建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年2月号〉

年頭所感

年頭所感

国土交通大臣 冬柴 鐵三

新年のはじまりにあたって 平成19年という新しい年を迎え、謹んで新春のごあいさつを申し上げます。 昨年を振り返りますと、「平成18年豪雪」や「平成18年7月豪雨」、北海道佐呂間町等で発生した竜巻などの自然災害、エレベーターの事故などにより、多くの国民の安全・安心な暮らしが脅かされました。国民の生命・財産を守ることは国土交通省の重要な使命であり、引き続き全力で取り組んでまいります。 一方で、我が国経済は長い停滞のトンネルを抜け出し、新たな「新成長経済」のステージに向けて離陸しようとしています。昨年誕生した初の戦後生まれの首相のもと、世界に誇りうる美しい自然に恵まれた長い歴史、文化、伝統を持つ我が国を、子どもたちの世代が自信と誇りを持てる「美しい国、日本」とすべく、新しい国創りに取り組む時がやってきました。 国土交通行政は、国土政策、社会資本整備、交通政策等幅広い任務を担っており、そのいずれもが国民生活に密着するものです。 こうした国土の将来像を踏まえ、国民の皆様の立場・視点から、時代の要請にふさわしい国土交通行政を推進するため、以下に申し述べる課題に取り組んでまいります。 安全・安心基盤の確立 近年の豪雨災害の頻発に加え、大規模地震の発生が危ぶまれるなど、我が国は自然災害に対して脆弱な国土条件にあります。また、累次の事件・事故等で大きく揺らいだ公共交通や住宅・建築物等に対する国民の信頼を早期に回復することが求められております。これらに対応し、安全・安心基盤を確立することは、国土交通行政の最重要課題の一つと認識しております。 自然災害に対しては、被害を未然に防止するための連続堤の整備等に加え、地域全体で氾濫被害を最小化させるための洪水氾濫域減災対策、道路等の基盤整備と建築物の建替えの一体的な推進を行う密集市街地のリノベーション、緊急地震速報の一般国民への提供など、ハード・ソフト一体となった対策を推進してまいります。 公共交通等の安全と信頼の確保については、運輸事業者の経営管理部門を対象に安全管理体制を評価する「運輸安全マネジメント評価」を実施するとともに、保安監査体制を大幅に強化する等、国による安全チェック体制の抜本的な強化を進めてまいります。 構造計算書偽装問題を踏まえ、建築物の安全性の確保を図るため、昨年は建築基準法、建築士法等の改正を行ったところですが、さらに、消費者保護の観点から売主等が瑕疵担保責任を確実に履行するための資力確保措置の制度化に取り組んでまいります。 また、海上における安全の確保や治安の維持に万全を期すため、海上保安庁の巡視船艇・航空機等の緊急整備や人的整備など、海上保安体制の充実強化を推進してまいります。 このほか、国際社会にとって大きな脅威であるテロ事件の多発、北朝鮮のミサイル発射や核実験実施発表を受けた制裁措置の実施といった情勢を受け、各国との連携も含め、陸・海・空の交通機関や空港、港湾、ダム等の重要施設に対する警備の強化など、テロの未然防止の取組み等を推進してまいります。

我が国の国際競争力の強化、観光立国の実現

 人口減少社会が現実のものとして到来した我が国において、国力を維持していくためには、台頭するアジアの活力を取り込むオープン化の取組みと、イノベーションの力による生産性等の向上の取組みを「車の両輪」として行っていくことが必要です。 オープン化につきまして、まずは日本がアジアと世界の架け橋となる「アジア・ゲートウェイ構想」を推進してまいります。具体的には、スーパー中枢港湾プロジェクトや大都市圏拠点空港、大都市圏における環状道路などの整備を緊急かつ重点的に進めるとともに、アジア域内における海上・航空輸送ネットワークの充実等、ハード・ソフト両面から、スピーディでシームレスかつ低廉な人流・物流体系の実現を目指します。 また、観光を21世紀の国づくりの柱にするため、観光立国推進基本法が制定されました。この夏までに同法に基づく基本計画を策定し、人が行き交う、開かれた美しい国づくりを進めてまいります。具体的には、2010年までに訪日外国人旅行者数を1,000万人とする目標の達成に向け、今後5年以内に主要な国際会議の開催件数を今後5年以内に5割以上増加させるとともに、2007年中に日中間の交流人口を500万人以上とするべく努力するなど、ビジット・ジャパン・キャンペーンの強化を行ってまいります。また、魅力ある観光地・観光産業の創出に向けた取組みの支援などを行ってまいります。 イノベーションにつきましては、交通分野、社会資本分野、防災分野、地域活性化の分野などにおいて、「世界一安全な道路交通社会」、「災害への備えが万全な防災先進社会」、「いつでも、どこでも、誰でも地域の情報が手に入る社会」などを、ICT(情報通信技術)基盤の利活用を通じて実現してまいります。

地域の自立と競争力強化

 地域の活力は我が国の活力の源泉であり、地域の活力なくして国の活力はあり得ません。知恵と工夫にあふれた地域の実現に向け、自ら考え、前向きに取り組むやる気のある地域を後押しし、地域の活性化を図ることは国政の喫緊の課題となっております。 本格的な人口減少社会の到来や東アジアの急速な成長等の中で、多様な広域ブロックが自立的に発展する国土を実現するために、国土づくりの長期的な指針である国土形成計画の策定に取組みます。さらに、国土形成計画の考え方に沿って、民間と連携した地域の発意による広域的な地域活性化を図るため、ハード・ソフト一体の地域自立・活性化総合支援制度を創設いたします。  一方、民間都市開発事業に対する金融支援・税制特例による戦略的・重点的な支援を実施し、良好な都市空間の創造、地域経済の活性化の実現を図るとともに、都市機能の街なか立地、空きビルの再生や街なか居住の推進などの中心市街地活性化の取組についても重点的に支援することで、全国各地における賑わいの創出を図ります。  さらに、地域の骨格を形成する高規格の道路ネットワークの整備により、医療、買い物等のサービスを広域的に共有するなど、地域間の連携・交流を強化するほか、都市・地域における安全で円滑な交通を確保するため、総合的な交通戦略に基づく、歩行者、自転車、自動車の環境整備、公共交通の導入及び利用促進、交通結節点の改善等の取組みを積極的に支援します。  地域公共交通の活性化・再生については、地域の関係者が総合的に検討し、合意形成した内容を実施する取組みに対し国が総合的に支援を行う仕組みづくり、DMV(線路と道路を走行できる車両)等複数の事業形態に該当する新たな輸送形態の導入促進のための環境整備を行います。  また、政府・与党申し合わせに基づき整備新幹線の整備を着実に進めるとともに、都市鉄道網の更なる充実や、産業活動の基盤となる港湾の多目的国際ターミナルの整備等を推進してまいります。  このほか、景観、自然、歴史、文化などの地域資源や個性を活かした多様で質の高い美しい地域の形成を目指して、景観法の活用による景観形成や、無電柱化、水辺や緑の保全・再生の推進を図ります。

柔軟で豊かな生活環境の創造

 急速な少子高齢化の進展と同時に人口減少が見込まれる中で、高齢者や障害者の方々を含め全ての人々がゆとりと豊かさを実感し、多様な社会参画や安全・安心な生活を可能とする、柔軟で豊かな生活環境の創造が欠かせません。  国民生活に最も密着した基盤である住宅については、昨年決定された住生活基本計画に基づき、国民の住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進してまいります。  さらに、昨年12月から施行されたバリアフリー新法に基づき、住宅、建築物、公共交通機関、歩行空間、都市公園等を通じた一体的・総合的なバリアフリー化を推進します。また、新婚世帯が子どもを産み育てやすい住まいの確保の積極的支援など、男女が出会い、家族を持ち、仕事をする支援として「巣づくり施策」にも取り組んでまいります。  地球温暖化問題については、低公害車の開発・普及、環状道路の整備、海運・鉄道の活用等グリーン物流の推進、公共交通機関の利用促進などにより、環境にやさしい交通の実現を図ります。さらに、省エネルギー法に基づく運輸分野、住宅・建築物分野の省エネルギー対策、国の庁舎における太陽光発電導入や建物の緑化、バイオマスのエネルギー利用を推進するほか、平成19年度に京都議定書目標達成計画の評価・見直しを行い、削減目標を確実に達成できるよう万全を期してまいります。また、アジア・太平洋水サミットを通じて国際的な水問題の解決に貢献してまいります。

国土交通行政の新たな展開

 国土交通行政を展開する上では、時代情勢を見据えつつ、不断に必要な見直しを行っていくという姿勢が極めて重要です。  公共事業については、これまでの改革努力を継続する中で、以上のような課題に対応すべく、真に必要な社会資本の整備を、重点化や効率化を徹底しながら実施するとともに、平成20年度の次期社会資本整備重点計画の策定に向けて議論を本格化させてまいります。  入札談合等の不正行為は決してあってはならないことから、一般競争入札の拡大と総合評価方式の拡充、さらにはその条件整備として入札ボンドの導入等の入札契約改革を推進するとともに、極端な低価格入札案件が急増し、工事の品質確保等に支障を生じかねないことから、総合評価方式の拡充、品質確保がなされないおそれがある場合の具体化等の緊急対策を着実に実施してまいります。  道路特定財源については、「道路特定財源の見直しに関する具体策」(平成18年12月8日閣議決定)に基づく見直しを進めてまいります。  海洋政策を総合的に推進するため海洋基本法が議員立法として検討されている中、昨年とりまとめた「国土交通省海洋・沿岸域政策大綱」に基づき、海上輸送の安全・安定等の施策を総合的かつ戦略的に推進してまいります。  なお、国会等の移転については、国会における検討に必要な協力を行ってまいります。  以上、新しい年を迎えるにあたり、国土交通省の重要課題をいくつか申し述べました。国民の皆様のご理解をいただきながら、ご期待に応えることができるよう、諸課題に全力で取り組んでまいる所存です。  国民の皆様の一層のご支援、ご協力をお願いするとともに、新しい年が皆様方にとりまして希望に満ちた、大いなる発展の年になりますことを心より祈念いたします。


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