建設グラフインターネットダイジェスト
〈建設グラフ2006年12月号〉
INTERVIEW
優れた景観の創出にこだわったデザイン設計
立山連峰を一望する臨港道路富山新港東西線
北陸地方整備局 伏木富山港湾事務所 所長 小泉 哲也氏
▲所長右側は社団法人「土木学会」『環境賞』のトロフィー
小泉 哲也 こいずみ・てつや
昭和36年8月15日
昭和
61年
4月
運輸省入省
平成
7年
4月
港湾技術研究所 主任研究官
平成
10年
8月
港湾局技術課 補佐官
平成
13年
1月
中部地方整備局 名古屋港湾空港技術調査事務所長
平成
13年
7月
四国地方整備局 高知港湾空港工事事務所長
平成
17年
4月
現職
富山県は、日本海側にあって日本の中心に位置しているが、さらに中韓両国とも近く東アジアブロックにおける日本の中心地ともいえる。それだけに、県内においても県外においても、その物流の中心となる伏木富山港の役割は重要で、特定重要港湾として指定されてから、すでに20年の実績がある。その20周年を機に、同港で海フェスタとやまが開催された他、施設整備においては、航路(幅270m)を横断し、東西の市街地を連絡する臨港道路の整備も進められており、地域の再生と同時に、流通機能の向上が図られている。その整備に当たる、伏木富山港湾事務所の小泉哲也所長に、同港の将来展望と施設整備について伺った。
――7月は海の日という記念日があり、こちらでは「海フェスタとやま」が開催されましたが、どんなイベントなのでしょうか
小泉
海フェスタとやまは、伏木富山港が特定重要港湾に指定されてから20周年を契機に、富山県と私たちが中心となる実行委員会が主催者となって開催しました。海フェスタとやまの当事務所がかかわる主要イベントは、大きく分けて3つあるのですが、1つ目は20周年を記念した「あいの港シンポジウム」を7月20日射水市で開催しました。2つ目は、海フェスタの総合展示ブースにおいて、私たち北陸地方整備局として港の紹介を兼ねた展示を行いました。これには、秋篠宮殿下にもおいでいただき展示について詳しくご覧いただきました。3つ目は、我々の業務を市民の方々に知っていただくため、北陸地方整備局で所有している大型浚渫兼油回収船「白山」を一般公開しました。
「あいの港シンポジウム」は、7月20日に基調講演とパネルディスカッションの2本立てで行いました。基調講演では、北陸経済連合会会長である新木会長に、「日本の中の北陸から東アジアの中の北陸へ」と題して講演していただきました。その中で、「今後は東アジアの時代、東アジアが発展する今こそ、表日本として伸びていくのは日本海側と考え、伏木富山港からのろしをあげてほしい」との提唱がありました。続いてパネルディスカッションでは、コーディネーターとして前富山大教授の雨宮先生に司会をしていただき、パネラーには射水市の分家市長、高岡市の橘市長、東海大学の東教授、富山大学の李助教授、生活ネット研究所代表取締役の羽根氏、私の6名で、暮らしを支える港について意見を交換しました。最後に富山県の齋田副知事から閉会の辞をいただき、お陰様で成功裏に終えました。
この伏木富山港は、昭和61年に重要港湾から特定重要港湾に指定されましたが、本州日本海側では新潟港と伏木富山港の2つのみです。
――伏木富山港の位置づけは
小泉
伏木富山港は日本海の中央辺りで中国、韓国、ロシアと900km〜1,000kmという近い範囲にありますし、富山を中心にみると、東京圏、中京圏、大阪圏と国内3大都市圏ともほぼ等しい距離にあり、東アジアと国内の都市圏とを結ぶ位置にあります。したがって、まさに日本国内と東アジアを結ぶゲートウェイとなり、国際交流の拠点になることを私たちと富山県も目標にしています。
そもそもこの富山県は、日本海側では随一の工業集積県で、併せて流通機能が発達すれば、日本国内の国際ゲートウェイとしての地位が高まるものと思われます。特に、国際社会での東アジアの台頭を考えれば、今後は日本海側が表日本との位置づけになるでしょうから、東アジアの中の北陸としての地位確立を目指していきます。
――そうなれば、東南アジア系の物資も増え、それを大都市へ輸送するシステムが出来るでしょうから、港の整備はさらに重要となりますね
小泉
そうです。東アジアの物流は準国内輸送化といわれているように、一国内で部品から加工して半製品にし、さらに最終製品とするように、日本、中国、韓国の東アジアの一圏域で原材料、部品、半製品、最終製品が造られています。伏木富山港も、その一環を担っています。
――そうした位置づけにある伏木富山港では、どのような施設整備が行われていますか
小泉
現在は、臨港道路の富山新港東西線に着工しています。これは富山新港、伏木富山港の新湊地区とも言いますが、東西両地域を結ぶ臨港道路です。伏木富山港が国際ゲートウェイとして発展するためには、伏木富山港と幹線道路とのアクセスネットワークを向上することが必要で、物流の円滑化、効率化を目指します。富山新港には多目的国際ターミナルがあり、コンテナ貨物量は年間5万TEU以上を扱っています。これらの輸送効率化を図るために、国道415号線へ直結あるいは、さらに広域な北陸自動車道や東海北陸自動車道へ繋がっていくための幹線となる港湾の臨港道路を整備していくものです。この臨港道路東西線が完成すれば、大幅な時間と距離の短縮効果が期待できます。
また、伏木富山港の西側と東側で市街地が発展していますが、この両地域を結ぶことにより地域の交流が促進されます。そこで臨港道路東西線は、西側の海王丸パークを起点に全長3.6kmで、東側の市街地まで到達する計画ですから、西側の市街地と東側の市街地を結んで地域の交流を促進する役割も担います。
現在は渡船で細々と結ばれており、港湾貨物は大きく迂回しなければ往復できない状況です。それが臨港道路によって、3分の1へと時間が短縮されるものと見込んでいます。
▲あいの港シンポジウム
▲大型浚渫兼油回収船「白山」
――ここには海王丸パークや公園などを観光資源として活用する場合には、観光用道路としての利用価値も生まれますね
小泉
海王丸パークには、以前から80万人〜90万人の年間来園者があると言われていますから、それらの利用者にとっても利便性は向上するでしょう。
海王丸パークと直結でき、港湾物流においても、富山市など県東部の工業が盛んな地域にとっても、大きなメリットがあると思われます。
――移送トラックの時間短縮ができれば原油高騰の折柄、燃料費削減にも繋がりますね
小泉
そうです。二酸化炭素の削減効果も年間2,145トンが削減されると試算されています。その他、東西両地域を結ぶことにより救急患者の輸送が迅速にできます。また、災害時には緊急輸送道路しても確保されます。しかも、多目的国際ターミナルとしてコンテナを扱う埠頭は、耐震強化岸壁にもなっているので、大規模地震などの災害時には橋を利用して緊急物資の輸送にも活用できます。
――臨港道路の規模、構造、概要は
小泉
臨港東西線の概要としては、全長3.6km、橋梁の中心部分は5径間連続複合斜張橋になっています。航路を横断するので、大型船の通行も可能となるよう、水面から47mのクリアランスを確保し、マストが充分に通れるようにします。
設計速度は50km/h、最急縦断勾配が4.0%以下で、両側のアプローチ部分は、PCの連続箱桁やラーメン箱桁となります。
――構造的な特徴はありますか
小泉
一つは複合斜張橋になっていることで、この主径間360m部分は高性能橋桁で造り、そこから側径間までが一つの構造体となりますが、側径間の部分についてはPCで複合構造になっています。
もう一つは、車道は往復で2車線ですが、車道の下に全天候型の自転車歩行者道路を併設することになっています。北陸は冬場になると、北風が非常に強く、降雪も多いために厳しい気象条件ですが、そうした環境でも快適に歩行者や自転車を使う人々が使用できる全天候型歩廊としています。利用者は、主塔外側の橋脚に設置されるエレベーターで進入することになります。エレベーターはウォークインスルー形式として、自転車の向きを変えずに乗降できる構造になります。
歩道の側面部分はアクリル性透明板で覆い、安全で安心な通行ができるようになります。
――眺望が良いでしょう
小泉
私たちは、海上に浮かぶ空中庭園歩廊と名称しています。というのも、海王丸パークに近接しているほか、そこからは立山連峰が一望できます。もちろん、海王丸側からも見えますが、橋からも立山連峰が良く見えるよう、景観にも配慮した構造設計をしたわけです。
――従来の実用性至上主義だった構造物のイメージが変わりますね
小泉
そうですね。この景観には、橋の中から立山連峰を見る場合と、外から橋を通して見る場合と、2つの視点をコードしており、どちらも景観にマッチするようデザインされています。外観も白を基調としていますが、それは立山連峰をバックに橋が見た際、立山の色と、橋の色に違和感が生じないようにするための工夫です。
特に、このデザインについては我々も検討を重ねてきており、北陸地方整備局のデザインモデル事業にも選ばれました。シンポジウムにも参加いただいた東海大学の東教授が、景観についての第一人者で、教授の指導を受けながら景観に充分に配慮しました。
何しろ、斜張橋自体は美しいのですが、立山の景観を阻害してしまう恐れがあったので、両方がマッチしてよりよい景観にしていくことが目標でした。当然、歩道からも立山連峰、富山湾、射水市の街並みなどが、美しく見えるように配慮しました。
したがって、基本コンセプトは「海上に浮かぶ空中庭園歩廊、海と風と歴史を感じる自転車歩行者廊」となるわけです。橋の部分は、「海風そよぐ交流の門、街と新たなウォーターフロントを繋ぐ」というキャッチフレーズです。エレベーターホールからも、多少は景観を楽しめる場所を設置しています。途中のアプローチ部はPCで造る橋ですが、海王丸パークの景観ともマッチするように考えています。
――構造物が、景観を演出する時代になったのですね
小泉
もう一つ構造上の特徴があります。形式は複合斜張橋なのですが、橋の形状としてはA型の主塔2本で中央径間360mを吊っており、側径間はプレストレストコンクリート桁、中央部分は鋼桁となっています。耐震性についても充分に検討し、弾性拘束ケーブルと免震支障およびダンパーで構成する制振システムを採用して、軸方向の振動に対処しました。
――全てが免震構造なのですね
小泉
耐震においては、充分に安心して使っていただけます。また、冬季は先述の通り気候が厳しいので、道路の凍結対策についても充分に配慮しています。ロードヒーティングや融雪装置を用いており、融電装置は近くの浄化センターの下水処理水を利用し、上から流して溶かします。中央部分はロードヒーティングを使用し、凍結対策としているので、まさに北陸地域の気象条件を充分に配慮した設計となっています。
――地域特性を十分に反映したモデル事業といえますね。その施工状況については
小泉
すでに基礎工事は、概ね終了しています。現在は橋脚を順次施工しており、主塔以外は今年度中に全て完了します。基礎部分は、場所を一部確保しておき、現場で掘削しながら掘削土砂を排出してコンクリートを打ちます。リバース工法で建設しましたが、その時に発生する建設汚泥をリサイクルすることで、さきに触れた建設リサイクルの賞や、土木学会の環境賞を受賞しました。
――この施工法のメリットは
小泉
汚泥が発生すると、費用を負担して処分場で処分してもらうことになり、しかも運搬にはダンプ輸送が必要になります。しかし、これらをリサイクルすることで建設汚泥を分級し、使用できるものを別途に分け、使える砂分などはストックします。それを本工事や、近隣で行われる様々な公共工事で有効活用します。そうして、最後に残った建設汚泥だけを最終処分場に依頼するので、最終処分の総量を大幅に減らすと同時に、その運搬車両も当初よりは6,600台も減らすことができました。
とりわけ、運搬車両は市街地のなかを通るので、これらを減らすという環境対策によって、住民生活への配慮を行ったとことが、土木学会からの受賞に繋がったのです。 このほか、主塔の基礎はニューマチックケーソン工法で終わっていますが、今年度からは上部を発注し、工事着手の予定です。そうなると、いよいよ橋の中心部分が出来てくることになります。
――いつ頃の予定でしょうか
小泉
平成14年に着工式を行い、それから概ね10年以内には完成することになります。1日も早い完成を目指して日々努めているところです。
――こうした観光資源にもなり得る公共施設は、地元としても何らかの有効利用を考えているのでは
小泉
これは直轄事業ではなく、地元射水市が行うことになっていますが、橋梁をライトアップする予定です。なかなか直轄事業としてはできないことですが、地元では、橋を射水市のシンボルにしたいとのことです。橋を核としたまちづくりを射水市で行い、橋ができることによってまちがどう変わるか、まちの発展をどう進めていくかを検討していただいています。
――地域のランドマークとなりますね、ところで伏木外港事業については
小泉
これも我々が現在取り組んでいる事業ですが、伏木外港事業は平成元年から着工しており、今年3月に伏木外港の多目的国際ターミナルが完成し、供用開始しています。全体的には5バースで、3バースは完成し、2バースは計画中です。特に中心部分は、この3月に完成しました。
伏木外港の計画には3つの目的があります。そもそも伏木港は小矢部川の河口にあるのですが、川の中では、やはり土砂によって絶えず埋まってしまいます。毎年、水深を維持するために浚渫しなければならないため、費用がかさんでいました。この維持浚渫からの脱却が実現したことが目的の1つです。
さらに、近年は船舶が大型化しているので、河口港では大型船舶に対応できないので、それを解決するのが2つ目の目的です。3つ目は石油タンクなどの危険物施設がありますが、近隣には民家もあるため施設を移動するわけです。
平成元年から着手し、今回は3バース目まで進めている状況です。この3月に完成したばかりですが、早くも20隻以上の船舶が使用しており、石炭や工場で使用する岩塩の輸入などに利用されています。計画では水深-14mですが、暫定-12mで、前面の泊地と航路がまだ、-12mまでしか掘っていないため、これからさらに2mほど浚渫する工事を進めています。
そのほか、岸壁を守っている第1線防波堤1,650mの建設計画があるのですが、現在は1,500mまで出来ているので、残る150mについては時期を見ながら着手します。この事業は、静穏度を高めるためのもので、すでに就航している船舶の作業に支障がないよう対策を進めていきたいと考えています。
この事業も、我々としては伏木富山港の日本海のゲートウェイとしての役割を果たすものとして、重要な施設だと考えています。
――伏木富山港の構成は
小泉
この伏木富山港は、左右と中央の3ブロックで構成されており、伏木外港のある伏木港、真ん中は富山新港、東側が富山市にある富山港で成り立ちます。3つの港がそれぞれに役割分担をしながら補完し合い、1つの港としての機能を発揮しています。
この中では、伏木地区に小矢部川があり、これは奈良時代に万葉集を編纂した歌聖・大伴家持が、25歳で京の都から越中に赴任してきた時に、船でここに着いたと言い伝えられています。奈良時代からの歴史がある港で、江戸時代には北前船の寄航地として発達してきた場所なのです。
富山地区は、歴史的に見ると、神通川の河口に、北前船の広域拠点として発達してきました。そうした深い歴史と共に、都市では富山ライトレールという日本でも本格的な軽量軌道、路面電車の新タイプが、今年4月に開業し、新しい施設と古い歴史がミックスした素晴らしい景観を造っています。また、シーバースという原油取扱施設もあり、原油を輸入しているので、貨物量が非常に多い状況です。そのため、2つの港だけでは不足したために、工業地帯と一体となって整備されたのが富山新港です。現在は、港湾が都市の中心的な位置を占め、そこに橋を造っているということです。
また、伏木富山港にはコンテナターミナルがあり、ロシアからコンテナ船がきます。ロシアからのコンテナ航路があるのが特色で、ロシアと直結しているということです。さらに、ウラジオストックからシベリア鉄道に乗れば、ヨーロッパにまで行けるので、そこまでも繋がりが出てきますね。これらのことを考えても、この港湾整備は早急に完成させなければなりません。
伏木富山港(新湊地区)道路(東西線)工事に貢献する精鋭企業群
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