建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年4月号〉

寄稿

江戸川河川事務所管内の事業概要

―― 都市を貫流する江戸川・中川・綾瀬川の安全安心な川づくりのために

国土交通省関東地方整備局 江戸川河川事務所 副所長 山口 充

山口 充弘 やまぐち・みつひろ
東京都出身
昭和 52年 建設省土木研究所入省
平成 10年 京浜工事事務所 流域調整課長
平成 13年 文部科学省 科学技術政策研究所 上席研究官
平成 15年 関東地方整備局 技術管理課 建設専門官
平成 16年 京浜河川事務所 河川環境調整官
平成 17年 江戸川河川事務所 副所長

はじめに

江戸川河川事務所は、利根川水系の支川である江戸川、中川、綾瀬川など、約106kmを所管しています。 江戸川は茨城県五霞町・千葉県野田市で利根川から分かれ、茨城県、千葉県、埼玉県、東京都の境を南下して東京湾に注ぐ流路延長約60km、流域面積約200?で、右岸側には茨城県五霞町、埼玉県の7市町、東京都の2区千葉県市川市、左岸側には千葉県の4市がひかえています。 一方、中川は埼玉県羽生市に端を発し、多くの支川をあつめ埼玉県東部を南下し東京都葛飾区で綾瀬川を合流し、荒川と平行して東京湾に注ぐ流路延長約80km、流域面積は約1,000?で、その流域には茨城県、埼玉県の20市、11町と東京都の3区があります。

江戸川、中川、綾瀬川流域は都市化の進展に伴い、多くの人口・資産・情報・交通機関などが集積しています。近年、異常気象による風水害が顕著になってきている中で、当事務所管内のこれらの河川がひとたび氾濫すれば、その影響はこれらの4都県に及び、首都圏に居住する人々の生活基盤だけでなく、我が国の社会・経済に重大な支障を来たすことになります。一方、江戸川は首都圏760万人の飲料水の供給源であり、約3,900haの灌漑用水や140社余りの工業用水として水利用されています。 当事務所では、水害に強い快適な街づくりのための堤防の強化対策や、総合治水河川である中川・綾瀬川の抜本的な浸水被害対策などを実施しています。また、汚濁支川を含めた水質改善等の水環境改善事業や、高齢者、身障者等の全ての人々が河川に触れあえるように、緩傾斜スロープ設置等の河川利用推進事業に取り組んでいます。そこでこれら事業の一部を以下にご紹介いたします。

▲首都圏氾濫区域堤防強化対策事業(平形新田地区)
堤防強化対策事業(えどがわなごみ堤)

江戸川の中・下流部は、特に人口や資産が集積する過密都市域を貫流しており、ひとたび中流部の右岸堤防が決壊した場合には、この地域の浸水面積は162?、被害額は13兆円と試算されています。 こうした被害を引き起こさないように堤防を強化し、治水安全度の向上を図ることを狙いとして、平成16年度より江戸川堤防強化対策事業に着手しています。堤防強化対策は、堤防の決壊に伴う首都圏氾濫区域の甚大な浸水被害を防止するため、江戸川右岸堤防の利根川分派点から下流の常磐自動車道付近までの約30q区間において、堤防の安全度を評価したうえで、対策の必要な箇所を優先的に整備し、概ね10年間で完成させる予定です。堤防強化の方法としては、すべり破壊に対する安全性を確保するとともに、提体及び基礎地盤の漏水を防止するため、川裏側への盛土による緩斜面の拡幅堤防とします。また、堤防天端には雨水を入れないように舗装します。現在は拡幅堤防に必要な用地の買収を進めていて昨年10月に起工式を行い一部川裏側の盛土に着手しています。

高規格堤防(スーパー堤防)整備事業

江戸川では、堤防の決壊による壊滅的な被害を回避するための超過洪水対策として、従来の河川堤防より飛躍的に安全度の高い高規格堤防(スーパー堤防)整備事業を実施しています。スーパー堤防は、堤防の高さの約30倍の幅を有し、洪水による越水や水の浸透が長時間継続しても壊れない堤防を築造するものです。 また、事業実施に当たっては用地を買収せずに従前の土地利用を行うことを基本に、江戸川沿川の市街地整備と一体的に共同で実施することとしています。江戸川では昭和63年から事業に着手し整備済箇所は12箇所であり、水と緑豊かな良好な環境を新たに形成しています。現在は、葛飾区、松戸市、野田市、五霞町地先の4箇所において継続整備し、市川市において新たに4箇所で事業を着手し、引続き安全で潤いのある街づくりを促進していきます。

▲堤台地区高規格堤防(スーパー堤防)事業
首都圏外郭放水路(彩龍の川)整備事業

埼玉県東部、東京都北東部を中心とした中川・綾瀬川流域は、利根川、江戸川や荒川に囲まれた皿状の低平地です。河川の勾配は極めて緩やかで水が流れにくく、ひとたび大雨が降るとなかなか水位が下がらない河川特性を持っています。また、流域では高度経済成長期である昭和40年代から著しい都市化の進展に伴い人口・資産が集中し、洪水による浸水被害が拡大したため、治水対策が強く望まれていました。

首都圏外郭放水路は、流域の浸水被害を抜本的に解消するため、中川、倉松川、大落古利根川(おおおとしふるとねがわ)等の洪水の一部を立抗に流入させ、国道16号線の地下50mに位置する地下河川(延長6.3km、内径約10mの放水路トンネル)を経由して、埼玉県春日部市(旧庄和町)地先において江戸川へ排水するもので、平成4年に事業に着手しました。 トンネル全長6.3kmのうち、江戸川〜倉松川(第1立抗から第3立抗まで)の3.3kmが平成14年6月に完成し、以降諸施設の機能を確認するため、実際の洪水を流入させて試験通水を実施してきました。

また、外郭放水路の全体完成は、平成18年度末の予定ですが、平成18年6月10日に完全通水式を行い、6.3km全区間の通水が可能となりました。その結果、これまでの5年間で32回の施設操作、水量にして約5,900万?(東京ドーム約50杯分)の洪水調節を行っています。とりわけ、平成16年10月の南関東地域を通過した台風22号では約670万?、東京ドームに換算して約5.4杯分の洪水を江戸川に排水し、地下河川として効果を十分発揮しました。地域の方々からは浸水被害がなくなったとの嬉しい報告を受けています。

▲外郭放水路の第5立坑及び連絡トンネル
河川環境整備事業

江戸川中下流部は稠密な市街地のなかを流れる都市の貴重なオープンスペースであり、多くの方が訪れ、利用しています。そこで、お年寄りや障害の有る方を含む全ての人が利用しやすい江戸川とするために緩勾配(バリヤフリー)坂路、手摺りの付いた階段、堤防上で休息できる広場の整備を進めています。 備にあたっては沿川自治体や住民の方々の要望や意見を伺い、整備計画を策定し、全体で65カ所のバリヤフリー坂路等を作ることとしています。現在までに21カ所の整備をし、利用者から感謝の言葉を頂いています。今後も利用者方々の改善意見などを伺いながら更に使いやすい坂路、階段の整備を行っていきます。

▲江戸川区東小岩地先のバリアフリー対応と緩傾斜堤防の施工
江戸川河川事務所管内の整備に貢献
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