建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年6月号〉

interview

世界で最も安定性と安全性に優れた東京都の水道システム(最終回)

――大震災の脅威に備えて耐震化を着実に推進

東京都公営企業管理者 水道局長 御園 良彦氏

御園 良彦 みその・よしひこ
昭和46年 3月 日本大学理工学部卒業
昭和41年 4月 水道局葛飾営業所
昭和56年 4月 水道局計画部調整課総合調整係主査
昭和59年 4月 水道局営業部給水装置課技術第一係長(総括係長)
昭和59年 8月 水道局中央支所営業課長
昭和61年12月 水道局千代田営業所長
昭和62年 4月 水道局南部第一支所漏水防止課長
平成元年 4月 水道局南部第二支所配水課長
平成 3年 6月 水道局水質センター監視課長
平成 5年 7月 水道局給水部副参事(配水施設工事連絡調整担当)
平成 6年 8月 水道局給水部設計課長
平成 8年 7月 水道局営業部給水装置課長(統括)
平成10年 7月 文京区土木部長
平成12年 4月 水道局東部建設事務所長
平成13年 7月 水道建設部長
平成14年 7月 水道局給水部長
平成15年10月 水道局浄水部長
平成16年 7月 水道局技監
平成17年 7月 水道局長

岡山市で発生した水道管の老朽化による溢水は、記憶に新しいところだ。もしもこれが上水道ではなく、処理前の下水であったなら、腐臭蔓延による環境悪化だけでなく、病原菌繁殖という危険すら伴う。まさに水道も下水道も、整備すればそれで終わりではないという現実を思い知らされた事例だった。その意味では、世界で最も漏水率の低い精度を実現した首都・東京都の水道システムのレベルの高さは、手放しで賞賛に値する。のみならず、いつかは起こると懸念される首都直下型地震にも耐えられる体制づくりに本腰を入れている。ただし、莫大な事業費を伴うため、無計画に進めることもできない。そのため、都水道局では、長期構想STEPKと、それを具現化するプラン2007を策定し、無理なく効率的に進める方針だ。
――今年度作成した「長期構想STEPK〜世界に誇る安心水道〜」を踏まえた3か年の経営計画「プラン2007」について、少し具体的にお聞きしますが、この「STEPK」と「プラン2007」は同時スタートになりますか御園
そうです。約10年前に「東京水道新世紀構想STEP 21」を策定しましたが、今まではこれを踏まえて3年か4年を計画期間とする中期のプランを作成してきたのです。今回は、長期構想を見直しました。それが「STEPK〜世界に誇る安心水道〜」というタイトルの計画で、これに対応した初回の中期計画が「プラン2007」となります。 この長期構想の策定に当たっては、まず首都・東京というのはどんな特徴があるのか、ということから検討しました。首都・東京が他の都市とは異なる特殊性としては、言うまでもなく政治・経済の中心地であり、あらゆる面で世界に大きな影響力を有していることがあげられます。 では、東京の首都機能を維持するための水道の役割とは何か。例えば、水道が大規模に断水してしまったらどうなるのか。世界の政治・経済その他様々なものに及ぼす影響の度合いを推定し、首都東京の水道システムとしては、世界的に見てもグレードの高いシステムの構築が必要である、との視点に立っています。 東京水道のあるべき姿として、「都民の生活を支える水道」と「首都東京の機能を支える水道」と、2つの基本的視点があります。中央防災会議で、東京の地震の予想をしましたが、様々なパターンの中で東京湾北部地震というのが最も厳しい地震だと想定されています。これは阪神淡路大震災級の地震で、東京の水道が受ける被害も予測されています。それを受けて、東京都独自でも同規模の地震を想定し、さらに詳細な被害予想をしてみたところ、都内で約8,000箇所以上の被害が出るであろうとの予測結果が出ました。 首都機能を守るという意味で、国会や政府の建物・大使館・主要金融機関などの首都中枢機関や、高度な救命医療を行う三次救急医療機関などへの供給に関わる管路については耐震化を進め、復旧も3日以内としています。我々もそれに向かって整備を進めていきますが、他にも災害拠点病院や区・市役所の建物などは、災害対策の拠点となるので、そうした施設も含めて367箇所の重要施設に対し、様々な浄水場からのルートを調査して、その途中に耐震性の低い管があれば全て取り替えていく予定です。こうした重要施設については、供給ポイントから上流へ向けて、耐震性をチェックし強化していっています。もちろん、これまでも上流から下流に向かって耐震化を進めてきており、今後とも継続していきます。 その他に、第1次・第2次重要路線など、例えば主要道路に布設されている管が寸断したのでは復旧活動に支障をきたしますから、これらの耐震化を優先させなくてはなりません。また、水道の幹線網は絶対に寸断させてはなりません。 このように、上流・下流双方から整備していき、より信頼性の高い水道システムにしていこうという計画をこの「プラン2007」で事業化しました。
――最近では、岡山市で管路が老朽化したために溢水した事例がありました。水道システムは、作ればそれで完了するものではないという現実を、私たちは目の当たりにしましたね御園
そうです。したがって、首都中枢機関などの重要施設は3日以内、都内全域も30日以内に全てを復旧させるという体制を、我々は整えています。人の手配、業者の確保、そして復旧材料の確保、全てにおいて体制を整えています。 長期構想というのは四半世紀にまたがる構想ですから、かなり先まで見通していますが、とはいえ耐震化は膨大な費用と時間がかかります。また、耐震化といっても取水・導水・浄水施設等、様々なものがあり、各家庭に引き込んでいる給水管まであるので、これらの耐震化を計画的に順次図って行きます。それに加えて、重要施設は優先的に整備をしていくことになります。 「プラン2007」では、高度浄水施設の整備事業に加え、朝霞浄水場と東村山浄水場との間で利根川水系の原水と多摩川水系の原水を相互融通する原水連絡管を完全に二重化していこうという施策を盛り込みました。 広島で発生した導水トンネルの岩盤崩落という事故を避けるためにも、ワンウェイではなく2系統以上を確保しておくことが非常に重要です。したがって、三郷浄水場もそうですが、取水から浄水場までの導水路は全て1本ではなく2本にしてあります。1本で全てを供給できなくても、片方が寸断した場合には残ったもう1本で6〜7割を供給できる施設にしておかなければ、有事に断水という事態に陥ってしまいますから。
――地震災害は、いつどこで起きるかわかりませんからね御園
最悪の状況を想定すると、なかなか難しいですが、グレードを高めるためには、二重化というのは極めて重要なことだと考えています。 幹線網では、特に区部は送配水管のネットワーク化が進み、どこでもバックアップできるシステムになっていますが、多摩地区ではまだ全体的な幹線網が整備されていない状況です。どちらかといえば樹枝状の配管になっているので、これを全てループ化させるため、多摩丘陵幹線の整備を現在進めています。これができると多摩地区のバックアップ機能が強化されます。これは、平成9年から始めて平成22年までに完成させる予定です。
――多くの設備投資が必要なのが理解できますが、このお陰で世界でも最も漏水の少ない、高精度の水道システムが確立されてきたわけですね御園
東京水道には約2万6千kmもの送配水管網が整備されています。例えばこれを1年間に260km取り替えたとしても100年かかります。それほど施設更新には膨大な時間と費用負担が伴うわけです。浄水場の更新も然りです。ライフラインである水道整備にはこれで終わりということはありません。整備の財源などにも配慮しながら、常に先を見越して、日々進めていかなければなりません。
――「プラン2007」のサブタイトルが、〜次世代に向けた新たなステージの展開〜となっていますが、東京の水道はそれによって新ステージに上るわけですね御園
東京は2016年のオリンピック招致を目指しています。その頃には高度浄水処理の全量導入や震災対策を始め、我々の目指すプロジェクトの多くが達成され、非常に高いレベルの安定性と、抜群に優れた水質を備えた水道システムが完成しています。 その面では、「STEPK」のサブタイトルである〜世界に誇る安心水道〜が、我々の目標です。都民の皆様だけでなく、世界の方々にも誇れるレベルの高い東京水道を目指して着実に事業を実施していきたいと思います。     

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