建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年9月号〉

interview

北海道の土木行政110年の歩みを語る

――転換期を迎えた公共事業

北海道建設部長(52代目) 猪俣 茂樹氏

猪俣 茂樹 いのまた・しげき
昭和25年3月27日生まれ 札幌市出身
昭和49年4月 北海道庁採用(旭川土木現業所)
昭和60年4月 小樽土木現業所都市施設係長
昭和62年6月 札幌土木現業所道路第一係長
平成元年5月 土木部空港港湾課空港建設係長
平成 3年6月 土木部空港港湾課空港計画係長
平成 4年4月 網走土木現業所事業課長
平成 6年4月 旭川土木現業所総務課長
平成 8年4月 土木部空港港湾課主幹
平成 9年6月 建設部空港港湾課長補佐
平成10年4月 旭川土木現業所事業部長
平成11年5月 建設部参事(北海道エアシステム派遣)
平成13年4月 網走土木現業所長
平成15年6月 建設部技監
平成17年4月 網走支庁長
平成19年6月 建設部長(平成19年6月1日〜)

旧内務省の出先機関であった北海道庁に、土木部の設置施行令が下されて110年目を迎えた。全国で最も広大な領土を持ち、周囲を海洋に囲まれたこの島は、本州各県からの入植によって、いまや570万人が暮らしている。人が暮らすためには、相応の生活施設と食糧が必要になるが、積雪寒冷地でそれを整えるのは容易なことではなかっただろう。今日では185パーセントの食糧自給率に至り、年間1兆円の農業生産額に上る。こうした発展の陰には、様々な土木インフラ整備の恩恵がある。初代から52代目となる猪俣茂樹建設部長に、110周年を記念して建設行政の来歴と今後の課題など様々なトピックについてインタビューを連載する。
――北海道土木行政110年を振り返ってインフラ整備はどのように推進し発展してきたのでしょうか
猪俣
北海道の本格的な開発は、明治2年の開拓使の設置に始まり、以来、北海道開発は、3県1局時代のわずかな期間を除き、明治19年から第2次世界大戦の終了に至るまで、国策として国の機関である北海道庁のもと、一元的な組織体制の下に進められてきました。 戦後、昭和22(1947)年地方自治法施行、北海道庁を廃止、北海道(地方公共団体)を設置しましたが、北海道開発法が制定されるとともに、北海道開発庁、北海道開発局及び北海道開発公庫が設置され、再び独自の体制の下で北海道開発が推進されることになりました。 以来今日まで、6期にわたる北海道総合開発計画を策定し、組織的、計画的に開発を推進しています。開発の目的は時代の変遷に伴って多様化し、当初の国民経済の復興や人口問題の解決に加え、産業構造の高度化やその適正配置、多極分散型国土の形成など、その時々の国の課題の解決への寄与が求められました。 この半世紀の間に北海道は、人口が140万人近く増加する一方で、我が国における石炭等エネルギーや食料の供給基地、観光・保養の主要拠点となるなど、我が国全体の安定と発展に十分に寄与してきました。また、道内の社会資本整備も精力的に進められ、その整備水準は、今なお不十分であるとはいえ、飛躍的に高まっています。たとえば、道路整備については、昭和の時代の国の道路整備の総延長が約13%増ですが、北海道は43%増となっています。戦後北海道の社会資本整備のなかで道路整備は、生活・経済・産業など、さまざまな活動の基礎的なネットワークを進めてきたということで、その意義は非常に大きいと考えています。 21世紀においても北海道は、恵み豊かな広大な大地と海、北の玄関口としての地理的条件、これまで培ってきた寒冷地技術など、その可能性を最大限に発揮し、安全で良質な食料供給や国際的にも魅力のある観光、さらには先駆的な住環境や循環型社会のモデルとして、我が国の持続的発展へ貢献するとともに、物心両面において国民に豊かな生活をもたらしていくことが期待されています。
――社会資本整備の一層の重点化と社会資本整備重点化プランについてお聞きします
猪俣
道では、危機的な財政状況など、社会資本整備を巡る情勢が大きく変化する中、今後の社会資本整備に求められる方向性を示すため、平成16年11月に「北海道社会資本整備重点化プラン」を策定しました。 その中で、少子・高齢社会や高度情報通信社会、環境重視型社会への移行といった時代の潮流に対応した社会資本の整備や、民間投資に支えられた自立型経済構造への転換に資する観光基盤や物流効率化基盤などの社会資本整備のほか、生活基盤や農林水産業基盤・交通基盤・国土保全などの基礎的な社会資本の整備についても分野ごとに重点化を図っていくこととしています。
――既存施設の有効活用としてはライフサイクルコストも重要ですね
猪俣
昭和30年代後半の高度経済成長期から、急速に整備を進めてきた各種の社会資本の老朽化が進み、近い将来、本格的な維持更新時代を迎え、その費用が大きな財政負担となることが想定されます。このため、橋梁について計画的な更新や維持管理による施設の長寿命化への取り組みを進めているほか、道所有の建築物についても、施設の長寿命化やライフサイクルコスト縮減の取組のほか、設備投資・運営経費の最小化及び施設効用の最大化を総合的に推進する経営管理手法(ファシリティマネジメント(FM))を導入しています。今後も、既存施設の有効活用を進めるとともに、新たな社会資本の整備にあたっては、ランニングコストや将来の施設の更新等を考慮するなど、ライフサイクルを通じた低コスト化に努めることとしています。
▲都市公園事業 噴火湾パノラマ星の広場(北海道) ▲西岡生活貯水池
――環境への配慮も求められていますが建設リサイクルの取り組み状況は
猪俣
近年、住民の環境に対する意識の高まりとともに、社会資本の整備においても、自然環境の保全や景観との調和など、環境への配慮に加え、環境への負荷の低減が重要となってきています。 道においても、循環型社会システムを構築していくことを目的として、特定建設資材(コンクリート・アスファルト・木材)の分別解体や特定建設資材廃棄物の再資源化等について、リサイクルの円滑な実施を図るため、平成14年に「建設リサイクル法に係る北海道指針」を定め、再生資源の利用と廃棄物の減量化に努めています。
▲栗沢南幌線(岩見沢〜南幌町)完成予想図
――入札制度の見直しについてお聞きします
猪俣
道では、昨年7月に設置した副知事を議長とする各部横断的な組織である「入札契約制度の適正化に関する連絡会議」において、道が発注する公共工事等における「入札契約制度の適正化に係る取組方針」を策定することとし、検討してきましたが、去る8月2日の「連絡会議」において、「入札契約制度の適正化に係る取組方針」をとりまとめました。 取組方針では、「透明性の確保」「公正な競争の促進」「談合その他の不正行為の排除」「適正な施工の確保」「市町村への強力・支援」の5つについて取組をすすめることとしています。 「透明性の確保」については、インターネットでの情報の公表を拡大するとともに、入札監視委員会に談合情報に関する調査検証機能を付与し、充実を図るほか、予定価格の公表のあり方についても検討を進めます。「公正な競争の促進」については、全国知事会の指針と同様に1千万円以上の公共工事は原則一般競争入札とし、今年10月からは1億円以上、来年4月からは1千万円以上と段階的に拡大し、総合評価方式についても、平成19年度においては200件を目標とし、平成20年度以降順次拡大することとしています。「談合その他の不正行為の排除」では、談合情報への適切な対応を図るとともに、賠償金特約の額を10%から20%に引き上げるといったペナルティの強化や電子入札の拡大を図ることにより、不正行為の排除の徹底を図ることとしています。 また「適正な施工の確保」については、行き過ぎた低価格による受注は、工事の品質低下が懸念されることなどから、今年5月に低入札価格調査制度における調査内容の強化を図ったところであり、さらに、低入札価格調査基準価格未満の落札工事における履行保証割合の引き上げなどや最低制限価格等近傍の落札工事における施工体制のチェックの強化を図ることにより、工事の適正な施工の確保を図ることとしています。 さらに、道においてはこれまでも、市町村における入札契約制度の適正化や品質確保に向けた取組が円滑に進むよう、市町村への支援を行ってきているが、公共工事の入札及び契約の一層の適正化を図る上からも、今後とも、市町村への協力・支援を積極的に行うこととしています。      (以下次号)

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