建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年10月号〉

interview

58年の施工実績と技術力を武器に本州市場に進出

――営業力強化で民間需要を開拓

道路工業株式会社 代表取締役社長 中田 隆博氏

中田 隆博 なかた・たかひろ
昭和36年8月16日生
学歴
 昭和55年 4月 武蔵工業大学工学部土木工学科入学
 昭和59年 3月 武蔵工業大学工学部土木工学科卒業
 昭和61年 3月 武蔵工業大学大学院研究科土木工学専攻修士課程終了
資格・検定・免許
 平成 3年 3月 1級土木施工管理技士 No.900330
職歴
 昭和62年 4月 前田建設工業株式会社入社
 平成 6年 3月 前田建設工業株式会社退社
 平成 6年 4月 道路工業株式会社入社 専務取締役
 平成 9年 4月 道路工業株式会社 代表取締役副社長
 平成13年 5月 道路工業株式会社 代表取締役社長 現在に至る

道路の施工・舗装を主業務とする道路工業(株)は、戦後復興期以降の道路網整備において、ほとんどの主要幹線道路などに施工実績を残してきた。独自の技術試験所を持ち、たゆまぬ技術開発への前向きな努力によって、6年連続で優秀工事表彰を受賞するなど、不動の地位を築いてきた。しかし、近年の公共事業削減傾向による打撃は、他の施工業者と同様で深刻だ。しかし、同社の中田隆博社長は、技術提案力の強化によって本州での受注確保や、民間企業の設備投資に伴う施工需要の掘り起こしに向けて、営業力を強化するなど、専門工事業者ならではの技術力と実績を武器に、難局を打開すべく戦略を練っている。
――会社の概要と主業務からお聞かせ下さい
中田
当社の設立は、昭和24年2月ですから終戦直後のことで、当時から舗装事業に携わっていた地場企業は少ないと思います。その意味では、道内での先駆者とまではいかないまでも、今日の土木の草創期に設立されたと言えるでしょう。道内で最初の主な幹線国道、例えば5号線などの整備には、大なり小なり関わっていました。そうして戦後の復興後に本道の道路網整備の進捗に伴って、会社もともに成長してきました。主業務は道路の舗装工事ですが、現在では一般土木も施工しています。 一方、この4〜5年来は、地盤改良の業務に主力を置いています。この地盤改良は、路層部に混在する腐葉土などの軟弱で質の悪い土を廃棄することが、環境問題から許されなくなってきているため、それを良質の土に改良して流用することが求められています。そこでこれをターゲットにしながら、高規格道路などの地盤、路床を改良し、現地の土を使えるものにするということです。 この地盤改良技術は河川や港湾などの他分野にも応用できるので、対象を少しずつ広げていこうと考えています。実際に、現在は江別市の河川改良を実施しています。もちろん、舗装業務を通じてアスファルトも扱っているので、その製造販売も行っています。
――平成13年に現職に就任して6年ほどが経過しましたね
中田
入社は平成6年ですから、政府の大型補正予算が組まれた時期で、北海道の公共工事が最も盛んだった頃でした。しかし、社長に就任したのはバブル崩壊後でしたから、周囲からは「大変ですね」と言われるばかりで、「おめでとう」とは誰も言ってくれませんでしたね(笑) それでも、当社の場合は国からの受注比率が道に比べて高く、道よりも政府予算の方が配分されやすかったことが幸いでした。
――国の公共事業を受注するには、かなりの技術力が求められますが、58年間の施工実績で蓄積された技術の賜では
中田
当社は昭和39年に、技術試験所を設立しましたが、技術試験所を独自に持つのは、道内の地場企業としては初めてです。特に道路・舗装分野では最初の技術試験所で、試験・品質管理の研究試験を手がけていました。そうした積み重ねが、技術力の蓄積に繋がってきのだと思います。
――北海道の場合は、冬期間には独特の路面変化があり、今日ではブラックアイスバーンなどと呼ばれ、日の当るところと当らないところで極端に変化しますから、施工において作業効率や精度に影響するのでは
中田
路面状況は、気温や交通量によっても全く異なります。交通量は道路路線の位置の関係もありますが、冬は凍結の問題が不可避です。特に雪の少ない道東地区では、凍害が起きる可能性もあります。 そのため道路整備においては、古くは冬になると施工をしなかったとのことです。12月20日くらいに作業をすべて終わらせ、翌年の雪解けまでは全く作業をしないという時期が長く続いたそうです。けれども、後には冬期間にも施工するようになりました。今では工期の関係から、冬にもロードヒーターを用いて雪を溶かしつつ舗装するというのが常態化しています。
▲技術試験所
――わざわざヒーターを用いるとなると、経費負担も重くなるのでは
中田
確かにコスト高になるのですが、積雪を処理せずにそのまま舗装してしまうと、路盤内に水がしみ込んで溜まった状態となり、それが冬場に凍結して春先に暖かくなると破裂し、路面が割れてしまうのです。 そこで、路面の長さにあわせた形の専用ヒーターを当社の工場で作り、それを機械で牽引しながら、後からフィニッシャーでアスファルトを敷いていくという施工法が、どの現場でも用いられています。
――近年では、路面の水を吸い込む舗装や、走行音が大きくなる舗装など様々な種類が見られるようになりました
中田
幹線の交通量の多いところには透水性の舗装など、高機能の舗装を採用しています。これには音を吸収する機能もあるので防音にも役立ちます。 北海道の場合は、過密な地域が少ないので防音はそれほど重視されませんが、雨が降っても路面が見やすく、運転しやすいために事故が抑制されることで歓迎されています。反面、過密な本州では、防音への期待が高くなっていると聞きます。 その他、トラックの通行量が多い幹線道路などは、路面に凹凸ができやすいため通行に支障を来したり、水が溜まりやすくなってハイドロ現象を引き起こし、事故の原因になります。そこで、轍ができない硬質の舗装を採用しています。
――本州と北海道では気候の違いから、道路技術にも大きな違いがあるのでは
中田
寒冷地で育ってきている技術なので、当社に限らず北海道の技術レベルはかなり高いと思います。舗装の研究に携わる大学教授も、「やはり寒冷地である北海道の舗装技術はかなり高い。その技術は本州でも通用する」と話していました。 舗装に限らず住宅でも断熱性能が高いためにこうした寒冷地技術は、本州で好評だったりしますね。
――北海道は道州制を試行させられていますが、これが口実となって未整備地域が放置状態となり、他の大都市圏との格差がさらに拡大する将来像が懸念されます
中田
道州制それ自体目指す方向性としては良いと思うのです。将来像として、北海道が予算をある程度は確保できるならばです。すべての問題は、政府も含めて道財政の財源をどうするかにあると思います。 いきなり道州制を施行し、来年からは北海道だけでやれというのは無理でしょうから、そのためには長い年月をかけて財源対策も含めた計画を立てていかなければ、生きていけないと思います。
――3桁国道を道が施工管理するなどは無理なのでは
中田
明言しては申し訳ないが、北海道は3桁国道が非常に多いので、いきなり来年からそれらを委託されても、そのための人員をどうするのか、業務はどうするのかを考えれば、決して容易ではないと思います。 そもそも他県と比べると面積は九州と四国と山口の三県を合わせた規模ですから、それを道だけで把握するのは簡単ではないと思います。
――雪が降れば、2車線で整備された道路が片側1車線になってしまうという現実があるのに、夏場だけを見て北海道の道は広いと評するのは間違いですね
中田
特に帯広、夕張の道路は標高1,000m級ですが、本州で言えば3,000m級に匹敵します。しかも、峠を曲がりくねって通っているわけです。冬期間に道東と道央を結ぶ幹線であり大動脈ですから、それを整備することで安全や安心の面でも貢献できます。しかし、それが日本全体で理解されないのは残念です。
▲第27回北海道開発局優良工事等表彰 深川留萌自動車道 留萌市西幌糖舗装外一連工事
――観光客の動き方も、近年は変化が見られるとのことです
中田
観光客は観光バスを利用した団体旅行という形態が多かったのですが、近年では千歳空港などでレンタカーを利用し、個人で道内を移動する観光客が増えてきているとのことです。 おそらく夏に来た人は、次には冬に流氷などを見たいという目的で来るのではないでしょうか。リピーターとなって2、3回来る人にとっては、いつも団体行動するよりは、レンタカーで個人行動する方が効率が良いでしょう。そうなると、道路を着実に整備することで、より多くの人々が安心に、しかも安全に道内を旅する環境が出来ることになります。 その意味でも、私たちとしては根底の部分を支えるお手伝いをさせてもらっているとの自負があります。
──様々な受賞実績がありますが、そうした姿勢が優良施工結果となっているのですね
中田
今年は開発局長表彰が1箇所、開発建設部長表彰を釧路と帯広で受賞しましたが、この結果、6年連続の受賞となりました。道内の業者で、何らかの表彰を6年連続で受ける会社はほとんどないとのことです。 したがって、会社側としてもそれだけ良い仕事をしてくれている職員に感謝したいものです。
▲高規格道路 施工状況
――連続受賞を可能にするほど、企業としての資質を高めてきた社長の経営理念とは
中田
経営理念は「誠実」という社訓が基本にありますから、それに基づいて仕事をしなさいとスタッフには訓辞してきました。我々の仕事は公共性が高く、公費に基づく仕事なので、地域の多くの人々に喜んで頂かなければならず、また地域のための仕事をしなければならないとの使命感を常々持っています。誠実であることを念頭に置きながら確実な施工をし、結果を地域にお返しするという意識を第一とし、そのためにも必要な技術力などを高めていかなければなりません。
――毎年、公共事業予算は減額され続け、土木の将来像は明るいとはいえない情勢になりましたが、今後の将来ビジョンをどう描いていますか
中田
今後は入札制度も含めて、ますます情勢は複雑になっていきますから、より高い技術力が求められるでしょう。入札で仕事を得る上では、技術提案力と価格の2つがマッチしなければ、なかなか落札できなくなっています。したがって、当面の課題は技術提案力をさらに磨き上げていくことだと考えます。 そのためには、北海道だけではなく本州では技術的にどのような取り組みをしているのか、本州企業はどんな技術力を持っているのかを把握し、道外でも受注できる体制づくりが必要です。
――本州での施工事例は
中田
東京都の仕事を受注したり、時にはネクスコ(日本高速道路株式会社)の工事を経験させてもらったり、または都内の同業社と資本業務提携を結ぶなどの事例があります。
――本州では、技術者や作業者の確保が困難なのでは
中田
技術者は道内から派遣しています。北海道とは異なり、冬期間は本州では忙しい時期になります。北海道でも冬期施工はしていますが、夏場に比べると人員に余裕が生じるので融通できます。 本州での施工は、職員にとっても良い経験になっているようです。特に、行政によって進め方が異なり、東京都には東京都のやり方があるので、それが良い勉強となり道内での施工においてもプラスになっているようです。
――道では、ソフトランディングを進めています
中田
8月初旬に北海道建青会による全道会員研修大会が行われ、そのテーマは「社長が変わらなければ会社は変わらない」というものでした。今後の建設産業のあり方としては、市場規模に合わせて会社自体を縮小していくことと、他業種、新分野に進出すること、他の企業との合併や業務提携、そしてもう一つは会社を閉じてしまうという4つの選択肢があります。どれを選択するにしても、まずは社長が変わらなければ何も変わらないということです。
▲森林整備事業
――本州での受注の他に、新事業への参入や新規事業へのアイデアはありますか
中田
例えば、植林事業なども着手していますが、これは祖父である初代社長が事業を通じて得た利益を少しでも環境対策のために還元しようと始めたもので、昭和58年頃から今金町で禿げ山を買収し、そこに少しずつ植林をしているところです。 面積は留寿都村と今金町で1,800町歩ほどですが、100年は伐採しないようにとの遺言です。いまから考えると、その時代には環境問題はそれほどクローズアップされなかったはずですが、こうした森林事業や環境事業での実績は、当社にとっても財産といえます。 本業はあくまで舗装事業ですから、管理を担当する職員はいるものの、基本的には地元森林組合に委託し、作業なども代行してもらっています。 この植林事業によって、平成11年には東北・北海道地区の民有林造林コンクールで林野庁長官表彰を受賞しました。
――最近は不当なダンピングが横行していますが、入札制度について意見はありますか
中田
北海道の入札制度については、業界としても様々に要望しています。その一つが乙型JVの継続です。同業者だけのJVではなく、ゼネコンと舗装会社が組んだJVに発注していただくということで、すでに北海道各地で実施されていますが、それを今後も継続していただきたいものです。できれば、単独企業に発注していただければ有り難いのですが、せめて乙型JVの導入は続けて欲しいと思います。 というのも、地域によってはゼネコンの仕事量を確保する目的で、舗装事業までもゼネコンに一括発注するケースが多いのです。しかし、ゼネコンは舗装までは対応できませんから、結局はさらに外注しなければなりません。せっかく我々のような専門業者がいるのですから、工種ごとに分けて発注すればと思うのです。 もう一つは、冬の施工は品質確保と原価を考えると採算性が悪いので、夏場に下地は作っても、冬場に無理に路面を舗装するのでなく、繰り越しして適切な時期に施工する工期の設定を、ぜひ多く導入していただきたいと思います。 さらに、入札の予定価格は公表しない方が良いと思います。事前に入札価格を公表せずに、各社が独自に積算して入札した方が、各社のカラーが反映されるものと思います。これから公募型一般競争入札が増えてきますから、なおさら予定価格は公表しないようお願いしたいものです。 何しろ予定価格が公表されると、最低価格がおのずと判明するので、積算もせずに最初から大幅に割り引いて入札する無謀な事態になりかねず、それに合わせて施工してしまう事例が増えていくでしょう。発注者側が想定する予定価格に対して、各企業がどんなポリシーで入札したかを審査した上で落札者を決めることが、ダンピング防止になると考えます。
▲HDアスファルトコンクリート(耐クローラー舗装)
 実際に74式戦車(約38t)、75式155mm榴弾砲(約25.3t) 100台を走行させて行った測定試験
──予算削減とダンピングで、公共事業はいまや建設業界にとっては不採算分野となりました
中田
世間や一部のマスコミの方々は誤解しているようで、公共事業を請けている会社は儲かっていると発言する人もいますが、他産業に比べると利益率は、非常に低くなっています。日本全国を見ると、製造業は毎年利益率が上がっていますが、建設業に関しては利益率が1%以下であったり、宮城県などは前浅野知事の改革により、一時期は落札率が50%以下という時期もあったようです。 そこで事態を改善させようとしたものの、それでも落札率は80%くらいです。この状況では、企業として存続することは不可能です。そのために資産を売却したりしますが、銀行も資金面で支えきれなくなり、この2週間〜で10社が倒産したとのことです。建設業信用保証会社の調査によれば、宮城県の建設業者の平均経常利益率は、なんと−0.02%とのことで、それほど県内の建設業界は疲弊しているのです。 したがって、多くの利益を得る必要はないけれども、適切な利益が得られれば、それはまた税収に反映し還元されるのです。 また、雇用面で見れば、地域を支える企業がなくなれば、雇用を吸収する場もなくなるわけですから、人々は札幌などの都市部へ出て行かざるを得なくなります。そうなれば地方はさらに疲弊し、北海道全体としてもマイナスだと思うのです。
――舗装事業の場合はやはり官需が中心となるので切実では
中田
官民の比率で見れば、官工事は6割くらいで、残る4割は民間です。しかし、4割の民間工事のほとんどは、元は官発注の工事の下請けで、ゼネコンが受注した工種に舗装工事が含まれていたので、それを下請けしたものを指して民間工事と当社では位置付けています。 純然たる民間工事というのは1割もあるかないかで、競争はかなり厳しいものです。したがって、今後はそれについても営業できる体制を確立しなければなりません。純然たる民間工事は、道央圏が中心となるので、札幌市内の事務所を西岡地区の一箇所から、さらに北野地区にも仮事務所を設け、西岡事務所を拠点にしながら北野方面での民間営業にも着手するなど、試験的に実施しています。
――企業が設備投資その他で工場を作れば、必ず道路需要が発生しますね
中田
そう考えると、苫小牧市や地方圏はこれからですね。ただし、それが本州企業であれば、本社ですでに工事などの采配も決めてしまうので、それを地場企業として営業できるのかどうかは今後の課題です。しかし、何もしないというわけにはいきません。様々な提案をしながら取り組んでいきたいと思います。

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