建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年12月号〉

INTERVIEW

官庁施設に求められる機能は多角化の時代へ(後編)

「安ければ良い」では済まない地域の要望にどう応えるか

国土交通省大臣官房 官庁営繕部長 藤田 伊織氏

藤田 伊織 ふじた・いおり
昭和26年7月19日生
昭和49年4月建設省入省
昭和59年4月外務省在ペルー日本国大使館 一等書記官
昭和62年5月大臣官房長営繕部計画課 課長補佐
平成2年7月東北地方建設局営繕部計画課長
平成7年1月関東地方建設局甲武営繕工事事務所長
平成9年4月大臣官房官庁営繕部営繕計画課営繕計画調整官
平成13年4月国道交通省近畿地方整備局営繕部長
平成15年7月大臣官房官庁営繕部計画課長
平成18年7月現職

官庁施設は、かつては機能性と経済性が重視されてきたが、今日ではユニバーサルデザインの導入や、環境への負荷軽減、防災拠点としての強靱性、さらには地域景観や街づくりの先導的役割など、多角的な役割が求められている。このため、全国で官庁施設の建設、管理を担う官庁営繕部としては、単に長持ちする経済的な建物を安く建てておけば済むという時代ではなくなった。今後の営繕行政はどうあるべきなのか、どう取り組むのか、前号に引き続き藤田伊織官庁営繕部長に語ってもらった。

――霞が関プロジェクトのように、官庁施設の敷地が部分的に開放され豊かな空間が出来ていけば街としての価値も向上していきますね。さらに、官庁施設の利便性を高めていく上では、なるべく多くの官署が一体的に同居するのが望ましいのでは
藤田
官庁施設が便利になっていくことは重要で、しかも経済産業省、2号館、5号館などは、地下部分で駅から直接入庁できるようになっています。これは利用者にとっても非常に便利な構造だと思います。
ただし、利便性もさることながら、公務によっては、その独立性が庁舎それ自体において体現されている必要のあるケースもあります。これは、国民がどのような意識でその庁舎を見るのか、どのような官署として認識するか、その機関の実施する公務について、どんな意識で庁舎と公務との認知を整合させる必要があるのか、といったところにポイントがあると思います。
例えば、裁判所と検察庁が一つの庁舎に同居すれば便利ではありますが、それぞれの業務の性格から、司法の独立性を維持するというポイントで見れば、それは難しい側面があるのではないかと思います。
――官庁施設は、社会情勢の変化や国民の価値観の変化、さらには関係者の意識、要望、アイデアなどを、確実に反映させていくことの重要性が理解できました。そうした要因も踏まえ、この7月20日には、社会資本整備審議会建築分科会から建議「国家機関の建築物を良質なストックとして整備・活用するための官庁営繕行政のあり方について」が提示されました。さらに14年3月には「官庁施設の有効活用のための保全指導のあり方に関する答申」も出されています。ともに、「ストック」がキーワードとなっているのではないか、と思います
藤田
少子高齢化による人口動態の状況、財政状況など、社会的情勢の変化を踏まえると、様々なところで指摘されているとおり、ストックを有効活用していくことが重要だと思います。その有効活用について、物理的に大切に長く使うことを主眼とした平成14年の答申に加え、今回は利用実態を把握し、建物が有する性能も評価して、効果的・効率的に使用していくことが必要であるとともに、国の機関としての公務を着実に遂行していくための場としていくには、改修整備や建て替えの必要なものは建て替え、全体として良質なストックを形成していくべきとの建議をいただいたものと思っています。
具体的には、国家機関の建築物は安全性と長期耐用性の確保を図ること、防災拠点施設として必要な耐震性能を確保すること、ユニバーサルデザインの理念を徹底させること、地球温暖化防止など環境負荷の低減を図ること、IT化推進、地域のまちづくり計画との調整・連携を図っていくこと、そして国有財産の一層の効率的な活用を推進する視点から、改正された国有財産法関係への対応を徹底することなどを、現在の社会的経済情勢の変化に的確に対応していく視点から、しっかり認識しておくように言い渡されています。
そうした事項に対応していくためには、施設機能の現状と備えるべき機能の乖離を効果的・効率的に埋めていくことが必要ですが、その手法についても、具体的に官庁施設の活用状況や施設の保有する性能を的確に把握し、行政エリアを念頭においた一定の地域にある国家機関の建築物を「群」としてとらえてファシリティマネジメントを行い、群としての建物に要求される水準を効果的・効率的に確保していくことが必要との建議をいただいたところです。
そこで、私たちはすでに財務省との連携のもと、全国的に官庁施設の活用状況を調査しています。そして調査の結果、どのように良質なストックを形成していくかが問題で、様々な施設整備計画案が考えられるものと思いますが、どう整理して計画案を考え出していくのか、また複数の案を、どう評価し効果的・効率的な整備計画として採用していくのかといった作業が発生します。さらには、現実的に発生した施設の問題に対して、実施する改修などの整備を、どう施設整備計画にフィードバックしていくのかも重要です。
基本的なポイントは、つまり限られた資源をいかに効果的・効率的に活用するか、ということだと思います。
――官庁施設の水準の確保や、その他、様々な条件を併行してクリアしていくのは困難もあると思いますが、その上で公共建築として地域作りにどう貢献していくか、その取り組み方針について伺います
藤田
官庁施設の整備においては、国民共有の財産を形成していくわけですから、品質の確保やコスト縮減も重要です。そのため、入札契約制度における総合評価方式を活用し、技術の優れた業者の選定に努めるとともに、品質確保を行うためのマネジメントシステム・基準類の見直し、様々なコスト縮減手法の検討を行っているところです。 また、繰り返しにはなりますが、地域に根ざした公共建築としての官庁施設として育っていくため、常にいろんな意味で「良くしていこう」という思いや、工夫を少しづつ建物に染みこませていくことが必要だと思います。そうしたことは、多様な関係者がそれぞれの立場で考え、さらにそれらの考え方や、それぞれの役割を持つ関係者がコラボレーションすることによって成し得るのではないかと思っています。
そうした意味からも、未来に向かって、国民の皆様と共に官庁施設を考え、国民の皆様にとって価値のある官庁施設と思っていただけるよう官庁営繕行政を進めていきたいと考えています。

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