建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年8月号〉

interview

年間に阿寒湖と同じ面積の草地整備

先進的な施工管理体制を確立した農業土木のパイオニア

株式会社上田組 代表取締役 上田 光夫氏

上田 光夫 うえだ・みつお
生年月日 昭和21年10月20日生
昭和40年3月 株式会社 上田組 入社
昭和40年3月 株式会社 上田組 常務取締役
昭和43年3月 株式会社 上田組 専務取締役
昭和46年4月 株式会社 上田組 代表取締役
昭和51年5月 北拓砂利砕石 株式会社 代表取締役
昭和52年5月 標津建設業協会 会長就任
平成元年5月 有限会社 コスモス 代表取締役 (平成11年7月 株式会社に変更)
平成 4年2月 根室中部砂利販売協同組合 代表理事
平成14年   根室支庁管内建設業協会 会長就任
平成16年4月 釧路建設業協会 会長就任
平成16年5月 社団法人 北海道土木施工管理技士会 理事就任
平成16年5月 社団法人 北海道建設業協会 理事就任
平成16年5月 社団法人 北海道土地改良建設協会 理事就任

今年で創業50周年を迎える(株)上田組は、道路、港湾土木や建築事業も手がけてきたが、現在は日本一の規模を誇る酪農を対象とした農業土木において、年間に1,600ヘクタールを施工するという他社の追従を許さない実績と技術力を発揮している。受注した工事はさらに外注するのではなく、すべてを自社で直接施工することを基本としているが、そうした技術力と施工体制を可能としたのは、同社の理念である探求心と、いち早く導入したGPSを活用した管理システムにあった。同社の上田光夫代表取締役に、経営の基本的な考え方などを伺った。
──今年で創業50周年ですが、半世紀の間には様々なことがあったのでは
上田
昭和29年4月に、「小さな総合建設業」として創業して以来、お陰様で半世紀となる創業50周年の節目を迎えることができました。その間には、国内にあっては、敗戦後の昭和初期の経済復興から高度経済成長期へ、またオイルショックや、繰り返し発生した自然災害、あるいは近年では国の財政悪化に伴う公共投資の見直しや事業予算の大幅削減などの変動がありました。 国外においても、ソ連邦が崩壊して東西冷戦構造が解消する一方、世界経済のグローバル化が進み、絶えることなく起こる戦争やテロ事件など、まさに国内外の社会情勢は2000余念の有史の中でも、最大級と言っても過言ではないほど激動の50年でした。 当然の事ながら、そのたびごとに当社は大海に乗り出した小舟のごとく、厳しい決断と多くの苦難に遭遇してきましたが、それらを何とか乗り越え、曲がりなりにも50周年を迎えられたことは、皆様より頂いた数々のご支援、ご指導のたまものと深く感謝しています。
──半世紀となると、確かに社会の変化は大きく、個々の企業はそうした変化に翻弄されないように、迅速に適応していく柔軟性が求められますね
上田
そうです。50年は600ヶ月であり、600ヶ月は10,260余日となりますが、そのうちで平穏な日が何日あったでしょうか。大半の日々は、常に解決しなければならない困難な課題や、苦渋の選択と決断を強いられる問題が、まさに太陽が毎日昇るかのように当たり前のごとく繰り返されてきました。 当社でも、初期の人力主体の施工から機械主体の施工体制へ移行するタイミングや、総合建設業から農業土木を基幹工種に転換するに当たっての判断、競争にうち勝つための社内改革の断行などなど、様々な課題に直面してきました。 もしもその時々の判断を誤っていれば、創業50年を迎える当社は今日に存在しないのです。判断を誤らず、お客様のご支持を受け続けることが出来た最大の理由とは、果たして何であるのか、節目を迎えた今こそ、一人一人の社員が再確認しなければなりません。
──その点について、どのように分析していますか
上田
それは明快であること、つまり仕事に対する情熱、問題にチャレンジする気概を持ち続けることです。そして、そこから派生する小さな工夫や技術の積み重ねが、間違いのない判断のための大きな力となってきたのだと考えています。 これからも情熱と気概を持ちつづけ、さらに小さな工夫や技術を生み出す源は「探求する心」にありますから、これを弊社の良き伝統として受け継いで行けば、今日の建設業界が直面している過去最大級の困難も乗り切れます。そして、夢と潤いのある理想環境を創造するという目標に向かって挑戦し続けることが出来るのです。 技術力の向上を会社発展のキーワードに、これからも全社員一丸となって努力する考えです。
▲GPSを搭載した 新型農耕用ブルドーザー
──最近は、施工技術だけでなく施工管理や、さらには会社としての経営技術も高度化が求められていますね
上田
当社では、新型の農耕用ブルドーザーの稼働状況を、会社内のパソコンで把握できるシステムを持っています。農業土木工事においては、農耕用12t級ブルドーザーが主力となりますが、その更新に合わせて、GPS衛星とインターネットを利用した最新システムの装備に着手しました。 これによって車輛1台ごとの現在位置、日稼働状況、月間稼働状況などを、社内のパソコン画面で把握できるようになり、個々の車輛管理が大幅に向上しています。そこで、今後はパワーショベルなど、全ての重機車輛にも導入を進めていく方針です。 こうした効率的なシステムによって、この4年間は道営事業の施工で1,000ヘクタール以上の草地を施肥、播種してきています。北海道以外の農業団体や、農家個人の事業としても、年間に300ヘクタールから600ヘクタールについて、播種完了までの草地更新を行なっていますから、年間の総施工面積は1,300ヘクタールから1,600ヘクタールになり、これは阿寒湖に匹敵する規模です。何しろ、近年は農家の営農規模も大型化していますから。 天候の不安定な根室管内で、これだけの規模の草地の施工を、繁忙期となる8月までに完了するのは容易ではありません。したがって、機械や農機具などの日頃の整備や、無理のない配置計画が重要です。しかも、私たちは受注した工事を、さらに外注するようなことはなく、すべては直々に施工に当たりますから、受益者が満足してもらえるよう一人一人が農業土木のパイオニアである弊社の伝統を守る意思と情熱をもって取り組んでいます。特に、当社の作業機械のオペレーターは、数十年にわたって携わってきたベテランですから、日本一の技術者と自慢できます。
▲担い手育成草地整備改良西春別地区第60工区〈層厚調整〉
──農業土木における信頼性の高い施工と施工体制は、道路管理業務にも生かされていますね
上田
情報ハイウェイ構築のための光ファイバーケーブルも施工しています。日常の国道管理とともに、地震・吹雪などの災害発生時に即応できる体制を確保するには、道路状況画像や気象状況の把握、観測デ一タなどの情報通信ネットワークが不可欠です。 道路管理の高度化を進め、道路の安全性・信頼性の向上を目指して、全国でも光ファイバーケーブル整備は進められていますね。
▲一般国道244号標津町北情報ボックス設置工事
──今後の管内の将来像をどのように展望しますか
上田
この根室管内は、酪農においては日本一のレベルとなっています。また、日本は水資源が貴重となってきますから、酪農家も環境を護る上では報酬が期待できないものにも投資して環境維持に協力し、それによって下流部の漁業との共存も計っています。一時期話題になっていた家畜の屎尿処理も、技術はかなり進歩しており、完成の域にきています。 ただ、今後は少しでも地域で収益が上がる事業展開が必要でしょう。地方交付税はなくなり、本州大手企業が地域の原料を利用して事業展開しながら、事業税は本社所在地で納税してしまうのでは、地域にとって何らのメリットもない話です。単に原材料だけを供給するのではなく、地元で付加価値の高い多様な製品の開発も必要でしょう。これは地場建設業界と本州の大手企業の関係においても同様です。 いまはそうした建設業者同士が、共食いのような状況になっていますが、これは地域で果たしている建設産業の役割や真の姿というものを、大衆向けマスコミが正しく伝えようとせず、一部の不祥事だけに注目して喧伝した結果でもあるのです。
▲受賞対象工事となった別海地区第5清丸別排水路外一連工事
──その意味では、こちらでは本業外の活動も積極的ですね
上田
当社では、夢と潤いのある町づくりイベントにも積極参加しています。当社の野球グランドを会場に、隔年ごとに開催している冬のイベント「ナイトイン川北冬のつどい」も、1986年の第1回目から数えて10回目の節目を迎えました。 外で遊ぶことが少ない冬期間に、未来を担う子供たちに夢を与えようと始まったイベントで、今では地域に活気と潤いをもたらす行事としてすっかり定着しました。このイベントに対して、当社は重機を提供したり、雪のステージを作るなど、積極的に参加しています。
▲ナイトイン川北冬のつどい
──今後の会社運営に向けて、どのように取り組んでいきますか
上田
21世紀は先の見えない厳しい社外環境の中でのスタートとなりましたが、社員一同、心を一つにして、当社の伝統である「探求の心」を待ち続けるとともに、一層の技術の研讃に励み、夢と潤いのある理想環境造りを目指してまい進していきたいと考えています。

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