北海道発未来着 第25回

〈最終回〉100年後の北海道

41.夢想、100年後の北海道

最近、北海道を取り巻く社会経済状況には明るい話題がない。そこで最終回の話題として、北海道発未来着のタイトルに相応しく北海道の未来に思いを馳せ、可能な限り夢を膨らませてみた。夢を大きく膨らませるためには、近視眼的な発想にとらわれがちな現状をしばし忘れなければならない。そのためには100年という単位が必要と考えた。100年後の北海道を夢想する前に、前提条件を次のように仮想した。

@ 地球温暖化が進み、我が国の平均気温は現在より3℃上昇する。そのため、関東以西は猛暑、干ばつ、大雨等が頻発する。
北海道は温暖化し現在の東北並みの気候となる。
A 世界的に経済重視から環境重視へ価値観が完全に移行している。また、我が国では環境保全事業が公共事業の中心となり、国土環境省が一括して担当している。
前世紀の反省から画一的な設計は世の批判を浴び、地域の自然環境に配慮し景観に優れた個性的な設計が尊ばれるようになっている。
B 一個人多機能(次項で詳述)が一般化し、複数の組織(ソフトな団体を含む)に所属するのが常識となる。
また、自己の能力をセールスポイントとする個人企業が大幅に増える。
C 首都は東北へ移転されている。
D 日米中euが世界の4極としてリードしている。
E 環日本海が一大経済圏となっている。それに符合するように、日本海は地中海、カリブ海と並ぶ世界3大クルーズとして賑わう。
F 我が国の人口は1億人前後を推移する。
G 関東、東海地方に大地震が複数回襲う。

これからが夢想の始まりである。

(1)国連アジア本部が北海道に設置され、国際会議の開催が日常的となっている。
(2)環日本海の鉄道・道路網が完成している。合わせてヨーロッパ、北米への直行鉄道・道路も完成している。なお、車は電気自動車が主体で、一部天然ガス車が利用されている。
(3)宇宙(観光)基地が北海道にでき、宇宙が研究の場だけでなく生産や観光旅行の場としても利用されるようになる。
(4)東アジアのスーパーハブ空港・港湾が北海道にできている。また、自家用機が人口100人当たり1機を超えるまでに普及し、国内だけでなく海外にもビジネス・観光に用いられるようになる。北海道には自家用機専用空港だけで、100ヶ所を数えるようになる。
(5)冬季オリンピックは環境保護の観点から初開催の適地がなくなり、既存の開催地の持ち回りとなる。そのため、北海道で21世紀中に2回冬季オリンピックが開催される。さらに、夏のオリンピックも地球温暖化の影響で気候変動が激しくなるため、開催適地が限られるようになり、北海道が有力な候補地となってくる。恐らく22世紀初頭には北海道で夏冬連続開催が実現するであろう。
(6)日本中の優れた土木遺産を移設、復元した広大な土木公園が北海道のある地域にでき、地域振興と土木再評価の一翼を担う。
(7)太陽熱、風力、波力、海流などの自然エネルギーが実用化され、適地に恵まれた北海道が重要なエネルギー供給地となる。
(8)気候が温暖化した北海道は、技術開発も相俟って農業生産が飛躍的に増加し、名実ともに我が国の食料庫となり、北海道で農業に従事する(企業型と個人型を自由に選択可能)ことは国民から羨望の眼で見られることになる。
(9)農業と商工業との間で廃棄物リサイクルシステムが完成した北海道は、環境保全の先進地として世界から注目される。なお、環境関係の世界的研究教育機関が北海道に設置されている。
(10)北海道の自然は積極的な保護策を施した結果、世界にも稀な自然と人間とが接近した中での自然環境保護の成功例として、高く評価され世界遺産に登録される。
(11)北海道の人口は1千万人を超える。中心都市札幌市は300万人を超え、我が国第2の大都市となる。他の地域も、帯広圏が快適な気候条件と広大な空間の活用により100万人、稚内市が国境都市として20万人、函館圏が環日本海と北太平洋との接点として80万人となるなど、北海道各地が万遍なく発展し、日本の経済をリードする地域となる。
(12)これらの結果、現在北海道への居住希望が国民全体の10%程度(全国1位)であるのが、理想の生活空間としてさらに高い人気を集め、居住希望は国民の半分に達し、かつての東京一極集中と同じく北海道集中が社会問題となる。

「他人が考える以上に夢を抱けば、現実になる」という言葉がある。北海道の未来がバラ色になるか否かは北海道に住み人の心の持ち方次第である。ほどほどの気持ちで夢を持てば、ほどほどの夢も実現しないであろう。他の地域の人が唖然とするほど強い意志で夢を抱いてこそ初めて、夢が実現するのではないだろうか。北海道が永遠に夢育む大地であることを願う。
なお、上記(2)の一環を成す津軽海峡横断の本州・北海道架橋について、ホームページ(http://www2.hotweb.or.jp/hondo-bridge/welcome.html)が開設されたのでお知らせする。土木学会誌11月号にも「津軽海峡からのメッセージ」という一文を書いたが、本架橋構想が100年後と言わず数十年以内に実現していることを願っている。

42.一個人多機能のすすめ

我が国では所属するところに一生を捧げる、会社人間や役所人間といった生き方を称賛する向きがある。勿論それを一概に悪いとはしないが、それだけでは一人は一人としての働きしか出来ない。人間はそれぞれ個性があり、得意とするものを持っている。それを所属する職場で十分に発揮出来ている人はごくわずかであり、多くは個性を抑制し、得意とするものを不完全にしか燃焼出来ないままとなっている。職場外で個性を伸ばし、得意なことを活かすことが出来れば、一人が何人分もの機能を果たすことになる。北海道569万人が一個人多機能の道を選べば、実質的な北海道の機能人口は1千万人にも1千5百万人にも相当することになる。定住人口や交流人口が容易に増えないのに対し、機能人口は個人個人が考え方を変えるだけで容易に増やすことが出来る。
機能人口が増えるためには、多様な生き方を許容し、職場社会中心から地域社会や仲間社会、ボランティア社会など、多様な社会参加の形態を選択出来るようなシステムが形成されなければならない。インターネットの普及、ボランティア休暇の制度化、npo法策定の動きなど、その芽はすでに出始めており、以前に比べれば職場外に種々の活動の場を見出している人が増えている。私の知る限り、一個人多機能を実践している人は発想が豊かで活力や魅力にあふれている。機能人口が第3の人口指標として使われ、全国の中で北海道の数値が高いものとなることを願っている。


43.無生 無死

「無生 無死」とは、無にして生まれた赤ん坊から始まる人生を十分燃焼して送ることができれば、死す時には無に戻っているという意味である。最近このような生き方が理想と考えるようになった。死して無になるとは違うことに気を付けていただきたい。
北海道発未来着を始めてから2年余りが経過し、25回をもって最終とさせていただいた。もとより未来への着地を見届けることなく終えることとなるが、非才のなすわざとお許しいただきたい。その間、貴重なご意見、ご忠告、ご批評をいただき、それらを次号以降への参考とさせていただいた。ここで紙面を借りて御礼申し上げる。また、読者の多くの皆様とは直接言葉を交わすことなく紙面を介すだけの関係であったが、それだけに本紙面上でしか御礼の申し上げようもない。ありがとうございました。



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