建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年10月号〉

interview

土木専門技術者が地球環境に優しい家づくり

全国の中堅ゼネコンに採用される高性能住宅『RC-Z工法』

株式会社早川工務店 ロングホーム株式会社 代表取締役 早川 義行氏

早川 義行 はやかわ・よしゆき
1945年北海道生まれ。一級建築士・発明家。
建築会社・(株)早川工務店(1941年創業/本社北海道札幌市)、技術開発会社・ロングホーム(株)(1995年設立/本社北海道江別市、東京本部/浜松町)他の代表取締役を務める。自らの建築経験を生かし、「高性能高品質な建物を、より安く・早く造る」ことを第一として、常に新しい建築技術の開発に取り組む建築家&技術開発者。15年の歳月を経て、従来高額だった鉄筋コンクリート建物を木造並の低価格で造る型枠技術「RC-Zシステム」を開発し、1998年特許庁長官奨励賞受賞、1999年経済産業省特定新規技術認定など各方面から高い評価を受けている。また、数々の発明を手掛け、アメリカ・ヨーロッパ・アジアなど世界各国で特許を取得している。

 個人用の戸建て住宅といえば、木造モルタルづくりというのが一般的で、強度の高い鉄筋コンクリートなどは業務用施設専用と思いがちだ。しかし、木材とコンクリートの単価を比べると、コンクリートの方が遙かに安いため、(株)早川工務店はそれを個人用の戸建て住宅に導入し、安価に提供するビジネスモデルの確立に成功した。発明家を自負する同社の早川義行社長は、資材単価の安さだけでなく、多能工の採用によって人件費を抑制することで、低価格でありながら耐震性、保温性、防音性に優れたRC-Z住宅を開発。このビジネスモデルを普及させるべく、千葉県には独自の研修所を持ち、資材としての市場参入を目指して生産工場も稼働させた。同社長の視野は広く、国内からさらにはインド、中国など新興市場への進出も目指しており、この住宅の施工・販売を担うロングホーム(株)を「建設業出身の世界に冠たる技術企業」としての地位を獲得しようと構想している。
――昭和16年に今日の早川工務店を先代が設立してから社長は二代目ですが、北海道発の鉄筋コンクリート建物・RC-Z工法を開発したきっかけをお聞きしたい
早川
かつて会社で大工の修行をさせられましたが、住宅建築については幼少の頃から一つの記憶があります。それは、住宅というのは非常にクレームが多いということです。それを幼少時から見て知っていたので、その原因を探っていったり、自分でもやってみました。その結果は、やはり同じだったので、何故なのかと原因を究明するところから始めたのです。 それまでには、作るたびにお客様からクレームがつくのが嫌で、父親の二の舞は避けたいと思い、公共工事に逃避した時期もありました。しかし、小さい時から家造りに携わってきたのですから、やはり住宅事業に従事すべきだという強い意識があると同時に、このまま公共工事で生きていたのでは、早晩行き詰まるとの予感もあったのです。
――情報によれば、RC-Z工法は、玩具であるレゴ=ブロックからヒントを得たとのことですが
早川
発端はクレームの原因究明です。その結果、分かったことは従来の木造住宅は基本的部品の数が多すぎることに問題があるということです。その部品を柱や釘で固定しているわけですが、例えばその釘を含めて部品の数たるや数万点にも及ぶわけです。しかし、いかに腕の良い大工やベテランの現場監督でも、数万点もあるパーツの全てを点検するなど、到底不可能です。しかも、数万点のパーツを一人の大工で作っているわけではないのですから。したがって、部品の数が多すぎることは、故障の原因になるわけです。とりわけ北海道は、北極で発生した大寒気の影響を受ける気候の厳しいところですから。 そこで、部品を少くすれば故障はなくなるだろうと単純に発想しました。そして部品を少なくするために用いるべき資材は、鉄筋しかないのです。この発想がRC-Z工法の開発に結びついていきました。 このRC-Zは、Zパネルという特殊高強度FRP(UFRP)素材の型枠パネルを中心とした断熱コンクリート構造体の施工システムと、独自のPC施工技術とを合体させた新工法で、世界特許を取得しています。コンクリートと鉄筋で一体になっていますから、いわばこれらで1パーツということになります。 大きな特色としては、従来のベニヤ型枠工法で作られる鉄筋コンクリートの問題点を解消したことです。例えば、マンションや官庁施設などは、すでに鉄筋コンクリート施工の技術が確立されており、坪40万円から45万円ほどのコストで安定していますが、それを戸建て住宅に適用する場合には、なぜか70万円、80万円へと高騰してしまうのです。しかも材料費はどんな用途でも同じで、坪数に対する鉄筋の量などの比率も違いはありません。なのになぜ高値なのかを調べた結果、既存の鉄筋コンクリート建物を安く作るシステムを、そのまま戸建て住宅に利用することに無理があることが判明しました。本来、鉄筋コンクリート建物は、60種類にも及ぶ単能工が入れ替わり立ち替わりで施工に当たっているのです。型枠にしても、型枠大工の他に解体したり、清掃したり、廃棄したりといった作業があり、それぞれの作業に型枠大工とは別の会社が従事する体制なのです。その他にも、GLやウレタンなどあらゆる職種が導入されるのです。それが巨大構造物であれば、工程も順番にこなせますが、わずか一棟の戸建てとなると、たった一時間の作業のためにわざわざ職人が現場に出向いてこなければならないため、人件費がかさんでくるのです。つまり元凶は人件費にあるので、これがほとんど原材料費だけで済むとなれば、むしろ木造住宅よりも安くなります。例えば、木材の場合は一本3千円で、木材の集成材ともなればさらに高額ですが、コンクリートの場合はわずか270円ですから。 このように、安く建てられる可能性に気づいたことから、旧来の単能工を多く動員する既存システムではなく、たった一人でも建物の50%から60%を作れる技術を開発しようと考えたわけです。しかも、大工や宮大工のように、十年かかっても一人前になれないような特殊技術ではなく、女性や素人でもできるよう軽量化や精密化を図り、誰が施工しても間違いのないシステムの開発に着手しました。 こうして、RC-Z工法が誕生し、在来工法では出来なかった工程削減、工期短縮、コストダウンの他、躯体内無結露もシステム的に実現することに成功しました。型枠には、木材を使用しませんから廃材が出ることもなく、環境時代の要請でもあるゼロエミッションにも対応できます。
――画期的な工法ですね
早川
私は発明家を自負していますから、従来の建築技術者や大手ゼネコンには、こうした発想は無理でしょう(笑) 着想して以来、私の半生をこの開発研究に費やしました。そして、この工法によって建築される鉄筋コンクリート住宅を、私たちは「RC-Zの家」と名称しています。その最大の利点は、強さと経済性と快適性です。強度についてみると、震度7にも耐え得る耐震性能で、2時間の耐火性を持っています。性能保証は60年間で、これほど頑丈ですから屋上には庭園やジャグジーなども設置できます。 経済性の面では、高気密高断熱なので、省エネ効果が高く、PC住宅なので中古でも高値で売却できます。一方、住宅寿命が長く、火災保険料も安く済むのです。 快適性について見れば、躯体内での結露の心配が全くなく、これは業界でも初めて実現したものです。保温性にも優れているので、家中のどこでも温度は一定に保たれます。防音性については、品確法において最高等級を取得していますから、生活音が漏れることはなく、また屋外の騒音に悩まされることもありません。またホルマリンは使用していないので、近年話題になっているシックハウスの心配はありません。
――住宅としての完成度は、ほぼ完璧と言えますね
早川
しかも、この工法によって平屋建築でも高層建築でも施工できます。
――首都圏では空間過疎の解消という考え方を主張するデベロッパーもありますが、戸建て住宅でも屋上を活用することで、空間を有効活用することが可能ですね
早川
やはり構造体がポイントです。木造でこうした施工をしていたなら、後にクレームが多く発生し、対応しきれなくなるでしょう。建築業者が淘汰されていった最大の理由とは、クレームに耐えられなかったことにあります。部品数が多い建物というのは、長期的にはクレームが物理的に発生するものですが、それを「真面目に対応します」、「全て直します」などと無理な宣伝をするから、やがて自滅してしまうのです。 そうではなく、最初からクレームが生じないものを作ることが肝心です。もちろん、クレームが全くゼロではないにしても、リスクを極力抑えられるような、頑丈なハードウェアを持つことが重要です。
――庶民にとって、家というのは30年ほどの耐用年数でしかなく、そのためにまた新しく建て直しを考えたりします
早川
しかし、これからの日本人は、かつてほど収入を得ることは難しいので、今後はそれが出来なくなっていきます。その点、鉄筋コンクリートであれば、200年は保ちます。何しろ、躯体自体は外気に触れないので、外装の種類によっては数十年おきにメンテナンスするだけで、半永久的に使用できるのです。 そうして残っていくならば、今後は後代の人々の間で「150年前に作ったご先祖様の家だよ」といった会話も聞かれるでしょう。
──そうして確立されたRC-Z工法の、最近の普及状況はいかがですか
早川
RC-Z工法は、現在では全国で240社ほどの中堅ゼネコンで採用されています。中でも最近、特に多くなってきたのは、土木専門の施工会社からの問い合わせが増えていることで、私自身も驚いています。全道各地で30億円から50億円もの公共土木事業を施工した実績を持つだけに、建築を軽視し、我々のシステムには目もくれなかった方々が関心を持って問い合わせてくる件数が、驚くほど増えているのです。 お陰で、私たちの事業は第二次の拡販期に入っているところです。
――先頃も中越地震で、多くの家屋が損害を受けましたが、その意味からも耐震性能が高いのは安心ですね
早川
日本の木造家屋というのは、耐久性が非常に低いのです。さらに北海道の家屋はとりわけ耐久性が低い。それゆえに、数は少なくても建替え需要は膨大にあるのです。もちろん、耐久性に優れているこのRC-Z工法で施工してしまうと、その先は需要が減っていくかもしれませんが、それでも30〜40年は需要は途絶えないものと見込まれます。こうした家屋の寿命の短さは、国家的な損失ではありますが、一方ではビジネスチャンスでもあると捉えた方が良いでしょう。 しかし、近年の顧客はそう簡単には動きません。全般に性能・デザインが良くなかったら、修繕すれば20〜30年は保ちますから、敢えて清水の舞台から飛び降りる覚悟で建て替える人は少ないのです。そこで、いかにして人々が心を動かすものを作るかが課題です。営業に当たっては、顧客に一生の買い物をしてもらうのですから、お客様に対する考え方を改めなければなりません。 公共事業の営業のように、名刺を配って歩くだけではダメで、仕事は天から降ってはこないものです。良い商品を用意しておき、顧客にこれならば買っても良いと動機づけることが大切です。近年の人々の目は肥えているのですから。
――資産価値で見ると、通常は築年数によって目減りするものですが
早川
このパターンで販売してから7〜8年が経過していますが、顧客はみな新築で買った値段よりも高値で売却しているようです。こんなことは一般の集合住宅では考えられないことですが、全ての流通データを見ると、そうしたパターンがほとんどです。 理由は保証付きである上に、中古でも新築と違いがないため、外見では新品なのか4〜5年も経ったものかが分からないからでしょう。
――RC-Zの技術的な可能性と、事業展開の多角化についてお聞きしたい
早川
一つは全国の土木専門の施工会社への提供と、その他には一般型枠資材や一般資材として市場に出す予定です。今までは生産能力が整わなかったのですが、千歳市に最新鋭の工場を整備し、本格的な稼働も去年から始まったので、供給能力も高まりました。そこで、一般資材として今年後半から来年にかけて市場に出していきます。 型枠のスラブシステムなどは、一気に変るでしょう。木を一切使わなくなり、数年以内にはZシステムは専用技術ではなく一般技術として大衆化し、さらに今後は一般型枠業者やゼネコンも驚くような技術が出現するでしょう。 また、これはまだ公開していませんでしたが、建築中の建物にブルドーザーが乗っている写真があります。それほど丈夫なので、地震などによる倒壊の心配は全くなく、これまでに竣工した建物も、全てに重機を乗せられるほど頑丈です。
――導入する企業にとっての、RC-Z工法のビジネスとしての魅力をお聞きしたい
早川
我々のシステムには、もちろん長所もあれば短所もあります。短所から言えば、この事業に参入するに当たっては、モデルハウスの準備などで、初期投資が1千万円から2千万円ほどかかるところでしょう。 しかし、施工が非常に簡便に済むことは大きな長所です。それだけに、他の建築現場からきた技術者は、まず頭を切り換えてもらわなければなりません。何しろ、素人でも施工できるほどですから、伝統的な棟梁気質の技術者には信じられないわけです。 したがって、建築ではなく土木施工に携わってきた技術者の方が、むしろスムーズに参入できるのです。土木分野の技術者は、コンクリートの扱いに慣れていながらも不必要な先入観を持たないので、私たちの説明やアドヴァイスをそのまま信じてくれますから、我々の指導に忠実にビジネスを展開しています。その結果、土木から参入した建設会社はみな成功し、成長してきています。 もちろん、そうした会社の経営者は、一般人を相手にセールスをした経験のない人ばかりですから時間はかかりますが、少なくとも一年間は耐え得る財力は確実に持っており、難しいビジネスフォーマットであることも覚悟しているので、成功率は高いわけです。
――事業は全国展開しているようですが、本州の情勢はいかがですか
早川
首都圏で我々が最近、着手しているのはスケルトンビジネスというもので、躯体のみを提供し、内装はユーザーに任せるというものです。これも意外と需要はあるのです。反面、これが在来工法による鉄筋コンクリートの躯体であれば、誰も引き取ろうとはしません。しかし、我々の場合は、外壁も含めてほとんどが完成しており、ユーザーとしては内部にLGを立てるだけで完了するので歓迎されるのです。 建築というものは、技術が進めば様々なビジネスが可能になるものです。東京で進めているスケルトンビジネスは、日本ではまったく新しいビジネスモデルですから、今後はさらに大きく成長するでしょう。 ただ、現地では多能工がやや不足していますから、数ヶ月に一度は北海道に帰るようなローテーションで職員を派遣しています。東京でも早朝に発てば、昼には現場に入れる時代ですから、道内でも網走、留萌、遠軽など地域にしばりつける必要はないのです。
――工期が短期間で済むところが強味ですね
早川
一軒の建物にしろ、マンションにしても、型枠だけの期間はそれほど長いものではなく、多能工で施工すれば全体的には短いかもしれません。ただし、竣工までの全体的な工期は長いのですから、一軒の建物でも3ヶ月から4ヶ月は着任する必要はあります。
――今日は公共事業が激減し、建設行政は建設業界を異業種へ誘導することでソフトランディングを進めようとしています
早川
重要な問題は、土木関係者は自主的な営業が出来ないことです。建築といえば、放っておいても顧客がいるのだから良いと思う人が多いのです。何しろ日頃は官庁工事に携わっているので、官庁側から仕事を与えられる立場であり、さらには三年後の仕事までも公表されたりしています。 建築業界の場合は、自家雇用している従業員は少ないものですが、土木系の会社はかなりの技術者や現場技能者を完全雇用しており、そうした人員がネックになって身軽に動けなくなるのです。 しかし、だからといってトマトを作ったりたまねぎ作るというのは疑問です。何しろ、農家は30年も40年もその道で生きてきたプロなのですから、公共事業が減ったからとて一朝一夕に参入・転業できるものではありません。そうした問題点について、行政サイドは理解が不足していると思います。農家が30年も40年もかけて努力しているのに、土木関係者が急に参入して温室でトマトを作ったところで、敵うはずがありません。 最近の農家はラジコンヘリコプターを駆使して稲作をしていたりします。機械化を進めて人件費を削っている最中ですから、そうしたところに建設会社の人員が余っているから参入させるという発想自体が、農家を軽視していると感じますし、それに助成金を交付して誘導する行政の政策には疑問を感じます。
――実際に、ソフトランディングの成功例は稀少ですね
早川
私たちの工法に対する建設需要は、人口に比例して間違いなくあるのです。それを掴めるかどうかは、ハードとソフトの両面で決まってきます。土木関係者は、技術というハード面は用意できますが、営業というソフトがないから食い込めなかったのです。 しかし、これまで私たちは資材・工法、営業ノウハウについて指導はしてきませんでしたが、最近はその方法論と体制が確立されたので、土木専門会社が一斉に参入してきたのです。したがって、来年の今頃にもなれば、おそらく全国の土木会社の成功例が、至る所で見られるようになると思います。
――地方の建設業界では、向こう1,2年までは、前年度の公共事業収益で乗り切れても、3年、4年先となると、企業としての存続は不可能と展望しているようです
早川
建設業界の現況は、たまねぎを作れば良いとか、魚でも養殖すれば良いなどというレベルの問題ではありません。しかし、建築業に参入するにしてもローコスト住宅や増改築の分野は無理でしょう。こうした事業に手を出したのでは、かえって命取りになります。 しかし、同じコンクリートを扱ってきて、完全雇用している職人、土工数も多いのですから、私たちのRC-Z工法をベースにしたビジネスであれば、今日の土木系会社はソフトランディングが可能です。 このシステムのポイントは、いわば万能型の多能工を育てることです。もちろん、型枠大工さんなら方手間でも出来るほど簡単な工法なのですが、そうなると型枠工の技術も女子技術者の技術でも、作業スピードを別にすれば結果的には同じものでしかないのです。そうなると、型枠大工は存在意義はなくなります。むしろ、体力はあるが建築技術は未経験という土工職人の方が理想的です。 また、建築会社と土木会社の適応性の違いは、そうした職人達をコントロール出来るかどうかにあります。建築会社の場合は、プライドある職人が多いために統率しきれないのですが、土木会社はコントロールできるため、施工はスムーズにして確実なのです。したがって、問題は営業面だけですから、各地区で10億円前後でも良いから土木施工を着実にこなしてきた土木会社は、間違っても行政の政策に乗ってトマトなんか作るな、と私は主張しています。
――土木会社はそうしたソフトランディング農業に真剣に取り組んでいますが、販路拡大といったビジネス面が曖昧ですね
早川
そもそも建設会社がトマトを作ったところで、販売・流通となれば、農協が新規参入者の生産物に対してどんな姿勢を示すものであるかを知らないのでしょう。さらに問題点は、市場ニーズというもののデータすら把握していないことです。 しかし、住宅となると、東京であれ地方であれ、100人当りの着工数というのは概ねバランスがとれています。稚内でも留萌でも人口3万人と想定して、それを100で除したなら300戸です。そのうち、新規の住宅需要は戸建ての住宅の場合、その6割ですから180戸の需要があるのです。その180戸の総需要のうち、わずか10パーセントの市場を獲得しただけでも18戸となりますから、経営は十分に成り立つのです。 その需要をどう掴むかがカギなのです。そのための方法は二つしかありません。大きくは良いハード、良い商品、良い技術を持つことであり、そしてソフト面でどう売るかです。 さらに、住宅だけでなくアパートも含めるなら、需要はもっとあるのです。ただし、そこに向かって乗り出せる建設会社は、最終的にはこの5年くらいで完璧に淘汰され、わずかしか残らないでしょう。従来であれば、まだ5年後とか10年後などと言っていましたが、今では時限スイッチが2〜3年にタイマーセットされたのですから、この時期にやれるだけのことをやらなければ、存続は無理ですね。
――公共事業も、毎年3%削減が5年間も続き、ピーク時の半分近くになりましたから、企業が資産を切り売りして来年までは保っても、その後は絶望的とのことです
早川
港湾土木にしても、港がその地区にあったから、世論も今までは整備に目をつぶってきましたが、今日では優先的にそれに着手したなら、根拠を問われたり批判される時代です。そうなると、勢い単価勝負になるでしょう。そうなれば、やればやるほど絶対に赤字となりますから、逆に死期を早めてしまいます。ですから、土木専門から建築へと、早い時期に切換えてシフトすることが必要です。 私は、先日には鳥取方面を視察してきましたが、そうした地方でも少ない人口をベースにして、市街化調整区域を広げるなど、少しでも人口を増やす努力をしていました。そこに私たちの事業も乗る方向性で検討しています。その点で、北海道の企業はかなり遅れていますね。いまだに国による公共投資を当てにしていますから。
――建設行政は、公共投資への依存度を低め、民間需要の拡大を目指しています
早川
今日の状況をみていると、本来は一刻の猶予も出来ないはずです。土木会社は規模が小さくても地元の人間を雇用しているのですから、このまま彼らを全て潰すわけにはいかないのです。特に北海道の場合は、冬期間のこともあるので、なおさら存続が難しいのです。 しかし、雇用の問題も含めて、我々のような建築工事であれば、冬季施工も可能ですから、もともとは実施する考えはなかったものの、もしも興味のある建設会社が多数あるなら、プレゼンテーションや施工説明会などを通じて呼びかけるべき時期が来ているのではないかと思ったりもします。 先に述べたように、地域に人口が3万人くらいもあれば、10人や15人体制の会社は維持できますから、それくらいの規模の町村や、あるいはそれを起点に3万人規模のエリアを想定すれば可能です。
──ソフトランディングを促進しようとする行政は、そうしたビジネスモデルをいくつも用意し、提示できることが必要ですね
早川
そうしたリードイニシァティブを、行政が取るべきだと思います。行政側としては、様々に手を打つべきで、地場産業を育成したり保護するのも使命だと考えます。 逆に業界再編を進めるために、業者はみな整理統合されることを促すというのは疑問です。地方の建設会社は、多くの人々を雇用していますから、そうした会社が全て人件費倒産の状態に陥れば、北海道の人口はさらに減ることになるでしょう。
――そうした事態を回避するためには、どんな社会システムが必要と考えますか
早川
新しい方向性を定めて集積した企業グループや事業分野に対しては、それを支援する融資制度が必要です。助成金では甘えが生じるので、あくまでも融資が良いと思います。 例えば、融資条件として4社以上、あるいは5社以上という規定や、資本金の規模によって分類するのも良いでしょう。そこから先は、合同の会社を作るのも良いでしょう。わずかな会社の中で、社長や常務など役員ばかりが何人もいても無意味ですから、オブザーバーなどに就任するという方法もあります。基本的には働く人間、働く意識の問題で、成功するかどうかは、国や自治体がそこまで責任を負う必要はありません。 どのみち企業数は減る趨勢ですから、それを前提とした上で、前向きな目的で企業グループの構築を促すのが行政の取るべき政策だと、私は思います。
――かつては地域の道路のメンテナンスなどのために、舗装会社が各地域に必要とされたことから、その業種のない地域では、地場企業が出資し合って舗装会社を設立したという事例も多く見られました
早川
社会資本が充実してくれば、メンテナンスのほか暴風、台風、地震など、災害時の緊急対応が間に合わなくなります。長期的には本州から大手ゼネコンが復旧に乗り出すでしょうが、生命に関わる問題なので、短期的な即応を要します。 したがって、そうした事態を含めれば、地域の建設業は絶対に必要なのです。しかし、かといっていつまでも無駄に資金投入するわけにはいきませんから、やはり行政ベースで検討すべき課題で、まずは行政サイドの意識改革が必要です。
――その意味では、このRC-Z工法という分野も、ソフトランディングの対象の一つとして考えて良いのでは
早川
10年ほど以前のことですが、私の考案したこの技術がほぼ完成し、これをベースに公共建築工事にも適用し、安くて良い物を作ろうと発注者側に提案しました。ところが、「この技術は優れているかもしれないが、あなたの会社でしか施工できないものであるから、行政としては特定の企業だけに利するものを指定するわけにはいかない」というのです。 そこで「公共工事としては、コスト削減の課題もあるでしょうから、安くて良いものが出来るならそれで良いのでは」と反論しましたが、行政としては、同じ技術の範囲内で公平に配分する立場という姿勢に徹していました。 私の考えとしては、行政がすでに採用している「新しい技術」や、適正工期というものは、さらに新しい技術、新しい考え方が出てきた時には、その根拠が失われてしまうのであり、そもそも新技術を受け入れないのでは、建築技術の進歩を否定することになります。そのため、過去の古い技術を永遠に踏襲しなければならないとすれば、競争にともなう技術革新というものを否定することになります。 トヨタのハイブリッドカーなどは、環境対策の意義も含めて国では積極的に導入しています。ハイブリッドカーはトヨタにしか出来ない技術なので、他のメーカーでも出来るようにならなければ採用しないという姿勢ではありませんでした。新しい技術というものを認知しなければ、進歩・発展というものはありません。すべてが完璧に同じ条件下で競争させるのは、真の意味での競争ではないと考えます。
──土木専門の建設会社が、この工法を以て参入を希望した場合は、どのような指導体制が用意されていますか
早川
私たちは、千葉県柏市に独自の研修所も用意しており、実地研修も含めていくらでも教授できます。年間700〜600人が利用しています。土木専門の会社にとっての課題は営業面ですから、それについても新しいノウハウを含めてどのように売るのか、どのようにお客さんに納得してもらえるのかを、教授できる体制が整っています。 施設は土地だけで1千坪以上あり、建物は500坪くらいの規模です。ものではなく、人に教えることがメインの施設ですから宿泊機能もあり、それなりの資金を投入して良い環境を整えていますが、利用者が多く手狭になってきたので、さらに別棟を新設する準備をしています。
──社長の経営理念をお聞きしたい
早川
官公庁の仕事を請けていた人々は、ニーズは天から降ってくるものと思っているフシがありますが、民間ではニーズを自分たちで作り出さなければなりません。民間では、なにか間違いが起これば、10億円の収益があっても来年は0になるかもしれないという根本的な危機感があります。そうした危機感を持って万全を期していても、次々と企業が消滅している情勢です。 したがって、一つの狭い地区だけで生きようとせず、目を開いて、人間がいるところには資金もありますから、札幌でも東京でも幅広く活動し、地元とバランスをとっていくことです。幅広く活動すれば、さらに新たな知識を得たり目が開かれるので、新しい地域や分野を恐れないことです。 ただし、リフォーム事業には一切、手を出しません。リフォームというのは、他の業者が施工した不良建築物を、その時点から引き継ぐことです。私の父親が最後まで言っていたことは、他人様の作った建物は、たとえ単純な増改築であっても手がけるなということです。リフォームというのは、必ずクレームを内包しているものです。先に施工した業者のクレームを引き継ぐわけで、その時点では直しても、後になって不備が生じれば、顧客からは「完全に直ると言ったはずで、そのための見積り予算も受け取っているではないか」と責められるものです。だから、リフォーム業者は5〜6年で続かなくなります。信用を得て30年、40年とやっていくならば、私はリフォームは手がけるべきではないと主張しており、これが父親の時代から引き継いで70年持ち続けた哲学です。
――北海道展開と全国展開とにおいて、今後の目標は
早川
ロングホームとしては、全国でRC-Zの家は概ね2千戸くらいのペースで建築されていますが、今年を含めて5年以内には6千戸の供給は確実だと見ています。ロングホームのこの技術は、日本にとどまらず、国外でもかなり大きな反響を呼んでいます。中国やインドなどは、これからまさに住宅の時代ですから、準備が整い次第、進出していこうと考えています。特に中国には木造住宅というものはないので、可能性があります。 そもそも木造住宅が存在するのは、日本やカナダ、あるいはアメリカなど、先進国のごく一部で、全人口の一部しかカバーしておらず、むしろコンクリートの方が主流なので、このシステムは長期的に見ると10年以内には日本の売上げとは別に、海外での販売実績がかなり伸びるものと展望しています。市場規模から見て、現在の1桁から2桁くらいの違いがでるものと思います。 一方、早川工務店は「RC-Zの家」の生みの親ではありますが、今後は日本における建設業の新しい事業パターンを示していきたいと思っています。 建て替えにともなう省エネ・高性能の追求のほか、建築システムが単能工から多能工になるなど変革の時代にあって、技術革新というものを否定すれば、業界はどうなるのかを身を以て訴えていきたいと思っています。 そして、ものは人が作るのですから、土木であれ建築であれ、ものを作る人達を考えた技術というものを考え続けていきたいと思います。 鉄筋コンクリートの建物を造るにしても、木造住宅の家を造るにしても、それらは技術とともに変わり、時代とともに変わるのです。 是非、皆様方この厳しい状況下、勝ち残る企業へと邁進していただきたくご祈念申し上げます。
会社概要
商 号: 株式会社 早川工務店
創 業: 昭和16年10月
資本金: 70,000,000円
社 長: 代表取締役 早川義行
事業内容: 総合建築業、分譲住宅事業、資産コンサルティング事業
所在地:本社/札幌市豊平区豊平2条7丁目1-28 早川ビル
TEL :011-811-1241  FAX: 011-822-0794

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