建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年7月号〉

interview

今後の下水道経営をどうするか(前編)

汚泥集中処理東の横綱・東部スラッジセンターがいよいよ機械設備工事が本格化

札幌市建設局 石倉 昭男理事

石倉 昭男 いしくら・あきお
昭和48年  札幌市に勤務 以来下水道事業に携わる
平成15年  東区土木部長
平成16年 環境局環境都市推進部長
平成17年  建設局土木部長
平成18年4月 現職
札幌市の下水道は、普及率が99.5%だが、実情は下水道施設の老朽化と能力不足、合流式下水道の改善など多くの課題を抱えている。しかし、厳しい財政状況の上に、今後、事業費への国補助が削減される懸念もある。しかも、料金設定は低く抑えられており、改正も容易ではないため展望は明るいとは言えない。そこで、資源の再利用など様々なビジネスチャンスを模索する必要があるが、やはり高コスト構造がビジネスとしての確立を阻んでいるのは全国共通の課題だ。そこで現在、整備されている東部スラッジセンターの役割に期待がかかる。札幌市建設局の石倉昭男理事に、下水道の整備と経営にまつわる課題などを伺った。


――最初に就任の抱負、所信についてお伺いします
 石倉
昨年度に旧下水道局と旧建設局を統合して新生建設局がスタートしましたが、今年4月からは下水道建設部門と河川部門を統合して下水道河川部を新設しました。私の所管は下水道事業と河川事業となります。
まず、下水道と河川が一緒になって「水行政」の連携をより一層強くしたいと思います。具体的には、浸水・治水対策の面で特に市街化区域内では下水道と河川の特徴を生かしながら、より密接に相互の連携を取ることにより、一層効率的効果的な事業実施が可能となると考えています。
また、自然ゆたかな水辺づくりでは、市民と協働の面で河川部門が積極的に実施していますので、水環境保全という観点から今後下水道事業との、より一層の関係強化を進めていきたいと考えています。
全体的な抱負としては、これからの社会は、環境という視点、持続可能という視点があらゆる面で考えるべきと思います。下水道事業においても、持続可能な都市を支える、下水道システム・下水道経営自体も持続可能とする、そのためには何が必要かということを常に考えていきたいと思います。
――札幌市は下水道普及率が、ほぼ100%に到達したので、今後は新設箇所もなく建設事業も不要になると考える人もいるのでは
 石倉
札幌の下水道普及率は、確かに99.5%ですが、100%になればそれで終わりというものではなく、膨大な施設の改築・更新を再構築していく必要があります。またシステムとして完成したわけではなく、我々技術管理者の目から見て理想的な状態ではなく、多くの解決すべき課題を抱えています。
――近年はマンション需要が高く、人口が増加傾向にありましたが、対応できるでしょうか
 石倉
汚水処理の面では、それほど大きな問題はありません。汚水の排出量は雨水に比べると非常に少ないものです。むしろ、雨水排水の能力が不足する心配がありますが、浸水被害を起こす豪雨は、何年に一度、何十年に一度のものですから、市民からすれば実感が薄いかも知れません。
札幌の下水道は、特に旧市街地の場合、市道がまだ砂利道だった頃から整備されていますが、当時は今日の状況を想定した管を敷設していなかったのです。口径の大きなものになると、予算がかかってしまい、普及率がなかなか上げられなくなるので、できるだけ小口径のものを敷設してきたわけです。したがって、能力不足が明らかになった段階で増強する必要があります。
――本州他都市では、毎年、台風や豪雨による浸水被害が報道されますが、札幌市内では床下・床上浸水というのはあまり聞かれなくなりました
 石倉
ところが、市内には地盤の低いところもあって、けっこう局所的な浸水は発生しています。本州の場合は、河川が氾濫して事件になりますが、内水氾濫というのはそれほど大きな事件にはならず、報道もされないために、意外と知られないのです。そのため、とかく「今の施設で十分」とされてしまうわけです。
昭和56年に、大規模な洪水がありましたが、それ以降は大規模なものはないものの、局所的な浸水はたびたび起こっています。
そのため、本当は下水管の増強が必要なところが相当残っています。それなりの大雨が降れば溢水することになります。水の恐怖は経験しなければわからないものです。
一方、気象変動が将来的にますます激しくなると言われていますが、我々としては、過去数十年間のデータに基づいて計画し、整備していますが、それが今後ともどこまで通用するのかが不安でもあります。
――やはり、完成度を高めていく努力は必要ですね
 石倉
財政難の時代ですから、理想像はあっても事業費が限られるので取捨選択が迫られます。しかし、少なくとも行政として最低限必要な災害対策を放棄するわけにはいきません。
――インフラが確固たる状況でなければ、いかにマンパワーを高めて努力しても限界があります
 石倉
確かに頻繁に起こることではないですが、財政難を理由に必要な対策をしないのでは、行政として責任を果たしたことにはならないと思います。特に下水道の浸水対策というのは単純計算で、どのくらいの雨が降れば、どれだけの容量を持つ下水管が必要になるかは明らかです。
現況では、下水管は比較的深いところに埋設されており、本来は水圧で流す圧力管ではないのですが、水位が上昇すると、圧力で流れる状況になっています。目地で接続した箇所が早く老朽化したり、最近では目地接続部分そのものが飛んでしまい、そこに水圧がかかって中から水が噴き出すという状況がありました。その後には、管内の水位が下がって周囲の土砂を呼び込んでしまうわけです。それによって、道路下が空洞になり陥没してしまうのです。
―――最大の課題は、下水道事業のための財源確保ですね
 石倉
下水道は国の補助制度に大きく頼って整備してきました。今後はそれを抑制する方向で議論されています。すでに出来上がっているストックの再構築をしなければなりませんが、その財源をすべて自治体の財源で賄うのは、かなり厳しいものがあります。
札幌市の財政も厳しいですが、下水道料金は比較的安い設定かと思います。標準的な家庭で月1,200円程度で、大都市の中では、下から2、3番目くらいです。
――支出削減をせざるを得ない状況ですね
 石倉
そのために、我々自身が様々な経営努力を続けてきているわけです。昨年度から下水道局を建設局に編入し、今年度から河川セクションは、逆に下水道セクションに編入して、組織をスリム化しました。
下水道庁舎を建設した際は、当時は「こんなに狭い庁舎を造ってどうする」と言われたものですが、今日では機構のスリム化と年々の職員定数の削減で、ゆったりとした状態です。
――スペースを有効活用して、有料テナントからの料金収入を確保しては
 石倉
事業費が減少しているとはいえ、一般会計からの繰り入れも合わせて運営される企業会計ですから、市長部局の要請があれば、業務スペースを提供することも検討しなければなりません。

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