建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年2月号〉

INTERVIEW

新体制でスタートした西日本高速道路株式会社(後編)

現場の技術者も地域とのコミュニケーションとピーアールを密に

西日本高速道路株式会社建設事業本部 建設事業部長 高倉 照正氏

高倉 照正 たかくら・てるまさ
昭和29年8月11日生大分県出身
昭和53年3月九州大学工学部土木工学科卒業
昭和53年4月日本道路公団採用
平成1年2月大阪建設局建設第一部企画調査課長代理
平成4年2月東京第一建設局横浜工事事務所横浜緑工事長
平成7年11月高松建設局技術部工務課長
平成8年7月四国支社建設部企画調査課長
平成10年3月静岡建設局沼津工事事務所長
平成14年4月本社広報・サービス室主幹
平成16年4月本社高速道路部高速道路工務課長
平成17年10月西日本高速道路株式会社採用
本社建設事業部建設事業統括チームリーダー
平成18年6月本社建設事業部長

高速道路の建設事業と管理運営を担ってきた旧日本道路公団が民営化され、株式会社としての新体制となったことから、その社会的意義と事業の実施手法が大きく変化した。また、財源対策などにおいても、従来の特殊法人とは異なり、より開かれた民間企業としての財務運営が求められる。それだけに、株主や一般投資家、出資者、さらには一般利用者に至るまで、幅広く情報公開と事業の投資効果などについてのピーアールが求められる。近畿以西の西日本を所管エリアに持つ西日本高速道路(株)も、世界に通じる先駆的なビジネス展開に向けて、建設現場の第一線に立つ工事事務所の技術者までが、いわば広報マンとして営業宣伝の前線に立つ気構えで臨んでおり、大阪、堺など伝統的な商都を擁したエリアならではの気迫をみなぎらせている。そうした技術者を束ねる建設事業本部の高倉照正建設事業部長に、今後の事業展開などを伺った。
――西日本高速道路株式会社が所管するエリアの地域的特色や交通状況の概況からお伺いします
高倉
 旧日本道路公団は昨年10月、西・中・東日本に3分割されましたが、西日本の管轄面積は国土のほぼ3分の1。中日本との県境はきれいに分けられませんので、両方が重複するような形で整理しています。人口では31%を、可住地面積でも約31%を占めますから、わが国の平均的な国土が西日本の管轄エリアになります。
 47都道府県のうち24県を管轄していますが、そのうち15県は人口が減少傾向となっています。ちなみに中日本は2県で、東日本では7県しかありませんから、当社は非常に人口が減少している地域を抱えていることになります。
 県民所得は27%で、面積や人口のシェアよりやや低いのが特徴です。それでも経済産業省がまとめた工業立地の動向を見ると、西日本が対前年比で21%増え、全国平均の19%を超えていることから、地域経済は活性化しつつあり、今後は東アジアとの連携が非常に重要になってくると思います。その意味でも交通基盤の整備は極めて重要です。
 もう一つの特徴は、気象条件が非常に悪いことで、「台風銀座」と呼ばれる多雨地域を多く抱えており、気象条件のハードルが高いことがネックとなっています。
――今年は、九州や四国などで台風被害が多いですね
高倉
 幸い、私たちの管轄している道路ではそれほど被害はありませんでしたが、昨年は山陽道、今年は山陰道において、法面崩壊で一時通行止めになりました。現在は一応開通していますが、急ピッチで本格復旧に取り組んでいるところです。
――全国的にも最近は、局地的な大雨被害が目立ちますね
高倉
 地球環境の問題が背景にあると思いますが、私たちが道路を造る場合は、何十年先の降雨確率を予想して排水施設などを設計します。  しかし、最近は百年確率を上回るような局地的な大雨が頻繁に降りますので、災害対策が大きな課題になっています。
――特に高速道路は、緊急輸送路ともなるので災害に強い道路づくりが絶対条件です
高倉
 そうですね。いわゆる基幹交通を担っているので、一般道路が通行できなくなった場合、高速道路が唯一の命綱になります。
 交通状況については、西日本の走行台q、いわゆる自動車が何台通って、何q走ったかの累計シェアは全国の約34%になります。また、何qにわたって何時間の渋滞が出たかの指標でのシェアは23%。全国の中で約34%の交通を担っているのに23%の渋滞でしかありません。しかし、交通渋滞の原因には、工事、事故、自然渋滞がありますが、自然渋滞だけを取り上げると27%なので、交通集中による渋滞はまだまだ大きく残っている状況です。
 それでも、特に関西の場合は、名神の交通渋滞がひどかったため、4車線から6車線に車線数を増やし、代替ルートの京滋バイパスを整備してきたことで、渋滞は大幅に減少しています。平成8年のピーク時に比べ、約30%にまで改善されました。
 しかしながら、全国の高速道路の渋滞を最悪の順からみますと、ワースト10の中に5つ入っています。特に名神や近畿道、中国縦貫道など大阪周辺の道路は、まだまだ著しい交通渋滞に悩まされているのが実態です。
――大阪郊外や京都など、近県を含む三角形というのが、一番の渋滞ポイントになるということでしょうか
高倉
 そうですね。その3つの地域の結節点である名神の吹田ジャンクション付近を中心に、線形の悪い箇所や、「サグ」と呼ばれる「下って上る」箇所では走行速度が低下し、渋滞が起こりやすくなっています。ETCの普及に伴って料金所の渋滞は減っていますが、吹田ジャンクション周辺ではまだ渋滞が解消されていない状況です。
――特に大阪の北側の方では地形の問題もありますね
高倉
 ちょうど名神と近畿道、中国縦貫道が接続している箇所になります。東京方面から西の方に行くにしてもそこを通る、あるいは東京方面から和歌山に行く場合でもその地域を通るなど、ほとんどの路線がその地域を通らなければならない状況になっています。
――大動脈が交差しているということですね
高倉
 そうです。第二名神がその北側に開通すれば、相当量の交通分散が期待できるので、交通混雑の解消につながると考えています。
▲第二京阪道路 小路トンネル工事(寝屋川工事区)
――高速ネットワークの整備率と今後の動向について伺います
高倉
 高速道路の整備計画(総延長9,342q)に対し、西日本の完成率は81%です。中会社と東会社を比較すると、中会社が約76%、東会社が約79%ですから、現状では西日本がやや高い整備率となっています。
 これから私たちが整備していく路線は、高速自動車国道が250q、一般有料道路が31qの合計281q。当面工事に着手しない第二名神(大津JCT〜城陽、八幡〜高槻第一JCT、延長35km)は含まれていません。将来、この区間を着工すれば、合計316qになります。その35qを除いた全体の事業費は約2兆8千億円。そのうち重点路線が第二名神、東九州、第二名神関連道路の第二京阪道路などで、事業費の約3分の2を占めます。
 これらの区間は非常に交通混雑が著しい、あるいは利便性が損なわれている地区なので、経営資源のいわゆる人や組織、資金を優先的に投下して効率的・効果的な整備を進めていきたいと考えています。今年3月31日付で締結した「独立行政法人 日本高速道路保有・債務返済機構」との協定に基づき、完成時期のお約束をさせて頂いています。もう一つは、整備に要する費用を厳守し、一日も早い開通を目指して地域に貢献したいと考えているところです。
――19年度政府予算の概算要求でも、開通予定などの計画目標を提示しているのでしょうか
高倉
 提示しています。私たちが協定上でお約束している内容については、これまで十分にディスクローズできていない部分がありました。現在、最終的な準備作業をしていますが、私どもが整備している路線について、例えば現在の進捗状況や今年度の目標、開通後の利便性などをホームページで積極的にオープンにしていきたいと思っています。有言実行でお約束したことを必ず守り、事業を進めていきたいと考えています。
――具体的には21工事事務所が所管している各自治体の中で、新設道路の進捗状況や完成予定などもディスクローズしていくということですね
高倉
 そうです。今年度はどこまで設計協議し、地元住民の皆様のご了解をいただいたうえで、例えば用地の境界になる「幅杭」の打設率を現況50%から70%に引き上げるなど、具体的な目標設定を全てディスクローズしていきます。現場にも相当なプレッシャーがかかりますが、より高い目標を掲げて取り組む姿勢が大切です。
 ただし、建設事業は必ずしも結果が伴わないからということを短期的に見て判断すべきではないと思っています。高速道路は10年、11年のスパンで整備しますので、今年に苦労することが、来年の事業推進に効果として現われることもあるので、あまり短期的な評価はすべきではありません。具体的な目標を掲げて努力をしていく方向で進みたいと考えています。
――関係住民とのコミュニケーションも大事ですね
高倉
 コミュニケーションをとらせていただかないと、事業の停滞を招きかねません。
――各地域の方々が必要とする道路づくりということで、地元の方々に理解していただけるような広報活動を強化していくことも重要ですね
高倉
 そうです。情報提供するということと、整備効果といったものをアピールしていきたいと思っています。
▲みなべ〜田辺間 現況写真
――西日本だけでも24県の方々に訴えていくというのは、相当なエネルギーを要しますね
高倉
 事業の内容を知って頂くことが、事業を進めていくうえでの一番の基本となりますので、その点が今まで不十分だったと反省しています。これからは出来るだけオープンにした中で、地域住民の皆様とのコミュニケーションを十分に図りつつ、ご理解を得たうえで一緒になって進めさせて頂ければと思っています。
――民営化になったことで、高速道路の整備手法はどのように変わりましたか
高倉
 会社の自主性が発揮できるようになったのが最も大きい変化と思います。具体的には、高速道路の場合、これまでは国からの施行命令に基づいて日本道路公団が建設し、料金を徴収する仕組みになっていました。民営化後は私たちが事業許可申請し国交省の許可を得て建設事業に着手する仕組みに変わったので、事業展開の自由度が広がりました。
 もう一つは、届出制により新規事業にも自由に取り組むことができ、機構との協定で開通時期をあらかじめお約束させていただくことになりました。事業費の面では債務引き受け限度額と助成対象基準額という新しい仕組みにより、限度額を超えると機構はその事業費を引き取りません。基準額というのは、限度額よりも低いところにありますが、それ以下になると企業努力が報われる「インセンティブ」として、一定の報酬が付加されます。そもそも道路事業で収益を上げるという仕組みになっていないので、「より安く、早く、良いもの」を造るという「インセンティブ」が働く仕組みに変わりました。結果的にわれわれの責任がさらに大きくなったと言えるでしょう。
 元々は、社会貢献のための事業なので、それ自体が収益を目指すものではありませんので、付加的な仕組みとして出来たものであると理解して頂ければよいと思います。18年度は、3月31日に機構との協定締結と同時に各路線の事業許可を得て、4月1日から本格的に事業がスタートしています。18年度はいつまでに具体的に何をどのように進めるのか、会社としても実行計画に対する達成水準をきちんと評価する「目標実績評価制度」をつくり、努力が報われるような仕組みを取り入れながら行っています。
――日本の大動脈である高速道路を、そのようなかたちで評価するというのは、今までにはなかったことですね
高倉
 民間のノウハウを取り入れるというのは道路事業の新しい手法になると思います。うまく機能していけば、非常に良い「ものづくり」が出来ると考えています。地域との連携をより深め、今までのような施行命令の手法ではなく、地域と一緒に発展出来るような会社にしていきたいと考えています。
(以下次号)

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