建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年3月号〉

interview

新幹線開通で乗車率は140%アップ

街作りの有力な起爆剤

独立行政法人 鉄道建設・運輸施設整備支援機構 金澤 博理事

金澤 博 かなざわ・ひろし
昭和 48年 4月  日本鉄道建設公団入社
平成 11年 10月  日本鉄道建設公団 新幹線部長
平成 15年 10月  鉄道・運輸機構 鉄道建設本部計画部長
平成 16年 11月  鉄道・運輸機構 理事

新幹線は、平成9年の長野新幹線高崎長野間の開通によって、乗客が4割増しとなったのを始め、その後も新区間が開通するたびに3割増という好実績が続いている。これとともに、新駅周辺は劇的に街が変化し、活況を呈している。新幹線は、単に長距離高速移動のための交通システムであるだけでなく、地域作りにおいても貴重な起爆剤となっている。本誌2006年8月号に引き続き、全国の新幹線建設を担う鉄道建設・運輸機構金沢博理事に、新幹線の可能性について語ってもらった。
▲九州新幹線新八代駅
――2004年の中越地震の際に上越新幹線の脱線がありましたが、高速度で移動していながら脱線程度で済んだことが新幹線の安全性の評価につながったと報道されました
金澤
技術者の視点としては、あの程度はやむを得ないというべきか、あの程度で脱線してはならないというべきなのか、評価は分かれます。
国土交通省が主催した脱線対策協議会では、jr各社と私たちと鉄道総研が協議し、脱線をどうしたら防止できるか、また万が一脱線しても致命的な事故に至らないようにするにはどうすれば良いかなど、対策をとりまとめて案を提示しています。
――やはり通常の鉄道と違って高速移動するので、例えば横風などへの抵抗力など意外なウィークポイントがあるのでしょうか金澤
 jr各社では、強風の時には徐行したり、あるいは停止するなどの運行規制を定めており、運用面で対応しています。また、軌道上には全て防音壁があり、それが防風壁にもなっているので、強風によって走行の安定性が脅かされる心配はありません。結果的に、防音壁が風対策にもなっているのです。
――近年は台風が頻繁に発生しました
金澤
 台風の場合は、特に降雨対策が課題となります。土の構造物などは雨に弱いため、トンネルの出入り口には地すべり地帯を避けて設定したり、やむを得ない場合は掘削して地すべりの要因をなくすなど、施工段階で十分な防護対策を施しています。
また、高架橋、橋梁などもコンクリートでできた高架橋を主体とし、設計・施工にあたっては、道路や河川管理者と協議して、施工段階から十分な水害対策を講じています。
――新幹線の整備に伴う目に見えない波及効果とともに目に見える波及効果も計り知れないものと期待されます。最近の例で、実際にそれが見られる事例はありますか
金澤
 平成9年10月に高崎〜長野間、14年12月に盛岡〜八戸間、そして16年3月に八代〜鹿児島間の、3線3区間が開通しました。これに伴って、街の変貌ももちろんみられますが、何よりも従来に増してより多くの人々に利用されているというのが心強いですね。新幹線が開業する以前の在来線の特急と比べると、長野では新幹線開業以来、4割増という状況が10年近く続いています。
  盛岡〜八戸間も開業前に比べると6割もアップしています。さらに、最も増加しているのは、八代〜鹿児島間で2.4倍、アップ率は実に140%という実績です。これほど多くのお客様に支持されるというのは、非常に心強いものです。それが次の延伸に向けてのテコになると思います。
  また、新幹線の開業に伴って、街も変貌を遂げています。最近の例では、九州新幹線の終点駅である鹿児島中央駅などは激変しました。駅施設も変わり、駅のすぐ隣にあった古い駐車場には大規模なショッピングセンターができたことで若い人々が集い、にぎわう空間ができました。既存の駅だけでなく、郊外に新設された駅なども、熱意ある自治体にとっては、街づくりのための貴重な資源になっているのです。
▲鹿児島中央駅
――人の移動効率が上がり、行動範囲も拡大したのでは
金澤
 九州の八代〜鹿児島間では在来線の特急で2時間10分もかかっていたのですが、今では新幹線で最短35分ですから、これまで整備した中でも最も大きな時間短縮効果が見られます。その結果、従来の2,3倍もの利用客となったわけです。
これが博多まで開業すれば、博多〜鹿児島間で、かつて3時間40分、現在2時間10分が、1時間強へと短縮されるので、革命的に人の流れが変わると思いますね。
――新幹線は安全性が高く、運行本数の多いところでは発車時刻を気にする必要もなく、手荷物や乗客へのボディチェックなどもなく、乗車便の変更も簡便で自由席もあり、座席スペースは広くゆとりがあり、喫煙者のための専用車両もあるなど、多様な利用客の多角的な要請を満たす理想的な公共交通機関ですね
金澤
 もちろん、飛行機には飛行機の役割があります。よく言われるのは800km〜900km程度の距離では、新幹線と旅客機のシェアは五分五分くらいということで、1,000kmを超えると、さすがに旅客機が優位です。
東京〜札幌間の場合は1,000kmを超えるので、普通の特急では飛行機には敵いません。けれども、4時間半程度で移動できるファステックのような高速新幹線となると期待は持てます。というのも、東京〜札幌間と一律に言っても、都内が出発点の人もいれば、北関東方面が出発点の人もいます。例えば、大宮から出発する場合、羽田空港へ行って飛行機を利用する場合と、大宮駅から新幹線に乗り込む場合とでは、時間的には拮抗するのです。
そうなると、利用されるお客様にとっても交通機関の選択肢が増えることになると思います。
――今後の長期的展望に立った場合、新幹線ネットワークの将来像はどのように描かれていますか
金澤
 現在、認可申請をしているものとしては、北海道新幹線の函館から札幌まで、北陸新幹線では金沢から敦賀までです。
このふたつは将来的にも非常に有望で、高速交通ネットワークの背骨となるものであり、多くの方々に理解していただけると考えています。時期は未定ですが、国の検討委員会などで議論が進められることを期待しています。
 

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