建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年1月号〉

INTERVIEW

原点に立ち返り奇を衒わずに「有言実行」の道路行政が重要

「幹線網はつながってこそ機能果たす」「道路整備は信頼されるよう地道に着実に」

国土交通省 道路局 局長 宮田 年耕氏

宮田 年耕 みやた・としたか
広島県出身 56歳
昭和50年3月 京都大学院土木工学科修了
昭和50年4月 建設省入省
昭和57年7月 土木研究所構造橋梁部橋梁研究室主任研究員
昭和60年2月 大臣官房政策謀計画官
昭和62年1月 道路局企画課課長補佐
平成2年4月 中部地方建設局沼津工事事務所長
平成4年6月 中部地方建設局企面部企画調査員
平成5年4月 有料道路課建設専門官
平成6年4月 有料道路課有料道路訓整官
平成7年6月 企画課道路事業調整官
平成8年7月 建設経済局国際課長
平成12年7月 道路局道路環境課長
平成14年7月 道路局企画課長
平成17年4月 九州地方整備局長
平成18年7月 道路局長

平成15年度以降、公共事業のシーリングにともなう道路整備予算が削減されている。これにより、道路特定財源の税収と道路整備事業支出に差が生じ、「道路特定財源の余剰」がいわれるようになった。この「余剰」を背景に道路特定財源の一般財源化が政府の施策として検討されるなど、今、道路整備を巡る情勢は財源問題を軸に重要な局面にさしかかっている。道路に対する関心が高まる中、国土交連雀道路局は今後10年を見据えて「道路整備の中期ビジョン(案)」を提示、特定財源の見直しに関する検討テーマでもある「真に必要な道路整備』の議論に取り組む。7月11日付で新道路局長に就任した宮田年耕氏に、昨今の道路整備を巡る情勢や今後の道路行政のあり方などについて伺った。

――根幹的な社命資本である道路整備の必要性は言を待ちません。最近の道路整備に関する情勢についての感想などをお聞かせください
宮田
中央で報道されていることと地方の状況とはずいぶん差があることを、九州地方整備局長として地方に赴任していたときに感じました。幹線ネットワークはつながってこそ機能を果たすが、それが途切れている地域は、むしろ大きな損失を蒙っており、ネットワーク本来の力が発揮できていません。
例えば、東九州道などがその良い事例です。隣県なのに宮崎、大分両県の県庁間は、車では多分5、6時間はかかるでしょう。九州知事会が大分県日田市で開かれたとき、大分県から宮崎県をめぐる周遊ルートが未完成のため、宮崎県知事は隣接する大分県に行くのに宮崎空港から福岡空港まで飛行機で向かい、その後、九州自動車道と大分自動車道を乗り継いだりしているのです。
このように隣接する県の間で高規格道路がつながっていない地域があります。地域ブロックの知事会のような各県を集めた会議などがあるときは、東京で開いたほうが便利で、そのくらい隣接する県のつながりが薄い地域があるのです。隣接する県の県庁間の移動に、これほど時間がかかるところが残っているのが現実で、大都市圏に暮らす人々には考えられないことでしょう。いかにして高規格道路ネットワークが欠落している部分をつなぐかが重要な課題です。
一方、道路が十分に整備されていない地域の苦しさ、不便さというものに、思いを致すべきだと思います。
――道路特定財源の一般財深化は、特に地方での道路整備にとって大きな問題だと思いますが
宮田
道路特定財源は、余っているのではありません。公共事業のシーリングによって、余っているかのような状況が作り出されているのです。その一方では交付税がカットされ、地方自治体が事業を行いたくても、補助金を裏負担できない状況に追い込まれているのです。これもシーリングと同じ構図で作られた状況であるのに、公共事業が実施できず、しかも余っているなどという「偽りのキャンペーン」が繰り広げられ、それをそのまま一部のマスコミが取り上げ、「特定財源は余っている、補助金を出しても地方は事業をやりたくない」などと誤った情報を伝えています。
真実は、地方自治体が事業を実施したくてもできないのが実態であることを痛感しています。
――そうした実態の是正や解決が新局長として取り組む施策のポイントということになりますか
宮田
道路局企画課長を勤めていた当時(平成14年7月〜17年3月)から、「どんな時でも安心して通れる道路の整備」、「安全で早く通れる道路の整備、つまり高規格あるいは地域間幹線ネットワークの整備」、「ゆったり気持ちよく住める・歩ける町の整備」、「これまで作ってきた道路の有効活用とちゃんとした維持管理」が重要と主張してきました。
――それは、平成18年度の道路施策のキャッチフレーズにもなっている道路整備の原点である「道路ルネッサンス」という方針にもつながりますね
宮田
私は、これが国として進めるべき道路行政、道路事業の柱だと思うのです。要するに、道路に求められていることを着実に実現していくことが大切です。道路は、社会資本の中でも中心になる施設で、原点に立ち返って、奇を衒わず地道に、着実に信頼されるように取り組むということです。
――地域間格差の問題が指摘されています
宮田
ネットワークが整備されていない地域の格差感は大きいでしょう。同時に、首都圏の三環状の整備の遅れなどにみられるように、一人当たりの渋滞時間でいえば都会でも同じように格差を生んでいると思います。地域間競争という競争社会では、地域がそれぞれ個性を出してよりよくなるようにがんばり、この意識がこれからの日本の活力になっていくと思う。競争するためには同じスタートラインでなければなければならないが、地域によってスタートラインが異なる状況は是正しなければならないと思う。
実際にネットワークの密、疎ということで、道路が整備されていないという格差感は大きいと思う。首都圏の三環状の整備の遅れも同じように格差を生んでいると思う。一人当たりの渋滞時間でいえば都会にしわ寄せが来ているということかもしれない。地域間競争という社会では、地域がそれぞれ個性を出してよりよくなるようにがんばることが重要であり、この意識がこれからの日本の活力になっていくと思う。ヨーイドンで競争するためには、同じスタートラインで競争を始めなければならないのに、スタートラインの位置が地域によって異なるという状況は是正しなければならない。
――格差是正のための財源配分が必要との指摘もありますが
宮田
公共事業のシーリングと、地方交付税がカットされていることで地方公共団体の投資意欲を奪っています。国の予算をどう配分するかという議論の前に、こうした状況の解消が先決ではないかと思います。道路特定財源の使い道には、まだ工夫の余地があると思うし、その上で新たな手立てを考えれば良いのであって、納税者に最も理解される、あるいは地域が最も良くなるような特定財源の使い方に進化させていけば良いと思います。
一方、これからの道路整備においては、公共投資で景気を刺激し、税収を上げるというフロー重視の考え方ではなく、今後の社会資本をどのように充実させ、国力や生産性を上げていくかというストック重視の考え方をする必要があります。
ストック重視に当たっては、地域格差の是正が前提で、各地域がそれぞれの個性を生かしながら競争していくための基礎的条件を整えなければ地域格差は広がるばかりです。
この基礎的条件を議論すれば、おのずと真に必要な道路とは何かが見えてきます。例えば、医師を含めた高度医療施設を各地域に配置するのは不可能でも、基幹ネットワークを整備すれば、高度な医療サービスを広域的に共有できるようになります。
――自動車ユーザーなど827万人から道路特定財源の一般財源化反対という署名が集まったとのことですね
宮田
昨年末の政府・与党の「道路特定財源のあり方に関する基本方針」に書かれている重要な点は、「真に必要な道路は整備する」ということと「納税者の理解を得て検討する」という2点です。この2点を念頭に検討するということが極めて重要で、もちろん、当たり前のことと思います。800万人以上の一般財源化反対の署名は、「高い税金を払っているのに、自分たちの利益に関係のないところに使途を拡大するというのは理解できない」という意思表示として受け止めたいものです。
当然、道全協に関わられる全国の首長の方々もいろいろなところに要望に行かれ、地域の実態を生の声で伝えたことも重く受け止められていると思います。12月に向けて再度必要な検討を行うということなので、また「真に必要な道路は作る」、「納税者の理解を得る」ことを前提に議論していかなければなりません。
――見直しに関する基本方針でも、「真に必要な道路は整備する」とされていますが、先ごろ公表された「道路整備の中間ビジョン(案)」でも「真に必要な道路整備についての議論のために」とされていますね
宮田
このビジョンは、広く議論してもらうための素材として提供したものです。そこには、道路局があるいは国土交通省が、今後こうしたいといった願望は一切明記していません。それを前提として、是非とも理解していただきたいものです。このビジョンをベースに議論され、「真に必要な道路というのはこういうもの」といったコンセンサスを得るための素材になればと願っています。
――そのビジョンでは、「10年間で58兆円」という数字が提示されています
宮田
58兆円の中には、新規の道路整備費は含んでいません。現在、進めている事業を全うするには、維持管理を含めて58兆円が必要であるという客観的な試算結果であることをご理解いただき、議論していただきたいものです。
――現在の事業中のもの以外にもさらに整備しなければならない道路ネットワークはあると思います。今後10年間の事業についても、明確にする必要があると思いますが
宮田
先にも触れた九州の知事会が、5月末に九州の今後あるべきネットワークについて提案し、その中で緊急アピールをまとめています。そこには「いつかできるだろう」から「10年間でこれだけ作るという行政に変えてほしい」という、象徴的な要望が明記されていますが、これは私としてもまさにそうだと思います。
 「いつかできるだろう…」と待っていたのでは、いつまでたってもできないのです。これでは住民もたまりません。逆に、何年までにこの区間の道路ができると分かっていたら、効率的な工場立地や商業立地も可能です。こうしたことを考えて「道路事業を進めてほしい」という要望なのです。まさに、有言実行の道路行政が求められているものと受け止めています。
――平成20年度から新たな社会資本重点整備計画がスタートしますし、道路特定財源問題への対応を含めて、今年度から来年度は重要な局面だと思います。当面の道路関係施策のポイントは何ですか
宮田
今の社会資本重点整備計画は、平成19年度末で終了し、それにあわせて特定財源の暫定税率も適用期限を迎えます。また、現在の5ヵ年計画下での大きな課題については、それまでにできるだけ施策の方向を示す必要があります。
そうした意味では平成19年度がポイントの年になると思われます。さらに、これまで5年間は道路公団の民営化が大テーマでしたが、民営化が実現した今、「民営化して何がよくなったのか」という利用者の問いかけに対して、会社側は努力するのはもちろんですが、国側としても、さらに利用しやすい料金制度などの検討が必要になると思います。
こうした取り組みが、平成20年度から始まるいろいろな施策の種になればと思います。また、道路特定財原問題については、与党の議論の中でも利用者に対する施策としていくつかのテーマがあります。国民の感覚について政治がどのように考えているか、敏感に感じているかという項目を行政として的確に捕らえて展開するということでしょう。
――ストックの維持管理、有効活用が今後の道路整備の中でひとつのポイントになってくるのではないかと思いますが
宮田
そのとおりです。東西ドイツの統一後、東西に分かれる前に建設されていたアウトバーンの旧東ドイツ地域の維持管理が非常に悪く、統一ドイツが膨大な資金を投入して再度構築することになりましたが、途方もない予算規模になったとのことです。ストックの維持管理に対する意識の有無で、どれくらい長く使えるか、うまく使えるかという差が出る証左だと思います。
また、「荒廃するアメリカ」などといわれた直後に留学の機会がありましたが、ニューヨークの高速道路がどこも次々と通行止めになっていたものでした。国情不安で夜も歩けず、道路はガタガタになるなど、社会資本が荒廃することで社会自体も荒廃しているという感じがありました。どういう局面でどのようなことが重要かということを、みながよく意識しなければなりませんね。
――国民の道路に対する関心、親近感が高まれば、道路に対する認識や道路の必要性についての意識も高まるのではないでしようか
宮田
まさにボランティアとして、かつてのように奉仕の心を地域が取り戻しつつあります。地域のアイデンティティをしっかりしないと、競争社会の中で埋没してしまうということと裏腹の事例だと思います。それが、道路や河川、地域のいろいろな政策などに対するボランティア、奉仕というものを通じて、地域を守り愛着を持つという形で広がりつつあることに期待しています。

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