建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年10月号〉

interview

地域の街づくりと一体的な施設整備

地域再生のカギとして高い期待

北海道旅客鉄道梶@鉄道事業本部 工務部長 吉野 伸一氏

吉野 伸一 よしの・しんいち
昭和24年12月11日生
北海道出身
昭和43年4月国鉄入社
昭和46年3月中央鉄道学園大学課程土木課卒
平成7年10月北海道旅客鉄道鞄S道事業本部工務部工事課長
平成13年3月   同   工務部工務技術センター所長
平成15年6月   同   工務部専任部長
平成17年6月鉄道事業本部工務部長
JRと言えば、都市間の大量輸送を担う公共交通機関として、都市の中で重要な位置を占めてきた。その鉄道施設は、独特の威厳と風格を持ち、結節点となる駅は特有の風景を持っていた。地域のまちづくりに左右されない聖域だったが、近年では上野駅、品川駅、川崎駅などに見るように、地域を分断していた鉄路や駅舎を高架化して往来が自由となり、さらにはショッピング街やホテルなどのサービス業と共存する形が一般化しつつある。地域住民や訪問者にとっては、実用的であるだけでなく、親しみやすい存在へと変わった。地域の街づくりも、駅に合わせて行われるだけでなく、JR側からも地域の街づくり計画に歩調を合わせて整備する姿勢へと変わった。北海道でも、自治体や地元住民と協力関係を持ちながら施設整備が行われている。JR北海道鉄道事業本部工務部の吉野伸一部長に、道内での取り組みを伺った。

――全道で着手されている代表的な鉄道施設の建設事業についてお聞きしたい
 吉野
現在、進めている大プロジェクトとして代表的なものは、旭川駅付近の鉄道高架工事です。旭川市が21世紀に向け、新しい都心づくりを目指した「北彩都あさひかわ整備計画」にともなう事業です。旭川市が実施する駅周辺での区画整理事業や、北海道が実施する忠別川河川空間整備事業、これに関連する街路事業の一環として、旭川駅を中心とした函館本線1.2km・宗谷本線1.5km・富良野線0.8kmの合計3.5kmの鉄道を高架化するものです。 現在は鉄道と駅南側にある忠別川によって、南北の市街地が分断されています。これを一体化するために、鉄道を高架化してその下に交差点道路を設け、忠別川には新たに2本の橋を架けられます。一方、区画整理事業も同時進行中で、国の合同庁舎、市の青少年科学館などが整備されています。一部の商業施設もすでに完成し、営業を開始しているところもあります。これらの整備は26年度に全てが終了予定となっています。 私たちは鉄道高架工事に先立ち、旭川運転所の移転を10年から開始し、15年9月に現旭川駅から約7km北にある宗谷線の北旭川駅に隣接した旭川貨物ヤード跡地に移転しました。運転所移転を含めた高架関連総工事費は約540億円で、高架橋工事は約340億円を見込んでいます。高架完成による開業予定は22年度を目処にしています。そのため、17年度までに約110億円分の工事を実施し、今年度は駅部前後の高架橋を中心に約40億円分の事業を執行する予定です。
――旭川駅周辺は、国交省のシビックコア地区に指定されていますが、駅を中心にどのような景観が創出されるでしょうか
 吉野
高架橋など土木構造物をトータルデザインとして捉え魅力ある都市空間を演出するために、市が中心となって道、JRなどの関係者を含めた景観懇談会を設置し、検討を重ねてきました。一般部は従来どおりのラーメン高架橋ですが、縦梁のハンチに曲線をもうけてアーチ状とし、すっきりとした外観にしました。高架橋の周辺が公園として整備される富良野線の高架橋は、桁式高架橋としました。 計画されている道路部分との交差部架道橋部分については連続桁構造を採用し、鉄道橋梁桁の高さをなるべく低くし、高架橋部分との連続性を持たせています。高欄にはプレキャスト部材とし、壁面には曲線をもうける形で、すでに一部が完成しています。 駅舎部分は全天候型の全覆い上屋を採用しています。外壁はガラスを中心とする明るいイメージを演出し、上家の柱は、4面の乗降場(プラットホーム)のうち第1及び第3乗降場には柱のない大空間を確保しています。また、駅舎のレイアウトについては、北海道、旭川市とも協議を進めている段階ですが、基本はバリアフリーとし公共施設の配置で、利便性の高い駅造りとして道北の拠点都市に相応しいものとなることを目指しています。
――建設に伴って、地域の活性化やまちづくりに大きな効果が期待出来そうですね
 吉野
鉄道は地域、都市の発展のみならず、物流の輸送移動・輸送手段として寄与してきましたが、市街地の発展に伴い、鉄道が町を分断する形となり、今日では都市発展にともなって増加する自動車交通に対して、踏切の存在が交通のネックとなっていました。そこで過去に、鉄道が高架化された各都市の発展状況をみると、特に札幌駅、帯広駅周辺再開発については目覚ましいものがあり、鉄道の連続立体交差化が都市計画において、極めて効果的な事業であることが明らかです。
――事業効果が明白なので、札幌、旭川に限らず、各地の主要都市での事業展開が望まれます
 吉野
今後、予定している道路と鉄道の連続立体交差事業、鉄道高架事業としては、この6月に都市計画変更告示がされた函館線江別市野幌付近高架橋があります。国土交通省の事業認可を経て、北海道と当社の間で工事協定を締結しますが、スケジュール通りに進めば今年中には着手できると思います。 この他にも、鉄道高架事業ほど大規模ではありませんが、鉄道駅あるいは駅と自治体設備が一体となった複合駅舎や、線路をまたぐ自由通路、駅前広場の整備などにより、駅周辺の再開発に寄与する地域の活性化に貢献する工事も進めてきました。最近の例では、岩見沢駅改築事業があります。12年に火事で焼失した駅舎の新築工事で、岩見沢市が進める駅周辺再開発事業とともに進めてきました。駅舎と一体的になった市の複合施設も建設する予定です。駅舎と市の複合施設の設計は、全国初のデザインコンペ方式をとり、全国から300を越える応募がありました。その結果、岩見沢市の成り立ちを考慮して設計された作品が選ばれ、今年5月下旬に最初の工事を発注しました。7月には請負業者主催による工事安全祈願祭がとり行われましたが、岩見沢市市長をはじめ、国会議員、道議会議員、市議会議員、地元住民らが集まり、期待の大きさが実感されました。来年の夏には駅舎部分が完成し、その一年後に複合施設も完成します。駅裏と連絡する路線人道橋も整備され、岩見沢市が進める区画整理事業により、駅周辺の再開発に寄与できるものと思われます。 また、東室蘭駅でも自由通路改築工事に着手しています。これは既存の幅約4mの自由通路を約6mに拡幅し、架け替える工事です。中央部は幅約8mとし、ベンチなどを配置するスペースをもうけ、通路に面してに市の施設や一部商業施設が建設される計画になっています。 函館駅でも、平成15年に駅周辺再開発事業にともなって建て替えられ、続いて駅前広場が整備されました。そして、平成17年に供用を開始しました。 洞爺駅では、裏側と駅前広場を連絡する自由通路整備と地域交流センターの新設に伴い、駅舎も一部模様替えをしました。 平成14年には、札幌市の手稲駅南北を連結する自由通路整備にともなって駅舎も橋上化され、併せて線路の配線も変更し、快速列車から各駅列車への乗換えがスムーズに行われるよう改良されました。 その他、北広島、石狩当別、室蘭、小樽築港などの各駅が改築されて駅周辺再開発に寄与し、駅と都市側施設との合築、駅舎の改良により、交通の結節点である駅を中心とした再開発に貢献しています。
――施設建設において、導入予定の新技術や、コスト合理化、資材リサイクルなどの取り組み状況についてお聞きしたい
 吉野
私たちは耐久性に優れた構造物建設に力を入れたいと思っています。例えば、現在着工している根室線新大楽毛・新富士間大楽毛高架橋工事は、海岸から約500mの位置に建設されるため、塩害の恐れがあります。土木学会の指針でもコンクリート構造物の耐久性設計について明らかになりつつあり、塩害に対する耐久性を確保するには、かぶりコンクリート、鉄筋外側のコンクリートの厚さが数10センチ必要とします。そこで、従来よりコンクリートの水セメント比を小さくし、密実なコンクリートとすることで、かぶりを通常の5cm程度とすることができます。水セメント比を小さく抑えることで結果として、コンクリートの強度も増加するので鉄筋も高強度のものを採用し、合理的、経済的設計を行っています。 また、一部基礎の構造には鋼管ソイルセメント坑を採用しています。これは、地盤中にソイルセメント柱を造成し、表面にスパイラル状にリブをつけた鋼管をそこに埋設する工法で、ソイルセメントの柱を杭の有効径として考えるものです。これは支持力特性に優れており、また、建設発生土を減らすことで環境にも優しい工法です。鉄道橋では四国の高知高架橋に続いて2例目、北海道の鉄道高架橋では初となります。 また、新大楽毛高架橋では計画路上にpcランカー橋を計画しており、これも北海道では初めての採用となります。さらにこの橋梁では、地盤条件があまりよくないことから桁の重量を軽減するために全国でも初めて垂直材に鋼材を用いることにしています。
――鉄道施設建設の今後の在り方について、技術者としてどのような理念を持っていますか
 吉野
今後も自治体などで進められる都市計画事業にともなう鉄道施設の改良には、積極的に協力します。街の中心として再開発が進められる鉄道駅周辺の再開発に協力し、併せて鉄道施設の改良も図っていきたいと思います。特に近年は高齢化が進む情勢ですから、駅のバリアフリー化の推進に努めるほか、老朽化した橋梁、トンネルなどの適切な補修・補強工事を進めることも考慮しています。 また、踏切を効率的に解消する道路と、鉄道の連続立体交差事業、鉄道高架化、直近では函館線野幌高架が予定されていますが、こうした事業についても協力していきます。その際、鉄道高架橋が街の景観を損ねることがないよう、構造計画の際には経済性だけでなく、景観に配慮した利用しやすい駅を計画したいと考えています。建設の初期投資だけでなく、メンテナンス面でのライフサイクルコストを考慮した構造計画も重要ですが、都市景観に配慮した構造形式も考慮していくことも今後の課題です。そして、道路交通の円滑化と踏切事故の解消を目指して立体交差化や、河川補修事業に伴う鉄道橋梁の架替も全道各地で計画されており、これに協力してまいります。 その他、北海道新幹線の建設がいよいよ始まったので、早期完成に向けて協力していきます。例えば、在来線と並行する青函トンネル内の工事など、運行中の路線に影響する工事は、旅客の安全性と運行ダイヤの定時制を維持しながらの施工となるため、事業者である鉄道運輸機構から受託するなどして、私たちが工事施工に協力します。

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