建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2005年2月号〉

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港湾・沿岸域のインフラ整備を通じ、物流・産業・生活を支える空間を構築

培ってきた海洋土木技術を駆使し、人と海との共生を目指す

社団法人日本埋立浚渫協会

▲広島港
協会設立の経緯
内陸部を山に覆われ、四面を海に囲まれたわが国では、古くから“みなと”を中心とした海運が発達してきた。第二次大戦以降は戦後経済の復興と、その後の高度成長の高まりによって、港湾整備事業と港湾部埋立事業の重要性が叫ばれ、港湾における土地造成や諸施設の建設に関する施工の合理化が求められるようになった。
各施工業者においては、施工技術の開発と土地造成、諸施設の建設に関する施工の合理化が特に重要となり、施工技術の開発、大型浚渫船等の建造を進めてきたが、施工技術に関する調査研究や内外資料の収集など、各社ごとでは十分な対応が困難な状況にあった。
そこで各社共通の課題について取り組むとともに、その成果を広く普及する重要性が高まり、昭和36年12月、在来の任意団体組織を改め、「社団法人 日本埋立協会」として運輸大臣の設立許可を受けた。その後昭和47年12月に「社団法人 日本埋立浚渫協会」に改称し、現在に至っている。
同協会はこれまで港湾の開発や海上空港の整備など、海洋土木事業を中心に、多くの経験と技術を蓄積した事業者で構成されている。協会の主な活動は、
▲陽が暮れてからも次々と船が発着を繰り返す
(広島港宇品旅客ターミナル)
などが挙げられる。
同協会ではこれらの活動を通じて、海洋・沿岸域開発の厳しい施工条件を克服しながら「経済性の追求」、景観や環境等に配慮した港湾開発に必要不可欠な「安全性、快適性の向上」、沖合人工島などの大規模プロジェクトに代表される「豊かな未来社会の創出」の実現を目指し、港湾の将来にわたっての発展に貢献している。
海洋土木における最先端技術を追求
港湾施設や海上空港等の建設は気象・海象などの特殊な厳しい環境下で行われるため、時代とともに絶え間ない技術革新を積み重ねたハイブリッドの先端技術が活用されている。
その先端技術を結集したのが今日の各種作業船で、大水深海域などの様々な施工条件下で各種の作業船が活躍している。
1.起重機船
港湾工事、海洋開発、サルベージ等のため各種重量物のつり揚げを行う作業船

2.サンドコンパクション船
圧縮された砂杭を打ち込んで砂を強制的に軟弱層と置き換え、軟弱地盤を改良する。

3.フローティングドッグ
大型重量物やコンクリートケーソンなどを安全・確実に製作し、進水させる。
▲起重機船 ▲サンドコンパクション船 ▲フローティングドック
4.ポンプ式浚渫船
航路、泊地の浚渫や臨海用地の造成等に使用する。ラダー先端にカッターが取り付けられ、原地盤を掘削し、浚渫ポンプにより大量に吸入・送泥を行う。

5.深層混合処理船
スラリー状にしたセメント系の安定処理材を海底の軟弱土中にポンプ圧入すると同時に攪拌翼の回転によって練り混ぜ、地盤改良を行う。
▲ポンプ式浚渫船 ▲深層混合処理船
6.グラブ式浚渫船
グラブバケットによって水底土砂をつかみ揚げ、泥倉、または舷側の土運船に積載する。
▲グラブ式浚渫船
▲海上空港
▲大型コンテナ岸壁
▲エネルギー港湾
市民生活を支えるみなと
わが国ではこれまで産業の基盤という視点から、沿岸域で輸出入の基地が建設され、臨海工業用地などが開発されてきたが、現在では豊かな生活を実現する基盤という視点から総合的な港湾空間のインフラ整備が求められている。
同協会では保有する技術力、豊富な経験によって、物流・産業・生活などが調和した高度な機能が発揮される港の建設に貢献している。
・海上空港
山間部が多く、四面を海に囲まれた地理的条件のわが国では、沿岸域に人々の生活や産業、生産拠点が集中している。そのため、広い用地を必要とする産業や物流の拠点として人工島の建設が各地で進められている。特に空港は近年では都市部へのアクセスのほか、騒音等の環境問題への配慮から、海上空港が主流となってきており、旅客・貨物の空のみなととして人々の生活を支えている。
・流通港湾・大型コンテナ岸壁
近隣アジア主要港の近年の躍進により、わが国のコンテナ港湾の相対的な地位が低下している。国際競争力を有する物流ネットワークとしての港湾整備は、21世紀に通用する社会基盤づくりという意味からも重要なテーマである。
5万トン級の大型コンテナ船が海上物資輸送の世界的な趨勢となってきている現在では、岸壁の大型化は大きな課題である。このような船が入港するには水深15m岸壁が必要だが、わが国においては大水深の岸壁は不足しており、将来に必要不可欠な大型コンテナ岸壁が求められている。
・エネルギー港湾
わが国ではエネルギーの原材料の大部分を海外から輸入しているため、石油・lng、石炭備蓄施設、火力発電所等は、港湾施設を持った大規模な用地を必要とする。しかし現在では内湾など比較的自然条件に恵まれた適地が減少しており、外海に面した自然条件の厳しい地点でも建設が行われているのが現状だ。
そこで防波堤に護られ、船舶が安全に入出港できる航路や泊地、荷揚用の桟橋や岸壁など、港湾施設の建設とともに、発電所本体や付帯設備のための用地造成が各地で進められているところだ。
生活を支える社会基盤を護る
近年の相次ぐ自然災害を契機とした国民の防災意識の高まりにつれ、高波や津波による被害にさらされる沿岸域の防災とともに、耐震性の高い港湾整備が緊急の課題となっている。
同協会では人々の生活と社会基盤を護るため、永年にわたり蓄積してきた海洋土木事業に関する高度な技術を駆使しながら防災対策の向上に取り組んでいる。
▲軟弱地盤への挑戦
▲廃棄物埋立岸壁
・大水深防波堤
同協会では様々な技術課題を克服しながら活動領域を広げてきたが、巨大なケーソンを建設する技術、大水深で安全かつ効率的に施工する技術など、その好例は岩手県釜石港に見ることができる。同港では人々の生活を津波から護るため、水深60mの海域で防波堤の建設が進められている。施工にあたっては大水深での基礎マウンドの均し作業に基礎マウンド均し機が使用されるなど、積極的な施工技術の開発が続けられている。
・軟弱地盤への挑戦
臨海部の開発には軟弱地盤の改良が必要不可欠である。同協会では海洋土木工事で培った高度なノウハウを有する軟弱地盤改良技術の研究開発に努め、施工の合理化を図っている。同協会の有する深層混合処理工法、サンドコンパクション工法、サンドドレーン工法、プラスティックドレーン工法などは関西国際空港、羽田空港沖合展開事業、東京新海面処分場など、豊富な施工実績がある。
・岸壁等の耐震設計
阪神・淡路大震災によって、震災時、神戸港の機能は一時的に停止し、わが国の経済に大きな影響を及ぼした。地震に強いみなとを造ることは人々の生活と経済活動を促進するための緊急の課題である。同協会では岸壁等の耐震性の強化など、沿岸域の開発における耐震技術の発展に取り組んでいる。
・廃棄物埋立護岸
廃棄物の陸上処分場に代わるスペースとして注目を集めているのが港湾空間である。特に大都市周辺では海域での廃棄物処理が有効なごみ対策として大いに期待され、代表的な大阪湾フェニックス計画や東京港新海面処分場などの廃棄物埋立護岸の建設にも同協会の技術が活かされている。
▲大水深高波浪域施設
▲沈埋トンネル工法
▲基礎マウンド均し機
▲高濃度浚渫工法
港湾開発
港湾開発は大規模化、大水深化しており、厳しい条件下で安全・効率的に施工を行うための技術が不可欠である。同協会では高効率、そして安全なテクノロジーの開発に向け、調査・研究を重ね、様々な技術開発を行っている。
・大水深高波浪域施設
外洋に面した海域は大きなうねりが到来する過酷な気象・海象条件のもと、大水深での難しい作業が求められる。そこで効率的で高精度の高い作業を行うため、基礎マウンドの均し作業を自動化する基礎マウンド均し機や衛星を使った位置測定を行うgps、大水深の施工に活躍する大型ケーソンを曳航進水させるための作業用台船などが導入されている。大水深高波浪域における土木技術は常陸那珂港の沖合防波堤建設などに貢献している。
・沈埋トンネル工法
沿岸域の都市機能の開発には経済性、安全性などが条件として求められる。沈埋トンネル工法はこれらの条件を満たしながら都市に経済と生活の基盤となる新たなインフラを整備するものだ。
この工法により建造された海底トンネルは人工島との連絡や航路の横断など沿岸域のアクセスとして重要な役割を果たしている。大阪港、神戸港、新潟港などの海底トンネルの建設にも同協会の技術が活かされている。
・基礎マウンド均し機
港湾工事は近年ますます大水深化しており、それらに対応するため機械化の研究が進められている。
そのひとつが海上からの遠隔操作により水中作業を行う基礎マウンド均し機である。機械化による大量・急速施工を可能にし、安全で高精度な基礎マウンドを形成することができる。
・高濃度浚渫工法
底泥の堆積は港湾、河川、湖沼の水質を悪化させ、自然の生態系や人々の生活環境に大きな影響を及ぼす。これらを未然に防ぐのが高濃度での浚渫だ。高濃度浚渫船は水底に堆積している軟弱な泥土を環境に配慮しながら高濃度で浚渫し、処分地まで排送する浚渫船である。
海との共生を目指す
次の世代に豊かな環境を贈るため、同協会では海の共生環境の創造に技術力で取り組んでいる。
紋別港・オホーツクタワーの海洋観測施設は流氷の観測を目的とした施設であるが、観光施設としても開放され、着岸する流氷や水中の生物を間近に見ることが可能だ。また、全国各地の人工海浜、マリーナ、親水護岸、海づり公園のほか、博多港の海上複合施設や、都心で唯一ビーチに面したお台場のデックス東京ビーチなど、市民生活の中で海に親しめる空間の創造に取り組んでいる。
▲海洋観測施設
(オホーツクタワー・紋別港)
▲会場複合施設
(マリゾン・博多港)
我が国港湾の整備発展に寄与〜日本埋立浚渫協会
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