建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年9月号〉

interview

地域の国防と国土を護る地場建設会社としての使命

――生コンの材質を劣化させず作業の安全性が高いCAP工法で特許

藤建設株式会社 代表取締役 藤田 幸洋氏

藤田 幸洋 ふじた・ゆきひろ
昭和30年3月29日生まれ
北海道稚内市出身
昭和52年3月東海大学海洋学部卒業
昭和52年4月東亜建設株式会社入社
昭和55年5月同社を退社
昭和55年5月藤建設株式会社入社
昭和62年5月同社取締役に就任
昭和63年5月同社常務取締役に就任
平成 3年5月同社専務取締役に就任
平成 4年5月同社代表取締役に就任

昭和26年に創業した藤建設(株)の藤田幸洋社長は、稚内建設業協会長も兼務する地域建設業界の顔でもある。会社は港湾土木を始め、住宅建築まで幅広く手がけるが、不当競争が横行する中、その品質と責任を守る立場からダンピング入札の排除を呼びかける。一方、地域のインフラを護り、それを維持することは国防でもあるとの観点から、防災インフラへの公共投資の重要性を訴える。最北端に住んでも、都会と同等の教育と医療を受ける権利を保証すべきとの主張で、そのためのインフラ整備のあり方と、それを守る地場建設業者の役割とは何かについて語ってもらった。
──会社の概略と社長の略歴からお聞きしたい
藤田
私は大卒後に、名古屋市内の建設会社に勤め、土木技術職として市内の造成工事や下水道整備などに携わり、昭和55年にUターンして平成4年に現職に就任しました。 当社は昭和26年に藤田組として創業し、27年に藤建設と改称しました。社歴は55年ですが、その間に藤コンクリートや藤石油などのグループを構成し、業務も土木だけでなく住宅建築なども手がけています。 また、海洋土木において、新しいコンクリート施工の新技術「CAP工法」を独自に開発し、特許を取得しています。
▲海洋性コンクリートの新しい施工技術 CAP工法
──CAP工法の特徴をお聞きしたい
藤田
港湾工事の作業をいかにして安全に執行するかを、考え極めていった結果、たどり着いた工法で、また、この工法はコンクリートの材質を劣化させないままに施工できるのが、大きな特徴です。これまでは全ての生コンをバケットに入れて搬送していましたが、時間の経過に伴う材質の低下が避けられませんでした。しかし、このCAP工法であれば、外気に晒さずに直接使用できるので、劣化が回避できます。作業員の人員も最小限で済むので、作業上の危険率も抑制されます。 コスト面でも、在来工法より極端に高いわけではなく、むしろトータルコストとして見れば2、3パーセントくらいは安く抑えられます。施工例としては、すでに道内で10箇所以上の実績がありますが、しかしながら発注者側は容易に採用してくれないのが残念です。
──近年の公共工事は、民意を反映して品質は確保しつつも「安価」であることを追求していますが、近年の受注事情を見ると経済原則から乖離している状況があります
藤田
コストを下げてなお品質が保てるならば良いのですが、経済においては「安かろう良かろう」などというものはありません。「良いものとは高いもの」なのです。今日のダンピングという情勢では、どこかで手を抜き、しわ寄せをしなければ、まず実現できないはずです。いかにコストパフォーマンスを検証・工夫したところで、例えば100現場のうち1現場だけで30パーセントのコストダウンを実施するのであれば、損失分は吸収できるでしょうが、逆に99現場でダンピングし、まともな受注が1現場だけとなると、これは到底無理な話で、これは自分で自分の首を絞めるようなものです。 企業が存続するには、収益が不可欠ですから、無闇なダンピングには賛同できません。したがって、スタッフにも見積もりをした段階で実行予算を組み、無謀な積算で入札をしないように指示しています。
──不適正な低価格入札によって、優良業者が不利な立場に置かれる状況で、どのように乗り切っていますか
藤田
経営資源の中で大切なものとは、「人、もの、カネ」などと言われますが、私としては「人」が最も大切だと考えています。平成11年度の決算を見ると、年商は約110億円でしたが、近年は40億円にまで減少しました。しかし、技術者の定員は変更せず、110億円レベルのままに維持しています。人は宝だと思っていますから、雇用調整のためのリストラはしない方針を貫いてきました。 私たちは技術者ですから、設計図を見れば、それが完成したときの姿を立体的にイメージできます。その段階で、コストダウンを図れる部分については、私たちから提案しています。私は経営者として会社を守らなければなりませんが、単なるリストラは守りでなく後退です。したがって、護りに徹する一方、コストダウンのアイデアは従業員から自発的に提案してもらい、それを採用することにしています。
──最近になって、ようやく政府も自治体も低価格入札への対策に腰を上げ始めました
藤田
今日の行政側の積算と民間企業の積算はほぼ同レベルで、企業側の積算技術も向上していますから、予定価格は予測できます。したがって、適正な利益を確保するには、どれくらいの価格で入札すべきか自ずと判明するわけで、いかに価格を下げたところで、予価の95パーセントが限界のはずです。 しかし、近年の受注状況を平均すると、90パーセント代の前半から、80パーセント代後半という状況です。そうなると、今後は発注者側の積算単価もそれに合わせてさらに低下してしまい、そして一度下げると元には戻せないのが財政ですから、以後は際限なく低下し続けることになるのです。そんな状況で、社会インフラの安全と安心をどこまで保てるのでしょうか。 実際に、神戸の阪神大震災では、ハイウェイが倒壊しましたが、もしも橋脚が二本であったら、あれほどの事態になったでしょうか。今日ほど、様々な分野で安全・安心というものが重大視される時勢にありながら、むしろ公共投資への批判によって、それがなおざりになっていくという矛盾した状況にあると感じます。 私たちの仕事は、いわば地図に載る仕事なのです。それだけに、維持費は多少かかっても、未来永劫にわたってメンテナンスしていかなければなりません。そのためにも、自信を持って利用者に勧められるインフラを、どう創るべきなのか。これは重要な課題だと思います。
▲稚内保健所(稚内市)
──国民がその問題点を認識すべきですね。しかし、一部マスコミの報道で、肝心なポイントを見失っていると思います
藤田
元凶は公共事業不要論にありますね。現時点では、幸いにして大災害が発生していませんが、気候が変化しつつある中で、どんな事態が発生するのか、全く予見できない状況です。災害が発生した場合に備えるなら、インフラへの投資額の5パーセントから10パーセントくらいのメンテナンス費は、やはり必要です。さもなければ、老朽化した構造物などは着実に陳腐化していくでしょう。それを放置した状態で災害が発生したなら、地域は壊滅状態となるでしょう。 また、初期投資で安価なものを作ったがために、メンテナンス費用が必要以上にかかったり、あるいは災害で壊滅したなら、最終的には費用が高上がりということにもなりかねません。
──大衆向けマスコミが公共事業不要論を焚きつけ、国民がそれに乗せられ、世論に押されて発注者はやみくもに予算を削減して安物を作ろうとし、そのしわ寄せが建設業界にきて、最後には出資者たる納税者が損害を被るという構図ですね
藤田
そのため、世間は景気回復といいつつも私たちの業界だけは、いまなおデフレ=スパイラルから脱却できずにいます。 公共事業不要論というのは、いわば都会の理論だと思います。何かにつけ投資効果や経済効果ばかりを重視する傾向がありますが、公共のインフラというものを経済効率だけで判断して良いものでしょうか。公共インフラには、災害対策や国防など様々な機能と役割があるのです。たとえば、この最北端の都市でも、人が住んでいるからこそ海岸からテロリストが潜入するといった事態が防がれているのです。また、誰も住まなくなれば、国土自体が荒れ果ててしまいます。 ただし、住人がいる以上は、少なくとも教育と医療だけは都会人と同等の権利が保証されなければなりません。道北の医療圏は名寄市が中心で、中核病院もそこに設定されていますが、稚内市から名寄市までは180qもの距離があり、高速道路はなく、カーブの多い国道しかありません。この状況で、果たして首都圏の人々と同等な条件といえるでしょうか。 稚内市の幹線国道は40号線だけですが、途中に豊富バイパスが出来たお陰で、冬期間の厳しい風雪にもかかわらず稚内−豊富間は通行止めになったことがありません。このバイパスがなかったなら、急病になったり妊産婦に陣痛が起きても病院へ行くこともできないのです。そうした事情を無視して、ひたすら経済的効率しか考えない人もいますが、そういう主張を平気でする人には、たった一冬でも良いから、道北に住んでみて欲しいものです。道北の冬は、半年間もあるのですから。
――そうした公共インフラの価格破壊のために、施工会社にも技術革新が求められていますが、どのように対処していますか
藤田
インフラは社会資本ですから、弱者に対しても強者に対しても同等の質を提供しなければならず、私たちも施工するからには、地域の方々が使いやすいものを作らなければなりません。そのために、当社では成功事例よりも失敗事例を徹底検証することにしています。成功事例というのは、単に図面通りに施工していれば実現できますが、コストダウンと品質向上を可能にするには、図面以外の創意工夫が必要になります。 私は日頃から従業員には技術者集団になれと言っています。人間というのは、とかく出来ない理由を考えるものですが、私たちはそれを出来るようにする技術を持っていなければなりません。それは専門技術を持つ技術職だけのことではなく、事務職でも技術者です。効率的に経理業務を遂行することも、技術なのです。そうして、何が問題なのかを常に発見し、解決していけば前進できるものです。 一方、地場建設業者は地域から信頼されなければなりません。地域に企業が存続するのは、その企業も地域から必要とされているから存続しているわけで、いかに優秀で、資金力がある企業でも、地域から駄目な企業とみなされたなら、その企業は存続する意義は無くなり、かつ存続できないものです。
▲稚内港(稚内市)
――建設業者がもっている役割の広さと重さを認識してもらうことが必要ですね
藤田
私は建設協会長を勤めていますが、常に主張しているのは、私たちが地域の安全安心を守っているのであるから、その自負を持って真剣に取り組むべきだということです。 私たちにいま必要なのは生き残ることなのです。地域の安全を守っていくためにも、生き残っていかなければなりません。 大雨が降れば、誰しも家の中で過ごしたいと思うものですが、むしろ私はそうしたときは、カメラを持って外に出て行けと指示しています。地域のインフラを熟知し、どこが脆く危険なのかを理解しているのは私たちなのですから、自分たちで検証し、管理者である行政に報せること。それが引いては、防災につながり、そして需要へ繋がる可能性もあるのです。 かくして、今後は地域の安全安心を守ること自体が、建設需要となり、私たちが生き残っていく手段になればと考えています。

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