北海道発未来着 第1回

「北海道発未来着」のスタ−トにあたって

1.なぜこのタイトルか

高橋陽一氏から氏が担当されていた本誌の連載「建設大学講座」を引き継ぐよう命じられ、大先輩からの依頼という光栄に浴し、畏れ多くもお引き受けした次第です。
 ここ数年来、我が国そして地域の将来ビジョンをめぐるシンポジウムに数多く参加してきたが、そこで、北海道からの情報発信が少ないという声を再三にわたり聞かされた。全国的には次期の総合開発計画をめぐって議論が活発になっている。また、首都機能移転の議論も活発になっている。一方では、超高齢化社会の到来が確実であるだけに、ビッグな将来ビジョンの作成はしばらくないかもしれず、21世紀を前にして少しでもいい場所を確保しようとする激しい地域間競争が始まろうとしている。
 そこで個人的に最も関心のある将来ビジョンを基本テ−マにすることとし、タイトルを「北海道発未来着」とした。果たしてどれだけ着陸出来るか全く自信はないが、ともかくスタ−トすることにする。

2.歴史を振り返る

ビスマルクの「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」という名言があるように、やはり将来を語るからには、歴史を振り返ることから始めなければならない。
 北海道の歴史を大胆に要約すれば、我が国が困難な時に役割が最大となる地域ではなかろうか。明治維新後の混乱した時代において、旧士族に移住の地を与え、帝政ロシアの南下政策に対する辺境防衛という国策を担ったこと、第2次世界大戦後の我が国復興において、引揚者・復員兵の収容の地となり、さらに食料増産、資源・エネルギ−確保という重要な役割を担ったことがその証である。いずれの時も日本に北海道がなかったとしたら、現在のような我が国になっていたか疑わしい。
 「歴史の終わり」(フランシス・フクヤマ著)という本まで出る時代になった。欧米諸国としては20世紀を、我が国としては戦後を成長の時代とした政治・経済・社会システムに行き詰まりが出始め、民族紛争、失業、就職難に象徴されるように世紀末特有の停滞感・閉塞感が漂い、次なる時代への明るい展望が見い出せていない。その一方では、アジア諸国が急速に国力を増加させており、21世紀の成長センタ−として期待されている。
 幸か不幸か北海道は、戦後の我が国経済を担った公害型リスク産業と無縁であり、余裕の大地と地理的に欧米とアジアを結ぶ接点の位置にある。また、生活重視が求められる時代に相応しい自然環境を持っている。現在の停滞感・閉塞感を我が国が打破するのに、如何に関わるかが北海道にとって3回目の大きな役割を担えるか否かを決することとなる。

3.各地域の現状

 歴史の次は少し現状を見てみよう。表−1は東京を100とした一人あたり県民個人所得である。

表−1 東京を100とした一人当たり県民個人所得(日本国勢図会1994→1995)
1970年度 (順位) 1980年度 (順位) 1990年度 (順位)
北海道 65.2 17 74.0 5 56.6 29
青森 50.4 42 55.5 45 46.8 46
岩手 51.0 40 58.4 43 50.1 43
宮城 59.7 30 66.4 24 57.7 28
秋田 55.6 36 61.5 35 51.4 38
山形 56.4 35 61.0 37 53.6 33
福島 54.2 38 60.1 40 55.9 31
茨城 59.2 32 62.2 33 63.5 11
栃木 62.3 26 65.6 27 64.7 9
群馬 65.0 18 67.0 23 61.6 18
埼玉 73.1 8 70.8 9 70.5 5
千葉 67.8 11 70.8 9 72.5 3
東京 100.0 1 100.0 1 100.0 1
神奈川 84.2 3 81.5 3 71.7 4
新潟 58.6 33 67.8 19 59.2 23
富山 64.2 20 70.0 14 62.9 15
石川 65.3 15 70.3 13 63.1 14
福井 60.7 29 67.6 20 61.9 16
山梨 59.3 31 65.9 26 59.1 25
長野 61.3 27 67.4 21 63.2 13
岐阜 66.5 13 66.2 25 59.1 24
静岡 70.3 9 70.6 11 69.8 7
愛知 77.8 4 76.2 4 70.3 6
三重 66.6 12 68.0 18 61.8 17
滋賀 65.9 14 68.7 17 59.6 21
京都 75.1 5 73.0 6 64.3 10
大阪 90.0 2 83.3 2 72.9 2
兵庫 74.8 6 70.6 11 63.4 12
奈良 62.9 22 69.4 15 58.0 27
和歌山 65.0 18 60.6 39 52.2 36
鳥取 57.3 34 62.3 32 54.9 32
島根 47.6 45 61.0 37 50.5 42
岡山 68.2 10 68.9 16 59.6 20
広島 73.6 7 72.0 7 65.4 8
山口 62.8 23 62.1 34 53.4 34
徳島 61.0 28 63.0 29 58.2 26
香川 63.3 21 67.1 22 59.9 19
愛媛 62.8 23 62.6 31 51.3 39
高知 62.5 25 61.4 36 51.1 41
福岡 65.3 15 70.9 8 59.3 22
佐賀 54.7 37 63.0 29 52.2 37
長崎 53.2 39 57.5 44 49.5 45
熊本 48.9 44 63.2 28 56.2 30
大分 50.9 41 59.0 42 52.4 35
宮崎 50.0 43 59.6 41 51.2 40
鹿児島 42.3 46 54.8 46 49.7 44
沖縄 40.3 47 50.4 47 44.3 47

これから次のことが言える。

1.東京と他県との所得格差が次第に大きくなっている。
2.所得上位の県は首都圏および太平洋ベルト地帯にある。
3.所得の低い県は東京から遠いという共通点を持っている。
4.北海道の1990年度/1980年度の比率は全国ワ−スト1である。

 次は暮らしやすさを示す図−1を重ねて考察してみる。


▲図−1 「実感調査」の都道府県別順位と「暮らしやすさ指標」の順位の比較
資料:日経産業調査研究所「日経地域情報 no.200 平成6年7.18」
「暮らし安さ指標」は、道路舗装率、大学進学率、人口当たりの大型店売り場面積、個人貯預金残高、日照時間など32種類の統計データをアンケートでウエイトづけしたもの。「実感調査」は、全国のビジネスマンにアンケートをし、暮らし安さを100点満点で評価したもの。

以下は大胆な要約である。

1.所得の高い地域は必ずしも暮らしやすくない。
2.北海道・北陸などは所得中位で暮らしやすい。
3.北東北・西南日本は所得下位の上暮らしにくい。

 時あたかも、新たな3つの国土軸(図−2)が示された。


▲図−2 新しい国土構造のイメージ図

国土審議会の下河辺淳会長は新国土軸を「交通、情報などインフラ整備の事業計画にはしたくない」と再三言明しているそうだが、早期に新幹線・高速道路などの高速交通ネットワ−クが整備された地域とそれに遅れた地域との格差が明確であることもまた事実である。1994年8月30日逝去された天谷直弘氏は「中央と地方とのギャップの存在が日本の国土像を大きく歪ませている。歪んだキャンパスに美しい絵が描けないのと同様に、歪んだ国土像の上に美しい国家は育たない」とし、「日本国内の南北問題、つまり中央と地方のギャップ解消に真剣に取り組まなければならない」と言っていた。北海道にとってはまたとない遺言として受け止めたい。


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