建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年9月号〉

interview

創立100周年を迎え後継者の育成に全力

――技能の祖神「聖徳太子」太子堂は職能人の心と技の聖なる道場

釧路地方建築協会会長 本間 弘恭氏

本間 弘恭 ほんま・ひろやす
生年月日 昭和12年3月27日生まれ
昭和30年3月 北海道立釧路工業高等学校土木課卒業
昭和30年4月 丸什 本間建設 入社
昭和50年7月 有限会社 丸什 本間建設 代表取締役就任
昭和57年9月 丸什 本間建設株式会社 代表取締役就任 現在に至る
平成 5年5月 社団法人 釧路地方建築協会 会長に就任 現在に至る
平成 5年5月 職業訓練法人 釧路地方職業能力開発協会 会長に就任 現在に至る
平成 9年5月 北海道立釧路高等技術専門学院後援会 会長に就任 現在に至る
平成17年5月 社団法人 北海道建築工事業組合連合会理事長に就任 現在に至る
平成17年5月 北海道職業能力開発協会副会長に就任 現在に至る
平成17年6月 釧路地方技能尊重運動推進協議会 会長に就任 現在に至る
平成19年5月 全国中小建築工事業団体連合会副会長に就任 現在に至る

今日の釧路市発展の礎になったのは建築大工だった。釧路地方建築協会の前身である釧路大工職組合が設立されたのは明治40年(1907年)。いまから100年前にさかのぼる。当時の釧路はまだ町制時代であったが、漁業の町としてにぎわいを見せ始め、川崎船の造船、桂恋炭鉱の開鉱、日本郵船の釧路航路就航、旭川〜釧路間の鉄道開通など新しい動きが活発化し、人口が急増した。町の基盤づくりが着々と進むなかで、建築大工の果たした役割は大きかった。道内最古を誇る大工職組合は、子弟の建築講習会を開くなど技術の向上や社会奉仕に努め、その伝統は釧路地方建築協会に受け継がれてきた。一方で、耐震偽装問題、少子高齢化など業界を取り巻く環境はこれまでになく厳しいのも現実だ。今年、創立100周年を迎えた同協会の本間会長に今後の課題や協会がめざす方向、建築協会が中心となっている釧路聖徳太子講の話題などを聞いた。
――釧路地方建築協会が今年、創立100周年を迎えました。全国的にみても歴史は古いですね
本間
北海道の開拓が始まって、まだ150年そこそこの歴史で、明治40年の設立当時に大工職人が釧路に根付いていたわけではありません。東北から釧路に出稼ぎに来ていた大工職人は春に来て、秋に帰ることが多かったようですが、時代が下るにつれ、神社、仏閣を一手に引き受けていた新潟県の間瀬出身の宮大工などが次第に定着するようになったようです。 当時は、それぞれの親方や棟梁が持つ技術はまちまちで、それを統一するためと後継者を育成するための研究会として組合などの組織が必要となり、1907年「釧路大工職組」が発足しました。大工や鳶(とび)などの仕事は危険な作業を伴うことが多いせいか、われわれには聖徳太子を崇拝する気持ちが人一倍強い。法隆寺に代表される日本建築の礎といわれる建築技術を中国より導入された聖徳太子を、「技能の神様」としてお奉りしている「釧路聖徳太子講」は、大工職組発足の2年後(明治42年)に創立しています。 いまでも本行寺境内の聖徳会館(釧路市弥生町2丁目)に於いて毎月21日の例会と8月20日、21日に例大祭を、釧路市仏教各宗協和会のお力添えを得ながら、職能組合の力を集め、今日まで実施しているところは、全国的にも例を見ないことでしょう。
――聖徳太子講を創立したのは、次代を担う後継者を育成しようという、先人の先見性があればこそだとお考えですか
本間
そのとおりです。現在、講員は90人を数えます。建築、表具、板金、左官、塗装、建具など10業種を網羅しています。聖徳太子は「和を以て貴しと為す」と教えていますが、組織の中にあって何事かを行うとすれば、人と人の和がなければ事は前には進みません。釧路聖徳太子講の歴史もまた「心を一つにしてじっくり、コツコツ」の繰り返し。このことがモノづくりの土台になっています。 創立70周年の昭和55年に「職能資料館」が完成し、明治時代からの大工道具などを保存しています。
――協会としても、明治時代からの技術伝承に力を入れてきたようですが
本間
一人の力、一つの会社だけで技術を継承していくことは大変です。1958年に職業訓練法が制定され、従来の徒弟制度に代わって近代的な技能士養成システムに移行しました。釧路は鳥取に地域職業訓練センターがあり、協会としても若い技能士の育成に取り組んでいるところです。 釧路建築協会の上部団体は北海道事業組合連合会、さらに全国組織があります。実は10年間の住宅性能保障制度が釧路から始まったのはご存知ないでしょう。住宅品質確保促進法の施行に伴ってスタートした仕組みで、住宅供給業者は新築住宅の床の傾きや雨漏りなど構造耐力上主要な部分について完成引渡し後10年間の保障を行うもので、この保障制度が出来た当初は「そんな信用のない仕事はしていない」と、誰も手を挙げませんでした。 釧路聖徳太子講の大功労者でもある故・田中良一さんが北海道の理事長で、田中さんの音頭で釧路が住宅性能保障制度の受け皿になったという経緯があります。釧路から全国に広がり、現在、登録住宅戸数は全国で120万戸を超え、登録業者は約4万社に達します。
▲釧路聖徳太子講 職能資料館
――ホテルやマンションの耐震偽装が大きな社会問題になりましたが、住宅づくりにおいても「安全・安心」がキーワードになるでしょう
本間
そのとおりです。木造住宅でも構造計算が必要な時代になりました。木造建築士、施工管理技士などの技能士を育てることと、しっかりとした家造りをするという基本、シックハウスなど人体に悪影響を及ぼす要素を住宅から排除する、「家の安全・安心」面を徹底的に追求すること、この二つを両輪に取り組んでいきます。
――ところで代表取締役を務めていらっしゃる「丸什本間建設」は、かれこれ創業50年になると聞きますが
本間
父が昭和26年に個人で設立したのが始まりで、私が二代目。34年に法人化しました。
▲法隆寺「夢殿」(縮尺七分の一) ▲聖徳会館
――北海道は景気の回復が遅れていますが、業界を取り巻く状況は
本間
新築住宅供給の目安は人口の1%と言われます。釧路は人口20万ですから、年間2千戸の需要があっていいはずですが、ここ4、5年は1千戸を割っています。戸建てに代わってマンションが増えてより、戸建ての新築住宅が非常に少なく大変厳しい状況ですが、大工の技術を生かせないかというとそうではありません。リフォーム(増改築)の分野では、われわれの技術が必要です。ほぼ一世紀にわたって「技能の神様」である聖徳太子をお奉りしてきた釧路の伝統と気風を末長く継承しつつ、これから100年先を見据えた基盤整備に取り組んでいきます。

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