建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年12月号〉

INTERVIEW

新たな住宅政策へ安全・安心な北海道らしい住まいづくりに向けて(前編)

ユニバーサルデザインや子育て環境の整備で住宅レベル向上に期待

北海道 建設部 住宅局長 中岡 正憲氏

中岡 正憲 なかおか・まさのり
昭和27年生
北海道大学大学院修了
平成13年建設部建築指導課長
平成15年建築整備室建築課長
平成16年砂防災害課長
平成17年建築整備室長
平成18年現職

北海道建設部住宅局は、少子高齢化の対応やまちなか居住の促進を図る道営住宅整備、リフォームによる質の向上と住宅流通の活性化を促す住宅づくりを通して、地域のまちづくりに貢献している。住宅局長の中岡正憲氏に、道営住宅の現状と今後の展開についてお伺いした。

▲借上道営住宅(仮称)北26条団地
――公営住宅の今日の供給状況と整備率について伺います
中岡
住宅建設5ヶ年計画を平成17年度まで進め、最後の8期計画では5年間で29万戸としていましたが、17年度末での達成率は約8割に止まりました。新築も、最近は年平均では5万戸で、以前には7万戸という時期もあったことから、量的には思ったよりも低く、建築経済的に見るとやはり道内の景気状況を反映していると言えます。逆に言えば、成長率が低いのは、建設投資がそれだけ行われていないということでしょう。公営住宅は予定していた年間戸数3,300戸という数字に達していない状況です。経済状況の影響もあり、伸び悩んでしまったと言えます。
――自治体では、過疎化なども影響しているのでは
中岡
世帯人口が、郡部では少ないということだと思います。確かに高齢化も進んでいますが、人口全体が増えていかない状況です。世帯でも単身世帯が増えており、非常に残念です。
反面では、質の面で誘導居住水準という望ましい水準を定めていましたが、約8割という達成率で広さや設備、バリアフリー化などがかなり進んでいます。したがって、戸数は減っていますが、レベルは高い物が出来ており、次の世代に引き継ぐ住宅の質が上がっている状況にあります。
しかし、今後の展望では、向こう5年間くらいは世帯構成も人口もあまり変わらないと思います。むしろ人口も減ってきているので、札幌、旭川、釧路などの人口が集中している地方都市で建設が進んでいくものと思います。
したがって、高齢者の介護付住宅をどう増やしていくかが課題となるでしょう。
――住宅の建設に当たっては、コストを含めた投資効果の見直しも必要となるのでは
中岡
そうです。全般的には戸数、棟数は世帯数よりも10%ほど超過していますが、結果的には居住できない物を含めた空き家が多くなっているので、それらをどう活用・改善していくかが課題となっています。
ただし、それは民間の一般住宅も含めての課題だと思います。中には、高齢になった方が、持ち家を貸家にも出来ないままマンションに引っ越し、放棄してしまうというケースもあります。
また、古い住宅は断熱効率が悪いため、改修するために1,000万円以上もかかるなど、改修も大変です。それを、例えば誰かが改修して賃貸供給できるような市場サイクルが、民間住宅に形成されなければ、築20年や30年といった戸建て住宅がそのまま放置されることになります。結局は、それが使用されないために、郊外がさらに衰退してしまいます。
これは、民間も含めて対策を考えなければなりません。また、断熱改修をしてもそのまま使うことが出来ず、浴室や洗面台など設備のスペックが大きく変わっており、車椅子で通れないような狭い廊下もあり、改造には様々な技術開発が重要です。そうした技術水準が向上しなければ、今後とも改善は難しいと考えています。
特に札幌近郊にある郊外の住宅団地では、大麻、北広島を含めて空き家が多くなっており、我々も何かお手伝いをしたいと考えており、それらを使い回し再利用していくということも考慮していく考えです。
▲実際の売買物件での詳細現況調査と性能向上リフォームの様子
――古くなった部分の再利用コストは、どれだけかかるのですか
中岡
不動産鑑定によると思いますが、結局リフォームをしても、例えば当初は2,000万円で造ったものの、年数の経過で価値が500万円にまで下がった住宅を、仮に1,000万円で改修したところで、なかなか転売出来ないのが現実です。価値価格の見直しのような機能が住宅市場で動かなければ、なかなかリフォーム投資は進まないものと思います。
それは、不動産流通における価値尺度との考え方にもなるともの思います。買い手にとってもリフォーム後には、ある程度は価値が上がるといったコンセンサスが出来ていかなければ、簡単には市場ルールにはならないと思います。
例えば北広島の道営住宅は、一戸当たり1,400万円程度もかかってしまうのです。廊下を前に出してエレベーターを増設して階段室であったものを一部壊して、平坦にして入れるよう造り直すなど、大がかりな作業になるからです。したがって、決して安価なものではないのです。30年くらい経過した住宅を、さらに30年使おうと1千数百万円の改修費をかけた以上は、その価値を上げなければ、逆に中途半端な修繕であまり使い物にならないものに止まる可能性もでてきます。
そのため、改修時には、バリアフリーやユニバーサルデザインなど、将来の介護にも対応できるレベルにしなければ、結局は投資効果がないものとなります。手すりを付けるだけでは、むしろ邪魔になることもあります。このように、既存の物を改修するというのは非常に困難が伴います。
――今後は少子高齢社会に予め対応したかたちで造っていくことが必要ですね
中岡
当然、新築に当たっては、高齢者の介護の必要もあり得るので、それに対応したかたちの供給はしています。少子化に対しては、若い方の入居や、団地の中で不安無く過ごせるよう社会連携の必要性が主張されています。そこで、今年11月に完成した根室の道営住宅「であえーる」団地では、子育てが出来るように例えば集会所を保育所的に利用できるよう貸し出し、地域の方も利用できるかたちでモデル的に実施する予定です。どこまで機能するかは、まだ予測できませんが、地域住民と子供達が安全に接触でき、親も安心して地域と連携できるように、様々な保育サービスなども提供していこうと考えています。
何しろ、どこの保育園もが一杯になっている状況で、地域で何が出来るのかを想定した場合、そうしたサービスも必要だと思います。少子化対策に繋がるかは分かりませんが、まちなか居住という意味で美唄駅や砂川駅などの周辺にあった石炭のヤードが区画整理され、様々な店舗も立地しているところに、道営住宅を配置するようにしています。そして、出来るだけ通いやすいように、高齢者だけでなく、若い方の通勤も便利にするなど、日常生活に困らない場所に配置することで、保育サービスも受けやすく、生活しやすい環境づくりを先行して行っています。
(以下次号)

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