建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年10月号〉

interview

建設業のソフトランディングを推進(後編)

――現場のスリム化で企業経営の効率化を

北海道建設部長(52代目) 猪俣 茂樹氏

猪俣 茂樹 いのまた・しげき
昭和25年3月27日生まれ 札幌市出身
昭和49年4月 北海道庁採用(旭川土木現業所)
昭和60年4月 小樽土木現業所都市施設係長
昭和62年6月 札幌土木現業所道路第一係長
平成元年5月 土木部空港港湾課空港建設係長
平成 3年6月 土木部空港港湾課空港計画係長
平成 4年4月 網走土木現業所事業課長
平成 6年4月 旭川土木現業所総務課長
平成 8年4月 土木部空港港湾課主幹
平成 9年6月 建設部空港港湾課長補佐
平成10年4月 旭川土木現業所事業部長
平成11年5月 建設部参事(北海道エアシステム派遣)
平成13年4月 網走土木現業所長
平成15年6月 建設部技監
平成17年4月 網走支庁長
平成19年6月 建設部長

国・地方の厳しい財政状況や不健全なダンピング競争により、公共事業を主軸にした建設業界は崩壊寸前の状況にある。このため、一部には合併・吸収などの再編も見られたが、傾向としては共食い状態に近く、これまで地域のインフラ整備、メンテナンス、防災、復旧などに地道に貢献してきた優良企業も、存続への道筋が厳しく、中には絶望的な観測も聞かれる。発足110周年目を迎えた北海道建設部は、こうした状況をどう考えるのだろうか。
――建設業界のあり方についてお聞きします
猪俣
北海道の建設投資に占める公共投資の割合は、全国が30%台で推移しているのに対し、北海道は50%台と公共依存度が極めて高い状況となっています。公共投資のピークは、全国が平成5年度35兆3,056億円、北海道では平成11年度3兆130億円となっています。平成5年度から平成10年度までは、多少のばらつきは見られますが、全国、北海道ともに同程度の減少を示しています。 しかし、平成11年度、北海道では公共投資が大幅に増加したため、平成11年度を基準とした、その後5年間の落ち込みは全国と比べて非常に大きく、公共依存度の高い北海道の建設業にとって大きな影響になっていると考えています。 このように、本道建設業は、建設投資のピークであった平成5年度と比較して、建設投資−36%、許可業者数−2%、就業者数−21%、売上高営業利益率−1.8%と非常に厳しい状況にあります。 特に、企業の経営上、利益率の向上が大きな課題となりますが、建設業の営業利益率を平成17年度で見ると、全国では、1.5%であるのに対し、北海道では0.9%と低い割合になっています。一般的に営業利益率で3%以上が適正利益であると言われていますが、建設業は他産業に比べ低い水準で推移しています。 こうしたことから、公共工事への依存度が高い地域の中小・中堅建設業は、公共投資の減少が続く中、厳しい経営環境が続いていると考えられます。 本道の建設業は、道内総生産及び就業者数の全産業に占める割合が、全国平均に比べて高く、地域の経済と雇用を支える重要な産業となっています。今後さらに、地域に根付いた産業として、公共施設の維持管理などの地域行政におけるニーズへの対応、担い手不足が深刻化している農林業、過疎地域における公共交通・福祉等のサービスの新たな担い手としての役割が、期待されています。 北海道経済は、景気回復が進展している他の地域と比較して、回復のスピードが緩やかであり、まだまだ厳しい状況にあります。 建設業においても、景気回復の遅れや、国や地方の厳しい財政状況に伴う公共投資の縮減などから、今後も厳しい経営環境が続くものと考えています。
▲サンピラー交流館(カーリング)
――今後の建設業界に求められることは
猪俣
さきほど、営業利益率のことをお話しましたが、建設業は他産業と比較して相対的に営業利益率が低く、また企業間にあって経営規模に関係なく、営業利益率のばらつきが生じています。しかし、建設業者の中には、3%以上の営業利益率を上げている企業も見受けられ、今後、一段と厳しさを増す経営環境を乗り切っていくためには、経営者が明確な経営方針を持ち、組織の管理能力や業務処理能力、コスト管理能力の向上に努める必要があります。 さらに、建設業が、今後とも道民生活の向上や地域の振興に大きな役割を果たしていくためには、技術力の向上はもとより、環境を重視した循環型社会に対応した省資源・省エネルギー化や、少子・高齢化にも適応できるよう優れた人材の確保・育成など、社会経済情勢の変化に適切に対応した不断の経営革新を着実に進め、地域に信頼される技術と経営に優れた企業づくりを進めることが必要と考えています。 このようなことを踏まえ、道におきましては、経営体質強化や新分野進出への支援などを柱とする「建設業等のソフトランディング対策」の推進に、業界団体とも連携を図りながら取り組んでいます。 また、道発注工事における「建設業経営効率化」の取り組みは、「建設現場の効率化」のみならず、品質確保にもつながっていく取り組みであることから、今後とも建設業界の皆様と連携を図りながら取り組んでまいりたいと考えています。
▲幸福インター線(帯広市)
▲洞爺湖温泉街泥流対策
――今後北海道における社会資本整備で注目されるプロジェクトは
猪俣
すでに建設・供用されている公共土木施設の多くは、戦後の高度成長期に建設されており、今後本格的な更新時期を迎えることから、少ない予算で最大の効果を上げるため、計画的で効率的な維持、修繕や更新が必要となります。 先日、アメリカで橋梁が落下するという事故がありましたが、適切なメンテナンスは、これからますます必要となってきます。 特に橋りょうの長寿命化への取り組みは、喫緊の課題と認識しており、国の補助制度も活用し、必要な予算の確保に努めるとともに、全道的な橋りょうの補修計画を策定し、適切な維持管理や計画的な更新に取り組み、安全で円滑な道路交通の確保に努めていきます。 今後は、必要な施設の建設はもちろんのこと、現在ある施設を大事に使うための維持管理の制度創設や予算の確保が重要になってきます。 こうしたことから、建設部としては、平成16年3月に有識者で構成する「公共土木施設長寿命化検討委員会」を設置し、橋梁や樋門・樋管について検討をすすめているところです。 こうしたマネジメントシステムはますます重要になってくるものと思われます。 また、最近の話題として、来年7月に、主要国首脳会議である「北海道・洞爺湖サミット」が開催されます。主要テーマは「環境・地球温暖化」と聞いていますが、洞爺湖周辺は、平成12年の有珠山噴火以降、地域の力を活かしながら、噴火災害から復興を果たし、火山と共生し、自然と調和した景勝地です。全世界が注目するイベントでもあり、北海道を世界にアピールする絶好の機会である、今回のサミットの成功に向けて、建設部としても万全の体制で取り組んで参ります。

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