建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年3月号〉

寄稿

フラットスラブ工法で間取り変更が容易な広々とした室内空間を実現

外断熱の採用とシルバーハウジングで高齢者・障害者も安全な省エネ生活
―― 千歳市道営住宅やまとの杜団地

株式会社安藤敏郎建築設計事務所 代表取締役社長 一級建築士 安藤 敏郎

安藤 敏郎 あんどう・としろう
昭和22年9月生帯広市出身
昭和 45年 東北大学工学部建築学科卒業
昭和45年〜昭和57年 椛蜊l囃z設計事務所在籍
昭和 62年 活タ藤敏郎建築設計事務所設立、現在に至る
平成 12年 帯広市道営住宅大空団地設計プロポーザル特定
平成 13年 北海道平取養護学校静内分校設計プロポーザル特定
平成 14年 北海道八雲養護学校設計プロポーザル特定
平成 15年 道立中等教育学校寄宿舎設計プロポーザル特定
平成 16年 千歳市道営住宅大和団地設計プロポーザル特定

立地環境

 北海道が再編整備を進めている千歳市のやまとの杜団地は、「北海道公営住宅等安心居住推進方針」及び「北海道営住宅設計指針」に基づくもので、工事の設計・施工の入札に当たってはプロポーザル方式が採用されました。団地の総戸数は150世帯分だったので、私たちは1棟50世帯ずつ3棟による構成で、1棟につき1基のエレベーターを完備した形態で提案しましたが、道としては入居後のメンテナンスや維持管理費の抑制のため、全体で2基のエレベーターに収めたいとの意向に基づいて変更した結果、私たちのこの提案が採用されました。  この団地の計画敷地は、千歳市の中心市街地の西約1.2km、JR千歳駅からも西へ約1.6kmの位置にあり、千歳市と支笏湖を結ぶ道道支笏湖公園線からアプローチする格好となっています。周辺は豊かな自然に恵まれ、東側は道路対岸の低層の住宅地に、西側は平成14年に千歳市が策定した「大和地区いきいき保健・福祉プラン」で、特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム、健康づくりセンター等を建設する予定の地区に接しています。一方、南側は未利用地に、北側も道路をはさんで未利用地に接しています。

計画の基本方針

 北海道が定めた「北海道公営住宅等安心居住推進方針」の概要においては、子供からお年寄りまでできるだけ多くの入を対象に、身体状況や家族構成等の変化などに対応できるよう、在宅介護にも配慮した暮らしやすい部屋の広さや移動の容易性といった基本性能を有する良好な居住環境づくりの実現を目指しています。  その実現のため、安全で安心して暮らせる住宅、自立した生活が送れる住宅、いきいきとすこやかに暮らせる住宅を基本方針としています。  そのため、基本仕様としては、建物をユニバーサルデザインの視点に立った共通的な仕様とすることを基本とし、あわせて入居者自らが身体状況等に応じて軽微な改善が図れるよう配慮すること。基本となる住戸仕様に加え、シルバーハウジング住宅においては、緊急通報システムや団らん室などの高齢者生活支援機能を付加し、障害者向け住宅は、基本住戸仕様から入居者の身体特性に応じた変更を行った住宅を供給することとなっています。  特に、シルバーハウジング・プロジェクトとしての基本目標は、環境と共生した魅力ある住環境の創出、お互いを支える、地域社会を支えるコミュニティーの形成、ユニバーサルデザインの視点に立った住環境の整備の実現を図ることとなっています。

設計の基本理念

 したがって、これらの基本理念に基づき、設計に当たっては、建物及び外構については、「安全」―災害や事故など危険につながらないこと、「安心」―防犯や緊急時の対応など安心できること、「自由」―生活する上での自由度が高いこと、「簡単」―わかりやすく使い勝手がよいこと、「連続」―行動の連続性が確保されていること、「交流」―入居者開や地域とコミュニケーションがしやすいこと、「快適」―四季を通して快適に暮らせることに配慮しました。  また構造計画においては、構造種別としては壁式鉄筋コンクリート造の5階建てとして計画します。構造計画の考え方としては、在来の壁式鉄筋コンクリート構造に加え、スラブ、地中梁等の設計においてはフラットスラブ工法を採用しました。  このフラットスラブ工法は、地震力に対しては、外周壁及び戸境壁で必要壁量を確保するもので、床版(フラットスラブ)を水平な梁として解析し、水平力を壁に伝えます。また、床版(フラットスラブ)の配筋は、応力特性に応じて柱列帯(扁平梁)を設け、柱列帯はピン柱で受け、柱は鉛直力のみを負担します。  この工法によって梁が不要となるため、住戸内は梁型が皆無の広々とした居住空間が確保できます。  同時に間仕切りなどのシステム化が効率的となり、構造にとらわれない自由な間仕切りが可能になります。そのため、将来の住様式の変化にも対応した内部改修、間仕切りの変更などに自由に対応できます。施工に当たっても、設備配管が容易となり、住戸内スリーブなどが不要になります。さらに大型スラブの設計も可能になり、その場合のスラブ厚の増可分が、上下階の遮音性能を向上させる効果を発揮します。  その他、構造計画が合理的であるために、躯体コストにおいては縮減効果が期待でき、実際に平成12年度に施工された帯広市道営佳宅大空団地では、一定程度の躯体コストが縮減されました。

暖房・給湯設備

 熱供給は、道営熱供給方針に基づき、一般住戸及び障害者向け住宅は従来方式により、熱源を石油及びガスにて供給します。シルバーハウジング住宅は、入居者の安全性に特に配慮が必要とされるため、暖房設備は石油にて行いますが、給湯設備及び台所はガス配管を行わず電気による供給を行うものとします。

色彩景観計画

 色彩景観計画の策定に当っては、千歳市の気候風土や、この地区の地域性、さらに計画されている周辺環境の将来的な変化に配慮し、また「ちとせ都市景観ガイドライン」の考え方を尊重しました。また、計画戸数150戸と比較的大規模なことから、周辺環境に与える圧迫感を和らげるため、150戸を5階建ての1棟とした当初の計画を変更し、幾つかに分節しています。  色彩計画においても、長さを強調しないように配慮すべく、住棟を分節した配色を基本とし、周辺と調和した飽きのこないベーシックな色彩を原則としつつ色彩のボリューム感とスケール感を大切にします。  さらに、景観を構成する材料の素材感を生かすため、特に外断熱の外装に用いる角波鋼板はメタリックなモノトーンとし、四季を通じて様々な景色に馴染む配色としました。角波鋼板の外壁とマスチック塗りのバルコニーフレームで構成される住棟のバルコニー側は、「地」と「図」の配色を「織り交ぜて」、周辺環境に馴染み、ヒューマンなスケールで落ち着いた住宅地の景観形成を図りました。

電気・設備計画

 引込設備(電灯・電力)については、敷地内の電力引込柱から、地中埋設にて建物内引込開閉器盤まで配線し引込開閉器盤からピット内及びPSを通り各住戸分電盤へ配電します。電話についても敷地内に電話引込柱を建柱し、地中埋設にて建物内保安器端子盤(MDF)まで配管を敷設します。そして、保安器端子盤(MDF)から各階中継端子盤(IDF)を経由し、各住戸まで配線します。外灯は通路及び駐車場の防犯を考慮した位置に設置します。ただし、住戸の室内に光が入らないよう配慮します。  テレビ共聴設備については、千歳市TV共聴設備より供給を受けます。また、BS用予備管路とアンテナ取付け用アンカーを単独で設けます。TV端子を各住戸2ケ所に設けます。  自動火災報知設備は、消防法特例基準220号の「二方向避難・開放型共同住宅」とし、それに沿った消防設備(共同住宅用非常警報設備)を設置します。  防火戸自動閉鎖設備は、エレベータ前扉及び階段室扉部分に光電式煙感知器と連動した閉鎖装置を設けます。  また、高齢化対応として、全ての住戸のスイッチは大型ワイドハンドルタイプとします。台所ガスコンロ前に200Vコンセントを設置し、電磁調理器の使用を可能にします。  その他、特にシルバーハウジング住宅部分は、電力系統を一般用電灯回路と深夜電力回路の2系統とし、住戸分電盤内で回路を分離します。契約種別は時間帯別電灯契約とします。

設備計画

 シルバーハウジング住宅に設置する緊急通報システムは、「緊急対応機能」と「相談機能」から成ります。緊急通報に係る直接の通報先は、LSA執務室とし、LSA外出時などは「外部支援施設」へ通報されます。  LSAは、事故発生時など必要に応じて消防本部への連絡や消防隊員到着前の応急対応を行うほか、親族や関係機関への連絡、住戸の施錠など事故後の外置・連絡調整を行います。なお、LSAの勤務時間外の緊急通報は、消防本部に通報されます。  その他、相談機能としても、相談通報に係る相談先について、LSA勤務時間内はLSA執務室とし、一時的外出時などは外部支援施設とします。

断熱計画

 この団地では、外断熱工法を採用しています。「外断熱工法」は内断熱工法と比較して、温度差の少ない快適な室内環境の実現や室内障害の低減、構造駆体の耐久性向上、空間の有効利用、メンテナンスのしやすさなどから、一層の省エネルギー化を可能にできる工法です。このため、北海道としては、今後も高層住宅などを除き外断熱工法の積極的な採用を原則とすることにしています。それに基づいて、この団地においても、外断熱工法を採用します。  断熱設計の部位仕様基準や熱損失係数による基準は、「公営住宅整備事業マニユアルVOL.1計画・設計編2002」に則っています。  断熱位置については、共用部分の熱源確保が難しいことから、住戸専用部分を外断熱するハーフ外断熱工法とします。共用廊下側は、内外共に断熱材の巻込を行わないディテールとします。というのも、共用廊下は半屋外であることから、この部分での結露の可能性は極めて低いためです。また、この部分での熱損失は、「全ての住戸が共用部分の熱源を応分に負担して供給している」と考えます。  バルコニー側も、内外共に断熱材の巻込を行わないディテールとします。この部分での断熱の欠損は結露に至る可能性が高く、確実な熱損失となることから、バルコニースラブのコンクリートを切り離し、断熱材を優先したディテールとします。この場合のディテールは、帯広市道営住宅大空団地での実績を基本に、さらに施工性や耐久性について検討しました。

配置計画

 シルバーハウジング・プロジェクトの基本目標及び建築計画の基本方針に基づき、比較検討しました。比較検討は「北海道公営住宅等安心居住推進方針」に基づき、安全・安心・自由・簡単・連続・交流・快適の7つの視点や、居住性、地域性、経済性等を評価基準として行いました。  その結果、各棟を繋げて1棟としたE案が総合的に最も高い評価を得たことから、それを基本に、全棟が廊下でつながり、3つのエントランスに通じる構造としました。

千歳市道営住宅(やまとの杜団地)新築工事に貢献
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