建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年11月号〉

INTERVIEW

10年で耐震化率90%を目指し耐震改修を実施(前編)

偉容が見えてきた官民同居の合同庁舎7号館

国土交通省大臣官房 官庁営繕部長 藤田 伊織氏

藤田 伊織 ふじた・いおり
昭和26年7月19日生
昭和49年4月建設省入省
昭和59年4月外務省在ペルー日本国大使館 一等書記官
昭和62年5月大臣官房長営繕部計画課 課長補佐
平成2年7月東北地方建設局営繕部計画課長
平成7年1月関東地方建設局甲武営繕工事事務所長
平成9年4月大臣官房官庁営繕部営繕計画課営繕計画調整官
平成13年4月国道交通省近畿地方整備局営繕部長
平成15年7月大臣官房官庁営繕部計画課長
平成18年7月現職

地震大国日本にあっては、災害時の復興、救助などの対策を行う行政機関が入居する官庁施設の耐震化は急務である。そこで、庁舎法が改正され、特別会計によって耐震強化のための改修が精力的に実施されることになった。一方、人の集中と交流を生み出す官庁施設が、地域の街づくりにもたらす影響も大きく、シビックコア制度を活用した再開発が全国で行われている。中でも、文部科学省の配置されていた霞が関3丁目の再開発事業として建設されている複合施設は、PFI事業として進められており、文部科学省、会計検査院などの政府機関と、民間業務施設が初めて同居することとなり、全国の官庁営繕事業のモデルケースにもなる。国土交通省官庁営繕部の藤田伊織部長に、今後の官庁営繕事業の展望などを語ってもらった。

――今日は、お忙しい中、時間をいただきましてありがとうございます。さて、先日、新聞で拝見しましたが、国家機関の建築物に関する耐震診断結果が公表されましたね。、その記事によれば、耐震性能が不足しているため対策が必要な施設があるとのことでしたが、今後はどのような対応をしていかれるのでしようか
藤田
今回の公表ですが、これは、先頃改正された「建築物の耐震改修の促進に関する法律」に基づき平成18年1月25日に告示された「建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るための基本的な方針」において、国及び地方公共団体は、各施設の耐震診断を速やかに行い、耐震性に係るリストを作成及び公表することとなったことから行ったものです。  まずは、災害応急対策活動に必要な主な官庁施設、危険物を貯蔵・使用する等の官庁施設で、階数3以上、かつ、延べ面積1,000u以上のものについて、官庁営繕として耐震診断を実施し、その内容を精査したものを公表しました。結果としましては、393棟のうち、217棟、55.2%が耐震性能を満足しているというものでした。現行の建築基準法で求められる耐震性能を満たしていない施設については、すべて新耐震設計の施行以前(昭和55年以前)のものですが、これらの施設についても、震度5強程度の中規模地震で損傷しないことが建設当時の設計において検証されております。
これらの施設は、災害時に国の機関として災害応急活動を行う施設ですから、その耐震性の確保が非常に重要であり、早期に耐震性の確保を図っていくことが、地震大国の日本において、災害時に国民の皆様への的確な行政サービスを提供していく上でも、非常に重要なことと認識しています。今回公表した施設の耐震化の目標として、耐震性能の評価値1.0未満の施設114棟を中心に耐震改修等の促進を図り、概ね10年以内、平成27年度末を目途として災害応急対策活動に必要な官庁施設等の耐震化率が、少なくとも9割(面積率)に達するよう努めて参りたいと考えています。
また、財務省においても、耐震性能を確保していくことの重要性が議論され、先般、「国の庁舎等の使用調整等に関する特別措置法」いわゆる庁舎法が改正され、防災拠点として機能すべき官署が入居している庁舎を、特定国有財産整備特別会計を活用して整備する制度が創設されました。
新たな制度を活用して、平成19年度要求の中で、小樽地方合同、熊本地方合同、名古屋港湾合同(別館)の整備を要求しています。
中央防災会議の議論、会計検査院の指摘と、日本社会全体としても、耐震対策の重要性が認識されていると思っていますし、これだけ大きくなった日本社会の危機管理、災害時の様々な機能確保・復旧のために、災害時に国の機関が果たす役割に対する期待や重要性が増している中で、その活動を支える場である官庁施設の耐震対策があわせて必要だということも認識されてきたと思います。我々としても重要事項と受け止めております。
――昨今の社会では、地方間競争といいますか、魅力ある地域づくり、まちづくりにかかる意識も高まっていると思いますが、そうした点から官庁施設をみますと、どういうことが見えてくるのでしようか
藤田
官庁施設の整備にあたっては、整備される地域にとっては、国の大きな投資になるわけですから、その直接的な効果だけではなく、官庁施設という特性、公共建築であるという特性からくる副次的効果についても発揮していくことが要請されていると思います。 そうした中で、シビックコア地区整備制度があります。
この制度では、地方公共団体が計画を策定するにあたって、地元の方々と例えばワークショップを行うなどして、まちづくりを考えるわけです。地元では、まちづくりに期待している方々がたくさんおられるわけですが、そうした方々の考えを発信したり、それによって、また考えたり、といったチャンネルづくりとしての機能もあるわけです。
また、こうした計画は、作るのにも時間がかかります。時間をかけていろんな考え方を吸収反映して、ということです。さらには、計画が策定された後も、すぐに整備ができるというものではなく、例えばユニバーサルデザインをどうするかとか、サイン計画をどうするかとか、いろんなことを考えてまちの中に様々な関係者の考え方がしみこんでいくわけです。そのように、徐々に出来ていく、という時間の流れがあることがシビックコア地区整備の長所ではないか、と思います。
それから、そうして出来た公共建築である官庁施設は、出来たあとも育てていく、という発想が必要だと思います。建物の中で必要となる機能も変化しますし、周辺環境も変化する。さらには、住民の考え方、社会の価値観の変化など様々な要因の変化に対し、みんなで考えながら、使い方や使い方に合わせるための改善を行っていくことが必要ではないか、と思います。
また、街を見ていますと、世の中の変化を映したように建物が建て替わり、ダイナミックに街が変わっていくこともあると思います。現在、中央合同庁舎第7号館の整備を行っていますが、都市再生プロジェクトとして、もともと、官民が一つの区画の中に位置していたという環境の中で、PFI手法も用いて、虎ノ門交差点に向かって広場を作り、官民一体となって、霞ヶ関地区の入り口部分の整備が行われているです。
これは、まさに変わる都市のダイナミズムの一つとも言えると思います。ただ、その場合でも、すべてが変わればいいのか、というと必ずしもそうではなく、時間軸から見た連続性というのか、都市空間は変わっているけども中には変わらない部分がある。それによって新たな空間を受け入れやすくなる、というのか、そうした連続性が、まちづくりの中にも組み込まれていく必要があると思います。具体的には、旧文部省庁舎の一部を活用して、外部空間の構成に組み込んだわけです。
もう一つは、霞ヶ関地区の整備という点では、例えば、中央合同庁舎2号館では、セキュリティーに関し、敷地を塀で囲んだ状態として敷地に入る時に入館者をチェックするのではなく建物に入るときに管理をしています。つまり、敷地の一部が開放空間として作られているのです。もともと、そうしたセキュリティーを前提として建物が造られていないと、なかなか2号館と同じように敷地を開放することはできませんが、今後、霞ヶ関地区を順次整備していく中では、こうした問題意識をもって取組んでいきたい、と思います。
(以下次号)

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