〈建設グラフ2001年4月号〉

ZOOM UP

東京外国語大学

新キャンパスはじまる

北区西ヶ原町の18年間に幕を降ろし、府中市朝日町に新天地

「武蔵野の森」とともに、21世紀の世界に貢献する国際的な研究者へと育む
新キャンパスの建設地は、東京都府中市の東北部に位置する東京都府中市朝日町3-11-1。敷地面積は約13haで、周囲には豊かな緑地帯を設け、将来にわたって武蔵野の森のイメージを継承できる計画としている。建物計画延面積は約67,000平方メートル。
基本理念は「対話を交流ベースとして世界に開かれたキャンパス」として、その具体化に向け、1.教育研究に適したインテリジェント空間の創造、2.知的創造活動を触発できる場の創出、3.オープンキャンパスの創出、4.ゆとりと潤いのあるキャンパスの4つの基本方針を掲げて、空間的に展開するものとしている。
同大学は、昭和60年(1985)11月に移転希望表明をしてから、昭和63年(1988)10月に「移転統合の基本構想」をとりまとめ早期移転に取り組んでいたが、諸般の事情から移転統合の最終決定を見ないまま年月を費やした。その後、平成8年(1996)8月に文部省の会議で「対話と交流をベースとして世界に開かれたキャンパス」をコンセプトとする新キャンパスの基本設計が承認され、翌平成9年(1997)9月には、東京都府中市において新キャンパス起工式を行い、研究講義棟、附属図書館、大学会館および保健管理センターという教育上の主要機構が予定より早く一括して竣工したことにより、昨年10月から待望の新しいキャンパスが始動している。
同大学は、前身である“東京外国語学校”が明治6年(1873)に開設されたことから、すでに127年もの永い歳月が流れており、相次ぐ火災、震災、そして戦災の影響によって、幾多の受難の歴史を重ねて来た。また、この間には校地・校舎を転々としており、明治6年開設当初の「一ツ橋通り町1番地」を皮切りに、明治32年に「神田錦町」、大正10年に「麹町区元衛町」、大正12年に「牛込区市ヶ谷」、大正13年に「麹町竹平町」、昭和19年には“東京外事専門学校”と名称を替え「滝野川区西ヶ原町」に、昭和20年に「上野公園・東京美術学校・図書館講習所・美術研究所」、昭和21年に「板橋区上石神井」、そして昭和24年に現在の“東京外国語大学”と名称を替え、最近までキャンパスを構えていた「北区西ヶ原町」に移転し、今日まで18年間の時間を刻んでいた。
東京外国語大学は、世界の言語・文化、地域社会、国際関係について、学術の理論や応用を研究し、文化の進展に寄与することを目的としており、様々なレベルにおける国際接触の第一線を担うとともに、外国研究の第一線にも立つ多数の有能な卒業生を社会に送り出しているまさに国際的な国立大学である。
現在は、外国語学部、大学院地域文化研究科(博士前期・後期課程)、外国人留学生のための「留学生日本語教育センター」および全国共同利用のアジア・アフリカ言語文化研究所から構成されており、外国の言語・文化・社会および国際関係の教育・研究を専門とするforeign studies(外国学)の総合大学として、日本の多くの大学のなかでも極めてユニークな高い地位を占めている。
東京外国語大学は、昨年9月、これまで東京都府中市に整備を進めていた「新キャンパス」への移転統合を無事に終え、大きな節目とともに記念すべき新たな足跡を刻んだ。

現在整備中の施設

スポーツを通じて人間形成を図り、健康の向上と友情を深める

棟の間に5層吹抜けの“ガレリア”を設置

屋内運動場・課外活動施設

▲北面外観パース ▲メインアリーナ内観パース

「屋内運動場・課外活動施設」は、スポーツを通じて相互に啓発し、人間形成を図ると共に、教育・研究を支え活性化を促す施設として建設されるものである。
同大学は、外国語学(世界の言語・文化・社会および国際関係)を教育研究の対象にしているが、このような教育研究を支えるためには、直接的な教育研究活動だけではなく、身体の健康を維持できる場が重要であり、また、日常的人間関係を緊密にし、友情を深めるためにも不可欠なものとして同施設を位置づけている。
一方、同大学は、「対話」をキャンパス全体のデザイン基調としていることから、同施設は別棟で計画し、その棟の間に“ガレリア”と命名した5層吹抜けの空間を設けた。“ガレリア”は、ガラスの屋根を持った半屋外空間とし、屋内運動場と課外活動施設を有機的に連結すると共に、多様な「対話」を誘発させる空間としている。
同施設は諸室を立体的に積み上げ計画することで、有機的な運用を容易にすると共に、敷地の有効活用が図られ、テニスコートとプール、弓道場など、将来付帯施設との連絡・配置計画に支障が生じないよう配慮している。
外観は、大きなボリュームによる圧迫感や単調さを連続した庇や外壁構成材の変化で分解し、地域との視覚的「対話」を図っている。
メインアリーナは、低層部と上部欄間部分にガラスの開口部を設け、風圧力による自然換気と自然採光を確保し、人工エネルギーに頼らない方式を採用し、自然環境との「対話」に努めている。
このほかの特長として、照明制御システムは多重伝送によりリモコンリレーを制御し、アリーナ照明はもとよりエントランスホール、廊下等共用部の照明管理を図っている。
AV設備は、メインアリーナ、舞踏室で行われる催事に適した拡声設備を設けており、利用パターンに適応して音場をあらかじめ設定し、ミキサーにて容易に切り替えを可能にしている。
また、空調設備は運転維持管理の容易さにより個別空調方式としている。


卓越した研究拠点・COEにも指名されたアジア・アフリカ諸国の研究施設

関連性と拘束性を考慮した明確なゾーニング

アジア・アフリカ言語文化研究所研究棟

▲南西面外観パース ▲1階研究交流室内観パース

「アジア・アフリカ言語文化研究所研究棟」は、アジア・アフリカ諸国の言語や文化等を研究するため、昭和39年(1964)に東京外国語大学附置の全国共同利用機関として設置された研究施設で、 平成7年(1995) には卓越した研究拠点(COE)にも指名され、学術的な研究において先導的な役割を期待されている。
内部の空間構成としては、多様かつ高度な機能を備える施設であるため、物理的な関連性と拘束性を考慮し明確なゾーニングとしている。
階の構成として、1〜3階の低層部は研修・会議・資料公開等を行う比較的オープンな「交流部門」を配置し、4・5階の中層部は利用者に限られる音声実験室や情報の蓄積・加工を行う「情報資源部門」を配置。6〜8階の高層部は個人研究活動の場である「研究室部門」を配置し、また、各階には研究者の交流やリフレッシュの場となるラウンジやテラスを設けている。
外装は、キャンパスの統一の考え方である「武蔵野の森」との対話をテーマとして、自然な素材感を持ったアースカラーの磁器質タイル張りを使用しており、中央広場に面したガラス面は「人と人」・「人と自然との対話」を表現し、この施設の持つ機能と意義を視覚的にアピールしている。
このほかの特長としては、情報コンセントを設置し、研究室や企画作業室等から情報ネットワークヘアクセスが可能となっているほか、省エネルギー対策として、大会議室の照明を照度センサーによる自動調光制御、トイレは人感センサーによる照明点滅制御、廊下やホールは中央からの点滅制御としている。また、研究室の空調機については、人感センサーによるエアコン停止制御方式を採用している。
空調設備は、発停・温度管理の容易さを考慮したことにより、個別空調方式を採用。
一方、電気室が特殊消化設備の対象とならないように、研究室を除く部屋の空調にはガスエンジンポンプパッケージを採用している。
衛生設備は、情報系の研究室等が多数あるため、各階に共同の水場を設けている。また、トイレの洗浄には、雨水を処理した雑用水を使用することにしている。


HOME