建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年11月号〉

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特集・港湾新時代〜世界の港湾立国へ〜

関東大震災から80年、東京湾第三海堡撤去へ

大型船舶が輻輳する東京湾口の安全を確保

国土交通省関東地方整備局 東京湾口航路事務所

▲第三海堡の撤去作業
浦賀沖にペリーが来航してから、今年で150年。以来東京湾は、首都圏防衛上の最後の拠点として、また時代を経て経済社会活動を支える重要な海域として発展してきた。
この東京湾口の航路は、湾奥に向かう一方通行の「中ノ瀬航路」(北行の航路)と、観音崎と富津岬約6.5kmの間を南北に通行する「浦賀水道航路」が設けられている。
このうち「浦賀水道航路」は、明治時代に造られた第二海堡と、関東大震災により大部分が水没した第三海堡によって挟まれ、s字型に屈曲した幅員1,400m(片側700m)の航路。現在は1日約700隻のコンテナ船や大型油タンカーなどが湾内諸港に出入りするほか、漁業活動も行われる輻輳した海域となっている。
この航路において、暗礁化した第三海堡は接触事故や座礁など、長らく湾内の海難事故の原因となっていた。このため、東京湾口航路事務所は湾内の航行安全を目指し、第三海堡の撤去事業に着手した。
第三海堡とは
東京湾第三海堡は、東京を護るため、東京湾口海中に築かれた砲台設置のための人口島である。これは明治の文明開化期における、仙台の野蒜築港と並ぶ土木事業の壮大な挑戦のひとつとして位置づけられ、その後の海洋港湾技術に多大な経験と教訓をもたらした。
建設は明治25年(1892)から行われ、約30年後の大正10年(1921)まで、巨額の工費と幾多の貴重な人命の犠牲の上に築かれた。しかし竣工後のわずか2年後、関東大震災によって倒壊し、軍事施設という本来の目的を果たすことなく、それ以後は海中に没したままとなっている。
▲第三海堡復元図 ▲関東大震災直後の第三海堡
土木史上に残る建設工事
第三海堡は、それ以前に造られた第二海堡より南に2,611m、走水低砲台より北に2,589m、水深約39mに位置し、建設工事は徹頭徹尾、波浪との戦いに終始するなど、明治年間における軍事土木史上最大の難工事となった。
当時の築城の大家であったドイツのレンネ少佐は、この事業を視察し、「世界中でこのような深い海中に構造物を建設した例はない。第三海堡のように波浪の強大な外海に直面した水深40mの海中に建設するのは、むしろ無謀である…」と述べたことから、世界的に見ても稀な大工事だったことが伺える。
▲第三海堡の復元模型(被災直後) ▲第三海堡の復元模型(被災直後)
波浪との戦い
第三海堡の建設工事は、明治25年(1892)8月の捨石から始まった。捨て石の上に割栗石を積み上げ、満潮面上はコンクリートで固めて堤防を築いた。堤防の内部には砂を充填。砂地盤の支持力を測るため、載荷試験を行い、地盤許容支持力を18t/uと定めた。
しかし、苦労して築いた堤防も、明治32年(1899)10月と35年(1902)9月の高波によって、あっけなく破壊。度重なる高波に対して、ついに100〜150tのコンクリートブロックを据え付けたが、これも明治44年(1911)7月の高波によって破壊され、5名の行方不明者が出た。
そこで長さ14m、高さ7m、上幅4m、底幅6m、重さ1,500tの鉄筋コンクリートケーソン13函からなる防波堤を前面に据え付けることとした。
ところが、大正6年(1917)の9月の高波により、6個は移動し、6個は傾き、原位置に留まったのはわずかに1個という結果となった。そうした度重なる惨状を経て、次は重さ35tのコンクリートブロック713個を投入し、ようやく安定を得ることとなった。
竣工予定は明治45年(1912)だったが、実際に竣工したのはそれから9年後の大正10年(1921)。明治40年までの工事費だけで249万円(時価約140億円)を投じた大事業となった。
軍事機能の喪失
第三海堡竣工の2年後、大正12年(1923)9月1日、関東地方南部を大地震が襲った。関東大震災である。この震災は東京湾海堡にも大きな被害を与えた。
第一海堡は水深が浅いため、小さな被害で済んだが、水深のもっとも深い第三海堡は4.8m沈下し、コンクリート構造物のほとんどが海に転落、傾斜。施設の三分の一は水没し、完成からわずか2年を持たずして、本来の目的であった軍事施設として実用されることなく、大砲は撤去され軍事施設から除かれることとなったのである。
しかし、この壮大な設計・施工の体験は、その後の海洋港湾工事に大きな教訓を残した。この事業は、今日わが国で行われている人工島建設の大きな一歩として記される。
暗礁と化す
沈下した第三海堡は、暗礁と化したまま、当時の姿を現在に留めている。
浦賀水道航路は戦後の首都圏の経済成長に伴って、貨物船や漁船、近年では大型化したコンテナ船などが輻輳する状況となっている。この航路に近接している第三海堡は航行船舶の難所となっており、付近の海域では座礁事故ばかりではなく、第三海堡を避けようとする船が他の船と衝突する事故までが数多く起こっている。
昭和49年(1974)以降、今日までの26年間に東京湾口で発生した主な海難事故は15件。そのうち第三海堡に関連した事故は11件で、東京湾口の海難事故の大きな原因となっている。

▲第三海堡付近を航行する
大型船舶
▲第三海堡に座礁した貨物船
第三海堡の撤去
この水域の航行安全のため、国土交通省関東地方整備局東京湾口航路事務所では、第三海堡の撤去工事を平成12年から実施している。この工事により、浦賀水道航路は大型船舶の通行に必要な水深23mを確保でき、安全な航路が実現する。
工事は航路法線方向に約430m、奥行き約350mの範囲を-23mまで撤去。撤去材ではコンクリート塊などが約5万F(約2,600個)と土砂、石材など約110万Fの量があるほか、海底に不発弾など危険物が多数見つかっており、困難な工事となっている。
撤去方法
(1)コンクリート塊等撤去
ブロックの撤去に先立って、GPS(全地球測位システム)でブロックの位置を確認する。次に潜水士によってブロックの形状を確認し、海中に危険物が埋まっていないか探査を行い、ブロックが安全に撤去できるように吊り位置を決定する。安全を確認した後、周辺の土砂を除いて露出させる。100t/個未満のコンクリート塊等の引き揚げは、掴み機を使用し、起重機船によって吊り上げを行い、台船上に積み込み、投入先まで海上運搬を行う。
100t/個以上のコンクリート塊等は、撤去に先立って潜水士によりコンクリート塊等に吊りピースの取付を行い、起重機船で台船上に積み込み、投入先まで曳航し、投入する。
(2)浚渫
表層部の土砂及びコンクリート塊等撤去が完了し、危険物に対する安全を確認した後、グラブ浚渫船による浚渫を行う。
■浦賀水道航路(第三海堡の撤去)
撤去前〜暗礁化した第三海堡により浦賀水道航路の難所になっています。
撤去前〜第三海堡の撤去により必要水深が確保され、船舶が安心して航行できます。
工事期間中の安全対策
工事に当たっては、作業区域の海域に工事区域(船舶禁止区域)を設定し、これを明示するため航路標識を設置すると共に、警戒船及び情報提供船を24時間配備して、航行の安全を確保している。
さらに、「東京湾口航路安全・情報管理センター」を設置し、情報提供、指導、工事に対しての協力要請、通信連絡管理などを一元的に行い、工事の安全、航行船舶の安全確保に努めている。
▲コンクリート塊 ▲コンクリート塊
環境への配慮
事業の実施に当たっては、工事の着工前から工事完了後にかけて、長期的に環境調査を行っている。特にこの工事によって懸念される環境への影響は土砂の浚渫による汚濁である。浚渫に当たっては汚濁防止枠を設置し、濁りの拡散を低減する。
また、工事区域の周辺に監視地点を設定し、浚渫工事の濁りが及ばない地点をバックグラウンド(bg)として、監視地点の濁り(ss濃度)がbgプラス10mg以下であることを監視目標として調査を実施する。
また、この事業に伴って発生する浚渫土砂、コンクリート塊等は海域環境改善のため、有効活用を図る。
建設に30年、関東大震災から80年を迎えた第三海堡の撤去工事の期間は7ヶ年で、平成19年の完了を予定している。
東京湾海堡の使用材料と工事費
費用(円)
石材(m3 砂(m3 人夫(人) 石材 埋填砂 諸材料 職工・人夫
第一海堡 73,264 129,385 316,776 172,947 25,230 69,256 110,872 378,805
第二海堡 485,968 299,243 495,855 296,796 92,107 154,816 247,928 791,647
第三海堡(予定) 2,781,864 540,816 435,290 1,795,415 239,365 197,743 261,174 2,493,697
合計 3,341,096 969,444 1,247,921 2,265,176 356,702 421,814 619,973 3,663,649
[資料]
 『東京湾海堡基礎築設方法及び景況取調所』
 明治39年8月より作成
[註]1)工事費は埋め立て造成費のみで、大砲などの兵備費は含まない。
   2)第一海堡は、明治14年〜20年までの実績額
     第二海堡は、明治22年〜32年までの実績額
     第三海堡は、明治25年〜40年3月までの予定額

環境調査
項目 調査項目 調査頻度 備考
流況 流向、流速 工事着工前及び完了後の夏季と冬季にそれぞれ1回 工事前後の流況の変化を調査します
水質 生活環境項目(PH、DO、COD等)
栄養塩類(全窒素、全りん)健康項目等
工事施工中から完了後3〜5年
までの各年(2〜4回)
定期的に水質調査を実施し、
工事施工中から完了後までの水質変動を調査します。
底質・
海生生物
底質:粒度組成、強熱減量、
全硫化物等
海生生物:工事による影響を受け
る可能性がある底生
生物及び魚介類
工事施工中から工事完了後の生物相が安定すると
考えられる3〜5年までの各年(2〜4回)
定期的に調査を実施し、工事施工中から
完了後までの底質及び海生生物の出現状況の
変動を調査します。
第三海堡地区安全衛生連絡協議会
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