建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年8月号〉

interview

弾丸列車の夢 着実に実現(前編)

世界に誇る高い技術とノウハウを構築

独立行政法人 鉄道建設・運輸施設整備支援機構  金澤  博理事

金澤 博 かなざわ・ひろし
昭和48年4月日本鉄道建設公団入社
平成11年10月日本鉄道建設公団 新幹線部長
平成15年10月鉄道・運輸機構 鉄道建設本部計画部長
平成16年11月鉄道・運輸機構 理事

かつて、日本を高速度で縦断する弾丸列車として構想された新幹線は、当初は東京以西の京阪神工業地帯を運行するものだったが、後に南は九州から関東以北の北陸、東北にまでネットワークを広げ、そしていよいよ最果ての北海道へと、南北を縦断する路線として認可された。広大なヨーロッパ大陸を横断する大陸型高速鉄道と、狭い地震大国を縦断する新幹線とでは技術的ベースが異なり、これまでに蓄積された独自の技術力とノウハウは国際的にも高い評価を受けている。その技術的可能性と将来展望などを、鉄道運輸機構の金澤博理事に語ってもらった。

▲秋浦高架橋(いわて沼宮内駅南方)を走行する「はやて」
――各地で建設されている新幹線の全体的な概略からお聞かせください
金澤
 
北海道新幹線は新青森〜新函館間、東北新幹線は八戸〜新青森間、北陸新幹線は長野〜金沢間及び福井駅部、九州新幹線では博多〜新八代間の4線区の工事に着手しています。
このうち最も進捗しているのは、東北新幹線の八戸〜新青森間と、九州新幹線の博多〜新八代間の2区間です。これは政府与党の申し合わせで、平成22年度末の完成目標が設定されているので、組織を挙げて取り組んでいます。事業予算の比率からみても、平成18年度までに東北新幹線が59%、九州新幹線が50%で、若干東北がリードしている状況です。
しかし、目標としては両方とも22年度末の完成予定なので、施工体制をどう構築し、用地買収をどう進めていくかが大きな課題です。
次に進捗しているのは、北陸新幹線の長野〜金沢間です。全体計画の40%程度の進捗率ですが、東北・九州より4年後の26年度末の完成目標が定められています。
最後が、北海道新幹線の新青森〜新函館間です。これは昨年度に工事着手したばかりで、進捗といえる段階にはないですが、27年度末の完成が政府与党として決定されています。特に、青函トンネルを含む一部区間では、同じ路盤の中で狭軌の在来線と標準軌の新幹線を走らせるので、在来線の運行をしながら、並行して安全に工事を進めることが課題となるため、施工方法についてはjr北海道側と様々な問題点について、協議・研究している状況です。
――青函トンネルは、予め新幹線の運行を想定し、専用スペースと線路が確保されていたのでしょうか
金澤
青函トンネル内のレールはスラブ板と呼ばれるコンクリートの板に固定されており、それは新幹線も走行できるような幅の広いものになっています。ただ、レールは在来線用の狭軌の2本しか敷設されていません。在来線のゲージは1,067oなので、在来線のレールの外側に、新たに1,435oのゲージで新幹線用のレールをもう1本敷かなければなりません。
――北海道新幹線の規格については
金澤
トンネルその他の構造物は、従来の新幹線規格で建設されているので、車両そのものは既設の新幹線でも全く問題ありません。どのような車両を使用するのかは、jr北海道の経営戦略に関わりますが、いずれにしても東北新幹線と相互乗り入れになるでしょうから、現在、使用されている車両「はやて」が、北海道まで乗り込んでくる形を想定しています。
▲青函トンネル 共用走行のイメージ
――路線ごとに見て、技術上のポイントは
 金澤
 
北海道新幹線については、「高速化」への対応が重要課題となっています。現在、jr東日本ではファステックという最高速度が時速360qの車両の開発を進めていますが、これが運行できるような線形、構造物を検討しながら、将来の高速化を目指しています。
現在の設計速度は時速260qなので、全区間での360q走行は無理としても、環境に影響を及ぼさない範囲で、可能な限り「高速化の可能性」を確保しておくことが重要課題ですね。
さらにもうひとつ課題を挙げるならば、雪対策です。例えばこれまで上越新幹線では、雪を全て溶かしていたのです。それは気温が比較的高いから可能だったのですが、北海道となると、氷点下十数度という条件下で安定した走行性を確保することが今後の課題ですね。
▲上越新幹線散水消雪風景
――東北や北陸の豪雪も、よく知られるところですね
金澤
そうです。しかし、北海道はさらに厳しいということです。東北は青森、北陸は金沢まで、それぞれjr東日本、jr西日本と検討し最終的な雪害対策の方向は決まっています。そのための設備をこれから構築するところです。
――逆に南方は非常に高温ですが、施工や施設への影響は
金澤
九州地方などでの暑さによる直接的な影響といえば、熱せられたロングレールをどう施工するかが課題ですが、軌道工事ですでに設定されたものをもう一回設定し直すなどのノウハウはすでにあるので、特別の高温対策は必要ありません。むしろ、九州新幹線での技術上のポイントのひとつは、乗換えや相互直通運転によって、博多で山陽新幹線といかにスムーズに連絡するかという点があります。
――新幹線の最高速度は、将来的にはどこまで伸ばせるのでしょうか
金澤
現時点で認可された設計速度は時速260kmですが、山陽新幹線などは、営業ベースでは300km走行している区間もあります。現在、jr・車両メーカー各社が様々な車両を開発していますが、将来的には先に述べたファステックのように300kmを超えることとなるでしょう。これは営業運転として常に360kmにするのか、車両の性能として360kmまで確保することを確認しながら営業速度はもう少し抑えていくのか、その運用については、まだこれからの検討課題になると思います。
――技術的進歩によって高速化が可能になれば、やがて旅客機との競争も可能になるのでは
金澤
そうですね。飛行機との競争のポイントは速度ですから、競争力確保のためにも、最高速度の伸張は非常に重要です。
――今日の日本の新幹線技術は、非常に高い国際的評価を得ていますね
金澤
韓国では、日本も応募しましたが残念ながら採用には至りませんでしたが、台湾では日本方式が導入されています。中国はこれからですね。我々も技術協力を様々な方面で行っていますが、日本方式が北京〜上海間に採用されるかどうかは、まだわかりません。
いずれにしても、我々としては世界で最も安定した整備新幹線の技術を持っていると自負しています。
(以下次号)

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