建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2005年6月号〉

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大都会のなかに親しみやすい森の中の美術館

正面のアーチが印象的

文化庁 国立新美術館

美術館の特色
東京都港区乃木坂に建設されている国立新美術館は、東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館に続き、5つ目となる。平成18年(2006)年度に開館する予定で、青山霊園や青山公園など緑豊かな周辺環境に配慮し、「森の美術館」をコンセプトに敷地内の緑化に努める計画だ。
同美術館としては、独自に作品の収集は行わず、14,000m2に至る国内最大級の展示スペースを活かし、公募展、企画展など多彩な展覧会を開催するとともに、美術情報の収集・提供、教育普及などを行う。同時に、館内にはレストラン、カフェ、ミュージアムショップなども展開することで、国内外から親しまれる美術館を目指している。
展覧会事業としては、全国的な活動を行っている美術団体などへの展覧会会場の提供と近現代の美術を中心とする自主企画展や、新聞社や他の美術館との共催による展覧会の開催を予定。
情報収集・提供事業としては、広く国内外の美術館や展覧会に関する情報、図録等の収集・公開。
教育普及事業としては、展覧会の開催にあわせた講演会、ギャラリー・トーク、子どもから大人まで多くの人々を対象とした公開講座などを実施する。
施設の特徴としては、周辺の緑に調和するよう、ウェーブのある3次元曲面ガラスカーテンウオールファサードを採用し、前面にかかる水平ガラスルーバーが直射日光を避けると同時に、滑らかで美しい外壁曲線を創出。
このガラスカーテンウォール越しに一体となった形で、アトリウムと外部庭園が配置され、ダイナミックで開放的な空間を創出する。
施設の基盤には、来館者や貴重な美術品への安全性に配慮し、免震装置を導入。展示室が無柱空間となっているため、34.2mのロングスパンを採用し、大地震による影響を抑えるべく中心部に制御装置を採用している。
環境対策としては、雨水などの再利用や、東西壁に二重壁となるダブルスキンを利用した地下の自然換気を可能とする省エネ・省資源型の構造となっている。
もちろん、身体障害者、高齢者のために段差を儲けず、車椅子仕様のエレベーターなども導入している。
配置は、公募展を主体とする展覧会専用施設であるため、膨大な作品の搬入から審査、展示、搬出に至る一連の流れがスムーズに行われる配置計画となっている。
フロアー構成を見ると、地下に搬出入、審査部門を配置し、地上には展示、教育普及、管理部門を配置。平面計画は、建物南側にエントランスロビー、アトリウム、ホワイエなどのパブリック(来館者)ゾーン、北側に展示ゾーンを配置し、明快なゾーン区分を行っている。
各階の平面計画
展示室1A〜1D(1階)、2A〜2D(2階)、3A、3B(3階)
展示室は10室が用意され、美術団体などの展示会場として貸し出される。それぞれ、1000m2の面積を確保しており、天井高は5mとなる。可動展示パネルを21枚ずつ装備しており、展示の種類や用途に応じて自由に空間を区切ることができる。
1000m2の室内で、全ての展示パネルを活用した場合の壁長は約370m。床耐荷重は、1A〜1Dの4室が1.5t/m2、2a〜2dと3a、3bの6室が1.2t/m2となっている。また、展覧会主催者のための控室も展示室ごとに設けられている。

講堂、研修室(3階)
3階には、約300人を収容できる講堂と約30人を収容できる研修室を3室設けており、うち2室は接合して利用することが可能で、各企画展に関連する講演、シンポジウム、公開講座、ワークショップなどの実施を想定している。
また、美術団体が行う講習会や授賞式にも利用できる。

アートライブラリ(3階)
アートライブラリでは、国内外の展覧会図録や美術書、雑誌などを閲覧できるが、同時に隣接する屋上庭園の風景も堪能できる。

アートコモンズ(3階)
アートライブラリの入り口には「アートコモンズ」を設け、国内で開催中または開催予定の展覧会パンフレット、ポスター、美術に関するイベント情報などを掲示。誰もが美術情報を持ち寄り・持ち帰ることのできる、情報のコモンズ(共有地)としている。

レストラン(3階)
レストランは、アトリウム内に逆立する大きな円錐の上部にあり、3階の渡り廊下から出入りする形になる。そこからアトリウムや、外部庭園などを眺望することが可能だ。

企画展示室(1階)、2(2階)
企画展示室1は、天井高5m、床耐荷重1.5t/m2の仕様で、企画展示室2は天井高8m、床耐荷重1.2t/m2となる。それぞれ2000m2の面積を有する広大な展示スペースとなっており、美術館の企画として、近現代の美術を中心とする展覧会を開催する。
室内環境は、床下のメカニカルウェーハーに設置した空調機から床吹出口に給気し、天井部の二重スラブを利用した吸込口より環気を油化した空調機へ戻す仕組みとなっている。これによって、室内温度の均一化が可能となり、換気効率の向上やドラフト防止が実現し、間仕切りをどのように変更しても、快適な空調が確保できる。

カフェ(1階、2階)
1階のカフェは、ロビー内とテラスに設置する予定で、2階のカフェはアトリウム内に逆立する円錐の上部にあり、渡り廊下から出入りする仕組みとなる。

野外展示場(1階)
1階北側には、野外展示場を設けており、1階の展示室と連続して利用することが可能だ。

ミュージアムショップ(地下1階)
ミュージアムショップは、吹き抜けを介して1階ロビーと一体となっている。

作品の搬出入から展示・撤去まで(地下1階)
作品の搬入、仕分け、陳列・撤去、搬出等の一連の作業を、効率的かつ安全に行うことができるよう考慮されている。
搬出入用の車路は一方通行で、作品を積載した車両は、車路の途中に設けられた待機場に停止して順番を待ち、案内に従って順次トラックバースに入る仕組みだ。
トラックバースから荷受作業室、作品整理室などの施設が連結されているので、一連の作業を一つの動線に沿ってスムーズに行うことができる。
また、公募展の主催者のための審査室や審査ラウンジも同フロア内に設けている。審査室の照明は、展示室と同様の照度を確保し、よりよい環境での審査を可能としている。
アトリウムは、内部空間を最大限に確保するため、2mごとに建てられる、ガラスを支える構造材として「マリオン」を採用し、これらとガラスカーテンウォールが一体化した設計となっている。
構造マリオン材には、115mm×515mmの無垢のフラットバーを使用。それらを横断する構造材とのつなぎ目には、60.5фと42.7фのパイプトラスによる立体トラス梁として、サッシュ面内の強度を確保している。
■建設工事の歩み
▲平成14年9月 ▲平成15年8月
▲平成16年2月 ▲平成16年7月
国立新美術館建設工事
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