建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年2月号〉

INTERVIEW 


港湾は日本経済の鍵

伸びゆくアジア諸国と日本の港湾

中部地方整備局 港湾空港部 港湾空港企画官 堀田 治

堀田 治 ほりた・おさむ
昭和37年6月生
熊本県出身
平成1年4月 建設省採用 港湾技術課
平成3年4月 第三港湾建設局
平成5年4月 港湾局計画課安全企画係長
平成6年10月 外務省経済協力局開発協力課鉱工業班長
平成9年1月 航空局飛行場部計画課専門官
平成12年4月 第四港建設局宮崎港空港工事事務所長
平成14年4月 港湾局計画課長補佐
平成16年4月 総合政策局事業総括調整官室交流連携事業調整官
平成18年4月 中部地方整備局港湾空港部港湾空港企画官

我が国の中央に位置する中部地域は、一大工業地帯として着実に発展を遂げてきたが、さらに愛知万博の開催などにより地域経済は新たな局面を迎えてきた。現在依然として、貿易額、量とも順調に増加し、我が国経済の再生の力強い牽引役として機能している。この中部では、中部国際空港が開港し、スーパー中枢港湾の整備が促進されるなど経済を支えるインフラが整備されつつあるが、経済を支える重要なインフラである港湾、空港において今後どのような整備と発展が展望できるのか、中部地方整備局港湾空港部の堀田治港湾空港企画官に語ってもらった。
――中部・名古屋は、トヨタ自動車の好業績もあって、景況は堅実との印象がありますね
堀田
 愛知万博は中部経済の新たな展開の始まりだと思います。トヨタをはじめ産業界も元気で、中部国際空港がオープンしてから、空港取扱貨物量も順調に増えているという状況です。これまでは容量制約などで本来中部で扱うべきエアカーゴが非効率な形で動いていたのですが、中部国際空港によりフレーターが多く就航できるようになり、より経済的な荷動きが可能となったためだと思います。
 一方、中部国際空港と同様に、いま話題になっているスーパー中枢港湾も地域の大きな期待を受け、今、名古屋港の飛島埠頭の第二バースの整備や四日市港の臨港道路の整備が進んでいます。その整備効果についてはまだこれからですがこれらのインフラが地場産業の活気と相まって、さらに今後の我が国経済を牽引していくことを確信しています。中部に限ったことではありませんが、物流が経済の足腰であることは間違いありません。
――日本一の取扱高ですから、日本一の活況を呈しているのでは
堀田
 物流に活気があることはもちろんですが、その意味を考えていくことも重要です。物流と一口に言いますが、人・物・情報・資金というものはセットで動くものだと思うのです。物の流れの背景には、人の交流や情報交換、資金の循環、経済活動の結果進んださまざまな環境整備などがあり、物流はそれら総合的な経済現象の現れ方のひとつだと考えます。したがって、中部圏における物流は単に立地企業の活動の結果ではなく、中部圏という大きな経済圏あるいは我が国の国際的な経済活動の現象と捉えた方がより適切だと思います。
 その意味では、中部の物流が陸、海、空のモードで大きく飛躍しつつあると言うことは極めて象徴的な出来事であると思います。こういった重要な経済インフラを私たちがテコ入れしていくことは、非常に重要でありまた広い意味を持つものであると認識しているところです。結果的には防災の取り組みなどとも相まって、我が国の「経済の安全」を保障することになるのではないでしょうか。万博後のこれからも、高規格幹線道路ネットワークの充実、中部国際空港のさらなる機能増強、そして伊勢湾における海上物流機能の向上など、経済インフラプロジェクトの推進が重要です。
――限られた中枢港湾の一つですから、他の港湾の見本となるような整備や運営が求められるのでは
堀田
 伊勢湾のスーパー中枢港湾は東京湾、大阪湾とともに我が国の新たなる挑戦です。その中でも先頭を切って進んでいる部分もあり、その意味では荷が重いところもありますね。しかし、例えば飛島コンテナターミナルは、現地で本格着工してからわずか3年半で供用したのですが、水深16m岸壁としては非常に画期的でした。ジャケット工法という施工法を採用したのですが、これによって、施工期間が大幅に短縮されるとともに、関係者の協力のもと非常に早い供用が可能となりました。
 現地のTCBなど民間企業のがんばりもたいしたものだと思います。我が国初の半自動化コンテナターミナルはまさに中部でなければ実現しなかったと思いますし、これから全国のモデル的な取り組みになる可能性を秘めています。現時点では半自動化ですが、全自動化の実験も進んでいるところです。
――全自動化実験は、国内でも初めてでは
堀田
 そうですね。シンガポールをはじめとする海外ではすでにIT化による省力化がかなり進んでいますが我が国はこの分野では非常に遅れているといえるでしょう。半自動化にしても日本では全く初めての取り組みで、様々なシステムを開発し、ようやく実用化されました。例えばヤードでコンテナを積み直しする作業を、レール無しのタイヤで自走するトランスファークレーンを遠隔操作する半自動化の技術があるのですが、これはまさに自動車技術を含む様々な技術の応用で、シンガポールなどでも実現できなかったものです。
 全部で11の設備を、わずか数名でオペレーションを行うなど徹底した効率化が図られています。
――現在、特に東南アジアのハブ化も進みつつあるなかで、我が国の国際競争力の強化に向けて中部の取り組みがますます注目されるでしょう
堀田
 まずは、このスーパー中枢港湾としての名古屋港、四日市港の連携を含め、確実に機能するかたちを作り上げることが重要です。現在は飛島で2バース目が整備中ですが、この取り組みを完成させ、成功させることがまずは最も大切だと思っていますしかし、スーパー中枢港湾における真の主役は国ではなく、関係する民間の皆様方などであり、極論すれば国はいわばお手伝い役です。地域の関係者の皆様のご尽力が無くては、港湾コスト3割削減など到底無理な話です。
 また、背後圏の産業活動の状況や港湾の利用状況を見ながら、名古屋のコンテナターミナル全体をどのように位置づけ、整備するかも課題です。現在は、ベースカーゴ中心の荷動きですがさらに将来的にはトランシップを加えた商業港的な基盤をどう育成するかもも論点になるでしょう。
――コンテナ貨物の動きがある意味で日本の経済のバロメータになっているのでは
堀田
 そのようなところはあると思います。しかし、コンテナ貨物以外のバルク貨物なども経済にとっては非常に大切なのです。ある意味ではコンテナ以上です。
――どうしてもコンテナ貨物に目がいきがちですが
堀田
 バラ荷貨物というのは箱詰めされる前の製品の原材料を運んでいるわけですが、。
 有用な資源をいかに調達するかは国際的な競争下にあり、これらを低コストで確実に沿岸部に導入し、企業に対して経済的に提供するかが資源小国である我が国産業の重要なポイントです。今まで資源産出国であった中国が資源輸入国になるなど、国際的に大きな動きがあるなかで日本の重厚長大産業もその国際的なポジションを変えつつあります。ある意味で、海運の輸送料は非常に安いですから、沿岸部で優良の資源を産出しているようなものと考えるならば、アジア諸国の経済が伸びて人件費が高くなっていくのとともに、日本国内であっても産業の国際競争力は向上する可能性があります。事実、海外進出企業の国内回帰のような現象も起こっています。大事なことは、リーズナブルな価格で世界品質をリードすることだと思いますが、そのための「日本」のポジションを常に意識しておく必要があります。
――ある企業が完成品をつくるにも、部品を作っている工場が周辺にあり、それらは港で原材料を調達しているという発想ですね
堀田
 例えば、それほど拘る必要のない材料は、単純に諸外国から調達することができるでしょうが、品質の高い材料を確保する必要がある場合は、できるだけ原料から品質コントロールができる体制があった方が良いのです。そこに企業さんの歴史的なノウハウが込められていますし。また、近年は団塊世代の大量退職に伴い、企業が必死に技術の継承を進めています。技術をいかにして若い世代に伝えていくか。活力ある民間企業はむしろ若い人を大量に採用し、そこに団塊世代のノウハウを伝承して次につなげようと必死です。それは未来にも継承されていくものです。これらの動きは、我が国の底力を将来にも持続させようと言う我が国産業の戦略的な思想に基づいていると思っています。
 スーパー中枢港湾や中部国際空港というものは、そうした将来にわたる経済活力の中で初めて活き、また活き続けてゆくものです。
――港湾で今後取り組むべき点とは
堀田
 港湾自体が旧体質をひきずっている部分があるので、それを変えていく必要があります。今、最先端のターミナルのオフィスをみると、全く今までのコンテナターミナルのイメージとは違い、非常に近代的なハイテクオフィスとなっています。これからは、職場としての港のイメージも大きく変わると思います。今後、次の若い人たちが魅力を感じられるような、スマートな職場になっていくことでしょう。
 その意味では、様々な変革も起こっていく可能性があり、それがみなとの効率的な運営や様々な民間活動の高収益体質に繋がっていくのではないかと思います。スーパー中枢港湾はまさにこれらを加速して行こうという取り組みでもあります。港湾では、力強い民間の皆様の取り組みの結果、より魅力と競争力のある物流産業の形態が生まれてくることを期待していますそして、このような動きのなかで必要なものを整備していくということでしょう。
――ところで、港湾と市民生活の関係も変わりつつありますね
堀田
 今までは、開発によって環境をつぶしてきた面もあり、それは経済活動優先という発想が背景にあったのですが、これからは潮風を浴びながら快適に暮らし、観光振興の拠点にもなるような「住んでよし、訪れてよしのみなとづくり」に取り組まなくてはなりません。名古屋港ではガーデンふ頭などが成熟してきており、イタリア村などもでき、一昔前とは全くその雰囲気もまた地域における意味合いも変わってきています。このような事例は全国でたくさんあり、港湾を拠点とした地域振興も地域にとっては非常に大切なものとなってきています。
 ともすれば、港は庶民の日常からは遠いイメージがあります。広い土地がたくさんあり、立地しているのは企業ばかりであるため、一般者からは縁遠い印象で、内部の事情はわからないという意識が強いと思うのです。我々としては、理解を深めていただく努力をしながら、市民の皆さんに満足しいただけるような空間形成や、少子高齢化社会における地域活力の拠点性の向上、といった取り組みを進めていかなければならないでしょう。
――港というのは、実際には生活に関連しているのですね
堀田
 そうです。生活に密着した部分が実はたくさんあり、非常に魅力ある空間で、背後地域と連携した観光振興の拠点としても非常にポテンシャルが高いと思います。
 例えば、山と海との交流をもっと進めていくと、非常におもしろいプログラムがたくさん組めるのではないかと思います。したがって、海や陸が一体となった地域のあり方を考え、陸海が一体となった地域振興策というものも考える必要があります。
――名古屋港での具体的な取り組みは
堀田
 例えば、中川運河の活用があります。愛知県には都市型の運河が良好な状態で残っているのですが、これを今後の地域振興にどう活用していくかを考え、今後とも研究する必要があると思います。地元でも運河を生かそうとの動きがあるので、それをサポートしていきたいですね。
 そのほか、例えば知多半島にも様々な島や食・景観などの資源が豊富にがありますが、それらの離島や地域を含めてネットワークを形成し、ユニークな地域振興ができないものかと思っています。都市に近いという立地を必ずしも十分に生かし切れていないという大きな課題がありますが、これからの地域振興のモデル的な拠点として捉えて、われわれとしてもサポートしているところです。
 また、三重県の尾鷲港周辺では、熊野が世界遺産に指定されたことで、それを意識した地域づくりを進めていますが、このような動きとの連携も大事です。今までほとんど意識されていないのですが、海にも「海の古道」があり、実は数百年間変わらない風景とともにタイムスリップ体験ができますし、東尋坊にも負けないほどの景観資源がいわば眠っています。これらを発掘し、その価値を全国に発信していくべきでしょう。もちろん、大規模地震や高潮などの防災面における備えも当地では極めて大事であり、耐震バースや海岸・防波堤・防潮堤整備を進めていかければなりません。
――半田などは空港も近く、立地条件は理想的ですね
堀田
 空港によって地域の交流拠点の配置が変わり、条件不利と思われていたエリアが非常に活性化する可能性を秘めるようになったりするので、まさにこれからだと思います。
 静岡では、やはり清水港で、コンテナ輸送を中心として非常に活気があります。位置も名古屋と東京のちょうど中央で、ローカル貨物を取り扱う上では非常に重要です。
 さらに言えば、静岡県は関東と中部の間で大きな産業集積を有する重要なポジションにあります。その中でも清水港や御前崎港などは、背後の道路ネットワークが着実に整備され、産業立地も進んでおり、位置的にも物流拠点として非常にポテンシャルが向上しつつあります。このように、中部は地の利も良く、まだまだこれから成長していくエリアだと思います。

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