建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2005年5月号〉

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斐伊川・神戸川流域の総合治水計画の一環として斐伊川放水路事業を推進

新・神戸堰の建設が進行中

国土交通省 出雲河川事務所 斐伊川放水路

国土交通省中国地方整備局出雲河川事務所は、斐伊川・神戸川の治水計画の一環として、斐伊川放水路の建設を進めている。
▲斐伊川放水路全体図
流域の概要
斐伊川は中国山地の船通山に源を発し、三刀屋川や赤川等の支川を併せながら出雲平野を流れ、宍道湖、大橋側、中海、境水道を通じて日本海に注ぐ流域面積2,070m2、幹川流路延長約153kmの河川。その流域は斐伊川本川流域、宍道湖流域、中海流域の3つに大別される。
斐伊川上流域の大部分は風化花崗岩で覆われており、地域では風土記の時代から「たたら製鉄」と呼ばれる砂鉄を原料とした製鉄業が行われてきた。原料の砂鉄は「鉄穴(かんな)流し」と呼ばれる方法で砂鉄分のみを採取するが、残りの流出土砂が増加。網状砂州の発達した典型的な砂河川となり、河床が堤内地盤に比べて高い、全国でも珍しい天井川となった。
このため、斐伊川が氾濫すると、天井川から水が溢れ、その被害が出雲平野一体に拡大。加えて宍道湖と中海を繋ぐ大橋川の川幅が狭いため、洪水時に水が流れにくい状態にある。さらに宍道湖では洪水時の水はけが悪く、湛水期間の長期化、内水被害増大の原因となっている。特に昭和47年の豪雨では破堤寸前の危険な状態になり、宍道湖の増水により松江市市街地や出雲空港などの約70km2が1週間以上にわたって浸水。2万戸を超える家屋が浸水するなど、甚大な被害をもたらした。
過去の洪水記録では約100年に10数回もの洪水・氾濫があり、流域一帯に甚大な被害をもたらしている。
▲昭和47年 松江市浸水状況
洪水対策の3つの柱
斐伊川・神戸川流域ではこれら洪水対策の柱として、3つの事業を総合的に行う治水計画を実施している。すなわち、@斐伊川と神戸川の上流にダムを建設、A中流の斐伊川放水路の建設と、斐伊川本川の改修、B下流の大橋川改修と中海・宍道湖の湖岸堤整備である。
この3点セットが完成すると、上流のダムで洪水を調整して下流に流れる流量を減らし、中流の放水路で洪水の約半分(最大2,000m3/s)を神戸川に分流して安全に大社湾に流すことが可能となる。これにより、斐伊川下流域での洪水を最大2,500m3/sに抑え、宍道湖の水位をh.p.+2.47まで下げることが可能となる。
▲出雲市大津町付近から斐伊川上流を望む
▲古志大橋付近
▲神戸橋付近
▲神戸堰施工区域
斐伊川放水路事業の概要
このうち、斐伊川放水路事業では、出雲市大津町来原付近から、同市上塩冶町半分までの4.1kmの区間を96mの川幅で新たに掘削し、神戸川に合流させる。さらに神戸川の川幅を平均で1.5倍(300〜370m)に拡幅する。これにより洪水時の斐伊川の水の一部を神戸川へ分流させ、斐伊川下流部や宍道湖の水位を低下させる。
掘削土量は約1,600万m3、築堤土量が約400m3。橋の架け替え・新設は25橋、斐伊川分流部の分流堰、神戸堰の改築、新内藤川水門などの河川構造物を建設する。 
放水路及び神戸川に架け替え・新設される25橋については、橋全体のバランス、周囲の環境との調和、さらに出雲地域の特性を考慮した橋梁とする。
この事業に関わる用地面積は約322ha、移転家屋は437戸である。
事業にあたっては、島根県教育委員会と、出雲市教育委員会に委託し、事業予定地の埋蔵文化財発掘調査を実施している。
また、現場では、発生する土砂の大部分を開削部南側の3つの谷に運び、階段状に盛土し、斜面を緑で覆ったグリーンステップ事業を行っている。その跡地は島根県で利用される予定だ。
神戸堰
昭和2年に竣工した現神戸堰は、直径9mの8つのアーチ弧を持つ固定堰で、歴史的、土木遺産的、現存的価値を有している。
今回建設する新しい神戸堰は、出雲市高松町および下古志町地内のjr山陰本線神戸川橋梁から下流側へ現神戸堰から約70m下流の位置に施工する。
施工にあたってはアーチ堰を地域に残る資産として継承していくため、下流側の落差を利用してアーチ形状を復元する。形式はゲートの高さで通過水量を制御できる可動堰。平常時に起立した鋼製のゲートが、出水時に下流側へ倒れて水量を調節する鋼製転倒ゲートを採用している。
魚道は多様な魚類や底生動物が移動可能な複数の異なるタイプ(斜路式、斜隔壁式、アイスハーバー式)を組み合わせて堰両岸に設置する。
▲神戸堰完成イメージ
多自然型川づくり
神戸川は同事業により治水上必要な安全性が確保されることになるが、同時に川幅は平均で現在の約1.5倍に拡幅され、河川周辺の自然の用水も大きく様変わりすることが予想される。そこで、将来考えられる自然環境への影響も考慮しつつ、「多自然型川づくり」を推進する。
▲斐伊川放水路全景 ▲斐伊川放水路拡幅部 ▲斐伊川放水路開削部
斐伊川放水路安全協議会
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