建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年7月号〉

interview

上下水道が一体となった「水の架け橋」の理念(前編)

我が国初の露橋下水処理場を活かして水辺空間を創出

名古屋市上下水道局技術本部 計画部長 市川 泰生氏

市川 泰生 いちかわ・やすお
昭和48年4月 名古屋市下水道局採用
平成8年4月 下水道局付主幹((社)日本下水道協会出向)
平成11年4月 下水道局建設部主幹(新事業推進担当)
平成12年4月 上下水道局付主幹
平成13年4月 上下水道局施設管理部施設整備課長
平成14年4月 上下水道局管路管理部保全課長
平成15年4月 上下水道局施設管理部管理課長
平成16年4月 上下水道局計画部長
中部の中の中心都市である名古屋市の中心地となる名古屋駅の地下40メートルで、大規模な下水管敷設工事が行われている。東海豪雨の悪夢以降、近年には局地的豪雨と、それによる浸水被害の発生確率も高まり、万博効果やセントレア開港などで、人の往来がより多くなった名古屋市としては、地域の安全度を一刻も早く高めて安全な都市イメージを確立・定着させたいところだ。しかし、一大拠点駅の地下での施工には制約も多く、様々な苦労が伴う。また、運河に面した露橋下水処理場を歴史的遺産として再生し、水辺を生かしたまちづくりに取り組んでいる。名古屋市上下水道局の市川泰生計画部長に、工事の状況や採用された特殊工法、そして今後の事業展開などを語ってもらった。

▲露橋下水処理場(着工前)
――上水道と下水道を一手に担う合理的な組織体制ですが、どんな基本方針で運営に当たっていますか
市川
名古屋市では昨年の4月に「水の架け橋」という上下水道構想を策定しました。それは、12年4月に水道局と下水道局を統合し、上下水道局という一つの組織になり「水を総合的に管理」していこうという考え方に基づくものです。木曽川から水を取り入れ、浄水して各家庭に配り、そこで排出された下水を浄化して川、海へ戻していくという循環の中で総合的に水を管理していこうと意思表示したものです。そこでのキーワードは「信頼」で、お客様はじめ各パートナーとの信頼を大切にして事業をすすめていく考えです。
水道・下水道事業は、公衆衛生の向上、災害の防止、環境の保全という基本的な役割がありますが、今日では時代の潮流とともに、多様な役割が求められています。それを7つの事業方針で進めていくものです。たとえば、お客様の満足を目指す、高品質な水をつくる、危機に強いライフラインを目指すといったものです。
――普及率もかなり高くなっていますが、これからはどんな事業が中心になっていきますか
市川
水道はもちろん下水道も100%普及に近づいている状況のなかで、先ほど言いました上下水道構想「水の架け橋」を具体化していくために、平成22年を目標とした中期経営計画「みずプラン22」を策定しました。いろいろな課題があるなかで7つの事業方針に基づいて具体的な5ヵ年の施策を計画しました。お客様においしい水を提供するには浄水場など基幹施設や配水管網の整備が必要になりますし、老朽施設のリフレッシュもしていかなくてはなりません。まだ下水道を使用できない人が2%くらいいますのでその整備も必要ですし、名古屋市は合流式で下水道整備を始めましたから、雨水と一緒に汚水が川へ流れ出てしまうという課題にも取り組んでいかなくてはなりません。危機に強いライフラインをめざす点では、やはり浸水対策に力を注がなければならないですね。
――市民の安全・財産を守るためには緊急の課題ですね
市川
そうです。ご存知と思いますが、平成12年9月の東海豪雨は未曾有の雨で、1時間97o、3時間で214oという激しい雨でした。何しろ1日で年間の3分の1が降ってしまったのですから。名古屋市の4割くらいが浸水してしまいました。市としては5年に1回の確率の1時間50oの基準で整備を進めていたのですが、50oどころか100o近い雨が降ってしまいました。
それを受けてすぐに10ヵ年の緊急雨水整備計画を立て、まずは著しく被害をうけた地域や名古屋駅周辺など市街中心地などから事業実施に入りました。前期5ヵ年を経過し、今年度から後期5ヵ年の事業に着手できたところです。
整備の水準は1時間60oの雨に対応できることです。実際には100o前後の雨が降っていますが、60oレベルの対策を行えば、東海豪雨並みの大雨に対しても床上浸水はおおむね解消できる整備目標としています。
――最近の雨は、局地的でしかも100oを越す雨が多いようですが
市川
そうですね。強い雨が増えているようです。名古屋地方気象台のデータより時間50oを超える降雨の回数を1900年から見てみると、前半の50年間は5年に1回の周期でしたが、後半50年はその周期は短くなり1985年から2004にかけては2.2年に1回の間隔となり大雨の頻度は増加傾向にあるようです。
東海豪雨の時には「今回のような時間100oの雨は100年1回の雨でして・・」なんて説明していたのですが、4年後の16年9月に市内の瑞穂区で時間107oの雨が降ってしまい、「嘘を言っている」と責められました。
先ほど言いましたが、100oくらいの雨が降っても床上浸水だけは何とか無くそうと整備を進めています。床上と床下では被害の程度が相当違ってしまうので、何としても床上浸水だけは防ぎたいと思っております。
また、従来からやってきた行政側のハード対策だけでは限界がありますので、これからは住民の皆さんが浸水から自分を守る、つまり自助が必要ではないでしょうか。そのためにわれわれが何を支援すればよいのかを示していこうと考えております。
――名古屋の下水道も歴史が古く、老朽した施設の更新も必要になってきているのでは
市川
名古屋駅の近くの中川運河べりに露橋処理場というのがありますが、現在改築更新工事をやっています。この処理場は昭和8年に運転開始していますが、中川運河はその前年に名古屋港と名古屋駅を結ぶ海陸交通拠点形成のために造られたものです。
交通形態が変わってしまった現在、名古屋のウォーターフロントとして中川運河に新たな役割が求められようとしています。下水道サイドでも露橋処理場の空間と運河の水辺空間を活かした街づくりをしようと、街づくりやビオトープなどの専門家、その地域に住んでいる人などを交えた検討会を立ち上げてプランを練っているところです。
――昭和8年の施設となるとかなり古いものですが、まだ機能しているのですか
市川
現在処理場機能は雨水排水を除いて全面休止状態です。この地区の汚水は他の処理場へバイパスさせており、このように処理機能を全部停止して一気に改築してしまうのは極めて珍しいと思います。ですから制約が少なくなって先ほど申しました空間利用のプランにも自由度が増すわけです。
以前は処理場と運河は道路と工場によって遮られていましたが、改築を機に、工場には移転していただき運河際まで処理場用地に拡張しました。処理施設は地下構造としますので、その上部はまさに水辺となります。高度処理施設でつくられた水を上部の空間で楽しく利用できればと思っています。
――まちづくりにおいて下水道の役割も多様なものになってきていますね
市川
そのとおりです。下水処理場も単なる下水を浄化して川へ流すのではなく、その上部空間が水や緑を生かしたまちの景観形成を担うことにもなりますし、環境学習の場として活用したり、災害が発生したときの避難場所とすることなど広い視点で検討しています。迷惑施設として近隣の皆さんに嫌われていた下水道施設を、まちの環境ランドマークにしていきたいですね。
(以下次号)

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