建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年10月号〉

interview

土木から都市基盤へ業務と体制を総合化(前編)

都市基盤行政のイメージアップに期待

大阪府都市整備部 部長 丸岡 耕平氏

丸岡 耕平 まるおか・こうへい
昭和24年3月8日生
北海道大学工学部卒
昭和46年4月大阪府技術吏員 土木部土木総務課
昭和46年4月土木部河川課
昭和49年4月枚方土木事務所
昭和56年4月土木部河川課
昭和57年11月土木部土木監理課主査(千早赤阪村派遣)
昭和59年11月土木部道路課主査
昭和62年5月土木部道路課改良係長
平成2年4月空港関連道路建設事務所主幹
平成4年4月空港関連道路建設事務所建設課長
平成6年4月鳥取県技術吏員 土木部道路課長
平成8年4月和歌山県技術吏員 土木部道路建設課長
平成10年4月土木部交通政策室参事
平成12年4月岸和田土木事務所長
平成13年4月土木部交通道路室副理事兼同道路整備課長
平成14年4月土木部交通道路室長
平成15年4月土木部技監
平成17年4月土木部長
平成18年4月都市整備部長
この四月から大阪府土木部は、都市整備部へと名称変更され、組織体制も変わった。79年の歴史を持つ土木部だが、高度経済成長期に代表される都市基盤の量的拡大を目指す旧来のイメージを脱却し、都市部のインフラや防災も含めて、総合的な都市基盤行政を担う体制となった。同部丸岡耕平部長は、これを機に都市基盤行政のあり方も、より洗練されたものへ生まれ変わるべく、改めてそのあり方と担うべき役割などについて、捉え直そうとしている。丸岡部長に、今後の都市基盤政策への取り組みなどを伺った。

――この4月から旧土木部が都市整備部へと名称が変わりましたね
 丸岡
旧土木部には79年の歴史がありましたが、現代は単純に土と木だけで構造物を造る時代ではなく、ソフト面も含めて計画から現場まで、幅広く手がけていく時代です。そのため組織変更を行ったもので、名称だけではなく基本的な業務内容についても、計画から現場まで一貫して都市基盤整備を担っていきます。そして7箇所ある出先機関の土木事務所については、危機管理の体制を強化するため、内部に地域防災室監を設け、これまでの河川、道路、公園その他の公共物を管理運営するなかで、危機管理対策も地域防災と一緒に土木事務所で一体化しました。
あわせて今回、公園事務所を7土木事務所に統合し、府営公園のみならず地域での緑行政に幅広く取組んでいます。
このようにして地域の都市基盤行政を一つにまとめた形にしたことで、職員の意識や職務環境にも変化が表れてきているのではないかと思います。
――従来の縦割りセクショナリズムに基づいて業務対象が限定されていたのが、地域の隣近所に広がり、行政区域も大阪府全体の基盤へと変化しつつあるのですね
 丸岡
都市基盤整備は、基本的に総合事務所のイメージとして稼動しつつあります。そのため、土木事務所も名称を地域整備事務所へと変更することを提案しました。地域整備事務所と呼称したほうが、府民にとっても分かりやすいのではないか、と考えたのです。
しかし、府民からは「これまでは土木事務所だったので、名称を変えてしまうとわかりにくい」との声もあり、議論の結果、そのまま残すことになりました。本来は社会基盤、都市基盤の総合事務所なのですが、名称は従来どおりとしています。
かくして、4月から新たな名称の新体制でスタートしましたが、79年の土木部の伝統は守りつつ幅広い都市基盤行政の推進に努めていきます。
――戦前戦後、そして高度成長期から21世紀へと時間が過ぎ行く中で、土木部が担ってきた基盤整備によって、大阪も今や国際社会に誇れる大都市へと成長したわけですね
 丸岡
基盤整備の方向も時代の流れに沿って、ただ造り続けるだけではなく、造ったものをどう有効的活用してもらうかを考える時代へ変化しているということでしょう。したがって、府民と共に考えていく転換期なのだと思います。
――基盤整備は、今後はどのように進められるのでしょうか
 丸岡
投資余力がなくなってきたことも原因の一つですが、私たちは原点に立ち返り、様々な方向から考え直していこうとしています。若手職員が様々な知恵を出し合い、少ない投資でいかに府民の満足度を向上させるか。いかに府民の意見を反映するか。そうしたテーマの中で「協働」という概念が大きくクローズアップされ、前向きな展開をみせています。 中には協働というと、行政の責任転嫁ではないかと批判する人もいますが、税金とはそもそも府民のものであるので、府民と共に考え、造っていくという形で少しずつ広まりつつあります。
――大阪府は歴史もあり、人口密度も高いため、今後の都市整備行政のあり方についても意見は多岐にわたると思いますが、協働を基本にして基盤整備を進めていくのは難しいのでは
 丸岡
府民のニーズが多様化しているため、問題も様々に生じてきます。しかし、予算は限られているので、職員一同知恵を出し合い工夫しているわけです。
――名称が新しくなったこと自体は、プラス要因に働くのでは
 丸岡
そうです。これをプラスにし、発想を転換させて進めていかなければなりませんね。
▲アドプトロード
▲ひつじ飼育による河川環境づくり
――大阪市だけではなく、周辺都市も国際化が進みイメージが変わってきています。国際空港の新設によって海外から人が流れ、産業も生まれるなかでは、都市基盤に求められるものも多岐に渡ってくるでしょう
 丸岡
例えば、関西国際空港の2本目の滑走路は来年8月2日に完成しますが、これも一つの起爆剤となります。それを機に物流の活性化を目指しています。物流と言えば、高速道路の必要性も高まり、この分野においても活性化を目指して、すでに第二名神や第二京阪道路、都市再生環状道路などの整備が進んでいます。都心部の渋滞緩和を目指すことで経済の活性化にも繋がっていくと思われるので、今後とも継続的な取り組みを続けます。
港に関しては、スーパー中枢港湾の展開や、他の港湾との広域連携をどう進めていくかというテーマがあります。
河川についても、施策は洪水対策を中心に考えますが、大阪はそもそも「水の都・大阪」として賑わってきました。この賑わいを取り戻すため、道頓堀川周辺の舟運を盛んにし、活性化を進めるために大阪市と連携しながら様々な施策を展開しています。例えば、船着場を一元管理し、使いやすい管理体制にするなど舟運振興に取り組んでいます。また、水上タクシーを実験的に運行しており、いずれは恒久化して通勤や観光に使ってもらうなどの展開を考えています。
――河川改良や船着場などの整備は進めているのでしょうか
 丸岡
ハード面、ソフト面など多岐に渡って事業展開しています。また、危機管理の面から津波高潮対策にも取り組んでいます。 河川と港湾では、本来区域が分かれるのですが、これも一元化し横断的に調整しながら取り組んでいます。津波対策は初動体制が速やかで万全であることが大切なため、訓練の実施など地域防災力の向上に努めています。
――整備のお陰で、台風や豪雨による洪水などの水害には、対応できるようになりましたか
 丸岡
それもありますが、地形的なメリットからか、最近は豪雨があっても水害は少ないほうです。とはいえ、今回発生した長野の土石流や九州の1,200mmに達する連続豪雨が、もしも大阪にあったなら、やはり同様の被害を被ると思います。
整備対策も確かに進めてはいますが、以前ほど被害が少なくなったとはいっても、決してゼロではありません。
したがって、今後は整備対策に併せてハザードマップを作成しています。これは皆さんの居住区域はどのような状況にあるのか、万一の場合はここに避難してくださいという情報を掲載したものです。
基本的には、住民の避難対策は市町村が担当し、ハザードマップも市町村が作成しますが、その基本となる情報は大阪府で作り、これを基に各市町村が避難場所を誘導するという役割分担で、府、市町村が連携し順次進めています。
――行政としての責任は重大ですね
 丸岡
そうです。やはり連携が一番大切なので、情報伝達システムを市町村と共同で作っています。国からの情報と我々からの情報を併せて、いかに市町村から住民に的確な情報を提供するかが課題です。原始的ではありますが、スピーカーを使っての情報提供も進めています。ネットワークや、テレビ、ラジオを利用するのは当然ですが、それ以外のローテクも必要です。
――港と川は繋がっているので、そうしたところに各土木事務所が配置されているのですね
 丸岡
地域の核となって機能します。総合的に対応していこうというスタンスで、基盤整備も必要ですが、不測の事態に対していかに住民の安全を確保するかが重要です。
(以下次号)

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