建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年2月号〉

INTERVIEW 

一極集中から分散型へ都市構造の改善を

真に必要な予算は拡充

国土交通省前技監 清治 真人氏

清治 真人 せいじ・まさと
昭和23年9月生
昭和46年3月北海道大学工学部土木工学科卒
昭和46年4月建設省採用 北海道開発局勤務
平成8年7月北海道開発庁水政課長
平成15年7月国土交通省河川局長
平成17年5月国土交通省技監
平成18年7月退官

来る札幌市長選挙に向けて、国交省技監を務めた清治 真人氏が出馬表明した。低迷し続ける札幌市経済をどう立て直していくのか、道内で一極集中の進む札幌の都市づくりをどうするのか、全国の技官を統括する最高峰に立っていた技術者の目線で語ってもらった。我が国の中央に位置する中部地域は、一大工業地帯として着実に発展を遂げてきたが、さらに愛知万博の開催などにより地域経済は新たな局面を迎えてきた。現在依然として、貿易額、量とも順調に増加し、我が国経済の再生の力強い牽引役として機能している。この中部では、中部国際空港が開港し、スーパー中枢港湾の整備が促進されるなど経済を支えるインフラが整備されつつあるが、経済を支える重要なインフラである港湾、空港において今後どのような整備と発展が展望できるのか、中部地方整備局港湾空港部の堀田治港湾空港企画官に語ってもらった。
――市長選出馬を決意した経緯からお聞きしたい
清治
 国交省を退官してから市長選への出馬などは、考えたこともなかったので、辞退はしていたのですが、経済界や自民党側から「ぜひとも」と要請され、しばらくは関係者らといろいろと問答しつつ、結果的には引き受けることにしました。
――この数年は、災害が続発しましたが、インフラを担ってきたキャリアをどう生かしますか
清治
 災害の実態を踏まえた上で、行政組織としての対応能力の向上と、市民の日常的な意識向上に努めることが必要です。何しろ、公的にフォローできる分野は限られてきますから、市民が高い意識を持ち続ける環境作りは重要ですね。  ただ、例えば台風の多い地域の住民は、台風についての知識と対応能力を持っているものです。そうした正しい知識と対応能力を培うのは、行政の役割でもあります。年中、心配や不安を煽る必要はありませんが、いざというときに自分を護る行動が適切にできるかどうかは重要です。
――海保や自衛隊と並び、国交省はそうした防災の最前線に携わる機関として、情報データや緊急時対応のノウハウも十分にあることから、技官の最高峰たる技監の立場で、前線に立つ技術者を統括してきた職責に対する期待は大きいでしょう
清治
 ただ、防災対策も大切ですが、札幌市の場合、最も急がれるのは景気対策でしょう。景気回復の後れや競争力の向上、維持という課題への早急な対応が望まれていると思います。そのために、景気対策と社会資本整備とが、どんな関係にあるのかを明確にしていくことが必要です。  例えば、市内は降雪によってモビリティが著しく低下し、活動性がダウンします。積雪による時間のロスや環境上の問題、交通事故や落雪事故の発生など、様々な問題が発生します。それが産業に与える影響、また市民生活に与える影響、救急活動に与える影響などを踏まえた上で、社会資本の整備水準や維持管理の水準はどれくらいのレベルとすべきかを考えていく必要があります。  かつてのように、人が疎らに暮らしていた時代と異なり、今日のように密集して暮らし、高度な経済社会を構築し、生活レベルも高い時代では、どれくらいの水準で維持していくのが行政サービスとして最も適切であるのかを見定めることが重要な課題です。  市民が将来に安心が持てるかどうか、この街に住むことを市民が誇れるかどうかがポイントです。それは制度や条例、システムの善し悪しの問題もありますが、やはり街の姿として暮らしやすいかどうかがカギとなるでしょう。そのために必要な予算は伸ばすべきで、一方、問題部分があれば改善していくといったメリハリが街づくりにおいては重要です。  国交省の政策では、「暮らし」、「安全」、「環境」、「活力」がキーワードとなっていますが、「暮らし」を支えてあげることは「安全」を確保することであり、それは「環境」に優れた地域づくりをすることでそれによって「活力」が維持していける社会につながります。その活力こそは、生きていく糧となるのであり、逆にそれが無ければ沈下していく一方となります。
――例えば、横浜市などはランドマークタワーやみなとみらいなど、積極的な都市開発によって活力が高まりました。しかし、札幌市では今なお明治期に整備されたインフラに依存していますね
清治
 札幌市は歴史が浅いので、それはそれでも良いと思います。しかし、北海道内で札幌に一極集中していると同時に、市内でも札幌駅から大通駅、ススキノ一帯に一極集中していることから、190万都市の構造としては、もう少し多極化し、分散していった方が理想だと考えています。  そして、それを結ぶ交通体系として、環状道路の整備や、既存の地下鉄の再構築を考えていくことが必要でしょう。特に冬期間でも快適に移動できる地下鉄などは、駅周辺の土地活用を促すなどの施策が必要です。放射状の中心に何でも集めてしまうのでなく、むしろ複数の地域核の配置によって広がりを持ち始めるのが理想です。  東京都などは、中心部特有の問題もあれば、周辺部特有の問題もありますが、それは都市計画を明確に持っていたかどうかの問題で、都市が広がってしまってから防災対策や生活施設や文化施設、医療施設の整備を考えても、配置に自由が利かず、迷ってしまうことになります。  それを踏まえて、来る200万都市として相応しい都市構造を模索し、インフラ整備についても、投資余力はないと早々と断念してしまうのではなく、真に余力がなくなるまでに、何を整備すべきかを見定める必要があります。そして、そのインフラはもちろん、未来の子々孫々が誇れるものであり、強い都市、品格のある都市となるようなものでなければなりません。  札幌市はそれを再検証する時期に来ていると思いますが、現況では財政事情の苦しさを口実に活気も希望もなく、躍動感の失われた色褪せた状態になっています。  市民憲章では、「元気で働き豊かな街にしましょう」、「決まりをよく守り暮らしやすい街にしましょう」、「空も道路も草木も水も美しい街にしましょう」と、高い理想を掲げているのですから、市民と対話しつつそれに取り組むことが必要です。
――現在の札幌市政は、周辺町村から孤立している印象があります
清治
 産業構造が歪んでいる原因は、そこにあります。札幌は周辺市町村から様々な供給を受けて成り立つのですから、広域的な連携・交流の重要性を訴えていきたいと思います。

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