建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年4月号〉

寄稿

小樽のゲート機能を担う道営住宅小樽築港団地

―― マリーナと日本海が眺望できる絶好のロケーション

株式会社ドーコン建築都市部主任技師 一級建築士 杉渕 正浩

杉渕 正浩 すぎぶち・まさひろ
経歴
平成元年 3月 明治大学工学部建築学科卒業
平成3年 3月 明治大学大学院工学研究科修了
平成3年 7月 北海道開発コンサルタント株式会社 入社
平成13年 4月 株式会社ドーコンに社名変更
過去の公営住宅設計業務抜粋
平成6年度 標茶町 虹別町営住宅建替(平成12年建設省住宅局長表彰)
平成6年度 留萌市 五十嵐団地建替(平成12年建設省建設大臣表彰)
平成8年度及び平成10年度 岩内町 公営住宅(東山団地)建替(平成18年国土交通省国土交通大臣表彰)
平成11年度及び平成13年度 静内町(現 新ひだか町) 緑町公営住宅建替

小樽築港団地敷地と周辺地区の地域的特色

 北海道が小樽市に整備している道営住宅小樽築港団地は、小樽築港駅の東側200m程のところに位置しており、非常に交通の便が良く、JR小樽駅、小樽市役所、各商業施設などの集積する小樽市中心部から東へ3q程の市街地の端部に位置しています。小樽と札幌方面とを結ぶJR函館本線、国道5号線、市道小樽港縦貫線から見ると「小樽のゲート」的位置となり、景観上の結節点といえる地区となっています。  地区の用途の変遷を見ると、この築港地区は、かつては鉄道の操車場として整備された産業地域でしたが、近年の小樽築港駅の改築や、駅西側での商業施設、マリーナ等の整備により、近代的な商業系市街地へ変化しつつあります。  また、計画地とその隣接地は、小樽市の「小樽築港駅周辺地区再開発地区計画」において中高層住宅地区に位置づけられており、民間マンションと当道営住宅による非常に密度の高い住居系の土地利用となる予定です。北側にはマリーナや石原裕次郎記念館などの各観光施設が立地しており、また遠方には石狩湾新港や増毛連峰が望め、快適な都市生活が享受できる理想的なロケーションとなっています。  ただ、南側にはJR函館本線と急斜面の山があるため、騒音や日照が課題となっています。しかし、計画地から西側200m程の位置にあるJR小樽築港駅には、複合商業施設であるウイングベイ小樽が接続しており、各種サービスが受けられる非常に利便性の高い地域でもあります。  計画地周辺のインフラ施設をみると、給水本管が敷地南側(JR側)の市道築港4号線下に150φが布設されており、汚水本管は敷地南側(JR側)の市道築港4号線下に本管200φ及び公設桝が設置されています。雨水本管は敷地南側(JR側)の市道築港4号線下に本管450φ及び公設桝が設置されており、北電の電柱は敷地南側(JR側)の市道築港4号線及び敷地北側(マリーナ側)の市道小樽港縦貫線に設置されています。

住戸供給計画の概要

 この団地は、小樽築港駅の北側正面に位置している「道営若竹団地」からの移転入居先として位置づけられており、「若竹団地」は1〜3号棟で構成されている管理戸数178戸の団地で、計152戸が移転を希望しています。そこで、移転はそれぞれの住棟ごとの3期に渡って、工期別、移転後の希望住戸タイプ別に行われます。戸数は移転戸数に新規入居戸数を加え、計170戸の供給としています。  1期は、2期移転者も若干含め、また、将来の移転戸数 及び希望住戸タイプの変更などにも対応できるよう、供給戸数に余裕をもたせ計79戸としています。間取りによる比率としては、2DK:2LDK:3LDK=1:2:1の割合としています。

計画に当たっての課題と留意点─小樽市景観条例

 小樽市では「小樽の歴史と自然を生かしたまちづくり景観条例」を制定しており、その中では、市内に8つの「特別景観形成地区」が指定され、それぞれ工作物、広告物、敷地、樹木、建築物各部分等についての「地区景観形成基準」を設けています。この団地も「小樽築港地区」として、その一つに位置づけられています。  小樽築港地区の特徴は、築港ヤード跡地の再開発事業により、ウォーターフロントとしての立地を生かした、未来に向けた新しいまちづくりが予定されている地区であり、小樽の歴史、文化、自然に調和した魅力ある街並の創出が求められます。  小樽市景観条例上の留意点は、「平磯公園」から「マリーナ」への眺望が確保されていることです。別途位置づけられている「重要眺望地点」である計画地南側300mほどの「平磯公園」から計画地北側の「マリーナ」方向の眺望を確保しなければなりませんでした。しかし、当計画地は眺望方向に位置しているため、建物の高さに制限がかかり、供給戸数、階数設定、住棟計画等についての検討が必要となりました。  また、隣接地民間マンションとの関連で見ると、計画地の東側隣接地には、既設の民間マンションが建っており、西側隣接地でも分譲マンション建設が計画されています。そのため、既設及び将来建設される隣接地のマンションとの関連について、十分に検討する必要がありました。

歩行者動線及び自動車動線

 この団地は、小樽築港駅、ウイングベイ小樽などの都市サービス施設が計画地の西側方向に位置していますが、一方、東側方向にはこうした施設がほとんどありません。したがって、入居者の歩行者動線はほとんどが西側に向かうものと推測されます。  自動車動線については、南側前面道路は計画地東側100m程で行き止まりとなっています。一方、北側前面道路は、西側が小樽市街地中心へ向かい、東側は札幌方面へ向かっており、国道5号線に合流するアクセスとなっています。  そのため、当団地にアプローチする自動車動線は南側としているため、全ての動線が西側に向かうことになります。

南側斜面の日影の影響

 当団地は南側にある急斜面の山による日影の影響が予想されました。冬至の地盤面で日照が得られる時間は、敷地西側で午前10:00頃からで、敷地東側では午前11:00頃からとなります。

小樽市の「ゲート」機能としての使命

 計画地は、JR函館本線、国道5号線、市道小樽港縦貫線に近接し、札幌からは小樽市街の「ゲート」的位置となることから、景観上の結節点といえる場所に建つに相応しい都市景観を創出する義務を担っています。

土地利用計画の概要

 こうした課題と留意点に基づき、私たちは土地利用についてA案〜D案まで4つの計画を比較検討し、結果として住棟を南側に寄せたD案を採用することにし、基本的な構造は1〜3期の住棟を1棟に収め、エレベーターの設置台数は2基としました。  そして、敷地と周辺とを結ぶ歩行者及び自動車の動線が合理的になるよう、また周辺のインフラの整備状況などを考慮して、敷地西側から建設を開始することとしました。  また、地区景観形成計画に向けて、小樽の歴史、文化、自然に調和した新しい親水空間としての魅力ある街並の創出を図り、小樽の歴史、文化の感じられるよう周辺の景観に配慮した、新しい街並の形成を図ると同時に、歴史、文化、自然に調和した潤いのある快適な歩行者空間などの公共空間の整備を図ることとしました。  特に、地区景観形成基準として、自動販売機などは、原則として道路に面しては設けない。建築物と一体的な修景を行うなど、周辺の環境との調和を図りました。  敷地は、駐車場や空地は街並景観に配慮した植栽帯を設けるなど、周辺の環境との調和を図ることとし、特に建物周囲の空地については、魅力ある新しい街並と調和するよう修景を図りました。また、周辺の環境に調和しないような土地の形質の変更は行わないこととしました。  また、マリーナ側への眺望が望める敷地北側の市道小樽港縦貫線側沿いに児童遊園を整備しました。冬期間はこれを堆雪スペースとして利用します。  駐車場は、100台程度を整備し、そのうち2台分は「福祉のまちづくり条例」に基づき、身障者用とします。除雪車動線を考慮すると同時に、「北海道公営住宅等安心居住推進方針」、「北海道営住宅設計指針」に基づいた「ユニバーサルデザイン」による安全かつ安心な計画とし、また「北海道環境共生型公共賃貸住宅」に基づいた仕様を検討しました。  自転車置場についても同様に、「北海道公営住宅等安心居住推進方針」、「北海道営住宅設計指針」に基づいた「ユニバーサルデザイン」による安全かつ安心な計画とし、住戸数に対して、1台/戸を確保しました。  物置は屋外に設置し、スペースは2u/戸としました。  外溝整備については園路を整備し、住棟、児童遊園、自転車置場、物置、駐車場とを合理的かつ快適に結ぶ歩行者動線ネットワークを構築しました。これも「北海道公営住宅等安心居住推進方針」、「北海道営住宅設計指針」に基づいた「ユニバーサルデザイン」による安全かつ安心な計画とするとともに、「北海道環境共生型公共賃貸住宅」に基づいた仕様を検討した結果、幅2.0m以上を確保し、原則としてスロープは設けず、縦断勾配は5%以下としています。  樹木については、良好な都市景観を創出するため、積極的に植栽を行い、魅力ある街並に調和するよう樹種及び配置に配慮しています。  ゴミステーションは、市道築港4号線沿いの住棟南側出入口付近に計2カ所を整備し、小樽市環境局の指導により、0.1m3/戸のボリュームを確保しました。  雨水雑排水施設としては、敷地南側の市道築港4号線下の公共下水道公設桝へ接続し、汚水雑排水施設は、敷地南側の市道築港4号線下の公共下水道公設桝へ接続しました。

住棟計画の概要

 住棟計画に当たっては、北海道が制定した「北海道公営住宅等安心居住推進方針」、「北海道営住宅設計指針」に基づいた「ユニバーサルデザイン」に基づき、安全かつ安心な住棟とし、また「北海道環境共生型公共賃貸住宅」に基づいた「地球にやさしい」ものとしています。また、設計性能評価に合致した居住性能の高い住棟ともなっています。  これらを前提として踏まえながら、設計に当たっては、「小樽市景観条例」にしたがい「平磯公園」からのマリーナ方向の眺望を阻害しないよう、敷地西側から東側へ向かって14階、14階、10階と階数を下げた計画としました。最上階の高さは、平磯公園眺望地点から見てマリーナ(第1期)及びその沖の港内水面を極力遮らない高さとしました。  外壁については、壁面を分節化し、開口部の配置を工夫するなど、単調な大壁面は避けました。新しい親水空間としての魅力ある街並を創出する質感と色彩を持った材料を用い、けばけばしいものは避けることとしました。  屋根については、形状を工夫し、ス力イラインとの調和を図ることとし、新しい親水空間としての魅力ある街並を創出する質感と色彩の材料を用いました。  軒については、建物本体と調和する軒の出となるよう、色彩は屋根や外壁に調和するものとしました。  建築設備等については、道路側から目立たないものとし、また、当団地の1階にも住戸は配置されるため、プライバシーを考慮し、住棟前にはオープンスペースを確保しました。また、1〜3期の住棟を1棟とし、合理的にエレベーターを配置します。配置はこれらの住棟を直線に並べず、道路境界に沿って角度をつけ、柔らかい都市景観の創出を図ることとしました。  内部は、片廊下形式の住棟とすることで屋外に出ることなく住棟内を移動できることで冬期間の快適性を確保しました。  敷地南側への出入り、北側駐車場側への出入り、住棟内物置へのアプローチ等をエレベーターホール周辺に集約することで、入居者が日常生活において顔を合わせられるようにし、入居者同士のコミュニティ形成に寄与する動線計画としました。

電気設備・機械設備計画の概要

 住戸熱源方式については、「若竹団地」の移転入居先であることから、「若竹団地」と同様の従来方式を採用しました。身障者2LDK、一般向けともに厨房は ガスレンジ、給湯はFFガス給湯機を導入し、暖房燃料は灯油を用いることとしました。 ガス供給施設は、ガス事業者が公道下に本管を設置し、本工事にて引き込みます。灯油供給は、オイルタンクによる集中供給としています。  給水施設は、市道築港4号線下の公共給水本管(150φ)より引き込み、受水槽方式による加圧給水を行います。  電力は、北海道電力鰹ャ樽支店との協議により、共用電力については、住棟3期工事分で1契約とし、引き込みは市道築港4号線から北電負担により電柱を設置します。電柱本数は1期については2本、2期は1本、3期も1本としています。  その他、防災施設等は消防法220号通知に基づく二方向避難・開放型住戸とし、一部消防設備の免除を摘用の上、消防隊専用栓を設置し対応します。さらに、防犯施設としては、駐車場・オープンスペース等に外灯を適宜配置しました。 エレベーターの配置は、1期住棟(14階)、2期住棟(14階)の計2棟に設置し、エレベーター交通計算チェックより、9人乗り、90m/mとしました。  「北海道営住宅設計指針」に基づき、ロープ式で機械室レス型、トランクルーム付、車椅子兼用視覚障害者仕様とし、停電時・地震時の自動着床、火災時の制御装置や、緊急通報装置を設けました。


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