建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年9月号〉

interview

海のことは西村組に聞け

――創業70年の実績を誇る海洋土木のプロフェッショナル

株式会社西村組 代表取締役 西村 幸浩氏

西村 幸浩 にしむら・ゆきひろ
昭和62年4月1日 入社
平成 4年4月2日 取締役社長室主査
平成 9年4月1日 取締役副社長
平成14年4月1日 代表取締役社長

(株)西村組は、道内でもいち早く作業船を導入し、本格的な海洋土木施工に着手した老舗である。70年を越える社歴の中で、作業船を持つ同社の活躍の幅は広く、単なる港湾整備だけでなく災害時の緊急物資輸送などにおいても、地域から頼りとされてきた。同社の西村幸浩社長は「海洋工事ならできない施工はない」と、胸を張る一方、「誠実」の社是を大切にしつつ、今後はさらに新たな事業展開も模索しているようだ。
──会社の概要からお聞きしたい
西村
当社の創業は昭和11年で、70年以上が経過しました。かつて滋賀県に在住していた祖父の幸太郎の父が北海道への移住を決意し、瀬棚町へ移住し、そこで旅館業を営む一方、馬による建設資材の搬送業に携わっていました。その機縁から、地崎組さんが受注した災害復旧工事の現場で下請けをしたのが始まりでした。後に、祖父は湧別へ転居することを決意し、今日の西村組を設立しました。
──道内でもいち早く港湾土木のためのクレーン船を導入しましたが、海洋土木に着手されたのはいつ頃からでしょうか
西村
昭和27年で、この頃にはブルドーザーなども導入しました。当時は、みな必死に時代の先を見通しながら生きていました。祖父も父も全道を忙しく駆け回り、家庭にはほとんどいなかったという状況で、私が昭和62年に入社してから、改めて先代の仕事ぶりを目にすることになりました。 62年はまさにバブルの始まる年で、公共工事が膨大に増えた時代でしたが、私自身は網走管内の現場の一技術者として勤めていました。その後は稚内や岩内の現場も経験しましたが、担当したのは主に港湾工事でした。 海洋施工となると、季節によって状況が変わり、例えばオホーツク海であれば、冬場は施工が出来ませんが、太平洋側ではむしろ冬場に波浪が穏やかになるので施工に適しています。そうした変動があることから、全道展開しており、その結果、クレーン船なども通年型で有効活用できます。
──北海道は気候が厳しいので、施工も困難では
西村
例えば、太平洋側で着工した日高管内の目黒漁港は、冬はもちろん、夏でも南風が吹くと波が荒れてくるので、かなり大変な作業条件だったとのことです。限られたわずかな期間しか施工できないという状況ですから、当時の担当者はかなり苦労したようです。
──それほど厳しい環境であれば、漁港の完成で漁民の悦びも大きかったのでは
西村
それもありますが、漁港の施工で最も喜ばれた事例としては、網走開発建設部が発注しサロマ湖漁港で整備した浮体式防氷施設「アイスブーム」でした。これは流氷の港内流入を防ぐ施設です。冬になると流氷の流入によって、港内のホタテやカキなどの養殖施設が被害を受け、かつては二十億円にも上る損害を受けていたのです。 そこで、北海道大学をはじめとする関係諸官庁等が委員会を立ち上げ当社もこの委員会に参画し、このサロマ湖漁港プロジェクトが計画されました。浮体式なので、夏場は撤去して漁船が自由に往来でき、冬場に設置して流氷を食い止めることになります。この施設は国内で初めてのケースです。カナダには河川施設としてのものはあるとのことですが、海洋施設としては例がありません。従いまして、施工には数年を要しました。 しかし、このお陰でかつては大被害を受けていたサロマ湖のホタテ、カキなどの養殖は、今日では、地元の主要産業として発展し、定着しています。公共事業とは、そもそもそういうものだと思います。完成し、日常生活に定着してしまうと、それがあるのが当たり前という認識になりますね。 ただ、今日はそれらが一般に正当に評価されている時代なのかどうかは、疑問もありますが。 4年ほど前には、サハリンでの浚渫工事を担当したこともあります。現場はサハリン南部のホルムスクで、当社の作業船が活躍しました。当社の寒冷地における施工技術を評価して頂いた結果だと思います。事業は、サハリンプロジェクトの工事に必要な資材を搬送する港湾整備でした。現場では、10人のスタッフが上陸することなく船上での生活と作業が専らでした。
▲サロマ湖アイスブーム(防氷堤)
──海洋観光開発にも携わりましたね
西村
氷海研究基地であり、観光スポットでもある「オホーツクタワー」ですね。展望ラウンジや、海中窓から海底の自然を観察できるという世界でも初めての施設で、北大、北見工大、東海大学と共同で流氷観測に関する研究が行われています。 タワーに直結している親水防波堤「オホーツクプロムナード」は、転落防止の工夫がされており、一般者でもオホーツク海と触れ合うことのできる場となっています。
▲アイスブーム上架装置
▲アイスブーム保管施設
──作業船も様々に活躍しているようですね
西村
奥尻島の南西沖地震当時は、ケーソンの工事中に被災しましたが、それでも島内で唯一灯りがついていたのは、当社のフローティングドッグ(FD2100t型のケーソンドッグ)でした。またタグボートで、非常物資の搬送に当りましたが、当時は島に渡りたがっていた本土側の人々から船に乗せて欲しいとお願いされるなど、大変な状況でした。 豊浜トンネルの岩盤崩落事故の時にも、トンネルが不通のため当社の船舶で物資を搬送したりしましたが、さらに岩盤発破への協力要請もありました。当社にも破砕技術はあり、発注者側にもそれは評価されていましたが、あくまでも港湾土木のための破砕技術であって、陸上の岩盤破砕のための技術ではなかった為、対応にはいたりませんでした。
▲オホーツクタワーとガリンコ号
──海洋土木となると、作業の安全確保も困難では
西村
安全の問題は、会社の生命にも関わるのでそれを疎かにして仕事は出来ません。危険がないように、当社の研究開発室で様々な工法を検討し、水中岩盤破砕用のボーリング代船なども開発しました。こうしたものも、長年の経験で培われてきたわけです。 当社だけで開発が難しいものについては、北大などの研究機関と伴に共同研究に当ります。
▲第55号西村丸タグボート・プッシャーボート
──四方を海に囲まれた北海道の海岸線は、地形が多種多様ですから、全道で施工実績を持っていれば、あらゆる施工に対応できるようになったのでは
西村
できない工事はないと思います。日本一の技術者の集団ですから。当社の社是・社訓は「誠実」・「和」で、この伝統を守りながらあらゆる海洋土木の技術力を発揮することで、道内の産業をインフラ整備の面で微弱ながら貢献することに誇りをもって取り組んでいく考えです。 さらに、企業としては今後の新たな展開もいろいろと考えていますが、どんな形として結実するかは、今後を楽しみにして頂きたいと思います。
▲第36西村号砕岩浚渫船兼起重機船 ▲フローティング・ドッグFD6100

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