建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年10月号〉

INTERVIEW

自動車産業の物流を支える名四国道の道路網

企業からも早期の全線開通への要望

国土交通省 名四国道事務所 所長 瀬本 浩史氏

瀬本  浩史  せもと・ひろし
昭和40年1月26日生
神奈川県平塚市出身
東北大学・大学院卒
平成2年4月近畿地方建設局 企画部 企画課
平成2年4月京都府
平成4年4月道路局企画課係長
平成7年4月北陸地方建設局 富山工事 調査第二課長
平成11年4月北陸地方建設局 企画部 企画課長
平成12年4月道路局 企画課長補佐
平成12年4月沖縄開発庁 専門官
平成14年6月道路局 地方道・環境課長補佐
平成15年1月国土交通政策研究所 研究調整官
平成17年4月名四国道事務所長

世界のトヨタの本拠地である愛知県は、自動車製造工場や関連部品工場などが集積する工業県で、その出荷には名古屋港、三河港が利用されている。我が国の経済を牽引する自動車産業の経済効率を向上し、地域住民の生活利便も向上させる上では、港と工場を結ぶ物流経路となる道路網の整備が欠かせない。中部圏域の中でも、特に工業地を所管する名四国道事務所の瀬本浩史所長に、道路整備の進捗状況と交通網の抱える課題などを伺った。

――名豊道路はじめ、三河地域の道路整備事業について伺いたい
 瀬本
平成18年度予算を見ると、受託、附帯を含めて284億9,500万円となっており、愛知県三河地域の直轄国道改築事業を担当しています。主な路線は一般国道23号の名豊道路、一般国道153号の豊田地区南バイパス、北バイパス、西バイパス、足助バイパスなどで、中でもメインとなる事業は名豊道路です。一般国道23号の名豊道路は、名古屋市と豊橋市を結ぶ延長約73qの地域高規格道路で、知立バイパス・岡崎バイパス・蒲郡バイパス・豊橋バイパス・豊橋東バイパスの5ヶ所で事業を進めています。これらは、名古屋、衣浦、東三河の各地域を結ぶ重要な路線です。
――名豊道路の整備は、どんな状況でしょうか
 瀬本
名豊道路の知立バイパスは、伊勢湾岸道の豊明IC〜岡崎バイパス境の安城西尾ICがあり、約16.4qの道路です。平成元年に暫定2車線で供用開始し、現在は豊明IC〜野田ICの間約8.0qが4車線で供用しています。野田IC〜芦池IC間が暫定で2車線立体、芦池IC〜和泉ICまでが平面4車線、和泉IC〜安城西尾ICまでが立体2車線で供用開始しています。
事務所では、野田IC〜芦池IC間の2車線区間を4車線化、芦池IC〜和泉IC間の平面4車線区間の立体化を実施しています。岡崎バイパスでは、安城西尾IC〜芦谷IC、額田郡幸田町まで14.6qの道路で、現在まで安城西尾ICから西尾市の家武町間は暫定2車線で供用しています。現在、幸田町須美から芦谷ICの間約5.5qで、今年度中の供用を目指しており、とりあえず2車線で芦谷ICまでは供用にこぎ着けたいと考えています。
蒲郡バイパスは、岡崎バイパスの芦谷IC〜豊川市為当町の東三河ICまでの15qの道路で、このうち芦谷IC〜蒲郡ICまでの5.9qについては事業化されていますが、残る約9q区間は未事業化の段階です。今年度は事業化区間の用地買収を進め、それが終了次第、工事に着手します。
豊橋バイパスは、蒲郡バイパスの接点となる東三河IC〜豊橋市野依町までの、延長約17.6qの道路です。このうち、豊橋市前芝〜野依までの区間がすでに暫定2車線で供用しています。現在は、東三河IC〜前芝IC間の4.2q分の工事を進めています。
豊橋東バイパスは、野依ICから愛知県と静岡県の県境となり、豊橋市東細谷で一般国道1号に接続しますが、その間約9.2qです。まだ供用している区間はありませんが、野依IC〜七根IC間2.3qで、こちらも今年度中には暫定2車線で供用すべく、工事を進めています。また、東側部分については用地買収を進めており、現在は東細谷ICに着手しようと考えています。
▲豊橋東BP(野依ICより浜松方向望む)
―― 一般国道153号については
 瀬本
一般国道153号の豊田西バイパスは、名古屋市から豊田市に至る延長約13.3qの道路で、このうち12.4qについては4車線で供用開始していますが、豊田市千足の1q区間だけは4車線化が完了していません。そこで、その区間についての4車線化を進めています。今年度中には4車線で供用できる見込みです。
豊田北バイパスは、東海環状の豊田環八IC〜豊田南バイパスの接点で、約6.8qのバイパスです。環八ICから一部区間、市道の平戸橋水源線というところがありますが、そこまでの区間は、東海環状線が供用する際に、インターアクセスということですでに供用されています。
北バイパスについては、そのうちの環八区間から約2.9qについて、今年度から新規事業化として着手したところです。今年は地元住民との協議などに着手したいと考えています。
足助バイパスは、香嵐渓で有名な豊田市足助町の中心市街地を迂回する道路で、全長が約4qのバイパスです。このうち起点側の400mについては、すでに現道拡幅で平成6年に開通していますが、バイパス区間であるため一部はトンネルとなっています。現在は、2.5q分を平成19年度に開通すべく、トンネル工事や改良、橋梁工事を進めています。
そして、一般国道155号の豊田南バイパスは、伊勢湾岸道の豊田南IC〜東名の豊田IC前を通過し、北バイパスに至る全長12.9qのバイパスです。このうち、豊田南IC〜豊田ICの区間については暫定2車線で、一部には1部4車線の区間もありますが、平成15年度に供用開始しています。現在は豊田ICから主要地方道の豊田安城線、一般国道153号線の用地買収を行うと共に、豊田安城線の下にアンダーボックスを敷設する予定で施工しています。
――豊田市にはトヨタの工場があるので、地元と県都・名古屋市との間での物流車輌が多いのでは
 瀬本
トヨタの工場は豊田市中心にあり、名豊道路沿線にもトヨタ部品の下請け工場が多いため、工場関係の物流が多くなっています。日本から輸出する自動車は、ほぼ名古屋港と豊橋の三河港から出港され、逆に日本に輸入される自動車の大多数は三河港に入港しています。トヨタでは、陸送で1日以上かかるところは船舶で輸送するようなので、北海道だけではなく仙台なども海運で出荷しているようです。
それでも、その輸送コストは膨大なので、道路整備によるコスト軽減への期待も非常に大きいものです。
――この名豊道路が完成しただけでも、人や物の流れや動きに大きな変化が表れそうですね
 瀬本
すべて開通した暁には、浜松市から名古屋市まで、信号のない路線となるので、これによってかなりの車両が流入してくるものと思われます。信号がなくノンストップで通行できるのは、強いインパクトを与えるでしょう。
―― 一方、東名高速は大型車が多く、普通自動車から敬遠されている様子ですね
 瀬本
豊橋と浜松区間は東名が北側にあるため、市内から東西に向けてのアクセスが弱いのです。そのため、第二東名の期待も大きいと思われますが、海側の幹線道路としては、やはり一般国道23号や一般国道1号への期待も大きいものと思います。
――製品の出荷、搬送が不可欠なメーカーにとっては、こうした道路網は経営上も大きなメリットをもたらしますね
 瀬本
愛知は車社会です。西三河、豊田、刈谷、安城などはトヨタに支えられていますが、岡崎には三菱自動車があり、湖西にはスズキ自動車があり、まさに自動車メーカーが集中している圏域です。
さらに、三河港は輸入車のシェアが全国でも一番で、メルセデスベンツなど有名ディーラーの輸入先はほとんどが三河港となっています。
――そうした経済構造の下で暮らす地元住民としても、早急な完成を望んでいるのでは
 瀬本
地域からは、確かに早期完成の要望をいただいています。例えば、浜松の国道事務所を通じて、早急に豊橋東バイパスを供用開始してほしいとの要望もあります。地元に進出する企業からも、三河港に迅速に到着できるよう早急に完成させて欲しいとの要望があります。
この東バイパスができれば、静岡県西部から三河港に向かう場合は、確かに便利になることから、静岡県下の市町村長からも期待の声が寄せられています。それほど、三河は自動車関連の産業が発達しており、物を運ぶ面で道路の重要性が高いのだと思います。
何しろ、物流は時間との競争になり、渋滞しているか否かでコスト面の影響はかなり違ってきます。キャリア車で10台から少なくて6台ほどで運ぶとすれば、2往復で20台〜12台しか運べなかったものが、渋滞解消によって3往復できることにより、輸送台数は30台〜18台へと増加します。つまり、渋滞がなくなれば、物流効率が向上すると同時に産業としての収益性も向上します。2時間掛かるところを1時間で行けるとなれば、物流コストは必然的に削減できるのですから、メリットはかなり大きいものでしょう。
――全線開通はいつ頃になる見込みでしょうか
 瀬本
我々としては、平成20年台の後半に全通を考えています。特に現在は、蒲郡バイパスの東部区間のみが事業化されていないため、この事業を早急に供用開始したいと考えています。しかし、事業に着手できたとしても、そこから約10年はかかると思うので、どんなに最速で手続きを進めても、供用は平成20年代後半になるでしょう。
▲五ヶ丘トンネル
――蒲郡が後回しになったのは、地形的に施工が難しいのが原因でしょうか
 瀬本
そうです。現在、西部区間の工事を進めていますが、蒲郡は山谷が続く地形であるため、トンネルと橋梁ばかりで事業費がかさんでいます。他の都市部も高架となっており、相対的に事業費が高くなっています。
そうした地形から、この地域は江戸時代から東西に通じる道は、一般国道1号のある辺りから、東名高速や名鉄なども集中し、東海道線などは海側にまでもせり出す形になっています。ただ、一般国道1号の音羽区間は、豊橋や岡崎に比べると渋滞が少なかったので、優先度は低かったのでしょう。
▲所長右側は社団法人「土木学会」『技術賞』の盾
――ところで、土木学会の技術賞を受賞しましたね
 瀬本
平成17年5月に受賞しました。東海環状銭には五ヶ丘トンネルがあり、これはめがね型トンネルとなっていますが、住宅近接施工であったため、「わが国初の全線無導坑めがねトンネルを住宅近接地に爆破工法で施工」したことで、その技術が評価されたものです。
住宅地に近接していたため、導坑を掘らずにメガネトンネルで施工したこと自体が、珍しい事例だったのですが、住民の生活環境を護りながらも愛知万博に間に合わせるべく、スピードアップするためには、爆破工法が有効でした。早く掘り、かつ音を出さずに掘るというこの工法によって、東海環状線の供用を間に合わせることができ、コスト面も抑えることができました。こうしたポイントが評価された結果です。

名四国道事務所管内の道路整備に貢献
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