建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年3月号〉

interview

北海道新幹線のトンネル工事順調に進捗!

改めて見直される青函トンネルの価値

北海道新幹線建設局 次長 佐々木 裕

道民にとって長年の悲願だった北海道新幹線が着工して2年間が過ぎようとしており、開通後の期待が今から高まっている。当面は函館止まりだが、認可申請は札幌までを含むため、全線着工への認可が待たれるところだ。東北新幹線との接続において、見逃せないのは青函トンネルの存在で、かつては戦艦大和に並ぶ「昭和の三大バカ査定」などと手厳しい批判も聞かれたが、在来特急の運行にかわり、新幹線が開通すれば、さらにその真価が発揮されることになる。かつて青函トンネル建設局の技術者として、その整備に長年携わった北海道新幹線建設局の佐々木裕次長に、これまでの事業経過と施工状況、青函トンネルにまつわるエピソードなどを窺った。
――道民として関心の高い北海道新幹線工事が着工して2年が過ぎようとしております。これまでの動きをお聞かせください
佐々木
 北海道新幹線の建設は約2年前の平成17年4月27日に認可され、着工できることになりました。これを受けて同年5月22日には北海道新幹線の起工式が行われました。その後、地元説明会をへて、6月には測量に着手しました。鉄道が通るルートの中心線上に20mごとに杭を打ち、それと直角方向に地盤の高さなどを計測するわけです。これを中心線測量と呼んでいます。全ては、そのデータがベースになります。
  そうして8月には渡島当別トンネル(東)工事、(西)工事、湯の里軌道基地造成工事の3件の工事を契約しました。
渡島当別トンネルは新青森〜新函館間の区間最長トンネルで、長さは8080mあります。この工事は平成18年1月に(西)工区が、3月に(東)工区が各々両坑口から掘削を開始しましたが、平成19年1月末現在で両工区合わせて約1/4の掘削を完了し順調に進捗しております。
湯の里軌道基地造成工事は青函トンネルを含む共用区間のレール一次溶接基地造成のための盛土工事ですが、平成18年11月に工事はしゅん功しております。
平成18年度には共用区間の三線軌道の電気設備の試験を行う目的で6km間の新幹線用のレール敷設も行っております。このレールは平成18年6月に函館港に陸揚げされ、9月に湯の里軌道基地に陸送されました。レールは1本あたり25mの長さですが、湯の里軌道基地で200mの長さに溶接します。これを一次溶接といいます。
200mのレールを現地に運搬し、それを更に現地で溶接して軌道を敷設する作業は津軽海峡線の営業線内作業となりますので、作業をjr北海道に委託して行っております。6km間の三線軌道敷設工事は平成18年度中に終わり平成19年度から電気試験を行う予定です。
――用地買収はどのように進んでいますか
佐々木
用地買収作業ですが、平成18年4月に函館車両基地周辺の用地測量に着手しました。平成18年度、19年度で北海道方の用地測量を概ね完了したいと計画しております。また、平成18年12月には函館車両基地付近の用地契約も開始しました。
――路線の概要をお聞きしたい
佐々木
東北新幹線の終点は、jr青森駅の隣にある新青森駅が終点です。新青森駅から札幌までの約360kmが北海道新幹線となります。そのうちの新函館までの約149kmが、国土交通大臣から認可をいただいた北海道新幹線の新青森〜新函館です。このうち昭和63年に青函トンネルが津軽海峡線として開業しましたが、その開業区間は新幹線の走行を想定した規模で、在来線との供用区間として、約82kmとなっています。したがって、この間はトンネルを新たに掘る必要はありません。三線式スラブ軌道で、在来線と新幹線の両方が通れるようになっています。
現在は在来線だけなので、1,067mmの幅でレールが敷いてありますが、これから新幹線規格として1,435mm幅で3本目の軌道を引くことで、在来線と新幹線が供用できるようになります。このように、在来線との供用区間82kmは、構造物を新設する必要のない区間で、残る38kmについては、全く新たに高架橋、トンネル、などの専用施設をつくる必要のある区間になります。
新青森。新函館間の工事は平成27年度完成で認可されております。
――青函トンネルは、予算査定した旧大蔵省からは厳しい批判もありましたが、今思えばできていたのは幸いでしたですね
佐々木
私も担当していた当時には、いろいろな評を耳にして、悲しい思いをしたのですが(笑)、青函トンネルができていなければ、北海道新幹線がこれほど早くに着工することはなかったのではないかと思います。
現在では、在来線とはいえ実際に列車が走っており、少なくとも物流、貨物輸送において本州と北海道をつなぐ、なくてはならない輸送路となっています。工事期間中は数知れず青函連絡船を利用しましたが、冬はご存知の通りで大変でした。
――北海道のような積雪寒冷地に新幹線が通るのは初めてのケースですね
佐々木
雪国という意味では、昭和57年に開通した上越新幹線の大宮〜新潟区間も豪雪地帯ですが、ただ北海道に比べると雪は多くても寒くはないのです。さらに大宮から盛岡、盛岡〜八戸も開業していますが、それほど大きな問題もなく、雪の多いところは散水で消雪をするなどの対策を行っているようです。
しかし、北海道まで来ると、水を撒布するのは寒さが厳しすぎて無理でしょうから、別の雪対策を考えなければならないと思います。北海道方の積雪量は函館までは青森に比べると少ないのですが、函館から先の倶知安に至と、途端に多くなるのです。しかし、技術的な工夫によって克服できない課題ではないと思います。
――車や飛行機であれば、吹雪で動けなくなりますが、 鉄道であればその心配はありませんね
佐々木
特に、新幹線は在来線と違って踏切もないので、仮に吹雪になっても道路交通に見られる影響を受けにくい輸送手段だと思いますね。
――当面は函館止まりですが、やはり道都・札幌まで全線開通することが、運営面でも必要では
佐々木
平成14年1月に認可申請を行い、青森〜札幌間の工事実施計画その1の認可申請をしています。したがって、青森〜函館ではなく、札幌までを一括して認可申請しているのですが、平成17年4月はそのうちの青森〜函館間についての認可を受けたということです。やはり、早く札幌まで繋がってほしいと思いますね。
――九州で鹿児島〜熊本間を先に開通したように、札幌から例えば倶知安までを先に整備するという提案は検討されなかったのでしょうか
佐々木
私も北海道新幹線を担当する前2年間は九州に赴任していましたが、現在開業している区間は、単線区間が非常に長く、列車の運行上、効率の悪い区間なのです。それを新幹線に移行することによって、非常に多くの乗客を獲得できるので、効率の良い区間として先に整備したということではないでしょうか。
確かに起点から繋がっていない中途開通なので、奇妙に感じますが、この区間を先に開業させることで、鹿児島〜博多間の区間の効率がいち早く向上するという判断ですね。
――実際に開通した結果、鹿児島中央駅の周辺は大きく様変わりしたようですね
佐々木
九州新幹線が開業するまで、特急列車に乗っていた乗客は一日3,900人だったのですが、開業後は8,800人ですから、2倍以上になっているのです。同じく東北新幹線でも、北陸新幹線でも増えています。やはり新幹線の開業で移動時間が短くなり、経済活動が広範囲になることから、乗客数が増える効果があるようですね。
開業以前は、博多から鹿児島までおよそ4時間もかかっていたのですが、開業後は2時間です。博多から八代までは1時間半で、八代から鹿児島までは約125km、博多から八代間も約125kmで計250kmくらいの距離です。片や一時間半、片や30分で2時間で鹿児島まで行けるわけですが、これが全線開通すると概ね1時間で移動できるようになります。1時間の乗車時間となると、あまり時間を気にしないで気軽に日帰りできますね。
――北海道では、どこに行くにも列車の発車時刻を気にかけなければなりませんから、新幹線のように気軽にjrを利用する感覚は、道民にはないと思います
佐々木
私も北海道に生まれ、北海道で青函トンネル建設に携わり、それがほぼ終わりかけて東京に赴任しましたが、東京では10分も待てば、どこの駅でも電車が来るわけですね。しかし、北海道では1本電車を逃すと、1時間、下手すれば2時間も待つ場合がありますから、新幹線ができることによって鉄道の便利さを実感できるようになると思います。
――その意味でも、早期の全線開通は望みですが、北海道経済は全国の中でも特に厳しく、事業費負担が課題ですね
佐々木
厳しい財政状況の中で、道からも建設費の3分の1の負担をしていただきながら公表していますから、投資に十分に見合う展開を考えなければなりません。それは道だけではなくて、どこの新幹線でも最近の公共投資が厳しい中で、地元負担をいただいているので、それを忘れてはなりませんね。
――施工現場での課題は
佐々木
渡島当別トンネルは全長約8,080mで、長いトンネルであるために地質、地形など事前の調査が非常にし難いのです。そのため工事を進めながら確認し、確認しながら工事を進めるという技術的に手間のかかる工事です。
  すでに在来線が通っており、おおよその地質は判明しているのですが、トンネルとなると地質調査を地上からせざるを得ません。山頂から調査するのは効率が悪く、経費もかかります。そのために前方の地質を確認しながら、工事を進めていくということになります。
  函館から木古内間で新たに建設する区間で、昔は三角測量という古い手法で行ったものですが、現在はgpsという技術で実施しています。基本的には長いトンネルの坑口や、主要な基準点を設定しておき、それを人工衛星で計測します。その意味では、かつて青函トンネルの建設では、竜飛と吉岡の間での測量データを積み上げたので、かなりの精度で施工できました、あの両地域の距離は23kmですが、誤差はゼロとはいえないものの、それでもラグビーボール大の誤差に収めたのです。
――技術的進歩の結果ですね
佐々木
現在のようにgps技術のない時代で、当時は正月や盆になると専門の技師が竜飛と吉岡の小高い地点に機械を据えて、互いの位置関係を正確に測量するのです。これは回数を重ねるほど精度は上がるようです。そうして自分の位置を確認し、それを起点にトンネル中に測量のラインを入れたわけです。そうしたクラシックな手法から見ると、gps技術というのは格段にすばらしいものです。測量費も、かつての人件費に比べると格段に安上がりです。
――トンネル掘削に伴う発生土はどう処理していますか
佐々木
一部は函館車両基地に有効利用を図る計画です。それ以外については、運搬距離があまり長くなると輸送費がかさむので、費用対効果を考慮しつつ、環境に配慮しながら処理していく計画です。
――車両基地はかなり大規模になるのでしょうか
佐々木
広さは34haくらいで、工場機能を持った総合車両基地になります。
――札幌まで延伸された場合は、札幌にも車両基地ができるでしょうか
佐々木
札幌には総合車両基地はできませんが、ただ新幹線の留置基地は小規模ながらできる予定です。総合車両基地というのは、車両を単に留置するだけではなく、例えば車輪の補修や台車の整備など、全てのメンテナンスができます。ただし、現在の計画では、札幌まで全線開業した時点で全機能を持たせることになっています。函館までの開業段階では、一部の機能だけを持たせる予定で、函館〜青森間では車輪台数が少なく、留置線も少ない線数で済むので、規模に合わせて拡張し、札幌まで開通したら、また拡張する計画です。
――北海道は本州と比べて製造業が少ないため、関連の下請け工場もありませんが、そうした基地がひとつでもできると、今後の波及効果も大きいですね
佐々木
雇用の創出に繋がることは期待できると思います。
新幹線の環境対策
騒音対策
新幹線の騒音については、「新幹線騒音に係る環境基準」が告示されています。環境基準を達成するために設備面では、列車速度・構造物の高さなどを考慮し防音壁の高さ・形状を決定します。さらにロングレール化などの対策を実施しています。
微気圧波対策
新幹線がトンネルを高速で通過するときに生じる高圧空気によって、トンネルの出口で微気圧波(空気圧音)、いわゆる"ドン音"が発生することがあります。微気圧波の発生が予測されるトンネルには緩衝工を設置しています。
振動対策
新幹線の振動については、「環境保全上緊急を要する新幹線鉄道振動対策について」が勧告されています。勧告を達成するために、通常よりさらに柔らかな素材を使用した軌道パッドを採用し、振動の低減に努めています。
北海道新幹線建設工事に貢献
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