建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年7月号〉

interview

環状8号線が全線開通

首都高の整備に自治体として初めて着手

東京都建設局 道路監 道家 孝行氏

道家 孝行 どうけ・たかゆき
昭和49年4月 建設局(入都)
昭和53年10月 建設局 第一建設事務所 工事課
昭和54年6月 都市計画局 施設計画部 施設計画課
昭和60年4月 都市計画局 施設計画部 街路計画課
昭和61年4月 世田谷区都市整備本部都市計画課調査係長
昭和63年4月 大田区 土木部 第三課長
平成4年4月 建設局 南多摩東部建設事務所 工事第一課長
平成5年4月 建設局 道路建設部 副参事<道路公社派遣>
平成7年6月 建設局 再開発部副参事(事業化担当)
平成10年7月 建設局 区画整理部 計画課長(統括)
平成12年8月 建設局 第二建設事務所長
平成14年7月 交通局 技術管理担当部長
平成15年6月 都市計画局 都市基盤部 外かく環状道路担当部長
平成17年7月 建設局 道路建設部長
平成18年4月 建設局 道路監
首都・東京都内の慢性的な渋滞は、つとに知られている。これを解消するために、都内では国、自治体、その他高速道路会社などが鋭意道路整備に取り組んでいるが、整備率は今なお全国平均を下回り、財源不足も壁となっている。しかも、近年では道路特定財源の一般財源化も議論されており、道路事業者には厳しい逆風が吹いている。だが、東京都建設局は、そうした逆境に屈することなく5月には環状8号線を開通させ、新交通システムとなる日暮里舎人線の施工も進め、そしてこれからは首都高速道路(株)と共同して首都高速中央環状品川線の施工にも着手する。同局の道家孝行道路監に、都内道路網の現況と整備状況などを伺った。
▲環状第8号線全体計画図
――長引いたデフレ不況により、一時期は都内交通量が若干ながら微減傾向が見られたと聞きますが、実際にはいかがでしょうか
 道家
いいえ、この30年にわたる自動車保有台数の推移を見ると、区部でも多摩部でも人口の伸びに比例して着実に増えており、したがって自動車交通量も減るどころか着実に増加しており、渋滞状況はますますひどくなっています。
このため、人口が1,200万人に上る大都市である東京都は、首都として、また我が国の中核として重要な位置を占めており、政治、経済、文化などあらゆる面で中心的な役割を果たし、活発な都市活動が行われているので、道路は都市機能の上からも、都民の日常生活の面からも重要な都市施設です。そのため、慢性的な交通渋滞を解消し、円滑な経済活動に寄与するための道路ネットワークの形成が必要不可欠です。
――道路網の整備状況は
 道家
平成17年4月時点での都内の道路は、総延長がおおよそ24,052km うち都道2,154kmで、全国の道路延長約118万kmの約2%に相当します。これを首都であり中枢管理都市である東京の集中度を表わす諸指標と対照すると、人口は全国の約10%、企業の会社数は約55%、自動車数は約6%となっており、比較すると道路整備率が極めて低い数値となっていることが分かると思います。
道路の舗装率でみると、国道、都道、区市町村道の合計は97%、改良率についても90%という高い率となっているので、数値上では整備が進んでいるかのような印象を受けますが、しかし自動車が満足にすれ違えないような車道幅員5.5m未満の道路延長が、東京の道路総延長約24,052kmのうち約16,619kmで、約69%にも及んでいるのです。これは、都内の道路が量質ともに乏しいなかで、いかに過酷な使われかたをしているかを示していると言えます。
さらに、道路率という指標でみると、都全体ではわずか8%にすぎず、既成市街地とされている区部においてすらも15.8%という実態です。さらに、欧米諸国の主要都市はおおむね20%〜25%となっており、これと比較しても著しく立ち遅れています。特に市街化の進行が著しい多摩地区の道路率などは、わずかに8.3%とさらに低い状況です。
――それでは、渋滞の慢性化も必然的ですね
 道家
このために、東京の自動車交通の状況は、国道を含む幹線道路に集中し、朝タのピーク時にはその大部分で渋滞が生じています。11年度の道路交通情勢調査では、日中の12時間における混雑度が1.0以上の道路延長は、一般国道で約58%、主要地方道約63%、一般都道約38%です。
こうした主要道路の慢性的な交通渋滞は、バスなどの公共交通機関の輸送効率を低下させ、業務活動や日常生活を阻害し、排気ガスなど交通公害の増大ももたらす原因となっています。
その一方で、建設局の道路投資額は、昭和60年代からの好調な経済成長の下、平成4年をピークに高い伸び率で推移してきたのですが、近年では厳しい財政状況を反映して事業費の確保が困難となっています。
――切実なジレンマにあることが窺われますが、どのような対策を考えていますか
 道家
渋滞による経済活動の低迷や、環境負荷などの大都市特有の問題を克服し、都市を再生させ、国際都市にふさわしい活力と魅力に満ちた千客万来の世界都市・東京を実現させるためには、道路整備は最も基本的で重要な役割を担っています。そのため、私たちは5点の基本方針を設定し、整備を推進することにしています。
一つは、都市の骨格を形成するため、区部の環状方向、多摩の南北方向、区部と多摩を結ぶ東西方向の道路を、重点に骨格幹線道路のつながっていない区間と橋梁を整備することです。また、生活環境を守るために沿道環境対策を推進し、市街地では地域の円滑な交通を確保する幹線道路を整備し、一方、山間部や島しょでは、生活基盤を強化し産業の振興を図るための道路を整備することです。
それから、道路交通の円滑化と安全性の向上を図るため、交差点の整備・交通安全施設の整備、鉄道の立体交差化などを進めることも重要であり、公共交通を充実させ、沿線の開発に寄与する上では、日暮里・舎人線をはじめとする新交通システムなどの建設促進も有効です。さらに、既存道路の有効活用という観点から、交通需要マネージメントを進めることも大切です。
このように、都市計画道路の基本パターンは、区部においては放射・環状型で、多摩地域では、おおむね東西と南北の格子状というイメージとなります。
現況では、環状線は放射線に比べて整備が遅れていますが、都心ヘの通過交通の分散を図るために重点的に整備を進めていきます。一方、多摩地域では、東西方向の路線である甲州街道、新青梅街道、五日市街道など、旧街道を中心に整備してきましたが、地域の均衡ある発展の上からも、南北方向の路線についても、積極的に整備を促進しています。
――そうした厳正な条件をクリアしながら、いよいよ環状8号線の開通を迎えたわけですね
 道家
そうです。都の幹線道路は、都市計画道路の計画延長が区部で666q、多摩391kmで、都市計画道路外の計画延長は多摩86kmとなっており、合計で1,143kmです。この中の環状8号線が5月28日に全線開通しました。整備効果として杉並区四面道交差点から北区岩渕町まで笹目通り経由でこれまで60分余りかかっていたところ30分足らずに時間短縮されました。
――近年は、道路に求められる機能も、多角的になりつつあるようです
 道家
特に、道路における環境配慮への社会的関心が高まっているので、4車線以上の主要な幹線道路の整備においては、通過交通による大気汚染や騒音・振動の軽減、安全で快適な歩行空間や、緑豊かなうるおいある都市空間の創出など、沿道環境に配慮して整備しています。
これまで施行している主な箇所は、環状8号線の練馬区北町四丁目〜若木三丁目区間などで、今後は調布保谷線、府中所沢線等でも実施していく予定です。
▲北町から若木方面を望む
―― 一方、都内の高速移動を可能にする都市高速道路網の整備にもいよいよ着手しますね
 道家
都市内の交通の円滑化を図り、首都圏の社会・経済活動を支え、首都東京の機能を向上させるためにも、自動車専用道路としてこれまで旧首都高速道路公団が担ってきた首都高速道路の整備に、都でも着手することになりました。
 今回、都が着手することになった中央環状品川線は、品川区八潮から目黒区青葉台に至る延長約9.4kmの路線で、全長の約9割が地下トンネル式となり、高速湾岸線と中央環状新宿線を結び、高速3号渋谷線と連絡する路線です。
この事業は、都が実施する街路事業と首都高速道路株式会社が実施する有料道路事業との合併施行によって、25年度の完成に向けて整備されることになっており、17年度にはすでに都の街路事業が先行着手しています。
また、中央環状新宿線は、目黒区青葉台から板橋区熊野町に至る延長約11kmの路線で、高速3号渋谷線と高速4号新宿線、高速5号池袋線とを連絡するものです。
これらの中央環状線が完成すれば、都心環状を通過する交通の迂回・分散が図られ、都心に集中する慢性的な交通渋滞が緩和されることとなり、高速道路ネットワークの利用効率が向上します。
その他、先の中央環状新宿線の関連街路として環状第6号線の渋谷区松濤から豊島区要町に至る延長8.8km区間を整備しています。また、中央環状王子線の関連街路としては、環状第5号の2号線などを整備しています。
――近年は、公共事業の整備効果をより分かりやすく示すためのアカウンタビリティが求められています
 道家
都民が道路整備の達成状況を具体的に実感できる「成果主義」を導入するため、15年度から「平均旅行速度」など、道路整備の成果を定量的に表す12のアウトカム指標を定めた「みちづくりアウトカムプラン」を策定しています。
このプランは道路整備の目標値を、これまでの整備延長などの事業量から、道路整備の成果を定量的に表すアウトカム指標に転換するもので、「活力」「環境」「安心・安全・生活」の3つの視点から「渋滞のない交通環境の実現」を評価する平均旅行速度など、12のアウトカム指標と、その年度末目標や中期目標を示すものです。
――最近は道路特定財源の一般財源化を望む議論もありますが、どう考えますか
 道家
道路特定財源は、あくまでも道路整備という目的に特化された財源であり、これを運用するに当たっては、私たちは決して整備効果に疑問が持たれるような無駄な投資を全くしておらず、また今後ともそうした運用はしない考えです。
現実に都内の道路網がいかに脆弱で、そのためにどれほどの損害を受けているかは、説明した通りで、首都・東京はもとより、我が国の再生のためにも、道路整備はまだまだ必要ですから、そうした実情よく理解して頂きたいと思います。

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