。 経営者として平成6年に先代から引き継ぎましたが、まさにバブルが崩壊し、景況の下降が始まって2、3年くらいの時期でした。 近年は、公共事業が減少したため建設業関係者は「売上げが2割も3割も減った」と口々に言いますが、私たちはそれ以前に下降線を経験し、60%以上の減収という最悪の決算を経験しているので、それほど苦悩は感じる事は少ないように思います。
――就任してから経営面で力を入れてきたことは
砂子
バブル期は、どの経営者もワンマンタイプだったので、私たちも先代社長に伺いを立てるだけで済んでいましたが、世代交代してそれができなくなった時、どんな経営スタイルにすべきかを考えました。その結果、自分を含めて会社の中枢にある者が成長し、変わっていかなければ将来は暗いと展望したので、人材育成を最大のテーマとしました。 一方、桃知氏(桃知商店―浅草在住)の力をかりて、業務のIT化にも取り組みました。この空知管内には、IT化を早くから導入していた企業が結構多く、空知建設業協会自体も積極的でした。また、岐阜を中心に他地域で先行して進められており、それらの長所や事例を参考にしつつ、良いとこどりをさせてもらおうと考えていました。 お陰で、北海道開発局などの工事は、今ではほとんどが電子納品となっていますが、当初からそれに対応できました。例えば、竣工検査でPPTを独自に作り、そこにダイジェスト版のような動画や3D画像を導入するといった手法です。最初の事例としては、歌手・中島みゆきの「地上の星」(NHKドキュメンタリーシリーズ「プロジェクトX」で採用された主題歌)を挿入し、竣工検査時に関係者に贈呈しました。その時、竣工検査官などからは、「これは面白い」と評価して頂きました。その時の言葉が、私たちにとっては非常に嬉しく励みになり、竣工検査といえば、緊張の余りに少しでも早く終わって欲しいものだったのに、それ以降は竣工検査そのものが楽しみになりましたね(笑) このように、私たちが携わった現場の竣工検査は、現場代理人の思いがこもっています。
――竣工検査が、いわばドラマのように印象深いものになりますね。他にも工夫はありますか
砂子
この他にも、動画PPTが様々に展開するシステムや、発注者の担当官の顔写真も載せてもらったりしました。これなどは、何人かの関係者が他県に紹介してくれたお陰で、「砂子組さんは面白ことをしていますね」と評判になり、問い合わせが来たりもしました。
――現場のあり方も工夫次第ですね
砂子
北海道開発局では、ワンデーレスポンスという取り組みを進めています。設計変更や現場で直面した予想外の状況に対する対策など、施工に関わる相談や問いかけに対して、発注者としてなるべくその日のうちに回答しようというものです。 実際には一日で回答するのは難しいはずですが、当社ではCCPMというソフトによる工程管理を3年半前から実施しています。これと発注者側のシステムをドッキングし、両者で共有するので応答がスムーズなのです。 バッファ管理という工程管理の手法を試行中です。つまり各工種の工期を半分ずつ削り、それらをまとめて蓄積したバッファ日数を後半に確保しておくことで、全工程を短縮するという仕組みです。工程によっては降雨や台風などの影響で、完遂できるものとできないものが生じるので、遅れた工程を最後に確保したバッファ日数の中で消化していくという方法です。これによって、無事故で品質も維持しつつ工程の短縮が可能となり、収益が確保されるわけです。 もっとも、各種のソフトを使ったから収益が上がると考えているわけではなく、最終的な狙いは、あくまでも人材育成に繋がることで、一人一人の現場代理人が仕事を面白く感じることで、意欲に繋がればと思っています。
――物作りのすばらしさを、様々に演出できれば、一般者へのアピールも可能性が広がりますね
砂子
専修短大や奈井江高校などの学生、関係者らを対象に見学会も行っており、インターンシップとしては、奈井江商業高や小樽の職業大学校など建築関係者も、一週間程度の期間で受け入れています。これについては社員も面白がっており、もののついでに「うちに就職しないか」と、スカウトしたりしています。私も、せっかくなら食事をともにして交流し、互いに意見交換をざっくばらんにさせてもらうのが良いと提唱しています。
▲大阪教育大学地理学会
――そうした仕事を面白く工夫することで、スタッフの意識も変わってくるでしょう
砂子
従来から見れば、IT技術に対する考え方や、それが企業経営にどう結びつくか、良い現場作りと物作りにどう結びつくかなどの経営思想が非常に向上していると思います。 その他、現場で行う安全管理や社内での安全委員会や、その他の会議もすべてプロジェクターを使用し、新人でもなるべく早くにそうした場面で講師を勤めるよう、人材育成の機会を作っています。 IT化を支援して頂いた桃知氏や、工程管理(C.C.P.M)での岸良氏(ビーイング社―三重県津市)との出逢いが、私も含めて社員にとっても大きく影響しており、私たちも時間的に余裕のある4月、5月には、全国でのIT化やCCPMの勉強会などに参加するほか、東京でプレゼンテーションを行うなど積極的に取り組んでいます。こうした活動を通じて、幹部をはじめ社員らの職業意識は確実に向上しています。
――つまり砂子組の技術者のイメージは、片手にスコップ、片手にパソコンという姿でしょうか
砂子
いいえ、片手にパソコン、片手に書物です。最近は技術者といえども非常に読書量が増えており、技術書だけでなく戦略を高めるための哲学書に至るまで広範囲です。空知建設業協会で開催された地域再生フォーラムでも、哲学者であり心理学者である北大の山岸俊男教授に、「信頼」についての講義を依頼したりしています。一般建設業者が哲学者に師事したり、建設業団体が信頼の研究で第一人者を講師に招くなど、通常では考えられないことでしょう。
――土木に哲学を導入し、思想と理論体系の構築を目指しているのでしょうか
砂子
以前に岩井国臣前参議も、桃知氏とフォーラムでコラボレーション講演をされましたが、九州でも同じパターンで行ったのです。熊本県山鹿市で、同じメンバーの他に私も加わり、地域をどう考えていくかをテーマにパネルディスカッションをしました。岩井参議はそうしたテーマに造詣が深く、土木技術者ながらも哲学者である中沢新一氏に傾倒していたりします。発注量が減ったからどうするかという問題ではなく、人間としての根源的な部分に視線を向けていますね。 その影響で、当社では発注量の問題ももちろんですが、良い物作りのために何を考えるべきかを思惟していたりします。
▲地域の子供とラジオ体操
――そうしたITネットは地域コミュニティとの触れ合いにも活用できますね
砂子
夕張市の現場では、夏休み期間に地域の子供達ちを集めてラジオ体操を開催しました。参加記録としてシールを貼るラジオ体操カードを作り、全日程を終えた時には鉛筆やノートを配るなどしましたが、これは親御さん達ちにも好評でした。最初に現場で挨拶まわりをしたときには、ある親御さんから「関係者をメロン泥棒と間違えるかもしれないから、絶対に許可なく畑に近寄らないでください」と言われたものです。泥棒に等しいイメージで見られていたのでしょう。しかし、こうした工夫をしてコミュニケーションさせてもらった結果、施工を終えて引き揚げる頃には、現場のホームページに「また来てください」と、ラブレターのような書き込みを頂いたのです。 それを考えると、いまから5年、10年、20年前は、私たちの業界はどういうものだったのでしょうか。地域貢献はずいぶんしてきたが、評価もされずにバッシングばかりで、どこかがおかしかったのです。しかし、この夕張で、人数こそは少ないけれども、来てもらって良かったと、本当の意味での評価を得られたのだと思います。 そこで協会も各社もイントラネットを組み、現場でホームページを開設し、デジタル上で声を出すようにしようと呼びかけたのが始まりです。また、協会でもブログを開設し、管内の情報発信を協会を軸として全国に向かって声に出していこうということです。もちろん、当初は厳しいご意見も頂きました。
――住民は、発注者でなく施工現場に直接行動を起こすものでしょうが、そのために現場では本業外でかなりエネルギーが割かれているようですね
砂子
各現場では、「現場工事たより」を月刊で発行し、近隣に配布しています。編集に当たっては発注者の監修の他に、現場でもさらに工夫しています。例えば、建設現場は世帯数の少ない地方が多いので、地元の各世帯の住宅や使用している自動車、住民のお年寄りやお孫さんの顔など、地域の便りも掲載すると非常に喜ばれるのです。そこに工事日程と工事内容を絵と説明文で報せるカレンダーを掲載するわけです。 その他、台風のときに、河川工事現場のホームページで、変化の様子を1時間から1時間半おきに画像で発表したのです。定期的に撮影した画像をホームページのリンク画像として、逐次アップロードしていきました。 発注者側としても、現場数が少なければ対応できるかもしれませんが、現場の数が多く、しかも広域的に点在している場合は、数少ない監督職員では手が回らなくなるでしょう。さらに、これを発注者だけではなく、地域住民にも公開すれば、防災にも役立つものと思います。 他県では、自治体と地元建設協会などが防災協定を結び、どの会社も撮影機材を導入して、ネットで公開している地区もすでにあるのです。そして、検索サイトのGoogleなどの地図にデータを入力しているのです。
▲イントラネットによる台風対策の実況記録 阿野呂川 統合河川改修工事(富良野地区)
――本来は、防災や国土保全のために用いられるべきものですね
砂子
空知建設協会でも、そうした体制を実現したいと話し合ってはいますが、現時点ではまだ書類上の情報に止まっています。
――受け手の情報インフラの問題もありますが、そうした施工外での建設業界によるサービスの付加価値は、かなり高いものですね
砂子
公共工事の受注量や収益も確かに大切な問題です。しかし、私たちはそれ以前に本来しなければならないことを、置き去りにしてきたことも原因なのかもしれないのです。         
会社概要
商  号:株式会社 砂子組 (すなごぐみ)
本  社 :〒079-0394
北海道空知郡奈井江町字チヤシュナイ987番地10
TEL:0125-65-2326 FAX:0125-65-5688
創  業 :1946年9月1日  (昭和21年)
設  立 :1962年5月11日 (昭和37年)
資 本 金 :8,800万円 (2007年3月末現在)
売 上 高 :60億  (2007年3月期)
代 表 者: 代表取締役社長 砂子 邦弘
事業内容: 土木建築工事、石炭採掘販売
スタッフ数: 79名

株式会社砂子組ホームページはこちら
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