北海道発未来着 第3回

今回の大雪に想う

(前号から続く)

5.雪は天からの白いダイヤ

 今年は全国的に10年ぶりの寒く、雪の多い年であるという。おかげで交通渋滞や交通止めであるとか、除雪費が底をついたとか、雪のマイナス面を指摘する報道ばかりが目に付く。雪ってそんなに悪さばかりするのだろうか。そこで、少し雪の味方をしたくなって、本号に急遽雪の話題を取り上げることにした。
 ちょうど10年前、土木学会誌の編集委員をやっていた時、「雪国新時代」(1986.2)という特集を担当したことがある。克雪から利雪へと視点が変わりつつある時代を意識した内容となっており、“ふゆトピア”の紹介もある。それから10年、スタッドレスタイヤの普及によって粉じんがなくなったのと引換えに、ツルツル路面が新たな克雪のテ−マとなり、より高水準の冬期路面対策が求められ、ロ−ドヒ−ティングが多くの個所で設置されるようになった。流氷観光が始まったのもこの10年のことではないだろうか。

(1)雪は偉大な経済資産

 防寒衣料、防寒靴、スタッドレスタイヤ、ウィンタ−スポ−ツ用品、暖房機器、スコップから除雪機・融雪機までの除雪・融雪器具、スキ−場、冬期観光、断熱気密な住宅、4wd車の売上げ増、病害虫の少ない農業、渇水の心配のない天然のダム等々、雪と寒さが生み出す産業・経済・社会に与える効果は極めて大きい。もし、日本に雪国がなかったとしたら、これだけ多様な産業群は形成されていなかったのではないか。誰か雪と寒さに関係した経済活動(gdp)を試算してはくれないものだろうか。多分除雪費などは十分おつりが出るくらいの規模であると思う。因みに、例年の札幌の除雪費は市が100億円、開発局が10億円程度で、市民一人当たり6,250円に過ぎない。それに対し、年間に個人消費する雪と寒さに関係する支出を想像するだけでも二桁程度は多いのではないだろうか。
 そう考えれば、雪国での除雪はそこに生活する人々はもちろん他の地域に住む人々にまで、活き活きとした経済活動を提供していることになる。日本に雪国があるおかげで、雪のない地方に存在する産業群は数知れない。雪は雪国だけではなく、日本全国にその効果を及ぼしている国民共通の財産なのである。その割に雪は冷遇され過ぎているとは思いませんか。

図 精密機械工業に見る冷暖房費
・暖房費は、ボイラーの油費用(a重油)、冷房費は、圧縮器電気料、冷却塔電気料、冷却水ポンプ電気料の合計である。 ただし、搬送機器は、システムの違いで変動要素が大きいため、費用には含めていない。
・北海道電力鰍フ「全国各地の冷暖房費用比較」によった。

(2)冷房病と暖房病

前述の土木学会誌に山村北大教授が書かれた「冷暖房費のエネルギ−コスト」という記事があり、その中に冷暖房のコスト比較をした図−9がある。それによれば、年間を通して見ると、寒い地方の方が低いエネルギ−コストであることが分かる。大体年間の最大電力消費は暑い夏の日に限られている。エネルギ−資源小国である日本にとって、寒い地方と暑い地方をもっとバランスよく使うべきであり、寒い地方の有利な条件をもっともっとprすべきである。暑さには冷房で、寒さには暖房で対処することになるが、健康のことを考えれば、冷房病はあるが、暖房病というのは聞いたことがなく、寒さにも優位な点が数多くある。
 日本の大消費地がたまたま暑い地方にあるという既成事実によって、寒い地方は距離的ハンデをはじめ、容易に克服出来ない南北格差を受けてきた。これに対し、アメリカはニュ−ヨ−ク、シカゴなど冬には札幌以上の寒さになる中心都市があるし、イタリアはアルプス山脈に近い北部のミラノ、トリノが発展しているように北高南低の経済格差が問題とされている。さらに、ロシアはモスクワ、中国は北京と寒い地方に首都がある。
 寒さには寒さのよさがあり、暑さには暑さのよさがある。両方とも日本国土の持つ特性であり、この多様性が我が国の持ち味である。南北格差などは早く過去のものにしたい。

(3)雪文化

 昔から我が国には雪を題材にした歌や小説が数多くある。これらも我が国に雪国がなければ、そのほとんどは存在していないはずである。もし、雪に権利があったとしたら、莫大な著作権が入ることになる。雪に断りもなく、ちゃっかり雪で儲けている人の何と多いことだろう。雪まつりもすっかり定着した冬の祭典である。
 日々の生活でも、スリップして動けなくなった車を通りかかった見ず知らずの人が押してやるとか、大雪で雪掻きしながら近所の人と親しくなるなど、雪国ならではの人情が形成されている。同じ釜の飯ならぬ、同じ雪と寒さを共有した者でしか分からぬ人間関係がそこにある。
 ともすれば、雪国と他の地域との間には差別感・優越感を持って語られることがあるが、それは実態を知らない考え方であり、本来はそれぞれが我が国にとって欠くことの出来ない国土であって、雪国とは単なる地域の自然を区別するに過ぎない言葉であることを知らなければならない。狭い国土でありながら、こんなにもバラエティ−に富んだ国は日本の外にはないのではないか。もしかすると、この多様性が我が国の潜在的な経済基盤になっているような気がする。このようなことを研究する雪の文化経済学があっても不思議ではない。関連した本などがあれば是非お知らせいただきたい。連絡先はtel(011)709-2311(代表) です。
 「雪国」は吉幾三だけでなく、そこに住む人々にとっても、誇りと富を与えて然るべきものである。豊かになりつつあるアジアを考えれば、次の10年までに北海道をはじめとする北日本がアジアの雪王国となることを期待する。雪は天からの白いダイヤなのである。


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