建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年4月号〉

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8河川を地下トンネルで結び、大津市内の洪水被害を軽減

トンネル部延長は4,464m 平成16年に瀬田川〜盛越川間が暫定通水

国土交通省近畿地方整備局琵琶湖工事事務所 大津放水路

▲琵琶湖を望む大津市内。ほぼ名神高速道路に沿って、大津放水路が建設される。
近畿地方整備局琵琶湖工事事務所は、滋賀県大津市の洪水氾濫軽減を目的に、大津放水路の建設事業を進めている。この放水路は、大津市内の人口密集市街地を流下する三田川、盛越川(狐川を含む)、兵田川、篠津川、相模川、堂の川、諸子川8河川を地下トンネル方式の人口河川で結んで分水。洪水影響の少ない瀬田川に直接放流するもので、総延長4,713m(トンネル部4,464m、開削水路部249m)。現在、第1工区・瀬田川〜盛越川間約2.4qが建設中で、平成16年には暫定通水する予定となっている。
大津の歴史は琵琶湖の歴史
大津市の歴史は、我が国最大の湖である琵琶湖の歴史でもある。琵琶湖は、面積674ku、流域面積3,843kuで淀川水系の約50%を占めており、近畿地方の治水、利水に大きな役割を担う。
大津は、平安期、最澄が比叡山に延暦寺を建立したことで、三井寺や石山寺と共に、深い信仰を集める門前町として発展。琵琶湖水運による物資の集散地、東海道、中山道、北陸道の宿駅、政治・経済・軍事的重要拠点として繁栄を続けてきた。
明治以降は東京への遷都、鉄道の開通により、水運の基地宿駅としての役割を失ったが、古都京都に隣接した“湖都”としての新しい歩みを始め、現在では、由緒ある歴史の佇まいを今に残しながら、県庁所在地としての重要な役割を果たしている。
洪水被害と隣り合わせの大津市
こうして、琵琶湖観光の玄関口として、また湖の豊かな水を利用した商工都市として発展を続ける大津市だが、年々人口が増え続け、それに伴い家屋や学校、病院なども増加。市内には三田川をはじめとする8河川が流れるが、流域中央部では、名神高速道路や国道1号線、jr東海道新幹線などの主要幹線道路・鉄道が河川を横断する、極めて重要な地域となっている。
しかし、これらの河川は、洪水時に雨水を安全に琵琶湖に流す能力がなく、そのため、近年、小規模な出水でも洪水被害が多発している。
洪水氾濫シミュレーション
▲「東レ前」北大路一丁目 ▲京阪電鉄唐橋前駅
大津放水路計画
そこで、地域の治水対策として、昭和47年、瀬田川と三田川、盛越川を結ぶ大津放水路建設計画が琵琶湖総合開発計画の中に位置づけられた。その後、滋賀県により基礎調査が行われ、同様に改修が必要な隣接する河川とあわせ、計画は諸子川まで延伸された。
計画では、現河川の中流部で放水路トンネルを建設し、下流部への洪水をカットし、被害を防止。上流部の改修促進を図る。計画治水安全度は、100年に1回の大規模洪水にも耐えられるよう設計されている。
放水路の構造
大津放水路は、地形、沿川の開発状況等を考慮し、名神高速道路沿にトンネルを主体とした放水路を建設することが最良であると判断され、流出解析を行い、放水路流量が決定された。
シミュレーションによれば、放水路建設前後の治水効果を比較すると、建設後の氾濫面積・被害額は約40%程度減る計算。また、床上浸水世帯数は約80%減り、畳や家財道具に損傷を与えることはほとんどなくなる。
計画ルートの地質・形状
ルート沿いの山地には、中・古生代の丹波層群が、丘陵地には鮮新世〜更新世の古琵琶湖層群が分布し、段丘面の広がる平坦地には古琵琶湖層群を覆い段丘堆積層、沖積層が分布する。
放水路の平面線形は可能な限り屈曲を避け、水理的に支障が起きない形状として計画し、r=150m〜2,000mとして設定。瀬田川合流部では合流の影響を極力抑え、安定した流れとなるように水面形を設定し、トンネル断面が最小(最大流速7m/s以下)となる断面勾配を1/100から1/400で計画している。
また、トンネル断面は空積率15%を確保した断面形とし、全区間オープンチャンネルによる水面形で計画している。
▲三田川分水工完成予想図
トンネルの工法と断面
放水路の構造は、瀬田川合流部〜伽藍山トンネル坑口までを開削工法、減勢工より下流を開水路、上流を函渠構造とした。伽藍山部は岩盤掘進となるため、natm工法によるトンネル施工とし、岩盤境界から上流は土砂の掘進が主体となり被圧地下水や地表面への影響を考慮してシールド工法としている。
シールド工法の採用は、特に、市街地の地下を通過する区間の工事で、地表面の家屋や、隣接する名神高速道路への影響を配慮するためで、シールド機も大型のものを導入し、坑内作業の安全性、省力性を目指しての様々な取り組みを行っている。この工法を用いることにより、地盤沈下や周辺地下水の変化、工事中の騒音・振動といった諸問題をほとんど抑えることができる。
一方、トンネル部における必要断面は各流量により設計。シールド工法のため、流量変化毎の施工は、シールド機の製作や発進立坑の増加など工費面での問題もある。そこで、工区分割を最小限に、新幹線交差部の径は軌道沈下等の影響を考え必要最小限とするなどの条件整理を行い、施工にあたっている。
また、現河川より放水路へ導水する施設として分水工を設置し、トンネル河川内への土砂等の流入を防止し、安定水流の確保を行う。
▲シールドトンネルの施工状況
環境への配慮
放水路の大部分は地下構造としたため、工事により現在の景観が大きく変化することはない。伽藍山風致地区に位置する瀬田川合流部においても、工事による掘削断面を極力抑える工法を採用。新設橋梁についても周辺環境と調和した形状・色彩に。地上設備となる分水・沈砂施設も極力小さくし、ミヤコアオイ、ニホンリス、ゲンジボタルなどの貴重な動植物への影響も最小限に抑えるなど、地域に対する影響を極力なくすよう配慮している。
流水については、平常時には放水路への分水は行わず、河川の正常な機能の維持を図るよう設計している。
▲瀬田川合流部

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