建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年11月号〉

INTERVIEW

副港地区に都市再生のシンボル

温泉・市場・屋台が来年4月オープンへ  太陽光発電実験施設の誘致に成功

北海道稚内市 市長 横田 耕一氏

横田 耕一 よこた・こういち
昭和23年12月30日生
東洋大学社会学部応用社会学科卒
昭和58年6月稚内市社会教育委員
平成5年6月稚内市社会教育委員の会議委員長
平成5年6月宗谷管内社会教育委員連絡協議会会長
平成8年10月稚内市教育委員会委員
平成10年3月稚内市総合計画審議会委員
平成10年6月(社)稚内交通安全協会副理事長
平成11年5月稚内市長

日本最北端に位置する人口41,000人の稚内市は、小泉前総理が名付けた「日ロ友好最先端都市」として、石油・天然ガス開発の「サハリンプロジェクト」支援基地を目指す稚内港の機能強化や中心部にかつての賑わいを取り戻す都市再生に取り組んでいる。その都市再生の第一弾が温浴施設や市場、屋台広場などで構成する複合施設で、第1副港地区に来年4月オープンする。また、国内最大規模といわれる新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の太陽光発電実験施設の誘致が決まり、風力発電と並んで国内有数の自然エネルギー基地としても脚光を浴びている。来春の改選を控え、市長として2期目の総仕上げに全力投球の横田耕一市長に稚内市政の展望などを語ってもらった。

▲小泉前総理大臣直筆のキャッチフレーズ
――まず18年度市政執行の基本的から伺いたい
 横田
本年度は市長として2期目の仕上げの年になるわけですが、財政状況が一層厳しくなり、財政健全化プランの見直しに取り組んでいるところです。われわれ特別職、議員の報酬をカットしたほか、職員についても初めて基本給の削減をお願いし、理解を得ました。財政の健全化を保ちながら、一方で縮小均衡にならないように将来に備えた、さまざまな事業に取り組んでいきたいと思います。 市長に就任以来、まちづくりの基本理念として「市民と行政のパートナーシップ」を推進してきました。地方分権の進展や少子高齢化など地域社会を取り巻く環境が大きく変わり、いままでのような画一的な行政サービスでは対応できない課題が多く、それぞれの地域にあった住民サービスを行政と協働で実行していく仕組みが必要だと思います。いま一度住民自治の原点に立ち戻るため、市民と行政の役割や方策を示す「自治基本条例」を制定することにしています。
市民と行政のパートナーシップによるまちづくりの一環として、東地区にコミュニティーと児童館、学童保育所の機能を持つ複合施設の「東地区活動拠点センター」を建設します。また、商工業者の活動拠点である「宗谷経済センター」の建て替えを支援します。
最重点施策のひとつが都市再生です。「(日本最北端の)稚内から沖縄県石垣まで」というキャッチフレーズのもと、基本的なインフラを整備しつつ、中心市街地活性化計画を練り直して、観光スポットとして街の中心部を賑やかな空間にしていきたい。稚内の将来に対する夢、期待を膨らませ、市民の方にもビジネスを含めて何がしかの挑戦をしてみようという気概が生まれてくれればと、波及効果は大きいと期待しています。
――市長は企業経営者から転進しましたが、横田市政のもとで職員の意識改革は進みましたか
 横田
就任後、相当数の職員を減らし、総計で100人近くになるでしょう。もっと減らそうと意気込んでいますが、それとて限界もあるでしょうから、稚内市役所の本来の職員定数について調査を行っており、それに基づいて適正な定数配置にしたいと思っています。
同時に職員の意識改革にも取り組み、経営感覚を持ってもらいます。(経営感覚は)単に財政上のことだけではありません。「おカネがないから何も出来ない」ではなく、おカネはなくても、いろんな知恵を絞って、他人の土俵で相撲を取ることに長けていくのが経営感覚だと思います。国のさまざまな補助金制度を活用して予算を引っ張ってくる努力が必要ですし、そういう意味で職員の意識も少しずつ変わってきています。
▲国際港湾都市・稚内港
――各自治体とも財政難、人口減という閉塞感がありますが、そのなかでいかに市民に希望と夢を与えるか、首長の手腕が試されています。その点、国内では最大規模といわれている太陽光発電の実験施設誘致に成功したことは大きなヒットですね
 横田
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が稚内市と北大、北電など官民6団体で構成する研究グループに委託し、今年から2010年までの5年間、稚内市声問で太陽光発電の実用性を検証する実証実験を行います。実験施設の最大出力は5千キロワットで、国内最大規模と聞いています。この実証研究は、太陽光発電の普及拡大を図るため、大規模な太陽光発電システムを用いて、電圧や周波数などの影響を調べ、制御技術を開発・検証するもので、稚内市も研究グループの一員として参画し、用地提供や関係機関との調整などを担います。研究終了後の利活用は我々にのしかかってくる大きな課題ですが、何としても成功させ、地域の活性化につなげたいと願っています。 
――自然エネルギーの活用では風力発電もありますね
 横田
現在、74基の風車が回り、市内の電力消費の70%強の電力をまかなっている計算になっています。74基のうち市が4基設置しています。風が強いので発電効率が良いと注目されています。一般市民が活用するには、ソーラーハウスなど太陽光のほうが使い勝手が良い。稚内は日照時間が短いので太陽光には適していないと思っていましたが、調べてみると日照時間のほかに気温も重要な要素で、稚内は東京並みの発電効率があるそうで、気温は暑いよりも低いほうがベターとのことです。大学との縁も深まり、太陽光の実証実験を機に、自然エネルギーに関する研究を恒常的に稚内で行えるような構想を私なりに練っています。
――ところで、宗谷管内の基幹都市として、市町村合併にはどう取り組まれていますか
 横田
短兵急に合併話を進めても、小規模な町村は「合併で疲弊するのではないか」との危惧がある以上、実現は容易ではありません。
宗谷管内8町村と幌延町、天塩町に呼び掛けて、「宗谷圏自治のすがた研究会」を立ち上げ、多様な自治のあり方を研究する場をつくりました。単に合併という選択肢を取るのではなく、広域連合などの取り組みをしたうえで、一体となって地域づくりを進めようという考えに立てば、合併と同じ効果が得られるでしょう。いまの時点で合併を前提に話し合う必要はないと思っています。
現在、宗谷管内の人口は8万人、うち稚内市が41,000人。まずは管内の人口減に歯止めをかけ、増やす手立てを考えていかなければなりません。
▲稚内副港市場の模型(市役所ロビー)
――次に世界中から注目されています、石油・天然ガス開発のサハリンプロジェクトの話題に移ります。サハリンに行く機会はありますか
 横田
毎年1回はサハリンに行っていますが、道路などのインフラ整備が進み、以前に比べると都市の景観が随分と変わりました。この2年間ぐらいでサハリン州の所得水準は確実に上がっています。
我々にとってもビジネスチャンスだと思いますが、関税率が40%とのことで、現時点ではなかなか競争力を発揮できないのが実情でしょう。
――稚内市は、宗谷海峡を隔ててロシア・サハリン州(旧樺太)とは指呼の距離にあり、市民レベルの交流も活発のようですね
 横田
少年団同士などの交流でお互いに訪問しています。商工会議所と市役所がそれぞれサハリンの経済、行政関係者を招いて研修を行っているほか、市役所と道銀職員が友好都市のユジノサハリンスクに常駐しています。
日ロ定期フェリーは、サハリンプロジェクトの進展やサハリン州との経済交流の成果から渡航客や貨物の利用が伸びています。
しかし、今年6月から9月まで、近畿日本ツーリストがサハリンへのツアー客を全国から集めましたが、目標の500人に対して約200人にとどまりました。サハリン州も日本人観光客を誘致したいとのことで昨年、観光セクションをようやく開設したところですが、展開が遅いんですね。現地には観光地らしい観光地もないし、日本人観光客を呼び込むノウハウもない。そこが弱点ですね。
▲小泉前総理大臣直筆の色紙
――小泉前総理が「日ロ友好最先端都市」と揮毫した色紙があります
 横田
「全国都市再生のための緊急措置」の都市観光の推進で、稚内が「海に開かれた交流拠点」のモデル都市に選ばれた際、首相官邸で小泉総理にお会いする機会があり、このキャッチフレーズは総理自身がおっしゃったので、色紙に揮毫をお願いしました。
モデル都市は、地域の特性を生かした事業が実施できる「国際交流特区」の認定を受け、「通関業務の特例」として、税関の臨時開庁手数料の軽減、執務時間の延長を行っています。さらに、サハリン石油・天然ガス開発事業に関連する特定のロシア人へのビザ発行手続きの簡素化が追加認定されたので、サハリンプロジェクトの支援基地を目指す稚内港の機能強化や地域経済の発展に大きな弾みになると期待しています。
――都市再生の一環として稚内第1副港地区の再開発がスタートしました
 横田
港の景観や産業を生かした拠点づくりにしたいと思っています。市も出資し第三セクターの副港開発が、メイン施設の温浴施設や店舗で構成する複合施設を建設します。テナントもほぼ固まり、来年の連休前の4月下旬のオープンを目指しています。3階建て延べ6,700uの建物に温浴施設「みなとの湯」、共同店舗「みなと市場」、飲食空間「みなと屋台広場」を配置、新たな観光スポットとして賑わうことを願っています。
この他にも石造り倉庫を改装した「北緯45度ガラス館」が、5月1日にオープンしたばかりです。都市の持つポテンシャルを地域資源と捉え、新たな視点で都市機能の連携と都市施設の再構築を図る「都市再生事業」は"わっかない創生"として地域経済の活性化、都市観光の拠点づくりに大きく貢献するプロジェクトです。
副港地区の再開発は都市再生の道路路エリアなので、今後は観光客が市内巡りを楽しめる環境づくりに努めたい。

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