建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年2月号〉

INTERVIEW

札幌市下水道施設の総資産額は1兆円(後編)

下水道副産物の積極利用と収支バランスが課題

札幌市建設局 石倉 昭男 理事

石倉 昭男 いしくら・あきお
昭和48年  札幌市に勤務 以来下水道事業に携わる
平成15年  東区土木部長
平成16年 環境局環境都市推進部長
平成17年  建設局土木部長
平成18年4月 現職

下水道は、本来の処理機能は当然ながら、近年ではその行き届いたネットワークと、処理に伴って発生する熱や汚泥などの資源化といった多角的なリサイクル機能が注目されている。しかし、問題はそのコスト高と市場性で、収支バランスが難しいことから、普及のネックとなっている。少資源国家である日本としては、資源・エネルギーの海外依存度を低めていく上でも、どうしても解決しなければならない課題でもある。最北端に位置する積雪寒冷地の札幌市としては、どう取り組んでいくのか。下水道事業を所管する石倉昭男理事に、引き続き語ってもらった。


――既存のストックや、副産物を有効活用して財源を確保するなど、多角的経営が必要ですね
 石倉
市民はあまり意識していないかもしれませんが、下水施設はとてつもない資産となっており、総計すれば1兆円をこえる資産規模になります。これを適切に管理し、最大限の延命化を図る必要があります。仮に1兆円としても、単純計算で100年使用するとすれば、年間100億円の事業費を払っていることになり、時価で考えれば、さらに高額でしょう。

――そうした意味でも、現在、整備中の東部スラッジセンターも、より長く使用する設計となっているのですか
  石倉
下水道施設には土木構造物や機械設備などがありますが、コンクリートならば50年以上はもつでしょうが、機械電気設備などはそうはいきません。機械電気技術も進歩する一方で、社会的な情勢も変わってくるので、それに応じた更新も必要になります。
  豊平川左岸の西部スラッジセンターに続いて、右岸に整備される東部スラッジセンターは、東部処理場のほか豊平川処理場と厚別処理場の汚泥処理を再編統合する形で整備されているものです。今後はコンポストを除く汚泥は、すべてがこの東部スラッジセンターで集中処理することで、西部スラッジセンターとともに全市的に効率化を図ります。
  現在は機械設備工事が本格化しており、これが完成すればいよいよ機能を発揮します。
――東部処理場では、高度処理は行われますか
 石倉
 東部では最初から高度処理を行う設計になっています。その他の処理施設でも、当初は高度処理を想定していませんでしたが、処理技術を工夫し、高度処理並みにしているところが多くなっています。
  もちろん、そうしてできた再生水は、十分に再利用できるのですが、再利用する企業は札幌ではなかなかありません。
  中水道という考え方もありますが、街づくりの初期段階で、最初からそれを想定して専用管を敷設すれば良いのですが、すでに構築されたところに、後から一系統を増やすのは大変なことです。従って、現在は高度処理水を下水処理場の機械用水として使用したり、枯渇河川の水源としてせせらぎ回復に有効利用しています。
――ほぼ全世帯にまで接続している下水道ネットワークができているので、それを多角的に利用する方法は考えられませんか
 石倉
 各家庭に光ファイバーを導入することも検討されましたが、取付管部分のトラブルが発生しやすい難点があります。従って重要な公共施設などを対象に下水管内に光ケーブルを敷設しています。
  また、ディスポーザーの活用も考えられますが、我々としては生ゴミを粉砕してすぐに流す単体型は、基本的に使用しないようお願いしています。本市は合流式が多く、雨天時に川に未処理で放出される汚濁負荷がさらに大きくなることや、下水処理場のさらなる増強が必要になるからです。
  ディスポーザーについては一旦使用を認めると、人は一度便利なシステムに慣れ親しんでしまい、完全にそれに依存するようになります。一度はじめると元に戻すことはできませんから、慎重に判断しなければなりません。
――融雪槽、流雪溝への下水処理水利用は、克雪対策としては有効でしたね
 石倉
 流雪溝については道路整備の段階で、最初から流雪溝を含めて設計されていれば良いのですが、既設道路にこれからつくるとなると、予算的負担が大きくなります。そのため、政策的には今後の新規着手は厳しいと思います。融雪槽については、本市の雪対策事業に大きく貢献していると自負しています。
――下水の汚泥の資源化が進んでいると思いますが、高コスト構造であるために、ビジネスとしての確立が困難とのことですね
 石倉
 汚泥の資源化は、それを取り巻く社会経済情勢が変化していくので、トータルに見れば難しい面もあります。しかし、循環型社会という構造は確立していかなければならないと思います。
  焼却が有利なものは焼却し、その際に熱を発生するので、それを多角的に利用しています。焼却灰も様々な形で、新たな資源として再利用しています。
―――日本は少省資源国ですが、原油高の情勢もあり、使えるものは何でも有効に使い切る発想が必要ですね
 石倉
 
 資源・エネルギーを大量に海外から輸入する一方で、国内には再利用し得る廃棄物がたくさんあります。
  現在、全国的には下水汚泥からバイオソリッド(石炭代替燃料)や活性炭を製造したり、焼却灰からリンを抽出する技術などが実用化段階に入りつつあります。従来はコストと市場性のバランスが不均衡であることが障壁となっていましたが、関係者の努力により明るいきざしが出て来ています。下水道のもっている資源・エネルギーの活用はこれからも重要なテーマだと思います
――最後に今後の札幌市下水道が進むべき方向について伺います
 石倉
 明治以来、北海道は日本全体のフロンティアだったのです。
  地球温暖化の進行が現実となっている現在、北海道は日本全体が生き残るための地であり、札幌はその中心地として持続可能な都市として発展していかなければなりません。
  下水道もそうした将来の気象変動も想定しながら、持続可能なシステムとしてしっかりと次世代に引き継ぎたいですね。
  最後に、都市活動を支える重要な社会基盤施設を担当する部局として、何より市民の理解と協力をより一層積極的に得ながら、効率的な事業執行にむけ、職員一丸となって努力する所存です。
札幌市の下水道事業に貢献
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