建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年6月号〉

interview

不況下でも受注実績拡大で急成長

他社から羨望されるほどの人材育成に力点

豊松吉工業株式会社 代表取締役 堀 典昭氏


昭和51年に設立された豊建設工業(株)が、平成13年に松吉工業(株)を合併して今日の豊松吉工業(株)となって以来、同社は着実に施工実績を積み上げ、今日では札幌土木現業所発注工事の受注実績においてトップ3に入るほどの躍進を見せている。特に橋梁技術に秀でた技術力が大きな武器とも言えるが、公共事業が激減した上に、苛烈なダンピング競争によって、多くの建設会社が存亡の危機に怯える今日の情勢で、堅調に業績を拡充する決め手は、それだけではないようだ。創業者である堀典昭代表取締役に、経営に臨んでの考え方や理念などを伺った。
▲夕張川災害復旧工事 ▲美浦大橋橋梁架設工事
──会社を独自に起こそうと考えた当時の経緯をお聞きしたい
当初は帯広か函館での創業を考えていましたが、昭和47年の冬季五輪の年に札幌へ移住し、良い街だと感じたことから、市内での創業を決心しました。元は北海道函館土木現業所長を務めていましたが、退職して民間企業に再就職したところ、業務慣習のあまりの相違に愕然とし、気質的に合わなかったことから、前後も顧みず半年も経たずに辞職しました。
そのときにOB仲間から言われました。「給与ゼロの生活を半年から一年間は経験した方が良い。そうでなければ、支給されることの有り難みは理解出来ないだろう」と。一方では、「退官後に独立した前例がないので、この際、独自に会社を起こしてはどうか」との提言もありました。とはいえ、資金もなく起業のノウハウもなかったのですが、やってみようと思い立ち、創業することにしました。しかし、土地も家屋もなく、当時は家賃の安い北区に住まいし3回の転居を経ながら、その間に会社設立のノウハウを学び、入札の指名を得る書類などの作成を教授してもらいながら起業しました。
しかし、新興企業で信用も実績もまだなかったので、銀行は容易に融資はしてくれません。その頃には土地を取得し、ようやく自宅を持ち始めたところで、銀行からはそれを担保にするよう求められましたが、親の代から土地を担保に融資を受けることを固く禁じる家風であったため、それもままならなかったのです。
──現在では企業グループという体制になっていますね
施工・監理を担当する豊松吉工業と、調査・設計・監理を担当する北海道キング設計、そして、工法などを提案したり、資材販売・製品開発を担当する天商の三者で構成された企業グループで、「堀グループ」と名称しています。
▲平班橋アーチ部架設状況 ▲平班橋
──近年は美浦大橋や平班橋などの施工実績を残しましたが、特に平班橋は空知建設業協会の主催による高校生の見学会が行われましたね
滝川工業高生が現場を訪問し、土木技術に対する関心を高めてもらいました。この施工で採用しましたケーブルエレクション工法は比較的めずらしい工法でもあり、他官庁からの視察などもありました。
私たち技術者としては、特に珍しい工法とは言えませんが、外部の人々が関心を持って訪ねてくれるのは嬉しいことです。何しろ技術者というものは、確実な施工にのみ全神経を集中するため、そのPRにまで意を用いることは考えず、また得意でもありませんからね(笑)
▲砂川歌志内線法面工事 ▲美幌川落差工設計委託工事 ▲法枠工+土壌菌工法他吹付工
──公共事業の激減の上に、今日の厳しい競争入札により、建設業界はダンピング合戦に明け暮れ、果ては自滅していくケースも多々見られる中で、こちらでは着実に受注・施工実績を伸ばし、昨年度は札幌土現管内で受注トップ3に入りましたね
最近は工事がないから会社が成り立たず、リストラで技術者を削減したりしていますね。しかし、それは本末転倒なのです。優秀な技術者がリストラされた場合に、彼らは行き場が無くなるのかといえば、決してそうではないのです。優秀な技術者は、必ず他の会社から「ぜひうちで」と、スカウトされるものです。
建設業界とは、そもそも技術を売る技術者集団の業界なのですから、優秀な技術者がいなければ企業は成り立ちません。ただ、営業だけをしていれば済むというものではないのです。「あの会社には優れた技術者がいる」、「専門分野に秀でたスペシャリストがいる」などと、同業他社の間で噂されたり話題に上るようでなければ、同業者同士での打ち合わせの場にも参画していけないのです。したがって、どこの会社にも、優秀な技術者は必ずいますが、その人材が退職するとの情報が広まれば、直ちに他社がその人材をスカウトしようと鵜の目鷹の目で浮き足立つのです。
そうした優秀な技術者がいれば、施工に臨んで様々な工夫により付加価値を生み出せます。合理的に経費を節減し、収益率を高めることもできます。それもこれも技術力あってこそ可能なのです。
──こちらではどれくらいの技術者を擁していますか
グループ全体で一級施工管理技士は50人で、さらに上級の技術士では5人体制を維持しています。この技術士のライセンスを持つ技術者を擁する会社は、この区内では当社以外にはありません。札幌市内全域で見ても、この資格を持つ技術者を揃えている会社は数えるほどでしょう。
──近年は電子入札など、新しい発注方法も導入され始めましたが、どう考えますか
企業には、港湾土木に秀でた企業もあれば、橋梁技術や河川土木に秀でた企業もあるのですが、そうした技術的な特色を全く度外視した形での入札方法が増えてきており、疑問を感じます。例えば、橋梁施工の経験がほとんど皆無の企業であっても、単に入札した工事金額だけを見て、低価格のところに盲目的に発注している事例も見られます。
──企業経営に当たって、日頃から留意していることなどはありますか
当社には若いスタッフが多く、リストラで失職した人材なども受け入れたりしています。そうした新しい人材に、経営者として訓示することは、ただ「真面目に取り組め」という一言です。
人間の集団というものは、悪人の集団には悪人が集まりますが、善人の集団には善人しか集まってこないものです。善人の集団に悪人が紛れ込んだところで、弾き出されるものです。その意味で、当社には悪人というものが一人もいません。近年はみな高学歴でそれなりに学識を持っていますが、そうしたスタッフがみな真剣に取り組んでいると、そうでない者も否応なしに真剣にならざるを得なくなります。
経済が不景気だから若者の給与も昇給できないというのは、その会社のトップである経営者に問題があるのです。当社では、景気に関係なく、20代から30代の若い層には手厚くしています。人件費をリストラするのであれば、それは役員を対象にしておけば良いのです。40代や、さらに子供が成長して落ち着いた50代は横ばいなど、やや抑制する程度です。
そして、勤労のモチベーションとしては、会社のために働くのではなく、自分のために働くことを自覚するよう促しています。さらには、他社からスカウトされるような人材になれ、と激励しています。スカウトされるということは、それだけ会社の株も上がることを意味するのです。幸いなことに、当社を見限って他社に転社した事例はありませんが。
▲美浦大橋
──そのように社員の人心を掌握し、スタッフが会社に愛着を持って定着する決めてとはどんなものでしょうか
私は技術屋なので、言葉巧みに器用なことは言えませんが、業務上で小言を言うのは役員だけに留め、スタッフには一切の苦言は言わないことにしています。
この豊松吉工業の職場というのは、勤務中でもスタッフは和やかなムードで、雑談や談笑も聞こえてくる職場です。そういう職場こそが「良い職場」なのです。それを許容せずに、ピリピリしているような厳格な職場というのは、経営に余裕がないからです。鼻歌の一つも聴かれないような職場は、ダメな職場です。
最近は、上はトップから下は従業員まで、全社を挙げて給与カットなどという事例も耳にしますが、そもそも経営責任は経営サイドである役員にあり、苦況の責任も役員にあるのですから、苦しい忍耐は役員が背負えば良いのです。私などは、睡眠時間が平均3時間から4時間ですよ(笑)
▲札幌大橋橋梁架設工事
▲岩見沢大橋橋梁撤去工事 ▲白鳥大橋

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