寄稿
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この1年間に私たちの組織及び事業範囲が、大きく変わりました。すでにご承知のことと思いますが、昨年の10月に日本道路公団が、東、中、西の3社に分割民営化され、私たちは西日本高速道路株式会社として関西から西を担当することになりました。
また、私たち田辺工事事務所の担当する事業範囲も変更となりました。これまでは、みなべICから白浜ICまでを担当していましたが、この2月7日の「第二回国土開発幹線自動車道建設会議」で、田辺〜白浜間が新直轄方式により整備されることが決定したので、当工事事務所の担当区間は、みなべ〜田辺間の延長5.9kmのみとなりました。
このみなべ〜田辺間の進捗状況は、現在は発注工事全体で約80%の進捗率で、平成19年度内の供用を目標に鋭意促進しているところです。今年度内に舗装・標識・建築・電気・通信・造園等の供用に向けた全ての工事を発注し、一日も早い開通に向けて施工を進めているところです。
延伸による効果については、平成15年12月に開通した「御坊〜みなべ間」で顕著に現れています。紀南地域と大阪・和歌山との時間距離が大きく短縮され、国道42号の交通量が減少し、渋滞緩和となっている他、事故の減少といった間接的な効果も見られます。観光面においても、白浜や世界遺産の紀伊山地の霊場と参詣道などへの観光客数も増加しています。
今後ともより多くの観光客の方々に来ていただき、そしてリピ−ターとなってまた訪れていただくためには、「紀南地方が近い」という印象を持っていただくことが、非常に大切であり、まさに阪和道は和歌山県の観光の発展に繋がる「自立の道」でもあります。
一方、地域の皆様との関連でいえば、いつ何時おきてもおかしくない「東南海・南海地震」の際に、紀南地域が孤立しない為の「命の道」としての役割も担っているわけです。
このためにも、一日でも早く開通できるよう組織一丸となって努力して行く考えなので、今後とも、皆様方のより一層のご支援、ご協力をお願いいたします。
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▲完成した芳養工事(土工部) | ▲完成間近の芳養川橋・芳養高架橋・芳養橋 | |
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▲田辺IC付近を望む | ▲連結する田辺西バイパス施工状況 | |
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▲みなべIC付近を望む | ▲下谷池橋 |
田辺工事事務所は、平成6年11月1日付けで武蔵坊弁慶の生誕地である和歌山県第二の都市、田辺市(人口85,063人:平成18年7月現在)に開設して事業を行っています。事業は、当初は近畿自動車道松原那智勝浦線(御坊〜すさみ)を担当していましたが、御坊〜みなべ間21.0kmが平成15年12月14日に開通し、また平成15年12月25日の第1回国幹会議で近畿自動車道松原那智勝浦線(白浜〜すさみ:24.0km)の新設工事が新直轄路線となり、さらに平成18年2月7日の第2回国幹会議で近畿自動車道松原那智勝浦線(田辺〜白浜:14.0km)の新設工事が新直轄路線になり、現在では、近畿自動車道松原那智勝浦線(みなべ〜田辺:5.9km)の新設工事のみ担当することになりました。
命の道として近畿自動車道紀勢線寄せられる期待
今世紀前半にも発生すると言われているM8.4の南海地震(今後30年間の発生確率50%)や、M8.1の東南海地震(今後30年間の発生確率60%)で発生する津波により、海岸沿いの幹線道路が寸断して紀伊半島が孤立する危険性が指摘されています。また、今後発生する南海地震の津波の高さは1946年に発生した南海道地震(M8.0)の1.7倍で、被害規模も過去よりも大きくなると想定されています。地震の規模がM8.4の場合、国道42号線で全体延長213kmのうち、被災箇所は48箇所、約33kmが被害を受けると和歌山県では推計されます。
このため、中央防災会議では『東南海・南海地震防災対策要綱』が平成15年12月16日に制定され、規格の高い道路の早期整備が位置付けられました。和歌山県でも高速道路などは地震発生時の緊急輸送路として地域住民の安全・安心に果たす役割はきわめて大きいとして、近畿自動車道紀勢線を“命の道”と称して、早期完成を待ち望んでいます。
一方、紀伊半島の紀南地方は、恵まれた観光資源や農林・水産物も多く、京阪神地方との時間短縮が望まれていますが、和歌山県における高速道路の整備状況は、全国平均と比べ大きく遅れています。県の試算によると、平成16年7月1日に世界遺産として登録された『紀伊山地の霊場と参詣道』の熊野地方は、那智勝浦で400万人/年、本宮で100万人/年と、観光客の倍増が見込まれています。これらの観光客の交通手段について、平成17年に白浜温泉を利用した約330万人の実態から見ると、概ね9割近い人々が自動車を利用するものと考えられ、アクセス道路の整備が急務となります。
また、和歌山県日高郡みなべ町は、日本一のブランドである南高梅の産地で、東京の築地市場でも高い相場で取引されています。しかし、昭和59年以前は、一般有料道路「海南湯浅道路」「湯浅御坊道路」が開通していなかったために東京市場が遠く、シェアも21%(昭和56年)と低い状況でしたが、これらの道路が開通し、1時間20分の時間短縮の効果によって、平成12年には47%と倍増しました。
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▲岩盤切削機 |
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▲先行芯抜き工法 |
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▲割岩工法 |
さらに、紀南地方の勝浦漁港は、生マグロの水揚げ量が日本一で、すさみ漁港にはケンケン釣りで有名な『もちかつお』もありますが、消費地の京阪神には国道42号を利用して輸送しているため時間を要しているため、より早く京阪神や東京に輸送できる高速道路の整備が望まれています。
阪和道は、紀伊半島を一周する『近畿自動車道紀勢線』計画の一部を担う路線でもあり、東南海・南海地震に備えた防災上の必要性と、地域相互の産業・文化・観光等の振興と発展に寄与することから、和歌山県は『自立の道』と位置付けています。
このように「命の道」「自立の道」として、非常に重要な整備路線であり、夏の海水浴シ-ズンになると、現在はみなべICをおりて一般国道42号を利用して白浜方面などに向かっていますが、田辺バイパスまでの約10km芳養地区、稲成地区などは交通渋滞が著しく、相当の時間を要しています。それが、田辺までの延伸によって、みなべICから約5分で到着でき、直接田辺バイパスに接続しているため、交通渋滞の緩和も期待できます。これによって、渋滞を敬遠していた観光客も誘発され、大きな経済効果が期待できます。
整備区間は、総延長5.9kmで土工延長2.5km(42%)、トンネル延長1.9km(32%)、橋梁・高架橋延長1.5km(26%)の構造物比率約60%と、非常に高い路線となっています。また、路線の大半が切土区間となっており土量約100万m3の70%を場外に搬出しています。そのため、場外土捨場の確保が必要となり、各行政機関の協力を得て確保しています。
平成15年12月の工事発注を皮切りに現在までの工事進捗率は、平成18年11月1日時点で80%です。今年度は、残る舗装工事・標識工事及び施設工事を発注することで、全工区が契約済みとなります。
現時点では、土工工事・トンネル工事・橋梁工事を9件発注しており、そのうち、すでに土工工事2件と橋梁工事1件が竣工したところです。
この工事区間の技術的特色は、田辺IC工事において人家連担地区での硬岩掘削が挙げられます。周辺に小学校やデパ-トなどがあるため、発破による振動を避けなければならないため、日本には6台しかない岩盤切削機(3500級大型のもの重量145tは日本で2台)を使用して山を切り下げています。この岩盤切削機はリモコン操作で稼動しており、重機の下にビット134本/台がついた回転ドラムがアップライトに回転し、掘削しています。約300m3/日・台の能力で施工を進めています。
整備区間には芳養トンネルL=987mと高津山トンネルL=906mがあり、芳養トンネルは直上に芳養団地があるため、振動抑制工法として先行芯抜き工法を用い、また直下を通過する時は割岩工法を採用することで対処しました。また、田辺市廃棄物最終処分場の直下も通過するため、低土被り対策及び環境対策として、止水対策なども実施しました。
また、高津山トンネルは砂岩と泥岩の互層地質となっており、かなり脆弱な地質のため坑口部及び低土被り部には、長尺鋼管先受け工法の補強工法を採用しています。現在、延長906mのうち、約700mまで掘進しており、今年度内の貫通を目指しています。
橋梁は、みなべ町域に位置する下谷池橋が鋼ポータルラーメン橋(L=42m)で、大阪工業大学との共同研究で施工及び性能実験を進めています。この橋梁は支承、伸縮装置、落橋防止装置が不要となるため、経済性だけでなく騒音・振動抑制、車両走行性の向上にも効果があります。また、主桁が橋台に剛結されているため、地震による落橋の恐れが無くなり、大規模地震にも強くなります
南部高架橋(PRC7+8+8径間連続2主版桁橋)は、その上部工施工にあたり大型移動吊り支保工による1径間毎の分割施工で架設しています。大型移動支保工架設では、サイクル施工に先立ち、橋脚頭部の橋体断面を先行施工制作し、その上に支持台を据え付け、支保工全体の荷重を支持します。支保工組立に約1ケ月を要しますが、支間部のサイクル施工は、1径間を2週間で、支間の地形や交差道路などに影響されることなく進捗できます。また、屋根・壁設置で全天候型となり、品質・工程管理面に優れ、施工径間数が多くなるほどコスト低減につながる経済特性も併せ持つ工法です。