建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年6月号〉

interview

創業83年の着実な実績と信用を誇る老舗

発寒新工場で多ページ化に対応

株式会社須田製版 代表取締役社長 須田 勝一 氏

須田 勝一 すだ・かついち
生年月日 昭和27年3月30日
昭和 49年 4月 東洋技研コンサルタント株式会社入社
昭和 51年 3月 株式会社須田製版入社
平成 4年3月 株式会社須田製版取締役営業第1部長に就任
平成 13年 3月 当社常務取締役に就任
平成 16年 3月 当社代表取締役社長に就任
現在に至る

本道の印刷業界において、随一の業績と規模を誇る(株)須田製版が、札幌市西区発寒に新工場を建設している。同社は大正12年の創業で、今年で84年目を迎える老舗だ。創業年は、関東大震災が発生した年で、都内で製版を学んでいた創業者が、震災を機に北海道へ帰郷してから始まった。当初は製版専門だったが、昭和35年に印刷機を導入し、いよいよ本格的な印刷会社としてスタートした。着実に実績を伸ばしてきた同社は、新たな印刷需要に対応すべく、さらに新工場で稼働効率を上げていく方針だ。長年、営業畑を歩み、業界の生き様を見続けてきた須田勝一社長に、業界の現在と企業の未来を語ってもらった。
──創業84年となると、戦後の札幌市内に残る史料などの印刷物も残っているのでは
須田
おそらく当社で製版し、他の印刷会社で印刷されたものがあるでしょう。
──印刷業界もIT化が進み、技術革新をみましたね
須田
そうです。近年はデジタル化が進み、業界事情も大きく様変わりしました。その大変革に直面したのは、現会長が社長の時代でしたが、最近になって、ようやくデジタル技術も安定期に入り、変革の動きも落ち着いてきたと感じます。
ただ、今後はそれを踏まえて、印刷会社は印刷業務だけに専念するのでなく、トータルな業務への取り組みが必要でしょう。例えば、印刷物を通じて顧客の販促の支援や、そのための企画提案が求められる時代になってきていると思います。
今までは、機械的にチラシなどを印刷・納品すれば、印刷会社の業務は終了していましたが、今後はそのチラシが何を目的としているのかを認識し、その有効な用途を考慮して提案するなど、顧客のニーズに深く応えていくほどの業務関係を築かなければ、厳しい競争の中で、後れを取るのではないかと危惧します。何のための印刷物なのかを顧客とともに考察し、その用途を通じて経営戦略に参画するまでの関係を築くことが必要でしょう。印刷業界は、こうした側面で差別化を図っていくことが求められています。
諸官庁の印刷物についても、発注方法は低価格を追及する競争入札が主流ですが、一方では入札者の企画提案によるプロポーザル方式の発注方法も導入され始めていますから、そうした提案能力は不可欠のものとなりつつあります。
──それもIT化の影響でしょうか
須田
デジタル化によって技術レベルが平準化し、品質も均一化したために、いまや品質や価格、納期だけでは差別化を図ることができなくなっているのです。
かつては、職人の持つ技能と感が品質の決め手となっていましたが、デジタル技術によって、それを数値管理できるようになったたため、職人というものが不要となってしまったのです。したがって、経験が浅くても、ほどほどの成果品を作ることは可能になったわけですから、残された差別化要素は企画提案能力しかなくなってきているわけです。
お陰で、一連の印刷工程から製版という工程がなくなったわけですが、それでいて当社は創業が製版から始まったので、社名はいまだに「須田製版」となっています(笑)
──製版という技術が不要となったことは、デジタル化において大きなインパクトですね
須田
かつて製版技術は、素人には手の及ばない高度の専門技術で、いわば技術の集積でしたから、ここにおいて差別化が図られ、そしてそこに収益の源泉があったわけです。ところが、MacというOSの登場によってそれがオープンとなって大衆化したことで、製版はもはや特殊技術ではなくなってしまったのです。
デザイナーたちがMacを利用して、自らが製版作業までも独自に行うようになってしまったことが、まさにアナログからデジタルへの変遷の大きな成果といえます。
──かつては分業でしたが、工程が減れば、それだけコストダウンにつながりますね
須田
今ではプランニングからデザイン、製版までも一人でこなし得る時代ですが、悩ましいのは、それに対して収支バランスの合った対価が得られないことです。この面のサービス競争が激化しているためで、印刷までのコストは、最終工程である印刷段階での印刷費で吸収しているのですが、果たしてそれでバランスが取れているのか見えづらい側面があります。その曖昧さが、印刷機を持つものの強みであると同時に弱みでもあるのです。
印刷物として完成し、納品する段階で、コストと対価のマネージメントができているのかどうかが問題ですから、顧客の要求に流されないよう厳しく徹底しています。
──近年は電子入札などの無機質な発注契約方法も導入され始めていますね
須田
営業は人と人が行うもので、発注者は機械ではなく人間ですから、コミュニケーションはやはり必要です。いかに通信技術が発達しようとも、契約は人間同士の行為なのです。官庁発注の場合は、営業者との接点を避けようという傾向もあり、やりにくさを感じますが、電子入札とはいっても、担当者がお互いに全く顔を合わせることもなくして済むとは思えません。
むしろ、電子入札を導入するのに比して、相応のコミュニケーションが必要になるものと思います。そうでなければ、どんな業界も衰退していくでしょう。
──業界側の事情に対する発注者側の知識レベルが低下してしまうことも懸念されますね
須田
このままでは、発注者もいわば教科書的なことしか分からなくなるのではないでしょうか。十分な情報を持たないままの発注方式が、本当に良いのか疑問です。
──競争も激しく、しかも契約も勝手の違う手法が確立されるなど、やりにくい環境へとなりつつありますが、どう対応していきますか
須田
当社がいかに業界の先頭を走っているとはいえ、スタッフには業界内で起こる新しい情勢、潮流を常に学ぶとともに、顧客との接点においては、コンプライアンスなどは基本ですから、誠心誠意で対応するという当然のことを確実に実行してもらっています。
かつては会社を向いて仕事をしていた時代でしたが、今日では顧客を向いて仕事をする時代です。工場においても、ミスを決して誤魔化すことなく対処しています。顧客を向いて仕事をしていれば、現場であっても判断に迷うような問題ではないのです。
──厳しい競争時代ですが、今後の経営ビジョンを伺いたい
須田
百科事典のように、ネット上で手軽に代替できるものなどは、消滅していくでしょうが、いかに時代が変化しても消滅しない印刷物があります。普遍的に必要とされる印刷需要とはどんなものであるかを、的確に見極めていくことが重要です。少なくとも向こう5年間ぐらいの、印刷需要の将来像は予測できます。
一方道内におけるチラシは、従来の一枚もので新聞に折り込む形式ではなく、何枚かを束ねて多ページ化するものが増えつつあります。今までは、その中折りを手作業で丁合を行ってから新聞販売店に納品してきたので、大変に効率が悪かったのです。そこでこれを機械化することで大幅に合理化することが大きな課題でしたが、現在西区発寒に建設している第4工場では、それが可能となります。
印刷と丁合作業を分業するのは非効率ですから、新工場ではそれを自動化する構想です。
既存の敷地は、周囲の宅地化が進み、スペースに限界がありますが、発寒は工業団地で、物流面でも利便性が高く、機械音などで周囲に迷惑を与える懸念もありません。そうした戦略を以て、私は今後に臨んでいきたいと思います。

株式会社須田製版ホームページはこちら

仮称・須田製版発寒工場新築工事
HOME