建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年8月号〉

interview

酪農・小売・空港が発展の三要素

――周辺観光のターミナルとしての成長に期待

中標津町長 西澤 雄一氏

西澤 雄一 にしざわ・ゆういち
昭和17年9月1日 中標津町生まれ
昭和36年3月道立中標津高等学校卒業
昭和39年4月札幌上田税務会計事務所入社
昭和42年9月西澤商事有限会社入社
平成 4年8月中標津町議会議員当選
平成 6年9月中標津町議会総務常任副委員長
平成 8年8月中標津町議会議員当選(2期日)
平成10年9月中標津町議会産業常任委員長
平成11年6月中標津町議会副議長
平成12年9月中標津町議会議員当選(3期目)
平成12年9月中標津町議会議長
平成16年8月中標津町長当選

道東の酪農王国・中標津町。人口減少による過疎化が進む町村が多いなかで、中標津町は微増ながら確実に人口が増え続けており、根室管内4町の中核として存在感を増している。基幹産業である酪農業を中心に1千億の売上規模を誇る商業販売額。中標津空港を中心に道東観光の玄関口としての役割も担っており、いま、空港ビルの増築工事が急ピッチで進む。民間企業出身の西澤雄一町長に元気の源を聞いた。
――道内は多くの自治体が人口の減少傾向が続くなか、道東の中標津町は逆に人口が増えています。街を歩いていても活気が感じられますが、どこに元気の源があるんでしょうか
西澤
最近、同じようなことよく聞かれます。中標津の人口は昭和53年に初めて2万人を突破しましたが、その後もジワジワと増加傾向をたどり、平成16年には24,000人台に乗りました。平成12年の国勢調査で65歳以上の高齢者は全人口の14%です。他町村に比べても、生産人口は多い方じゃないでしょうか。
比較的順調に発展してきた背景には三つの要因があると思います。
ひとつは基幹産業の酪農が順調に発展してきたことが大きいと思います。一軒の農家が一つの会社と同じ程度の生産高をあげています。酪農業にコントラと称される、建設、運送関係の多くの人がかかわっており、中標津経済の下支えになっているということです。いま酪農そのものは逆風が吹いていますが、土地改良しかり、機械による牧草の刈り取り、飼料の運搬など、他産業のパワーが酪農家の援軍になっていることは大きな意味があります。
二つ目は中標津が交通の要衝に位置していることです。釧路、網走、根室管内の交差点になっており、東西南北から人が入って来るため、商業活動が非常に活発です。特に商業販売額が1千億に達し、人口24,000人規模の町村としてはトップクラスの規模を誇ります。大型店などは斜里、清里、さらに根室管内の一部にまで折り込みチラシを配布しているほどで、車で1時間圏内の斜里や浜中、厚岸、根室からも買物客が集まります。このことは雇用の確保においても大きな波及効果をもたらしています。
三つ目が中標津空港の存在です。1,200m.滑走路1本の第三種空港として平成元年7月に供用開始し、平成9年には2,000mの滑走路となり、現在、丘珠3便と千歳1便、東京1便がそれぞれ乗り入れており、東京から就航している279人乗り中型機は、特に夏季間は満席状態です。空港があることで全道規模のイベントなども開催が可能になり、交流人口の増加につながっています。少子高齢化社会を迎え、今後、定住人口を増やしていくことはますます難しくなっていますから、中標津町としても交流人口の増加に力を入れていきたいと考えています。
――観光振興も町の重点施策になるのでは
西澤
残念ながら中標津にはこれといった観光資源がありませんが、世界遺産の知床や阿寒国立公園まで1時間、釧路湿原も1時間半で行けます。さらに摩周湖、野付半島など周囲が名だたる風光明媚な観光資源に囲まれていますので、いうなれば観光地の玄関口としての機能は大いに発揮できると思っています。
夏季間の東京線は満席状態ですし、海外へのチャーター便も満席となるほど好評で、後背人口10万8千人の地方空港としては大いに健闘している方ではないでしょうか。航空路線の再編により地方路線の減便化に危機感を持っていますが、利便性を高め、空港利用を促進するため、東京便の2便化をエアラインに要請しているところです。中標津空港を、観光やフィッシングなど「道東を楽しむ拠点」として位置付け、全国に発信していきたいと考えています。
――空港ターミナルビルの増築にも取り組んでいますね
西澤
来年3月に新しいビルが完成します。利用者が増えて手狭なため、最盛期にはトイレに行列ができるなどのご不便をかけていますが、来春にはゆったりとした空港ビルに生まれ変わります。
――観光に欠かせない食材も豊かですね
西澤
山の幸、海の幸に恵まれています。カニ、ホタテ、ウニなど、どれをとっても一流ではないでしょうか。乳製品も自慢できます。今年は、雪印が100億円をかけて新しいチーズ工場を完成させますが、新工場の製造能力は年間20万dで、これは全国一の規模です。生産者の搾れる環境が整い、雇用面などでも経済的な波及効果は大きいものと期待しているところです。
チーズは国内消費の8割が海外からの輸入品といわれています。道東では明治、森永もチーズ工場の増設に着手しており、各メーカーとも海外への売り込みに力を入れるようです。道東は酪農王国。空気も水も豊かで良質の乳が搾れますし、最近は肉牛も少しずつ増えています。
近年は飲用牛乳の消費低迷とバター・脱脂粉乳の過剰在庫などから生乳の需要は低迷しており、2年連続で減産型の計画生産が実施されていますが、町としてもJAなどの関係機関と連携し、牛乳・乳製品の消費拡大に努めていきます。
――中標津町は道外からの移住促進にも取り組んでいますが、成果は見られますか
西澤
北海道遺産にも指定されている格子状防風林と牧歌的な酪農風景、環境と都市機能のバランスが取れたまちづくりなど、中標津町の良さを知ってもらうことが大事です。6ヵ所の体験滞在型の別荘に、一定期間、本町で生活してもらう「お試し暮らし」を実施しています。お陰様で7月、8月はほぼ満杯です。
今後は長期滞在用の地域プログラムや移住ビジネスモデルの創出などについて検討するなど移住促進に力を入れていきます。
▲北海道遺産「根釧台地の格子状防風林」
――中標津町は平成14年度から運動公園を整備しています。この事業も交流人口の拡大につながっていますか
西澤
スピードスケート場、アイスホッケー場に続き、今年はサッカーとラグビーに対応した球技場1面が供用開始となります。運動公園は町民の健康維持・増進のためのスポーツ振興とコミュニティー空間の創出を目的に着手した事業ですが、思いがけないことに全国の大学等から問い合わせが殺到していまして、担当者もうれしい悲鳴を上げているところです。
この7月には全日本ラグビーの強化合宿に使われることが決まりました。中標津高校のラグビー部は全国大会にも出場している強豪チームですし、全日本チームのプレーに直に接することは良い刺激になるでしょう。 
――最後に19年度の予算規模と行財政改革への決意などをお聞かせください
西澤
一般会計は前年度対比1.6%減の113億2,800万円で若干の減額予算となりました。町税は、税源の移譲などを含めて12.7%増の27億3,804万円を見込んでいますが、半面、地方交付税のうち普通交付税と臨時財政対策債の合計額は3.9%減の44億932万円で、これはピーク時の約3割減となります。また、一般会計に特別会計と企業会計を加えた全体の予算額は1.5%増の233億9,716万円。
地方分権時代における財政基盤の確立が急務ですので、新行政改革(集中改革プラン)に基づき財政の健全化と行政運営の効率化を推進するとともに、「活力を生み出す基盤整備と産業の振興によるまちづくり」、「美しい自然と調和した快適空間の形成によるまちづくり」、「健康で生きがいに満ちた地域社会の創造によるまちづくり」、「豊かな人間づくりによるまちづくり」の4点を主要な施策と位置付けました。
自治体も破たんする状況の中では、背伸びせず、身の丈にあった行財政運営により、町民の皆さんとのパートナーシップによる持続可能な町政運営を目指します。

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