北海道発未来着 第23回

昔京都、今北海道 ―住みたい県全国第1位―

36.北海道が9.5%

 表−20は1996年にnhkが調査した全国県民意識調査のうち、現在自分が住んでいる都道府県以外の「住みたい県」の上位10県である。北海道が他を大きく引き離して全国第1位となっている。内訳を見ると、北海道を1位と回答している県が青森、宮城、茨城、栃木、群馬、石川、静岡、三重、京都、岡山、広島、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、沖縄と17県にも及び、さらに上位3位まで加えると44県となり、全国万遍なく支持を集めていることが明らかとなった。この調査結果は北海道の将来を考える時、誠に心強いものがある。是非この高い支持を北海道にとって実のあるものに変える糸口としてもらいたい。
 同じ調査は18年前の1978年にも行われており、その時の順位は、京都、北海道、静岡、東京、神奈川、大阪、宮崎、長野、兵庫である。当時の報告書には京都が8%近くとあるだけで、個々の数字は記載されていないが、千年の都から大自然の北海道に国民の住みたい希望が明らかに変化したことだけは確かである。
 「寒くて人の住むところではない」「熊が出る」といった北海道の悪いイメージは根絶してはいないものの、情報と交流の拡大、自然環境への価値観増大などの社会環境、国民意識の変化が北海道を1位に押し上げた要因であろう。この傾向は当分続くものと考えられ、その意味では北海道にとって飛躍のチャンスである。しかし、京都が18年間で1位から5位に下がったように、北海道が永久に1位という保証もまたどこにもない。京都が後退したのは、全国的に展開された画一的な都市化の波によって、世界遺産ともなった多くの歴史遺産と必ずしも調和しない都市景観が形成されてしまったことと無縁ではないだろう。期待が大きければ大きいほど、裏切られた時の失望もまた大きいのが世の常である。10年後20年後の北海道が現在の9.5%という高い支持率を保ち続けるためには、京都を他山の石として画一化を避け、北海道らしい個性的な生活空間、自然空間の創造と保全に心がけなければならない。

37.爽夏明冬(そうかめいとう)

 表−20から、東京、大阪などの大都市圏は現に住んでいる割合(東京9.4%、大阪7.0%)より居住希望が大幅に少ないことも分かる。近年、社会資本の整備を費用対効果から優先付けしようとする動きがあるが、それは社会活動の一部だけを評価することになりかねないという危惧を持っている。居住希望というような目に見えない心の活動を評価することなど及びもつかない。評価指標として用いられることの多い、現在の全国の人口分布や経済力分布は我が国の長い歴史に比べればほんの短期間のことであった、高度経済成長時代を経て大きく変化したものである。しかし、費用対効果を重視すれば、問題対処型事業が優先される結果となり、先行投資型事業は後回しにされることになる。それは人口の過密が問題対処型事業を多く生み出す大都市圏優先整備という図式となり、結果として居住人口より居住希望の方が少ない大都市圏に引き続き住まざるを得ないことになる。つまり、国民の希望と相反するような事業選択が続くことになりかねない。
 世論調査では9.5%にも及ぶ居住希望があった北海道であるが、現に住んでいるのは4.5%の569万人にすぎない。現に住んでいる人口以上の潜在的居住希望者がいるにも関わらず、一向に北海道への人口吸収は進まない。それには多くの原因があると思うが、その一つに「積雪寒冷地」という半ば北海道の形容詞として使われている言葉が挙げられる。冬期の数か月間はそのとおりだとしても、一年を通した季節感の素晴らしさは北海道ならではのものである。
 「積雪寒冷地」という特定の季節を表現するにすぎない言葉は、気候条件を地域のハンデとして格差是正に活かそうとした、ある意味では北海道にとってプラスに作用するものと認識されてきたし、今でもそう思っている人が結構多いだろう。しかし、この言葉は両刃の剣であり、国民の大多数に北海道は寒くて大変なところという印象を十分すぎるほど与えることにもなった。すなわち、副作用としてのマイナス効果も大きかった。薬の副作用が場合によっては、命取りになりかねないように、北海道にとってよかれと思って使ってきた「積雪寒冷地」の副作用が北海道への人口吸収の妨げになったのではないかと思っている。
 そこで、「積雪寒冷地」に代わる言葉を勝手に考えてみた。夏には「爽」やかが使えるとすぐ思い付いたが、冬に使える言葉がなかなか思い浮かばない。あきらめかけていた時に、日が短くなった初冬に初雪が降ると、月明かりや街灯の明かりが白い雪に反射して急に夜が明るくなったように感じることを思い出した。そうだ、北海道の冬は「明」るいのだ。それに比べ、雪のない地方の冬の夜は暗く長い。「積雪寒冷地」から「爽夏明冬(そうかめいとう)」へ、北海道の形容詞を変えてみてはどうだろうか。

表−20  住みたい県の上位10県 (1996年、単位:%)
北海道 静 岡 東 京 神奈川 京 都 沖 縄 長 野 大 阪 福 岡 千 葉
9.5 5.8 5.7 5.0 4.5 3.5 3.2 3.0 2.3 2.2
(出典)データブック全国県民意識調査1996、編集:NHK放送文化研究所

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