建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年8月号〉

interview

陸奥を走る東北新幹線

義経が政宗が座敷童が弾丸列車を見守る

鉄道・運輸機構 東北新幹線建設局 次長  南谷 敏一氏

南谷 敏一 みなたに・としいち
昭和24年1月1日生
石川県出身
昭和46年3月岐阜大学工学部土木工学科卒業
昭和46年4月鉄道公団 名古屋支社
昭和47年8月  同   新潟新幹線建設局
昭和58年8月  同   設計室
昭和62年8月国際協力事業団へ出向
平成元年12月鉄道公団 東京支社
平成4年3月  同     同   辰巳鉄道建設所長
平成6年3月JR貨物鰍ヨ出向
平成9年4月鉄道公団 関東支社 工事第一部工事第一課長
平成11年3月  同   北陸新幹線第二建設局工事第二課長
平成13年4月  同         同    計画課長
平成14年4月  同         同    上席専門役
平成15年3月  同   大阪支社計画部長
平成15年10月鉄道・運輸機構 大阪支社計画部長
平成18年4月   同    東北新幹線建設局次長
陸奥と呼ばれた東北地方は、古くは義経ゆかりの奥州平泉、七夕祭りと牛タンでお馴じみの仙台は伊達政宗の治世史、南部砂鉄・風鈴の産地・盛岡には壬生義士伝のヒーロー、吉村貫一郎、遠野郷は遠野物語に語り継がれる座敷童などの民話の里、青森にはねぶた祭り、米どころ秋田はなまはげなど、古い歴史に由来する数え切れないほどの史跡名所や祭礼・文化があり、国内でも独特のエキゾチシズムを秘めている。その東北地方に、ついに新幹線が開業し、神秘的な陸奥がより身近な圏域となっている。東北新幹線建設局の南谷敏一次長に、東北新幹線の特色や建設について伺った。
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――関東以北は大都市が少ないので、整備が後回しにされてきた経緯があります。東北と北海道を結ぶ唯一の青函トンネルも、かつては「昭和の三大バカ査定」の一つに数えられ、冷ややかな視線を浴びせられました
南谷
しかし、今では東北新幹線が八戸まで開通しており、そして八戸から新青森と北海道の新青森〜函館間の建設に着手しました。現在は在来線だけですが、青函トンネルのお陰で、東北も北海道や本州の間なら毎日行けるようになり、貨物もかなり走っています。大動脈として今でも機能しており、今後もそれ以上の期待が持たれます。
――東北新幹線の全体的な概況をお聞きしたい
南谷
東京から八戸までの総延長は約600qで、トンネルもかなりあります。全体になだらかな線形でルートが引かれるので、山間部がある場合は迂回せずに、トンネルを通します。現在、施工中の八戸〜青森間は約80qですが、その区間でも約6割がトンネルで、それ以外は高架橋や橋梁、切取・盛土という構成です。以前では、迂回するような地形でも、近年はトンネル技術が進歩したので、極力、直線を保つ線形で敷設するのが基本です。
もちろん、お客様に利用していただくために、集積度の高い大都市部は通過しますが、それ以外の郊外では、なるべく直線的に路線を設定しています。
また、北陸新幹線は、東海道新幹線の代替路線として東京〜大阪間を結ぶバイパスの役割を果たします。首都圏で何かがあった場合に、北回りで大阪〜東京まで、あるいは東京〜大阪を結ぶ機能を持っています。
――JR横浜駅と新幹線新横浜駅とは離れていますが、利用者にとっては、新幹線駅と在来線の駅が一体化していると、乗り換えが便利です
南谷
新幹線駅は、極力、在来線駅に近づけるようにしていますが、新花巻駅のようにやむなく離れてしまうケースもあります。線形の問題があり、スピード効率を考えれば郊外が高効率ですが、山間部に駅を設置しても利用客の利便性に問題があります。反面、都市部ばかりを通過するのでは、新幹線本来のスピード効率が確保できません。
――八戸まで開業してからは、地域的にはどのような変化がありましたか
南谷
いろいろと新聞報道されていますが、特に盛岡〜八戸間は、開業して以来、かなりの利用客があり、訪問が増えました。観光やビジネスも含めて、約5割は増加しています。飛行機しか交通手段が無かったのが、列車という選択肢が増えたので、乗り換えた状況があるのだと思います。お陰で、地域社会も大いに活性化しています。
――在来線に比べて、東京〜青森間の移動時間は
南谷
今までは東京〜青森間は、八戸まで新幹線で行き、そこから在来線で青森まで行くことになります。所要時間は、約4時間27分もかかっていました。それが新幹線では、約3時間20分にまで短縮されます。
――4時間となると疲労感を予感しますが、3時間半を切るとなると、心理的な距離感や抵抗感がかなり軽減されますね
南谷
青森が近くなれば、観光に行ってみようという気にもなるでしょう。それによって、地域の活性化に繋がるでしょう。
時間が縮まってくることによって、心理的にも遠隔地と感じていた所が、気軽に行けるようになる効果があると思いますね。
――東北圏内で、移動しやすいことによって、都市部に人が集積することも期待できるのでは
南谷
盛岡は30万人を超え、青森もそのくらいですが、この少子化の時代に人口が自然に増えるというのは、なかなか難しいことです。周辺から人が集まってくるとはいえ、30万人の倍以上になるというのは無理でしょう。
しかし、政令都市まではいかなくても、やはり人の行き来が多くなって活性化するのは一つの大きなメリットです。人の行き来によって、いろいろな情報の伝達がなされることは非常に重要なことです。
かつて私は、上越新幹線に携わったことがありますが、新潟県を見ますと時代の変化もさることながら、新幹線の開業で非常に華やかで、若々しく活気ある街になっています。開業後しばらくしてから行ってみると、街が変わったの印象を受けました。その意味では、新幹線がもたらす効果というのは経済効果も含めて絶大だと思いますね。
――やはり新幹線に乗って行きやすくなった駅が生まれ変わり、新しいターミナルによって人が集まりやすくなりますね
南谷
盛岡もご存じのように、駅の中にテナントが入っているので、お客様も多く来られます。特に仙台は、デパートのようです。
――JRも商業活動が少しは自由になり、駅前にホテルを誘致したり、駅地下も地下街化したり、駅ビルのデパート化も可能ですね
南谷
そうです。人の集まる拠点で様々な附帯事業が出来ますから、その意味でもメリットがありますね。
――それほど期待できる施設であるのに、滋賀県知事選では新駅反対を表明した候補が当選しました
南谷
今までになかった新駅の計画で、全てが地元負担による整備となるので、地域の情勢に則ったそれぞれの考え方もあるのでしょう。それなりの資金が必要なことですから、容易には決められないと思いますが、長い目で見れば、地域にとっては非常にプラスになることだとは思うのですが。
実際に仙台も盛岡も変わりました。特に仙台駅前の発展と変貌などは、目覚ましいものがあります。しかも最速便に乗れば、盛岡からビジネスの中心地である東京や品川までの所要時間は2時間半を切っており、仙台では2時間以内で行けます。しかも運行本数も多いのです。
――ファステックの実用化が進められつつありますが、既存の営業路線の最高時速はどれくらいですか
南谷
現在は盛岡以南で275qです。ファステックは、JRが盛んに試験を重ねていますが、今後もう少し試験を重ねて、実用化されると思います。実用導入されれば我々にとっても嬉しいことです。
▲散水消雪試験/散水状況
――山梨県でリニアモーターカーの実験が行われてきましたが、新幹線の未来形として実用化は可能でしょうか
南谷
現在は実験中ですが、新幹線の場合は車輪とレールの摩擦力によって進行するので、理論的には限界があります。ある一定以上のスピードを出そうとすると、限界があるので、いずれは別の方式で走行するものに変わっていくものと思います。
ただ、いまの東海道新幹線が開業してから約40年が経過し、相当数以上の列車が走っているので、それに変わるものを早く作らなければ大動脈は機能しなくなってしまいます。そのためにも早く成果を出し、新方式が導入されればと考えます。
――全線が開通すると、例えば、九州鹿児島から北海道までをダイレクトに移動することも可能になるのでは
南谷
残念ながら、どの路線も東京で全線乗り換えになります。また、これはJR側の課題ですが、鹿児島発・東京行きを設定した場合、現況では飛行機に対抗するのは難しいと思います。東京〜博多間でも、シェアは飛行機の方が高いのです。
したがって、例えば大阪〜鹿児島間や、岡山〜鹿児島間など、あくまでも新幹線が効果的な区間で勝負することになるでしょう。長距離になると、現況では飛行機の方が有利です。
しかし、大量高速移送機関ですから、1車両で100人を乗車でき、10両で1,000人を輸送できるのは、旅客機にはない利点です。飛行機では、ジャンボ機でも500〜600人弱が定員の限界です。つまり、10両編成の新幹線は、ジャンボ機の約2機分の輸送力を持っているわけです。その意味では、飛行機よりは速度が劣るとはいえ、大量高速移送機関としては十分に優れた機能を持っています。
――メンテナンスにおいては、東北の場合は雪対策が課題ですね
南谷
七戸付近までは、それほど豪雪ではないので、貯雪方式を採用しています。一方、もう少し雪の多い七戸付近から青森以北では、散水方式で対応していきます。すでに開業している上越新幹線などは、新潟の雪国を走るので当初から散水方式で雪を溶かしていますが、北陸と違って東北側は温度が低いので、北海道に似てさらさらとした雪です。それが、さらに北部になると、水分が多くなります。そうした雪質の違いを十分に考慮しながら、雪対策を進めていきます。
――着工に当たっては、トンネル部が多いので用地取得も比較的に順調だったのでは
南谷
それでも、たくさんの地権者がおられるので大変でしたが、様々にご協力いただき、お陰様で順調に進みました。
――現在、施工中の八戸以北での技術的な特色は
南谷
トンネル施工においては、複線断面の陸上トンネルの中でも世界一長い八甲田トンネルが、7年弱という短期間の工事で完成したことが大きなポイントです。予め早い時期に先行ボーリングという地質調査を行い、地質を把握して、それに適した掘削工法を早くに導入して対応したことが、決め手になったと思います。
▲シールド機照明
――掘削には、シールドマシンが用いられたのですか
南谷
山岳トンネルなどの施工は、基本的にNATM工法で行われますが、三本木原トンネルではシールドマシンを使用しました。この地区は地盤が悪く、通常のnatm工法では掘削できなかったため、このシールドを用いることになりました。お陰で、現在は施工が順調に進んでいますが、山岳トンネルへの導入は珍しい事例です。
――その地質がかなり堅固だったのでしょうか
南谷
いいえ、むしろ軟弱地盤で、少し掘削しただけでも不安定になり、パラパラと崩れ落ちてくるような状況でした。これでは危険で、作業が進められないため、様々な対策を検討した結果、シールド工法となったわけです。
――環境対策はどのように行っていますか
南谷
工事中においては、重機作業や工事車両による騒音も振動防止のために、低騒音・低振動型の機材を採用し、工事車両の通行路や通行時間、通行速度を限定したり、作業の時間帯を制限して対処しました。
トンネル掘削に伴って渇水が生じた場合は、迅速に応急措置をとり、被害を受けた住民との協議を行って恒久対策に着手することにしています。その他、新幹線の走行によって、テレビ、ラジオ、携帯電話などの電波受信に障害が発生した場合は、早急に共同アンテナを設置することにしています。
また、走行に伴う騒音対策としては、速度や構造物の高さに合わせて防音壁の高さや形状を決めており、レールも音の原因となる継ぎ目がないよう、極力ロングレールを用いるようにしています。振動対策としては、「環境保全上緊急を要する新幹線鉄道振動対策について」の勧告に従い、通常よりも柔らかい素材の軌道パッドを採用して、振動の軽減に努めています。

東北管内の新幹線整備事業に貢献
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