建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年5月号〉

interview

好評を博したペットボトル「東京水」(中編)

浄水施設の全量高度浄水処理に向けて着実に設備投資

東京都公営企業管理者 水道局長 御園 良彦 氏

御園 良彦 みその・よしひこ
昭和 46年 3月 日本大学理工学部卒業
昭和 41年 4月 水道局葛飾営業所
昭和 56年 4月 水道局計画部調整課総合調整係主査
昭和 59年 4月 水道局営業部給水装置課技術第一係長(総括係長)
昭和 59年 8月 水道局中央支所営業課長
昭和 61年12月 水道局千代田営業所長
昭和 62年 4月 水道局南部第一支所漏水防止課長
平成 元年 4月 水道局南部第二支所配水課長
平成 3年 6月 水道局水質センター監視課長
平成 5年 7月 水道局給水部副参事(配水施設工事連絡調整担当)
平成 6年 8月 水道局給水部設計課長
平成 8年 7月 水道局営業部給水装置課長(統括)
平成 10年 7月 文京区土木部長
平成 12年 4月 水道局東部建設事務所長
平成 13年 7月 水道建設部長
平成 14年 7月 水道局給水部長
平成 15年10月 水道局浄水部長
平成 16年 7月 水道局技監
平成 17年 7月 水道局長

高度処理によってミネラルウォーターを凌ぐ水質を実現した東京都の水道水は、ペットボトル入り製品としても販売されており、水道局側にとっても意外なほど好評を博している。それを入手するために、わざわざ地方から来る購買者もいるほどだ。その背景には、浄水処理の高度化に向けたたゆまぬ努力と技術革新へのチャレンジと、そして莫大な設備投資があった。都内にある利根川・荒川水系の浄水場は高度浄水処理化に向けての設備投資が現在行われており、都内全世帯の蛇口からミネラルウォーター以上の美味しい水が溢れ出る状況へと日々着実に近づきつつある。
――水道に対する理解がまちまちですよね御園
たとえば、都内の著名なホテルや羽田空港などではできるだけ水をおいしくしようと、受水槽を木製にしているところがあります。FRPやスチールではないのです。今は、水道水自体が高度浄水処理され非常においしくなっていますが、ホテルなどではさらにそういう工夫をしているんです。 水道水はカルキ臭いと思っている人がまだ大勢いますが、東京の水道にはもうカルキ臭はありません。また、カルキ臭が塩素の臭いだと思っている人がいますが、これは塩素そのものの臭いではありません。原水にあるアンモニアと塩素が反応してあのような臭いがでるのです。高度浄水処理しますと、アンモニアが全部除去されます。そうしますと、塩素が1r/m3 程度入っていても、塩素で臭いが出るということは普通ないのです。国の水質管理目標では残留塩素は1r/m3以下と定められていますから、カルキ臭というのは塩素臭ではなく、アンモニアと塩素の化合物であるトリクロラミンという物質です。 ですから私は、機会があるごとに高度浄水処理し、おいしくなった水道水をPRしているのです。ペットボトル「東京水」と同じものが蛇口から出るのですから。
――ペットボトル「東京水」は販売されているのですか御園
ええ、100円で販売しております。都庁の展望室売店や東京駅の東京みやげセンターなど販売先が限られていますが、結構人気があります。昨年6月からは通信販売も始めています。「東京水」を飲むとあか抜けるなどとおっしゃいながら購入される方もいらっしゃるそうです。(笑)
――高いお金を出してミネラルウォーターを買うのが馬鹿らしくなりますね御園
ええ。「東京水」は市販されているどんなペットボトルにも負けないものですよ。一度、高度浄水施設を見学して頂くと実感してもらえると思います。 昨年7月には皇太子殿下がわが朝霞浄水場にお越し頂き、高度浄水処理した水道水を「これはおいしいですね」というお言葉を頂き、我々も大変名誉なことだと喜んでいます。
――近年の東京の水道事業の経営規模及び事業計画の成果について教えてください御園
東京水道は区部23区と多摩25市町に供給しており、給水人口は1,225万人です。この数字は全国の一割程度を占め、国内では最大規模です。施設能力は686万m3/日、料金収入は3,200億円程度です。 17年度の総配水量が約16億2000万m3です。平成に入ってからやや減少傾向で推移しておりますけれども、東京では都心回帰による人口増加がまだ続いておりますし、近年景気も上向きになっておりますから、今後は微増の傾向で推移するのではと考えております。 次に事業進捗ですが、今年度で終わる「プラン2004」、これは平成16〜18年度の3か年計画ですが、3つの施策「質の高い水道サービスの提供」、「多摩地区水道の広域的経営」、「効率経営の推進」を柱として事業展開をしてきたものですが、主要事業の殆どが掲げた目標通りに進んでいます。 施設整備の目玉としては、村山下貯水池の堤体強化工事があります。この貯水池は東京都と埼玉県の県境の近くにあり、多摩川からの水をストックしております。 兵庫県西宮市にニテコ池というアースダム(土でできたダム)の大きな貯水池があり、これは水道専用ではないのですが、阪神淡路大震災の時にこれが崩壊しました。この時は冬場で水位が低かったのであまり問題が出なかったのですが、このダムの下流には市街地が展開しており、もし水位が高かったならば大惨事を引き起こすところでした。 東京都でも、村山下貯水池や山口貯水池の下には東村山市や所沢市の市街地が広がっているため、万全を期すための工事を行ったわけです。
――地元住民からみると堤体が大丈夫なのかという不安があると思うのですが御園
そうですね。我々はある程度の地震があっても大丈夫だという認識を持っていたのですが、村山下貯水池は大正12年の関東大震災を経験しており、まだ造っている途中に延長約70m、深さ約10mもの亀裂が入ったという文献が残っております。それを踏まえて阪神淡路大震災級の地震が発生したらどうなるのかとシミュレーションをして、堤体強化を手がける結論に達しました。現在は、既に工事を終えた山口貯水池に続き、村山下貯水池の堤体強化を行っております。
――浄水場の整備はいかがですか御園
はい、安全でよりおいしい水を求めるお客さまの声に応えるため、これまで金町浄水場は施設能力の3分の1、三郷浄水場は施設能力の半量の高度浄水施設を順次整備してきました。「プラン2004」の期間中には、朝霞浄水場高度浄水施設のT期工事(半量)が平成16年11月に完成しております。続いて三園浄水場と東村山浄水場の整備を進めています。今後は、金町、三郷、朝霞の各浄水場においても全量を高度浄水処理する施設の整備を行い、平成25年までには利根川水系の全浄水場において施設能力の全量を高度浄水処理できるようにする予定です。 また、目新しいところでは、砧浄水場と砧下浄水場それぞれが4万m3/日規模の膜処理を整備中でして、膜処理としては日本で最大級規模の施設がまもなく完成します。膜処理はこれまで小さな施設ばかり手がけてきましたが、合わせて8万m3/日規模でのまとまった膜処理が導入されます。 それから給水所関係では、大井給水所や江北給水所など5万m3級・4万m3級・3万m3級の給水所を6箇所着工もしくは計画しており、計画中のものも近々着工する予定で進めております。
――管路の整備はいかがですか御園
東京の水道管は区部・多摩ともに送配水管のネットワーク化を進めておりまして、どこかが寸断したとしても他のルートから水を回せるようになっています。ですから、昨年夏に広島県呉市、江田島市で起きたような長期の断水は避けられると考えています。ただ、これで完璧かというとまだ課題がないわけではありません。 そのため、東南幹線という三郷〜金町系の浄水場から臨海部を通って品川の方に達するルートを整備しておりまして、引き続きネットワーク化に努めております。
――東京の東側をずっと品川の方まで整備するわけですね御園
そうですね。東京の浄水場というのは、多くが河川の下流にあります。標高の低い区域で浄水して標高の高い区域に送水しています。ですから、標高の低い品川等へは標高の低い浄水場から直接送ろうということです。そのルートを完成させることによって電気使用量を少なくすることができ、年間約2億5千万円の電気料が削減できます。 電気量削減はCO2削減等についても関わりが深くて、我々はこれをいかに少なくできるかを考えております。ただ、高度浄水処理を行うと、処理工程が増えることから、電力量が増えていきます。これをいかに少なくするかということに今腐心しております。ですから、東南幹線の整備はエネルギーを節約するということだけでなく、バックアップ機能や安定給水を確保するルートとして、それが結果的に省エネやCO2削減に繋がっていきます。 それから我々は今、『K0プロジェクト』というものを行っております。K0というのは経年管ゼロ計画という意味でして、経年管のうち口径400mm以上のものは全てを平成23年度までに耐震性の強いダクタイル管に取り替え、口径の小さな管でも平成25年度までには全て解消いたします。 今残っている経年管は全て、軌道下や河川横断など非常に作業しにくい所ばかりです。本当はそういう場所を優先して手がけなくてはならないのですが、やりやすい方から手がけてしまったのは、やむを得ない面があると思います。 そういうものを、とにかく今"やる"という意識が大切で、いらない管なら廃止してしまい、必要な管はどんなことをしてでも整備していくという不退転の姿勢でやっております。
――今は新しいシールドマシンがどんどん出てきていますね御園
ええ。でも、そういう所はシールドになかなか馴染まないんですよね。大きな管ならもちろんシールドで可能ですが、既設の例えば口径500〜600mmの管で、10〜20mの比較的幅の狭い河川では、両サイドに民地がないとか、シールドマシンを入れる立坑ができないところなど工事環境が悪い所がまだたくさんあります。 耐震化については、浄水場のような大型施設から基幹的な管路や各家庭に繋がっていく給水管まで一斉に進めております。 これまで、管路については、耐震化のためにダクタイル鋳鉄管に取り替えてきました。ダクタイル管そのものは強いのですが、従来の管は大地震で継ぎ手部分が抜け出してしまうことがあります。阪神淡路大震災では大打撃を受けました。地震時に地盤の歪みが大きくなると、曲管等のところで抜けたりする被害が出ました。これを教訓として、抜け出し防止継手の管が広く使われるようになりました。これらの管をつなげて吊り上げても鎖状になって抜けません。これはいわゆる免震設計の考え方でして、耐震継手管は、地震時の地盤の歪みに追随し、継手の抜け出し防止機能により抜けなくなっています。これは耐震性の非常に高い管です。
(以下次号)

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